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三話 腹が減ってはスローライフ出来ず

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「不束者ですが宜しくお願いします」

ある場所に訪れる否や膝を突いて頭を下げるレイティア。いきなり現れた彼女に頭を下げられたもの達は岩の影に隠れてレイティアの様子を伺っていた。

此処は深い森の奥の洞窟の中だ。即ちスライムが多く生殖してる場所。レイティアは洞窟に入りスライムが入り浸ってる場所を目指して歩いた。数分歩いてるとスライムが数匹穏やかな表情で眠ってるところに辿り着いた。レイティアがスライムにゆっくりと近付くと尋常じゃない気配を感じ取ったスライム達は目を覚ますと全員岩の影に隠れてしまう。しかしそれをもろともしないレイティアは膝を突いてスライムに頭を下げた。その様子を岩から少し顔を出して見ていたスライムだったがレイティアと目が合うとまたすぐに隠れてしまった。

(う~ん、此処のスライムは全員人慣れしてないみたいね)

試しにスライムが好きなキノ実をあげてみるけどスライムが近付いて来ることはなかった。

これは困ったぞ。住む場所を此処に決めてからスライムと一緒に大の字で寝れると思って楽しみにしていたのに。このままでは端っこで寂しく寝なくてはならない。しかも夜の洞窟は物凄く冷えるし火を起こしたことの自分では焚き火なんて到底無理だ。

(いいえ、弱気になっては駄目よレイティア!私の夢は世界中のスライムとお友達になること!この夜を凌げば明日からスライムと遊んで暮らせるんだから!この子達だってそのうち私に心を開いてくれるはず!)

一人意気込むレイティアだったが、ふと自身の手に擦り寄る存在に気付く。

「ロト!」

それは家から旅のお供にと連れて来たスライムだった。ロトと名はレイティアが名前がないのは不便だろうと旅の途中で決めたものだ。

「ごめんね~!別にあなたの存在を忘れてた訳じゃないの!そうよね、私にはロトが居るものね!」

レイティアはロトを抱き上げて、下から顔を覗き込めばロトは満足そうに笑みを浮かべる。それに釣られてレイティアもへへっとだらしのない笑みを浮かべた。暫し二人の世界に入ったかの様に見つめ合っていたが突如上品には程遠い音が辺りを占める。その音の発生源は果たしてレイティアからか…それともロトからか。どちらにしろ、二人の気持ちはこの時一致した。

「お腹空いたね。一旦町に下りよっか」

レイティアはロトを抱え直すと洞窟から出てそのまま町へと向かった。

町へと行くとぽつ、ぽつと灯りが点いてる建物があるがやはり規則正しい子供や大人でさえ寝てるこの時間は人の通りが見受けられない。先程から開いてるところは中が赤く光っていて如何にも怪しげなお店ばかりだ。ロトがドレスの中の胸元ら辺で寝息を立て始めてた頃、賑やかな声がひとつの建物の中から聞こえてくる。近付いて確かめてみれば看板には居酒屋の文字が。その文字を見た瞬間、レイティアはホッと肩の力を抜いて何も考えずにドアを押して中へと入っていく。レイティアが居酒屋の中に足を踏み入れた瞬間幾つもの視線がレイティアに突き刺さるがそれに気付く様子もないレイティアは瞳を輝かせながら辺りを見渡していた。

「ガキの女がこんなとこに何の用だってんだよ」
「でも体を見てみろよ。ありゃあ一級品だ」

端っこの席で剣やら弓やらを傍らに置いてお酒を嗜んでいた男達だったが未成年は勿論、女が一人で来ることなどゼロに等しいこの場所に特に気にする様子もなく堂々と訪れて来たレイティアを不審そうに見つめていた。しかしレイティアの胸に注目した弓を傍らに置いてる男は下品な笑みを浮かべて隣に座るもう片やの男に話し掛けた。

