5 / 147
第一章 四葉のクローバー
難しいランチ
しおりを挟む
南門を出て、初めて見たそれは、エリクにとって想像していたよりもはるかに大きく、広いものだった。
草原に出た三人は、まずその広く開放感ある世界に酔いしれていた。リゼットは背を伸ばして深呼吸をした。ジャンヌは腰に手を当てて首を回し、ストレッチ運動をしていた。
そして、エリクは、倒れた。
今まで牢の中にしかいなかったのだから仕方がない。地平線というものに酔ってしまったのだ。彼は目を回してしまっていた。
二人に助け起こされると、エリクは頭を抱えて二人を見た。
「これが、外の世界、草原なんだね。広いって、こういうことを言うんだ。すこし、怖くなったよ」
そう言われて、リゼットたちは改めて自分たちが進もうとしている草原を見た。どこまでも続く緑は、遠くへ行くほど青く色を変えていっている。地平線に至るまでそれは続き、どこまでが草原で、この草原をどこまで行けば次の町へたどり着けるのかも分からなかった。とりあえずの地図を、町の書店で買ってきてはいるが、その地図も、こうも草原が広いのでは役に立つのか分からなかった。
旅に必要だと感じ、ここへ来る途中に町で買ったコンパスを、ジャンヌが自分のカバンから出した。まっすぐ南は、自分たちの向いている方向で間違いはない。
「とりあえず、歩いてみようか、エリク」
エリクは、グラグラする頭を抱えたまま頷いた。自分がどこをどう歩いているのかが定かではない。これでは、ウサギを狩るどころか草原に出ただけで死んでしまうかもしれない。
しかし、エリクはくじけなかった。
何度も何度も、二人の肩を借りながら南へと一歩ずつ、確実に歩を進めていった。三十分もすれば、一人で歩いて、草原の草を踏みしめる感覚を感じるまでになっていた。
そして、エリクが自分の足でしっかりと走れるようになるまで時間はたいしてかからなかった。環境への適応能力が高いのか、これが人並みなのか、それは分からなかったが、エリクが普通に草原を歩けるようになって、二人は安心した。
安心したところで陽は南中高度に達し、お昼ご飯の時間になった。町から出るときに買ってきた保存食と一回分の食事があったので、まずはランチ用に買った食事から食べることにした。保存食は一か月以上持つので、その間は狩をして、その動物の肉を食べることにした。
「美味しいでしょ、私のセレクト」
リゼットが胸を張って得意げに言うので、一緒に食べていたジャンヌは吹き出してしまった。
「これ、エリクが選んだんだと思ってた! リゼット、あんたのセレクトにしちゃ、ちょっとお粗末じゃない? 外の世界の食べ物をあまり知らないエリクならと思って許していたけど、これはねえ」
「あんたそれ、すごくエリクに失礼なの、分かってる?」
そう言って、リゼットは荷物の中にあった花のステッキを取り出して、ランチボックスの上にかざした。少し何かを念じると、ステッキをぐるりと振って、また、元の荷物の中に戻した。
「文句があるなら今度はこれを食べてから言いなさいよね」
リゼットはそう言って威張ってみせた。それが気に入らないジャンヌは、エリクの手を引っ張ってランチボックスの中に突っ込ませた。
「痛いよ、ジャンヌ。いったいどうしたんだい?」
「それくらい我慢しなさいよ、怪力男。で、その料理どう? 錬術かけられたランチなんて怖くて食べられなくてさ」
そう言われて、エリクはランチボックスからひとつ、サンドイッチを選んで手に持ち、食べてみた。
「おいしい! さっきのよりずっとおいしいよ、ジャンヌ。これ、どうやったの、リゼット?」
その感嘆する声を聴いて、リゼットはより鼻高々になり、ジャンヌは舌打ちをした。
リゼットは天狗になって答えた。
「錬術は魔法じゃないのよ。これは、れっきとした科学。使えるのは銀の森の住人である私たちだけだけどね。今のは、料理の中にある元素の組成をちょっといじくっただけよ。少し錬術をかけるだけでもこんなにおいしくなるんだから、感謝しなさいよ」
「それさ、自分のフォローになってないじゃん。どころか無能の証明ってやつ」
頭を抱えて、あきれ顔でジャンヌがリゼットの鼻っ柱を折った。
「なんですって、ちょっとこっちに来なさいよ、ジャンヌ! 今日こそ白黒つけてやるわ!」
そう言って、ランチボックスとエリクを置いて、ジャンヌとリゼットは先に行ってしまった。エリクは急いでランチボックスを片付けて、二人の荷物を持つと、二人の後を追った。
「二人とも、ランチくらいはゆっくりしようよ!」
そう叫んだが、喧嘩をしている二人には聞こえるはずがなかった。
草原に出た三人は、まずその広く開放感ある世界に酔いしれていた。リゼットは背を伸ばして深呼吸をした。ジャンヌは腰に手を当てて首を回し、ストレッチ運動をしていた。
そして、エリクは、倒れた。
今まで牢の中にしかいなかったのだから仕方がない。地平線というものに酔ってしまったのだ。彼は目を回してしまっていた。
二人に助け起こされると、エリクは頭を抱えて二人を見た。
「これが、外の世界、草原なんだね。広いって、こういうことを言うんだ。すこし、怖くなったよ」
そう言われて、リゼットたちは改めて自分たちが進もうとしている草原を見た。どこまでも続く緑は、遠くへ行くほど青く色を変えていっている。地平線に至るまでそれは続き、どこまでが草原で、この草原をどこまで行けば次の町へたどり着けるのかも分からなかった。とりあえずの地図を、町の書店で買ってきてはいるが、その地図も、こうも草原が広いのでは役に立つのか分からなかった。
旅に必要だと感じ、ここへ来る途中に町で買ったコンパスを、ジャンヌが自分のカバンから出した。まっすぐ南は、自分たちの向いている方向で間違いはない。
