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第2章 動き出す者たち/ガダル大森林
第72話
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「私の知り合いの子供を含めた二人が三日前から行方不明なの……。一日経つごとに生存率が下がることなんて考えなくても分かることでしょ。ましてやそれが子供なら。それなのに隊長の腰が重いせいで捜索は明日の午後から。だから私は一人で毎日この森に入って捜索してたのよ」
「そうだったのか。ひとまず拘束を解いてやるから動くなよ」
憤然とした様子のリリーの背後に回ると、少年はナイフで木の根を切っていく。話からシャルを追ってきたわけではないことは明白な上に、彼女の顔を見ても特段反応も見せない。解放しても問題ないだろう。
「それはそうと、あなたたち攻略者よね? 格好や装備からして近くの住人がライズの実を集めに来たってわけじゃなさそうだし」
「はい。そうですよ」
適当に帝国を旅しているなどと、はぐらかしておけばいいものを。シャルの素直さに少年は目を眇める。
「どうしたんですか、ナイン? 目を細めて。もしかして切れませんか」
「いや、なんでもない。木の根はちゃんと切れたよ」
その証左にリリーが手首をさすりながらではあったが立ち上がって伸びをする。そのままシャルに近付くと、両手で肩を掴んだ。
「私と取引しない?」
「取引……ですか?」
「そう。あなたたち、攻略者ってことは北部に隣接してるダンジョンを目指してるんでしょ? そこの正確な位置と入り口は分かってるの?」
このままいくと、まずい気がした。少年はリリーの背後でシャルに何も言うなという意味を込めて頭上に両手で大きくバツを作ってみせる。そのサインを目に留めたシャルが小さく頷く。
「どちらも知らないです!」
そうじゃない。一ミリもこちらの意図が伝わっていないことにずっこけた少年は地面に倒れこむ。もうどうにでもなれという思いだった。
「だったらちょうどいいわね。私はどちらも知ってるの。まっすぐ行けば二日でつけるわ」
「二日!?」
それだけの時間の短縮は時間が惜しいと考えていたシャルにとっては朗報。目を輝かせるその姿は、地面で横になりながら頬づえをつく少年には詐欺師の話術に全てはまっていく極上のカモにしか見えなかった。
「そうよ。私が案内してあげるわ。その代わりと言ってはなんだけど、さっきの戦いでの腕を見込んで密猟者を捕まえるのを手伝って欲しいの。時間は明日の午後の捜索が始まるまででいいから!」
提案自体は悪くない。一日のロスはあるが、それを差し引いても一週間はゆうにかかるだろうと思っていた道のりが、この森の専門家と言っても過言ではない彼女の案内付きで二日に縮まるのだ。密猟者といえど所詮はこそ泥。出くわしたとしても問題はない。だが、
「本当に知ってるのか? 潜ったわけじゃないんだろ。最後に案内したのはいつだ?」
「一年前よ……。あ、でも二年前にも一回案内してるわ!」
笑みを浮かべるリリーとは対照的に少年の顔は曇り始める。一年のブランクがあっても案内できたということはおそらく正確に場所を覚えているのだろうが、果たして信じても大丈夫だろうか。懊悩する少年の袖が小さく引っ張られる。シャルが口を耳に寄せてきた。
「ナイン。信じてもいいと思います。行方不明の子供の話をしていた時のリリーは本気で心配しているみたいでしたし。それに仮に一日棒に振ることになったとしても私たちなら獲り返せるはずです」
「シャルが言うなら、まぁ。セシリアもそれでいいか?」
「二人についてく」
「そうか。ならその取引に乗らせてもらうよ」
差し出された手をリリーが笑顔のまま掴む。
「それじゃ短い間だけどよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
互いに握手を交わしながら自己紹介をする四人の足元を、落ち葉をかき集めながら風が通り過ぎていった。
「そうだったのか。ひとまず拘束を解いてやるから動くなよ」
憤然とした様子のリリーの背後に回ると、少年はナイフで木の根を切っていく。話からシャルを追ってきたわけではないことは明白な上に、彼女の顔を見ても特段反応も見せない。解放しても問題ないだろう。
「それはそうと、あなたたち攻略者よね? 格好や装備からして近くの住人がライズの実を集めに来たってわけじゃなさそうだし」
「はい。そうですよ」
適当に帝国を旅しているなどと、はぐらかしておけばいいものを。シャルの素直さに少年は目を眇める。
「どうしたんですか、ナイン? 目を細めて。もしかして切れませんか」
「いや、なんでもない。木の根はちゃんと切れたよ」
その証左にリリーが手首をさすりながらではあったが立ち上がって伸びをする。そのままシャルに近付くと、両手で肩を掴んだ。
「私と取引しない?」
「取引……ですか?」
「そう。あなたたち、攻略者ってことは北部に隣接してるダンジョンを目指してるんでしょ? そこの正確な位置と入り口は分かってるの?」
このままいくと、まずい気がした。少年はリリーの背後でシャルに何も言うなという意味を込めて頭上に両手で大きくバツを作ってみせる。そのサインを目に留めたシャルが小さく頷く。
「どちらも知らないです!」
そうじゃない。一ミリもこちらの意図が伝わっていないことにずっこけた少年は地面に倒れこむ。もうどうにでもなれという思いだった。
「だったらちょうどいいわね。私はどちらも知ってるの。まっすぐ行けば二日でつけるわ」
「二日!?」
それだけの時間の短縮は時間が惜しいと考えていたシャルにとっては朗報。目を輝かせるその姿は、地面で横になりながら頬づえをつく少年には詐欺師の話術に全てはまっていく極上のカモにしか見えなかった。
「そうよ。私が案内してあげるわ。その代わりと言ってはなんだけど、さっきの戦いでの腕を見込んで密猟者を捕まえるのを手伝って欲しいの。時間は明日の午後の捜索が始まるまででいいから!」
提案自体は悪くない。一日のロスはあるが、それを差し引いても一週間はゆうにかかるだろうと思っていた道のりが、この森の専門家と言っても過言ではない彼女の案内付きで二日に縮まるのだ。密猟者といえど所詮はこそ泥。出くわしたとしても問題はない。だが、
「本当に知ってるのか? 潜ったわけじゃないんだろ。最後に案内したのはいつだ?」
「一年前よ……。あ、でも二年前にも一回案内してるわ!」
笑みを浮かべるリリーとは対照的に少年の顔は曇り始める。一年のブランクがあっても案内できたということはおそらく正確に場所を覚えているのだろうが、果たして信じても大丈夫だろうか。懊悩する少年の袖が小さく引っ張られる。シャルが口を耳に寄せてきた。
「ナイン。信じてもいいと思います。行方不明の子供の話をしていた時のリリーは本気で心配しているみたいでしたし。それに仮に一日棒に振ることになったとしても私たちなら獲り返せるはずです」
「シャルが言うなら、まぁ。セシリアもそれでいいか?」
「二人についてく」
「そうか。ならその取引に乗らせてもらうよ」
差し出された手をリリーが笑顔のまま掴む。
「それじゃ短い間だけどよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
互いに握手を交わしながら自己紹介をする四人の足元を、落ち葉をかき集めながら風が通り過ぎていった。
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