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ハーレムとか現実ありえないっしょ

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 どうしてこうなってしまったんだろうか。
 僕は一人残された部屋で自問自答する。

 異世界にクラス全員で召喚されたのは2年前、僕、田中大地が16歳の時だった。
 その時僕はラノベのテンプレ通り、他のクラスメイトと比べると神様から大したスキルを貰えてなくて、国王たちにハズレ勇者と言われ、クラスメイト達には馬鹿にされ、穀潰しはいらん、と着の身着のままで王城を追い出された。
 その時追いかけてきたのが、クラスメイトで学年一のマドンナと呼ばれる幼なじみの凛だった。
 凛は、聖女と言う称号と神聖魔法というものすごいスキルを持っていて、召喚した国の第一王子からも気に入られてたんだけど、国の僕に対する酷い態度と、王子のいやらしい目が我慢出来なくて、城を抜け出してきたってちょっと笑った。

 後になって、実は僕のことが好きだったからって言われて嬉しかったのはまた別の話で。

 まあおかげで、僕は聖女を誘拐した犯罪者として見つけ次第殺せって追いかけられる事になって、追跡してきた騎士団に追い詰められてあわやってところでハズレだと思ってたスキルが開花して、騎士団を撃退したのもテンプレ通り。
 そうして逃避行をしながら2人で旅をしていたら、またまたテンプレ通りにケモミミで奴隷だったテトを助けて奴隷解放したり、立ち寄った街で、殺されそうになってた領主の娘アマレーシアを助け出したり、気づいたらハーレムって言われる状態になっていたんだよね。
 あとは恋人じゃないけど、宿屋の娘のミンミンとか冒険者ギルドの爆乳のシリア姉さんとか。

 羨ましい?リア充爆発しろって?

 うん、僕もそう思うよ。でもみんな可愛いしさ、一生懸命だし、僕のこと大好きって言ってくれるんだ。その中一人とかどうしたら選べるの。選べるわけないでしょ。みんな同じくらい好きだし。

 ほら、みんな違ってみんな良い、だよ。

 その頃には、いわゆる俺TUEEEE状態になってたし、召喚した国ともクラスメイトとも和解して、凛やテトやアマレーシアと協力して魔王を倒すことができた。
 その後国から使い切れないほどの報奨金や爵位を貰えた僕は幸せの絶頂だった。だって何人の女の子だって平気で養えるくらいになったんだよ。彼女達になに不自由もさせることはないし何の問題もないと思ったんだよ。

 旅の最中だってみんなで仲良くやってきたし、このままみんなと結婚して仲良く暮らしていくんだろうって思っていた。




 そんな時、幼なじみの凛が他の男の子とデートしてるって人に聞いて、またモテない誰かの僻みかなって思ったけど、確かに最近家にいないなと思って気になって後をつけた先の城で、凛があの第1王子と楽しそうにしてた。
 あいつ、まだ僕の凛を諦めてなかったのか、ってカッとなって詰め寄ったらなぜか凛に止められた。

 「王子は私に大地がいてもいいからって言ってくれたのよね」
 「え、何言ってるの?」
 「何ってそのままの意味だけど」
 「だって凛は僕の彼女でしょ?」

 凛はわけが分からないという顔をした。

 「大地は私達のこと選べないって言ったよね?それなのになんで私が王子と大地を選べないって言ったら駄目なの?自分は良くて相手は駄目なの?」
 「え?」
 「同じ事でしょ?」
 「違うよ、だって凛は僕が好きでしょ?」
 「あ~やっぱりね。ハーレムとか言う人ってそうよね。自分の事だけが大事で、相手の事考えてないよね」
 「え?」
 「私達がどんな思いで大地の事好きだったと思うの?彼氏が鼻の下伸ばして他の女に目移りしているのを見逃していたとでも?よく考えてみなさいよ。俺は色々な女と恋愛するけど、女は俺だけを好きでいろって、どんなクズ男よ。大地のこと好きだったけど、みんなを選べないって言った時点で、百年の恋も冷めたの」

 そうして凛は、愛おしそうに王子を見上げた。

 「大地の事が苦しくて、それを王子に相談したらね、君の心に大地が居ても僕は君の事だけを愛するよって言ってくれたのよ」
 「俺が愛してるのは凛だけだからな。不誠実な事はしない」

 王子が凛の髪にキスを落とす。

 「そんなわけだから、私はあなたと別れるわ。私は私だけに誠実な人に想いを返したいし、やっぱり女は自分だけを愛してもらいたいものだから」
 「凛はお前といる時はいつも辛そうだった。お前はすぐに女にふらふらするからな。それに気づけないお前に凛は渡さない」

 そう言って2人は手を取り合って去っていった。
 フラフラしてたわけじゃないけど、目の前に揺れるおっぱいがあったら男はみんな見ちゃうもんじゃないの?
 凛だって『大地ってエッチね』ってニコニコしてたじゃないか。

 とぼとぼ歩いていた城の廊下でクラスメイトの女子達に出会った。みんな王子と凛のことを知っていた。

 「なんで止めてくれなかったのさ」
 「逆になんで止める必要あんの?田中って浮気ばっかりじゃん」
 「浮気じゃないよ、みんなきちんと好きだし」
 「うっわ、まじ引くわ。なに?本気でハーレムとか言っちゃってんの?ありえないわ」
 「その言動に疑問を抱かないあたり、もう終わってんね。まじで凛は王子とくっついて正解だよ」
 「学校でも思ってたけど田中キモ」
 「もう凛に付き纏うなよ」
 「私達にも近づかないでね」
 「たくさんの女といても気にしない女と付き合えばいいじゃん」
 「やだぁ、気にしないって、それ女の方もお金と地位しか興味無いやつじゃん」
 「ちゃんとした恋愛感情がある人がハーレムとかほざいてる男と一緒にいるわけないじゃん」

 散々言われた。なんでだよ、なんで僕が文句言われるの?浮気したのは凛じゃないの?




 意気消沈した僕は、テトとアマレーシアに慰めてもらおうと家に向かった。

 「大地、番を見つけたから村に帰る」

 帰り道、市場で、狼の獣頭の獣人にお姫様抱っこされたテトに唐突に言われた。

 「え、どういうこと」
 「獣人は番至上主義だから。でも運命の番なんて滅多に出会えるわけじゃないし、獣人は人族の奴隷にされてることも多いから諦めてたんだ。でも見つけたんだ」
 「俺の番…もう離さない」

 狼獣人が抱きしめたテトに頬擦りをする。

「番以外は誰でもよかったから優しかった大地と付き合ってたけど、番が見つかったらボクたち獣人はもうほかは考えられないんだ。でも大地だって沢山いる彼女の一人くらい居なくたって変わらないだろ」

 テトも嬉しそうにもっと狼獣人に強く抱きつく。

 「今まで守ってくれたことは感謝する…だけどテトはもう俺のだ。絶対に渡さない。もう関わってくるな」
 「自分だけ愛されてるのってこんなに嬉しいんだな、本当に幸せだよ。」
 「お前がクズな男でよかった」

 そういうと、狼獣人はテトを抱いたまま走り去っていった。

 「え、ちょっと待って」

 呼び止めようとした僕を、見ていた街の人々が諌める。

 「待ちな、勇者の兄ちゃん。諦めなよ、狼獣人の番への溺愛はものすごいからなぁ」
 「そうだよ、あの娘も嬉しそうだったろ」
 「この時代に番が見つかるなんざ、奇跡みたいなもんさ」
 「番を引き裂くなんざ野暮ってもんさ、祝福してやるのが男ってもんだろ」
 「それにあの子が言ってた通り、あんた女の子が1人減ったって他にもまだまだいるだろう」
 「何人かいるうちの一人だったんだろ」

 僕のことを知ってる人が、揶揄うように笑った。

 僕は居た堪れなくなってその場を離れた。
 なんだかまっすぐ屋敷に帰りたくなくて、旅に出てからずっとお世話になっていた宿屋兼料理屋に向かった。
 カウンターで女将さんおすすめの料理を食べながらエールを飲んでいると(この世界は成人が15歳だから飲酒可能なのだ)看板娘のミンミンがやってきた。

