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第九章 ひまわり亭
町の人々に囲まれる二人
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街に買い物に出たナリアとアースは、二人で歩いているところを何人もの人間に二度見されていた。皆の注目を集める中、二人は、この組み合わせで町に出たことを少し後悔した。
「濃い、組み合わせだったかもしれません、わたくしたち」
ナリアは、そう言って地面に視線を落とした。それでも周りが気になっているので、ちらちらと商店や街路樹を見ていた。
「来てしまった以上は仕方がない。必要なものを買って帰るぞ」
アースがそう言って歩みを早めたものだから、ナリアは一瞬、付いていけずにつんのめってしまった。それをアースが素早く受け止めた。
「早かったな。すまない」
「いいのです」
ナリアは安心したように笑ってアースを見た。すると、周りの視線がナリアたちに集中した。
「あの二人、ただの美男美女じゃないわ」
「いいシーン、見ちゃった。えへへ。あとで友達皆に自慢しなきゃ!」
そんな声がひそひそと聞こえてきたので、二人は皆の視線を浴びながら動かなければならなくなった。皆の視線を浴びながら、近くの商店の影に逃げ込んで、その裏手にある公園のベンチに腰掛ける。
「どうやら、わたくしたちはエリクたちがいないと目立つようですね」
ナリアは息を切らせていた。裾の長いドレスをたくし上げて走ったからだ。
ベンチに座って、周りに視線がないのを確かめると、ようやくそこは落ち着いた空間になった。
「アース」
しばらく休むと、ナリアのほうから声がかかった。乱れた髪を整えている。
「エリクたちを、あなたはどう見ますか?」
アースは、ナリアのその質問に、少し考えた。どう答えたらいいのか迷っているというより、自分の考えをどうまとめようかと迷っている感じだった。
しばらくして、アースは難しい顔をして答えた。
「あいつらは、喧嘩をしたほうがいい」
すると、ナリアは何か聞きたそうな顔をした。
「あなたもそう考えていましたか。彼らは自然に喧嘩ができると思いますか?」
ナリアが純粋な顔で聞いてくるので、アースは少し押され気味になってしまった。こういうのを、彼は得意ではなかったからだ。
「まあ、なるようになるだろう」
アースは、そう答えるしかなかった。ナリアはいったん引くと、ベンチに座りなおした。
「アース、わたくしたち、恋人に見えるのですね。双子のようなものなのに、全く似ていない。なんだか滑稽に思えてきてしまいます」
「似ていないから、そう見えるんじゃないか?」
「まあ、そうですけれども」
ナリアは、なんだか嬉しそうにしている。それを見て、アースは疲れたようにため息をついた。
「ナリア、なぜ俺を呼んだ?」
ナリアは、遠くを見つめていた。少し寂しげな表情をすると、いまだ遠くにある何かを見つめたまま、アースの手を握った。
「寂しくなったのかもしれません」
アースは、その答えに、一言、そうか、とだけ言って、ナリアの手を握り返した。
その時だった。
「いたぞ!」
男性の声が聞こえて、二人はびくりとしてそちらを見た。すると、何人もの町の人が商店の影からこちらをうかがっていた。
「手を繋いでる! やっぱりいい関係なんだわ! いいなあ羨ましい」
町の人が、そんなことを言いながら遠巻きに見ている。ナリアとアースは、少し落胆した。
「彼らの気配が読めなかったなんて」
ナリアが、アースからそっと手を離す。
「どうやって買い物をしましょう? 手ぶらでは帰れません」
「ここは、恋人で通すしかなさそうだな。余計な誤解を招くわけにはいかない」
ナリアは、それに合意した。そして、二人で一緒に立ち上がると、町の人たちに手を振った。
「濃い、組み合わせだったかもしれません、わたくしたち」
ナリアは、そう言って地面に視線を落とした。それでも周りが気になっているので、ちらちらと商店や街路樹を見ていた。
「来てしまった以上は仕方がない。必要なものを買って帰るぞ」
アースがそう言って歩みを早めたものだから、ナリアは一瞬、付いていけずにつんのめってしまった。それをアースが素早く受け止めた。
「早かったな。すまない」
「いいのです」
ナリアは安心したように笑ってアースを見た。すると、周りの視線がナリアたちに集中した。
「あの二人、ただの美男美女じゃないわ」
「いいシーン、見ちゃった。えへへ。あとで友達皆に自慢しなきゃ!」
そんな声がひそひそと聞こえてきたので、二人は皆の視線を浴びながら動かなければならなくなった。皆の視線を浴びながら、近くの商店の影に逃げ込んで、その裏手にある公園のベンチに腰掛ける。
「どうやら、わたくしたちはエリクたちがいないと目立つようですね」
ナリアは息を切らせていた。裾の長いドレスをたくし上げて走ったからだ。
ベンチに座って、周りに視線がないのを確かめると、ようやくそこは落ち着いた空間になった。
「アース」
しばらく休むと、ナリアのほうから声がかかった。乱れた髪を整えている。
「エリクたちを、あなたはどう見ますか?」
アースは、ナリアのその質問に、少し考えた。どう答えたらいいのか迷っているというより、自分の考えをどうまとめようかと迷っている感じだった。
しばらくして、アースは難しい顔をして答えた。
「あいつらは、喧嘩をしたほうがいい」
すると、ナリアは何か聞きたそうな顔をした。
「あなたもそう考えていましたか。彼らは自然に喧嘩ができると思いますか?」
ナリアが純粋な顔で聞いてくるので、アースは少し押され気味になってしまった。こういうのを、彼は得意ではなかったからだ。
「まあ、なるようになるだろう」
アースは、そう答えるしかなかった。ナリアはいったん引くと、ベンチに座りなおした。
「アース、わたくしたち、恋人に見えるのですね。双子のようなものなのに、全く似ていない。なんだか滑稽に思えてきてしまいます」
「似ていないから、そう見えるんじゃないか?」
「まあ、そうですけれども」
ナリアは、なんだか嬉しそうにしている。それを見て、アースは疲れたようにため息をついた。
「ナリア、なぜ俺を呼んだ?」
ナリアは、遠くを見つめていた。少し寂しげな表情をすると、いまだ遠くにある何かを見つめたまま、アースの手を握った。
「寂しくなったのかもしれません」
アースは、その答えに、一言、そうか、とだけ言って、ナリアの手を握り返した。
その時だった。
「いたぞ!」
男性の声が聞こえて、二人はびくりとしてそちらを見た。すると、何人もの町の人が商店の影からこちらをうかがっていた。
「手を繋いでる! やっぱりいい関係なんだわ! いいなあ羨ましい」
町の人が、そんなことを言いながら遠巻きに見ている。ナリアとアースは、少し落胆した。
「彼らの気配が読めなかったなんて」
ナリアが、アースからそっと手を離す。
「どうやって買い物をしましょう? 手ぶらでは帰れません」
「ここは、恋人で通すしかなさそうだな。余計な誤解を招くわけにはいかない」
ナリアは、それに合意した。そして、二人で一緒に立ち上がると、町の人たちに手を振った。
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