「しかし形おかしくないか?」

レイティアの胸元を凝視しながら男は酒を一気に喉へ流し込む。

「良いんだよ、立派ならそれで。そんじゃ、彼女にちょっくら声掛けてきますか」
「あら、アタシの店でナンパしようとするなんて良い度胸ね」
「み、ミカネルちゃん!?」

突如現れた赤毛の女性に男達は背筋を伸ばし、顔を引き攣らせる。

「此処はソウイウとこじゃないんだけど?」
「い、いや…パーティーメンバーに誘おうと」

男は女性から目を逸らしもごもごと口籠りながらも言葉を紡いでいく。そんな男達の様子に女性は目を細めるが男達が素知らぬ顔で黙ったことにより女性は肩を竦めて視線をレイティアへと移した。自分が話題の中心になって男達に変な風に見られてるのも知らずに興味津々に店内を歩くレイティアに女性は溜め息が溢れそうになる。一体彼女の御両親はどこだ。こんなとこに娘を連れて来て好奇の目に晒すとはきっとあまりよろしくない親なのだろう。しかしキョロキョロと辺りを見渡してもそれらしき人物が見当たらなかった。今度こそ女性は溜め息を溢すとゆっくりとレイティアに近付いていく。

「お嬢ちゃん、こんな時間に彷徨くと危ないわよ」

そう声を掛ければレイティアは驚いた様に振り向く。

そんな愛らしい反応に女性はクスッと笑うとレイティアの目線に合わせる様に屈んで営業用の笑顔を向けた。

「もしかしてお店の人ですか?それは良かった!では何か食べ物を頂けないでしょうか」
「········ん?」

瞳を輝かせてこちらに顔を近付けるレイティアに女性は笑顔を引き攣らせて首を傾げた。見掛けによらずグイグイ来る彼女だが両腕は胸を支える様に胸の下らへんで組まれていてそれに女性は違和感を覚えるが変に言及することなくレイティアに向き直った。

「食べ物欲しいの?でもごめんなさい。此処は大人限定の食堂なの。まぁ、お父さんとかが一緒なら良いんだけど」

子供に勝手に何かを与えることはこの国で禁止されている。だから女性はレイティアに親を連れて来て貰おうとしたのだがレイティアは首を振って答える。

「本日から“二人”旅を始めて…だから親は居ないんです」
「二人、旅?」

親が居ないのは分かった。若い冒険者が2~3人で旅をしてるのを多々見掛けるから。でも彼女の周りにはそれらしき人物は見掛けない。皆が皆、彼女を遠巻きで見るだけで声を掛けようとしないのだ。最初は彼女のその場凌ぎの嘘かと思ったがあまりにも真剣な眼差しで見てくるものだから嘘を付いてる様には思えなかった。

それでもやはり掟破りをするわけにはいかない。彼女には悪いが直ちに出て行って貰おう。

「此処には貴女にあげられるものはないの。てか、お金はちゃんとあるのかしら」
「お金は全て家に置いて来ました」
「·······え?」

よりにもよって旅には必要不可欠なお金を置いて来た?じゃあこの子は今夜、何処で寝泊まりする気だったのか。いや、もしかすると彼女は凄腕の剣士か何かで稼ごうと思えばいつでも稼げるから敢えて持って来なかったのかもしれない。

「ねぇ貴女の武器、ちょっと私に見せてくれない?」

こんな見た目はか弱いただの少女なのに実は凄腕の剣士だったなんて興味しかない。そんな子が一体どんな武器を持ってるのか凄く気になる。

わくわくしながらレイティアの方へ手を差し出す女性だったがレイティアは訳が分からないと言った様に首を傾げた。

「武器、ですか?それなら持ってないですけど」
「はぁ?」

きょとん顔をして答えるレイティアに思わず女性からは素っ頓狂な声が出る。しかしそんな反応をしてしまうのも無理無いだろう。武器すら持っていなくて良く旅をしようと思ったものだ。天然?いや、世間慣れしてないのか。女性は咳払いをひとつ溢して口を開いた。

「······お嬢ちゃん、まずは武器を手に入れることから始めたらどうかしら。此処ら辺はそこまで強いモンスターが居ないから適当に木の棒とかで倒せると思うわよ?」

此処らで生殖してるのはたまにゴブリンで殆どがスライムだ。スライムなら其処らで落ちてる木の棒や、体が頑丈なモンスターを斬ることが出来ない錆び付いた剣でも倒せるだろう。

そう女性が告げればレイティアは何か思い付いたかの様に瞳を輝かせる。きっと何だかの決心が付いたのだろうと思って女性はレイティアに力強く頷いてみせるのだがレイティアは先程までの女性の話を全く聞いていないかの様に話し出す。