 「大地兄ちゃん振られたんだって?」
 「うぐ」

  情報が早い。
 そして子供だからか遠慮がない。

 「やめな、ミンミン。大地が死んでるよ」
 「えー事実なのに?」
 「事実だからだよ」

 女将さんが豪快に笑って娘をたしなめる。

 「でも、だからといってあんたミンミンに手を出すんじゃないよ」
 「そんなことしませんよ」

 そりゃミンミンちゃんは可愛いけど、妹枠だし。
 もう少し大きくなったら分からないけどさ。

 「お母さんやめてよぉ、ミンミンはミンミンだけを好きな人がいいのぉ。お兄ちゃんなんて、助けた女の人にすぐフラフラするしさ、おっぱいばっか見てるし好きって言われたらすぐホイホイいくとか、男としてありえない。結婚したって他所で子供作ってそうだしそんな人絶対にお断りぃ~」
 「こら、ミンミン子供がそんな事(他所で子供作る)言うんじゃないよ」
 「万が一にもお断り!だってはっきり言っておかないと勘違いされたら嫌だもん」

 うわあああ

 俺は一気にエールを飲み干すと逃げるように宿を出た。

 ミンミンからのダメージが抜けきらないまま屋敷に帰ると、アマレーシアの荷物が全て無くなっていて、ずっと彼女に着いてきてくれていた彼女の侍女が一人玄関で待っていた。

 「アマレーシア様は実家に帰られました」
 「え、なぜ?」
 「昨日話し合ったことが全てです」

 昨日?
 そういえば昨日アマレーシアには、誰が第一夫人になるのか?と聞かれたけど。

 「みんな好きだし誰が一番とか決められない」

 って言ったはず。それがなにか駄目だったの?

 「アマレーシア様は大地様達とは違い、この世界の人ですから一夫多妻制は了承されています。しかしそれは本妻と側室というきっちりとした区分があってこそです」
 「なんで?そんな事したら女の子の中で格差が出ちゃうでしょ。僕の中では全員が一番だし」
 「……このクソが」
 「え?」
 「なんでもありません」

 なんか小声ですごい暴言吐かれた気が…

 「それでは、聞きますが、今後奥様方全員に男児が生まれたとして、どなたが後を継ぐのですか?」
 「それはその時能力のある子が継げばよくない?」
 「みなさん同じようなレベルだったらどうするのですか?」
 「それは仲良く」
 「大地様の世界は知りませんが、この世界では後を継げるのは一人のみです。領地を仲良く等分なんかできるわけないですよね」

 確かに。この世界は0か100しかない。

 「何年かは良くても、彼らが成人した時に、なぜ自分は遺産を受け取れないのか、と争いになるのは目に見えています。アマレーシア様のように同じ両親に生まれた兄弟でも相続問題で揉めるものです。本妻と側室と立場が決まっていたって問題はよく起こります。大地様にとって全員可愛い息子だとしても夫人達にとっては、自分の子と他の妻の子です。一番を選べないなら、子供達も一番を選んではいけないのですが、しかし後継ぎは選ばないといけない。それはどうしたって無理です」
 「う…あ」
 「昔はアマレーシア様とダイス様だってとても仲の良い兄妹だったのですよ」

 そうだアマレーシア自体、自分の兄に殺されそうになったんだった。息子のあまりの放蕩ぶりに激怒した領主が長男を勘当してアマレーシアを後継者にしようとしたのを逆恨みして起こした事件。
 馬車での移動中に強盗に見せかけて殺されそうになったの僕達のパーティーで助けたのが出会いだったんだよね。
 あの後色々あって結局逮捕された長男は犯罪奴隷として鉱山に送られたんだっけ。

 「アマレーシア様は、継承権を放棄してでも大地様に嫁ごうと覚悟しておられましたが、昨日の話し合いで、もう疲れた、と。これから生まれてくるであろう自分の子供を自分と同じような(兄弟間で骨肉の争いをするような)そんな辛い環境には置けない、と仰りました。自分は次期領主となり、自分を一番に支えてくれる婿をとり、子供を愛すると」

 それを言われると…なんとも言えない。
 確かに僕は自分の事だけで、今後のこととか何も考えてなかった。

 「そういうことですので、もう二度とアマレーシア様には近づかないでください」

 そう言って侍女さんは深くお辞儀をすると、それでは私も戻りますからと去っていった。


 伽藍とした屋敷には僕一人だけ。
 一体どうしてこうなったんだろう。
 僕は自問自答する。
 僕は間違っていたのだろうか…。選べないのが悪かったのだろうか。



 結局僕の周りには誰もいなくなった。
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