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第2章 動き出す者たち/ガダル大森林
第118話
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三人のすぐ近く。守護者を倒した場所から水が湧き始めていた。水は地面を濡らしていたかと思うと、すぐに大きな水溜りになる。水面を覗き込んだ少年が指をさした。
「出口が開いたみたいだな」
シャルとセシリアが覗き込むと、水溜りの底は泥ではなくガダル大森林の景色が広がっている。三人は水溜りの前に一列に並んだ。
「次のダンジョンに行く前に少し街に寄りたいな。装備品や食料がもうかつかつだ」
「ご飯?」
「記憶が少し戻った分、セシリアの食欲が増していないといいですね」
「……これ以上増えるんだったら、記憶を戻す必要はないからな。セシリア」
「大丈夫。ナイン、稼いでくれる」
「なんだか微妙に会話が噛み合っていない気もするけど。いいか。さあ、帰ろう」
少年が初めに水溜りに波紋をたてながら飛び込む。続いてシャルと子供を抱えたセシリアが。楽園級ダンジョンを怒涛の勢いで攻略してみせた三人の意識は水の中に落ちる。何も見えない。何も聞こえない。やがてまぶた越しに明るくなる光に目を開けたのだった。
「またこのパターンかよ!」
楽園級ダンジョンを出た少年たちは、気付けば空中に身を躍らせていた。枝を折りながら落下し、最下層に着いた時のように少年を下にして着地。どうやら楽園級ダンジョンの出口は地上から少し高い場所に開いたらしかった。
「一度ならず二度までも……。俺は二度とこのダンジョンに潜らない。絶対にだ!」
「おかえり。良かった、無事に戻ってこれたのね」
「へ?」
体を起こしていると、目の前に子供の手を引いたリリーが立っていた。片手で口元を押さえた彼女の目元から涙が一筋流れる。どうやら出口は入り口の近くに開いたようだった。
「ああ、今回も五体満足で帰ってこれた。セシリア」
「子供、取り戻した」
気絶したままであったが、安らかな表情で眠っている子供をリリーが受け取る。
「大きな怪我は負ってないはずだから、子供だし二、三日休ませれば元気になるよ」
「ありがとう、みんな」
少年は顔を上げる。太陽は間も無く正中を超える位置にある。行方不明の子供たちが見つかったといえど、密猟者を捕縛したとなれば予定通り午後からリリー以外の森林警備隊が森の捜索に来るだろう。できれば、その前に出発しておきたい。
「さてと、契約内容もちゃんと終わらせたし、ダンジョンも攻略したから俺たちはそろそろ行くとするよ」
「もう行っちゃうの? もう少しゆっくりしても……そうだわ! 密猟者や子供の救出についての功績を支部に一緒に申請に行きましょう! そうしたら」
「ごめんさい、リリー。私たちはすぐに次のダンジョンに向かわなきゃいけないんです。今回のことは……そうですね。私たちのことはぼやかして報告してもらえませんか? 私たち三人とも目立つのが苦手なんです」
シャルの言葉に少年は首肯する。目立ちたくないというのは親衛隊に足跡をあまり辿られたくないという意味であったが、事情を知らないリリーには彼らの姿は謙虚なものに映った。
「あなたたちが言うなら……分かったわ。ならせめて、森の外までは送らせて」
森の外と言っても、楽園級ダンジョンがそもそも大森林の外縁近くに存在するため、別れはすぐに来た。
「出口が開いたみたいだな」
シャルとセシリアが覗き込むと、水溜りの底は泥ではなくガダル大森林の景色が広がっている。三人は水溜りの前に一列に並んだ。
「次のダンジョンに行く前に少し街に寄りたいな。装備品や食料がもうかつかつだ」
「ご飯?」
「記憶が少し戻った分、セシリアの食欲が増していないといいですね」
「……これ以上増えるんだったら、記憶を戻す必要はないからな。セシリア」
「大丈夫。ナイン、稼いでくれる」
「なんだか微妙に会話が噛み合っていない気もするけど。いいか。さあ、帰ろう」
少年が初めに水溜りに波紋をたてながら飛び込む。続いてシャルと子供を抱えたセシリアが。楽園級ダンジョンを怒涛の勢いで攻略してみせた三人の意識は水の中に落ちる。何も見えない。何も聞こえない。やがてまぶた越しに明るくなる光に目を開けたのだった。
「またこのパターンかよ!」
楽園級ダンジョンを出た少年たちは、気付けば空中に身を躍らせていた。枝を折りながら落下し、最下層に着いた時のように少年を下にして着地。どうやら楽園級ダンジョンの出口は地上から少し高い場所に開いたらしかった。
「一度ならず二度までも……。俺は二度とこのダンジョンに潜らない。絶対にだ!」
「おかえり。良かった、無事に戻ってこれたのね」
「へ?」
体を起こしていると、目の前に子供の手を引いたリリーが立っていた。片手で口元を押さえた彼女の目元から涙が一筋流れる。どうやら出口は入り口の近くに開いたようだった。
「ああ、今回も五体満足で帰ってこれた。セシリア」
「子供、取り戻した」
気絶したままであったが、安らかな表情で眠っている子供をリリーが受け取る。
「大きな怪我は負ってないはずだから、子供だし二、三日休ませれば元気になるよ」
「ありがとう、みんな」
少年は顔を上げる。太陽は間も無く正中を超える位置にある。行方不明の子供たちが見つかったといえど、密猟者を捕縛したとなれば予定通り午後からリリー以外の森林警備隊が森の捜索に来るだろう。できれば、その前に出発しておきたい。
「さてと、契約内容もちゃんと終わらせたし、ダンジョンも攻略したから俺たちはそろそろ行くとするよ」
「もう行っちゃうの? もう少しゆっくりしても……そうだわ! 密猟者や子供の救出についての功績を支部に一緒に申請に行きましょう! そうしたら」
「ごめんさい、リリー。私たちはすぐに次のダンジョンに向かわなきゃいけないんです。今回のことは……そうですね。私たちのことはぼやかして報告してもらえませんか? 私たち三人とも目立つのが苦手なんです」
シャルの言葉に少年は首肯する。目立ちたくないというのは親衛隊に足跡をあまり辿られたくないという意味であったが、事情を知らないリリーには彼らの姿は謙虚なものに映った。
「あなたたちが言うなら……分かったわ。ならせめて、森の外までは送らせて」
森の外と言っても、楽園級ダンジョンがそもそも大森林の外縁近くに存在するため、別れはすぐに来た。
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