「では、此処で働かせてください!」

レイティアのその一言で女性の額には青筋が立つ。周りも静まり返って二人に注目していた。

(ダメに決まってるでしょ!?何?そこまで私を罪人にさせたいの?)
「揉めてる様だが、大丈夫か?」

女性の何かがプチッと切れそうになった時、凛とした、だけど優しくもある声が店内に響き渡った。

「あらディオンちゃん、いらっしゃい」
「ミカネルさん、凄く疲れてますね」

良く聞き覚えのある声が聞こえて女性はなんとか笑顔を取り繕って振り返る。しかしそれはあまりにも笑顔とは掛け離れたものだった為、男は顔を引き攣らせ肩を竦めた。

「えぇ、ちょっと困った客が来てね」
「·····ミカネルさんをそこまで煩わせる客とは興味がありますね。一体、どんな奴なんですかーーー」

男は女性の背後からその正面を覗き込む様に前屈みになる。すると真っ先に目に飛び込んだのは目が奪われる程に美しい金髪の髪だった。目を逸らす事も出来ず男が固まっていると妙な視線を感じ取ったレイティアは不思議に思って男の顔を覗き込む。すると今度はレイティアの髪に負けないくらい綺麗な空色の瞳とかち合ってしまい男は石化したかの様に動かなくなってしまった。

「もしかして一目惚れ?」
「·····ち、違いますよ!」

女性は軽く頬を染めてからかう素振りで男を見る。すると男の時は動き出し直ぐ様女性に否定をするが女性は口元を手で押さえ目は細められたままだ。それがいたたまれなくなった男は誤魔化す様にレイティアを見る。

(おいおい…。確かに容姿は優れてるがそれだけでただの女の餓鬼だろ?何を手こずるってんだ)

しかしこの少女に困ってるのは事実なのだろう。何故ならいつもは客の前に出る時は身嗜みをしっかりとしてるこの人の髪は今ボサボサで何日徹夜してるかってくらい生気のない顔をしている。まぁ、そんなことを言えば鉄拳が飛んでくるのは目に見えてる為、口にはせず心の内で思うだけなのだが。

「ミカネルさん、良ければ俺が対処しましょうか」
「あら、良いの?この子案外面倒よ?」
「そうゆうのには慣れてるんで。·····理由さえ聞かせて頂ければ上手い事やりますよ」
「この子、食べ物を貰いに此処に来たみたいなの。しかも一人で。金も持たずにね」
「·····なるほど。では、スープをふたつ頂けますか」

コソコソと周りに聞こえない様に男が言えば女性は一瞬目を見開くがすぐに頷いて奥へと消えてしまう。女性の後ろ姿を見つめていると幾つかの視線を感じ取り男はギロリとそちらを睨み付けた。するとわざとらしく視線を逸らす何人ものの男達が居た。

『おぉ~、怖い怖い。流石は期待の勇者様は圧が違いますなぁ~』
『ハッ、フランツィ家当主の御眼鏡に適ってるからって調子乗りすぎだろ』

先程レイティアのことをいやらしい目で見ていた男達はレイティアの横で涼し気に立っている男に視線を移すとあくまでコソコソ話してるかの様に本人に聞こえるくらいの声で皮肉を言う。

「·····此処で待ってるのもな。席で待っているとしよう」

しかし男は気にしてない素振りでレイティアに話し掛ける。

「·····こういう時はお礼を言えば良いんでしょうか。それとも、あの男の人達に言われっぱなしの貴方を気にすれば良いんですか?」

その言葉に席に向かっていた男の足は止まり、驚いた表情で後ろに居るレイティアを見る。

レイティアは真剣な表情で顎に手を添えていてそれが本当に悩んでるかの様に思えた男は毒気を抜かれて肩を落とす。

(確かにこれは面倒かもしれないな)

今までにないタイプで接し方に困ってしまう。元々自分は子供が苦手なのにこんなのをどう対応したら良いと言うのだ。

男は頬を人差し指で掻きながら横目でレイティアを見やる。しかし既にレイティアはそこには居らず奥の席へと移動していた。

「冒険者さ~ん!此処の席に座りましょうよ~!」
(自由奔放すぎるだろ!!)

こちらに思いっきり手を振るレイティアに男は溜め息を吐くとレイティアの元へと歩いて行った。
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