「とりあえず、歩いてみようか、エリク」
エリクは、グラグラする頭を抱えたまま頷いた。自分がどこをどう歩いているのかが定かではない。これでは、ウサギを狩るどころか草原に出ただけで死んでしまうかもしれない。
しかし、エリクはくじけなかった。
何度も何度も、二人の肩を借りながら南へと一歩ずつ、確実に歩を進めていった。三十分もすれば、一人で歩いて、草原の草を踏みしめる感覚を感じるまでになっていた。
そして、エリクが自分の足でしっかりと走れるようになるまで時間はたいしてかからなかった。環境への適応能力が高いのか、これが人並みなのか、それは分からなかったが、エリクが普通に草原を歩けるようになって、二人は安心した。
安心したところで陽は南中高度に達し、お昼ご飯の時間になった。町から出るときに買ってきた保存食と一回分の食事があったので、まずはランチ用に買った食事から食べることにした。保存食は一か月以上持つので、その間は狩をして、その動物の肉を食べることにした。
「美味しいでしょ、私のセレクト」
リゼットが胸を張って得意げに言うので、一緒に食べていたジャンヌは吹き出してしまった。
「これ、エリクが選んだんだと思ってた! リゼット、あんたのセレクトにしちゃ、ちょっとお粗末じゃない? 外の世界の食べ物をあまり知らないエリクならと思って許していたけど、これはねえ」
「あんたそれ、すごくエリクに失礼なの、分かってる?」
そう言って、リゼットは荷物の中にあった花のステッキを取り出して、ランチボックスの上にかざした。少し何かを念じると、ステッキをぐるりと振って、また、元の荷物の中に戻した。
「文句があるなら今度はこれを食べてから言いなさいよね」
リゼットはそう言って威張ってみせた。それが気に入らないジャンヌは、エリクの手を引っ張ってランチボックスの中に突っ込ませた。
「痛いよ、ジャンヌ。いったいどうしたんだい?」
「それくらい我慢しなさいよ、怪力男。で、その料理どう? 錬術かけられたランチなんて怖くて食べられなくてさ」
そう言われて、エリクはランチボックスからひとつ、サンドイッチを選んで手に持ち、食べてみた。
「おいしい! さっきのよりずっとおいしいよ、ジャンヌ。これ、どうやったの、リゼット?」
その感嘆する声を聴いて、リゼットはより鼻高々になり、ジャンヌは舌打ちをした。
リゼットは天狗になって答えた。
「錬術は魔法じゃないのよ。これは、れっきとした科学。使えるのは銀の森の住人である私たちだけだけどね。今のは、料理の中にある元素の組成をちょっといじくっただけよ。少し錬術をかけるだけでもこんなにおいしくなるんだから、感謝しなさいよ」
「それさ、自分のフォローになってないじゃん。どころか無能の証明ってやつ」
頭を抱えて、あきれ顔でジャンヌがリゼットの鼻っ柱を折った。
「なんですって、ちょっとこっちに来なさいよ、ジャンヌ! 今日こそ白黒つけてやるわ!」
そう言って、ランチボックスとエリクを置いて、ジャンヌとリゼットは先に行ってしまった。エリクは急いでランチボックスを片付けて、二人の荷物を持つと、二人の後を追った。
「二人とも、ランチくらいはゆっくりしようよ!」
そう叫んだが、喧嘩をしている二人には聞こえるはずがなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
追放からはじまる異世界終末キャンプライフ
ネオノート
ファンタジー
「葉山樹」は、かつて地球で平凡な独身サラリーマンとして過ごしていたが、40歳のときにソロキャンプ中に事故に遭い、意識を失ってしまう。目が覚めると、見知らぬ世界で生意気な幼女の姿をした女神と出会う。女神は、葉山が異世界で新しい力を手に入れることになると告げ、「キャンプマスター」という力を授ける。ぼくは異世界で「キャンプマスター」の力でいろいろなスキルを獲得し、ギルドを立ち上げ、そのギルドを順調に成長させ、商会も設立。多数の異世界の食材を扱うことにした。キャンプマスターの力で得られる食材は珍しいものばかりで、次第に評判が広がり、商会も大きくなっていった。
しかし、成功には必ず敵がつくもの。ライバルギルドや商会から妬まれ、陰湿な嫌がらせを受ける。そして、王城の陰謀に巻き込まれ、一文無しで国外追放処分となってしまった。そこから、ぼくは自分のキャンプの知識と経験、そして「キャンプマスター」の力を活かして、この異世界でのサバイバル生活を始める!
死と追放からはじまる、異世界サバイバルキャンプ生活開幕!
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!
タジリユウ
ファンタジー
【1〜3巻発売中!】
とある街から歩いて2時間。そこはキャンプ場と呼ばれる不思議な場所で、種族や身分の差を気にせずに、釣りや読書や温泉を楽しみながら、見たこともない美味しい酒や料理を味わえる場所だという。
早期退職をして自分のキャンプ場を作るという夢を叶える直前に、神様の手違いで死んでしまった東村祐介。
お詫びに異世界に転生させてもらい、キャンプ場を作るためのチート能力を授かった。冒険者のダークエルフと出会い、キャンプ場を作ってスローライフを目指す予定なのだが……
旧題:異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
※カクヨム様でも投稿しております。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる