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悪役令嬢になったので自由に生きたいと思います
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「好きです!付き合ってください!!」
「ごめんなさい。私、恋愛に興味がないの。」
それだけ告げると、項垂れる男性に背を向けて歩き出す。
これで今週3回目か。
あの男性には悪いが別に恋愛に興味がないわけではない。ただ、リアルの男性に興味がないだけ。私が側に居たいと思うのも、幸せになってほしいと願うのもこの方々だけだ。
私はとあるパッケージを取り出して人知れずムフフと微笑む。
学園では感情をあまり表に出す事が不可能なクールキャラの私だが、このゲームをしてる時だけいつもより表情筋が仕事してる気がする。
私がハマってるのは四人の攻略対象者とヒロインの成長を描く乙女ゲームだ。最初はヒロインの事が気に入らなかった攻略対象者達だがヒロインの明るさと優しさに救われ、次第に打ち解けると言うなんともテンプレなストーリーだがこの作品、既にこれで3シリーズ目だ。きっと人気の理由は物語の鍵を握ってる攻略対象者を始めとした男性陣にあるのだと私は推測している。
性格が異なる攻略者達は本当に全員が美しく描かれていて魅力的なのだ。その姿を一度見た者は彼らを忘れられなくなり、この作品にどっぷりとハマる事間違い無しだ。最近では彼らにガチ恋する人達が現れたらしい。
私は彼等にガチで恋してるわけではないけど一回くらいは彼等と関わりたい。あの低音で落ち着く声で名前を呼んで貰いたい。あの宝石の様に綺麗な瞳で私の事を写してほしい。彼らの側に仕えて一生彼らを守っていきたい。
そう思えるくらいには彼等の事を想っている。
一回、馬鹿にも転生を考えた事がある。本当に転生と言うものがあるのかと一時間くらいガチで考えたがすぐにバカバカしくなって止めた。所詮は噂、結局はゲーム・・・。何をしたって彼等に会うことは出来ない。
一気に虚しくなった私は布団の中に潜り込んだ。
現実逃避したくなるのは疲れてるからだ。だから寝て、明日からまた男性陣の攻略を頑張ろう。ベッドに横になると先程まで目が冴えてたのが嘘みたいに瞼がとろんと重くなった。
そして私はそのまま眠りについた・・・・・
筈なのだが。
これは一体、どう言う状況だろうか。
とうとう私はゲームのしすぎで周りの風景までファンタジーにしか見えなくなってしまったのか。
私の知ってるリビングはそこにはなく、辺り一面緑でいっぱいだし、テーブルの上を見るとそこにはお茶ではなく紅茶、白米やおかずは全くなくクッキーが少々皿の上に乗ってる程度だった。
もしかして、朝食ってこれだけ?
流石に女子高生にこれはキツイよ。
もしかして私が太ったと感じてる?自分ではそう感じたことないけど確かに最近、乙女ゲームをプレイしながら夜食をこっそり頂いたりしてたからなぁ~。
腹周りをペタペタと触って確認する私に聞こえてきたのは「お気に召しませんでしたか?」と気遣わしげな女性の声だった。
気に入らないなんてもんじゃないわよ、おかあさ、ん!?
そこに居たのはお母さんではなく、若い女性だった。
えっ、お母さんいつの間に若返ったの?どうしてメイド服なんか来てるの?そんな私の疑問などお構い無しに目の前の人が口にした名は信じられないものだった。
「ど、どうなされたのですか?ミーシャ様。」
えっ、今なんて言ったの?ミーシャ・・・ってそ、そんな筈ない。
「・・・もう一度私の名前を呼んでくれる?」
聞き間違いであってほしいと願いながらもう一度女性に私の名を呼ぶ様に頼んだ。女性はいきなり変なことを言い出す私に戸惑いを見せていたけどたどたどしくも再度私の名を口にした。
「み、ミーシャ様?」
み、ミーシャ~~~!?
ミーシャってあの…?ヒロインを影で虐げ、攻略者達に深い心の傷を負わせ、挙げ句の果てにはヒロインを殺めるために攻略者を利用すると言うあの?
「・・・ミーシャとは、ミーシャ・ロゼメルクの事で合ってる?」
「は、はい。その通りで御座います。」
「貴族の癖に何の能力も持たずに生まれてきたミーシャで良いの?」
「え、えぇ。その事で凄いショックを受けてた事を覚えております。」
嗚呼、本当に私はミーシャ・ロゼメルクになっているらしい。これが良くに言う転生と言う奴か。でも何でだ?私はただ普通に寝てただけと言うのに。
ミーシャ・ロゼメルクと言うのは私がハマってる乙女ゲーム『future Princess』1、2に出て来る悪役令嬢だ。1ではあまり目立たないモブに近しい存在だったけど2では特別な能力を得て、ヒロイン達の前に現れるラスボスみたいな存在になった。そんなミーシャはヒロインとその攻略者達と対峙する立場にあるのだけどどのルートを辿ってもミーシャを待ち受けてるのは死のみである。
そのミーシャになった私は物語の中盤でヒロイン達に敗れ死んでしまうのだ。それだけは絶対に嫌だ。これは国外に逃げた方が良いだろうか。
「今すぐにこの国を出ましょう。」
急に立ち上がって淡々と度外れな事を言う私に紅茶のおかわりを入れようと近付いてきた侍女も扉のところに待機していた衛兵も全員が目を見開いて固まっていた。
変な事を言ってるのは重々承知だ。だけど呑気にお茶を嗜んでる場合ではないのだ。
早くしないと・・・・・。
「アンリが来ちゃう。」
ミーシャには婚約者が居るのだ。その名もアンリ・ヴィーセル。アンリは楽しいことが大好きで自由を奪われる事が何よりも嫌いなヒロインの第一攻略対象者だ。ミーシャとの婚約は親に言われて仕方無くであり、アンリはミーシャと婚約破棄出来る機会をいつだって伺っていた。でもどんなに仕方無くであろうと婚約中の間は毎日顔を合わせる事が条件だ。だから今日もきっと、此処に現れるに違いない。その前に一刻も早く此処から逃げなければ。
だけど私は気付いてなかったのだ。自分がとんでもない事を口走った事と、この場全体に緊迫した空気が流れた事を。
「・・・ほぅ。そんなに慌てて、そこまでして僕との婚約が嫌だったのですか?」
先程まで聞こえなかった声が突如して、私はロボットの様にぎこちなく後ろを振り返った。
綺麗な銀髪、お空の様に美しい瞳。その姿に会うのは初めてな筈だが全くそう感じられない。だって、間違い様がないもの。
「アンリ、様ですか?」
「・・・えぇ。先程も御挨拶をした筈ですが、もう忘れたのですか?」
私の向かいの席には椅子に座って優雅に紅茶を飲んでるアンリ(7歳)が居た。
なんで…?何時から居たの?全く気配を感じられなかった。
ちらりと横に居る侍女に説明を求む視線を送るが平謝りされてしまって何も言えなくなってしまった。
「・・・そんなに嫌なら僕との婚約を受けなくても良かったんではありませんか?」
アンリは微笑んでるが眉は微かに吊り上がってることもあって不機嫌である事がすぐに分かった。
「・・・まぁ、僕も別に婚約など興味がないのですよ。婚約などしてしまえば僕の自由が奪われる。僕は自由で居たいのです。」
アンリは王子のプライドがあるのか、自分が傷付かない様にあくまで自分は暇潰し程度と言うアピールをして来た。貴方、現実世界なら絶対にモテませんよ?ゲームの世界だから人気だけど。私も貴方の事は好きだけど恋愛としてはお断りだわ。
「でも貴女も御令嬢ならいつかは通らなくてはならない道だと思うんです。貴女がどうしてもと言うのであれば僕がそのお相手になって差し上げますよ?」
出た。プライドが高い王子の技、その名も『相手に選択権を与えてる様で自分の手のひらで転がす』作戦。アンリはその作戦が効いてるかと思ったのか私を見てにやにやと笑っていた。
嗚呼、何でだろう。ゲームをプレイしてた時はその言葉にキュンキュンしてたけど実際言われると何も感じられないわね。
てか、なんでそんな言葉をミーシャになんか言ってるの。その言葉はヒロインに言うべき言葉じゃない?
でもアンリの言う通り、例えここでアンリとの婚約を断ってもすぐに他の男性を連れて来られる事間違い無しだ。でもアンリと一緒に居ればいつかは破滅する。
ふむ。ならどうするべきか。
A、何としてでも他の国に逃げる
B、一旦、破滅の事は忘れてアンリと婚約する
・・・よし、決めた。C!!
「申し訳御座いません。やはりアンリ様と御婚約する事は私には無理です。アンリ様も言った様に、私も何かに縛られることなく自由で居たいのです。」
「・・・成る程。僕と同じ意見と言う事ですか。・・・一応聞きますが、僕では貴女を幸せにする事は出来ませんか?」
嗚呼、それ聞くんだ。らしくもなく不安そうな顔をしちゃって。その姿がとても愛らしくて口元が緩みそうになるのを必死に隠して『そうですね』と続けた。
「貴方と婚約したら何かとうるさそうですし、私がする事にも一々口を出してきそうだし、プライドが高い癖に何かと空回りする姿を毎回拝むのも辛いですし、」
指を一本ずつ折り込んでアンリのここが面倒くさそうだなと思うところを適当に並べてみると意外とスラスラと出て来るものだから不思議だ。
最初は-うぐっ!-とか、-ぐはっ!-とかまるで戦闘で攻撃を食らったかの様な声を上げていたアンリだったが、途中から何も喋らなくなったアンリが気になって顔をあげてみるとアンリはテーブルにうつ伏せになって白目を剥いたまま気絶していた。
・・・私は何かいけない事でも言っただろうか。私はアンリの質問に答えただけなのに。
取り敢えずその顔は貴族がするものじゃないし、アンリファンの子がショックを受けるから早急に直して欲しいものだ。
「ハハッ…良く知ったような口を聞けますね。何ですか?僕のプライドをズタズタにして笑ってるんですか?だとしたらとんだ悪女ですね。」
アンリは力無く笑いながら起き上がった。
知った口も何も3までしてるから詳しいよ。
まぁ、悪女なのも本当だしね。
・・・でもまだ私の話は終わってないんだけど。
人の話を最後まで聞かないってのも入れとこうかな。
「・・・はぁ…。確かに性格には難ありですが私、大好きなんです。」
「えっ、」
1からずっと大好きだった。いつか会えたら良いなと思っていた。だけど所詮はゲームだから諦めてたの。でも、そんな彼が目の前に居る。私、もう我慢しなくても良いんだよね?
「私、ずっと大好きだったんです・・・・・貴方の顔が。」
「・・・・・はい?」
キリッとした水色の瞳、スッとしたお鼻、女性の様に柔らかそうな唇…全てが私の理想を叶えてるくらい完璧だった。
「えっ、と…貴女は何が言いたいのでしょう。」
はぁ。こんなに言っても私の言ってることか通じないなんて。
「だから、貴方の事が好きだから側で鑑賞させてくださいと言ってるんです!」
そうハッキリと告げた瞬間、周りがざわざわとしだした。だけど私にはちっとも関係ないし今はアンリの返事を聞く方が大事だ。
「・・・益々分からなくなったんですが。」
「分からなくても良いですから、はいか、はいで答えてください!」
「それはどちらも同じ意味…」
さっきからぼそぼそとしょうもない事しか言わないアンリに『ん?』とこの顔で出来るだけの笑顔を浮べればアンリから出たのは小さな悲鳴だった。
「もう一度聞きます。鑑賞用として私の側に居てください」
今なら魔法を出せそうな気がする。それを感じ取ったのかアンリは小さく震えながら力強く何度も頷いてみせた。
「・・・これからよろしくお願い致しますね、アンリ様。」
「は、はい…こちらこそ。」
手を差し出したらアンリは力無く私の手を握り締めた。それがとても愛しく感じた。
因みに私とアンリの会話を遠くから見ていた侍女達が物凄く引いていた気がするがそんなの気にしない、反省なんかしない。
「ごめんなさい。私、恋愛に興味がないの。」
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私はとあるパッケージを取り出して人知れずムフフと微笑む。
学園では感情をあまり表に出す事が不可能なクールキャラの私だが、このゲームをしてる時だけいつもより表情筋が仕事してる気がする。
私がハマってるのは四人の攻略対象者とヒロインの成長を描く乙女ゲームだ。最初はヒロインの事が気に入らなかった攻略対象者達だがヒロインの明るさと優しさに救われ、次第に打ち解けると言うなんともテンプレなストーリーだがこの作品、既にこれで3シリーズ目だ。きっと人気の理由は物語の鍵を握ってる攻略対象者を始めとした男性陣にあるのだと私は推測している。
性格が異なる攻略者達は本当に全員が美しく描かれていて魅力的なのだ。その姿を一度見た者は彼らを忘れられなくなり、この作品にどっぷりとハマる事間違い無しだ。最近では彼らにガチ恋する人達が現れたらしい。
私は彼等にガチで恋してるわけではないけど一回くらいは彼等と関わりたい。あの低音で落ち着く声で名前を呼んで貰いたい。あの宝石の様に綺麗な瞳で私の事を写してほしい。彼らの側に仕えて一生彼らを守っていきたい。
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一回、馬鹿にも転生を考えた事がある。本当に転生と言うものがあるのかと一時間くらいガチで考えたがすぐにバカバカしくなって止めた。所詮は噂、結局はゲーム・・・。何をしたって彼等に会うことは出来ない。
一気に虚しくなった私は布団の中に潜り込んだ。
現実逃避したくなるのは疲れてるからだ。だから寝て、明日からまた男性陣の攻略を頑張ろう。ベッドに横になると先程まで目が冴えてたのが嘘みたいに瞼がとろんと重くなった。
そして私はそのまま眠りについた・・・・・
筈なのだが。
これは一体、どう言う状況だろうか。
とうとう私はゲームのしすぎで周りの風景までファンタジーにしか見えなくなってしまったのか。
私の知ってるリビングはそこにはなく、辺り一面緑でいっぱいだし、テーブルの上を見るとそこにはお茶ではなく紅茶、白米やおかずは全くなくクッキーが少々皿の上に乗ってる程度だった。
もしかして、朝食ってこれだけ?
流石に女子高生にこれはキツイよ。
もしかして私が太ったと感じてる?自分ではそう感じたことないけど確かに最近、乙女ゲームをプレイしながら夜食をこっそり頂いたりしてたからなぁ~。
腹周りをペタペタと触って確認する私に聞こえてきたのは「お気に召しませんでしたか?」と気遣わしげな女性の声だった。
気に入らないなんてもんじゃないわよ、おかあさ、ん!?
そこに居たのはお母さんではなく、若い女性だった。
えっ、お母さんいつの間に若返ったの?どうしてメイド服なんか来てるの?そんな私の疑問などお構い無しに目の前の人が口にした名は信じられないものだった。
「ど、どうなされたのですか?ミーシャ様。」
えっ、今なんて言ったの?ミーシャ・・・ってそ、そんな筈ない。
「・・・もう一度私の名前を呼んでくれる?」
聞き間違いであってほしいと願いながらもう一度女性に私の名を呼ぶ様に頼んだ。女性はいきなり変なことを言い出す私に戸惑いを見せていたけどたどたどしくも再度私の名を口にした。
「み、ミーシャ様?」
み、ミーシャ~~~!?
ミーシャってあの…?ヒロインを影で虐げ、攻略者達に深い心の傷を負わせ、挙げ句の果てにはヒロインを殺めるために攻略者を利用すると言うあの?
「・・・ミーシャとは、ミーシャ・ロゼメルクの事で合ってる?」
「は、はい。その通りで御座います。」
「貴族の癖に何の能力も持たずに生まれてきたミーシャで良いの?」
「え、えぇ。その事で凄いショックを受けてた事を覚えております。」
嗚呼、本当に私はミーシャ・ロゼメルクになっているらしい。これが良くに言う転生と言う奴か。でも何でだ?私はただ普通に寝てただけと言うのに。
ミーシャ・ロゼメルクと言うのは私がハマってる乙女ゲーム『future Princess』1、2に出て来る悪役令嬢だ。1ではあまり目立たないモブに近しい存在だったけど2では特別な能力を得て、ヒロイン達の前に現れるラスボスみたいな存在になった。そんなミーシャはヒロインとその攻略者達と対峙する立場にあるのだけどどのルートを辿ってもミーシャを待ち受けてるのは死のみである。
そのミーシャになった私は物語の中盤でヒロイン達に敗れ死んでしまうのだ。それだけは絶対に嫌だ。これは国外に逃げた方が良いだろうか。
「今すぐにこの国を出ましょう。」
急に立ち上がって淡々と度外れな事を言う私に紅茶のおかわりを入れようと近付いてきた侍女も扉のところに待機していた衛兵も全員が目を見開いて固まっていた。
変な事を言ってるのは重々承知だ。だけど呑気にお茶を嗜んでる場合ではないのだ。
早くしないと・・・・・。
「アンリが来ちゃう。」
ミーシャには婚約者が居るのだ。その名もアンリ・ヴィーセル。アンリは楽しいことが大好きで自由を奪われる事が何よりも嫌いなヒロインの第一攻略対象者だ。ミーシャとの婚約は親に言われて仕方無くであり、アンリはミーシャと婚約破棄出来る機会をいつだって伺っていた。でもどんなに仕方無くであろうと婚約中の間は毎日顔を合わせる事が条件だ。だから今日もきっと、此処に現れるに違いない。その前に一刻も早く此処から逃げなければ。
だけど私は気付いてなかったのだ。自分がとんでもない事を口走った事と、この場全体に緊迫した空気が流れた事を。
「・・・ほぅ。そんなに慌てて、そこまでして僕との婚約が嫌だったのですか?」
先程まで聞こえなかった声が突如して、私はロボットの様にぎこちなく後ろを振り返った。
綺麗な銀髪、お空の様に美しい瞳。その姿に会うのは初めてな筈だが全くそう感じられない。だって、間違い様がないもの。
「アンリ、様ですか?」
「・・・えぇ。先程も御挨拶をした筈ですが、もう忘れたのですか?」
私の向かいの席には椅子に座って優雅に紅茶を飲んでるアンリ(7歳)が居た。
なんで…?何時から居たの?全く気配を感じられなかった。
ちらりと横に居る侍女に説明を求む視線を送るが平謝りされてしまって何も言えなくなってしまった。
「・・・そんなに嫌なら僕との婚約を受けなくても良かったんではありませんか?」
アンリは微笑んでるが眉は微かに吊り上がってることもあって不機嫌である事がすぐに分かった。
「・・・まぁ、僕も別に婚約など興味がないのですよ。婚約などしてしまえば僕の自由が奪われる。僕は自由で居たいのです。」
アンリは王子のプライドがあるのか、自分が傷付かない様にあくまで自分は暇潰し程度と言うアピールをして来た。貴方、現実世界なら絶対にモテませんよ?ゲームの世界だから人気だけど。私も貴方の事は好きだけど恋愛としてはお断りだわ。
「でも貴女も御令嬢ならいつかは通らなくてはならない道だと思うんです。貴女がどうしてもと言うのであれば僕がそのお相手になって差し上げますよ?」
出た。プライドが高い王子の技、その名も『相手に選択権を与えてる様で自分の手のひらで転がす』作戦。アンリはその作戦が効いてるかと思ったのか私を見てにやにやと笑っていた。
嗚呼、何でだろう。ゲームをプレイしてた時はその言葉にキュンキュンしてたけど実際言われると何も感じられないわね。
てか、なんでそんな言葉をミーシャになんか言ってるの。その言葉はヒロインに言うべき言葉じゃない?
でもアンリの言う通り、例えここでアンリとの婚約を断ってもすぐに他の男性を連れて来られる事間違い無しだ。でもアンリと一緒に居ればいつかは破滅する。
ふむ。ならどうするべきか。
A、何としてでも他の国に逃げる
B、一旦、破滅の事は忘れてアンリと婚約する
・・・よし、決めた。C!!
「申し訳御座いません。やはりアンリ様と御婚約する事は私には無理です。アンリ様も言った様に、私も何かに縛られることなく自由で居たいのです。」
「・・・成る程。僕と同じ意見と言う事ですか。・・・一応聞きますが、僕では貴女を幸せにする事は出来ませんか?」
嗚呼、それ聞くんだ。らしくもなく不安そうな顔をしちゃって。その姿がとても愛らしくて口元が緩みそうになるのを必死に隠して『そうですね』と続けた。
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最初は-うぐっ!-とか、-ぐはっ!-とかまるで戦闘で攻撃を食らったかの様な声を上げていたアンリだったが、途中から何も喋らなくなったアンリが気になって顔をあげてみるとアンリはテーブルにうつ伏せになって白目を剥いたまま気絶していた。
・・・私は何かいけない事でも言っただろうか。私はアンリの質問に答えただけなのに。
取り敢えずその顔は貴族がするものじゃないし、アンリファンの子がショックを受けるから早急に直して欲しいものだ。
「ハハッ…良く知ったような口を聞けますね。何ですか?僕のプライドをズタズタにして笑ってるんですか?だとしたらとんだ悪女ですね。」
アンリは力無く笑いながら起き上がった。
知った口も何も3までしてるから詳しいよ。
まぁ、悪女なのも本当だしね。
・・・でもまだ私の話は終わってないんだけど。
人の話を最後まで聞かないってのも入れとこうかな。
「・・・はぁ…。確かに性格には難ありですが私、大好きなんです。」
「えっ、」
1からずっと大好きだった。いつか会えたら良いなと思っていた。だけど所詮はゲームだから諦めてたの。でも、そんな彼が目の前に居る。私、もう我慢しなくても良いんだよね?
「私、ずっと大好きだったんです・・・・・貴方の顔が。」
「・・・・・はい?」
キリッとした水色の瞳、スッとしたお鼻、女性の様に柔らかそうな唇…全てが私の理想を叶えてるくらい完璧だった。
「えっ、と…貴女は何が言いたいのでしょう。」
はぁ。こんなに言っても私の言ってることか通じないなんて。
「だから、貴方の事が好きだから側で鑑賞させてくださいと言ってるんです!」
そうハッキリと告げた瞬間、周りがざわざわとしだした。だけど私にはちっとも関係ないし今はアンリの返事を聞く方が大事だ。
「・・・益々分からなくなったんですが。」
「分からなくても良いですから、はいか、はいで答えてください!」
「それはどちらも同じ意味…」
さっきからぼそぼそとしょうもない事しか言わないアンリに『ん?』とこの顔で出来るだけの笑顔を浮べればアンリから出たのは小さな悲鳴だった。
「もう一度聞きます。鑑賞用として私の側に居てください」
今なら魔法を出せそうな気がする。それを感じ取ったのかアンリは小さく震えながら力強く何度も頷いてみせた。
「・・・これからよろしくお願い致しますね、アンリ様。」
「は、はい…こちらこそ。」
手を差し出したらアンリは力無く私の手を握り締めた。それがとても愛しく感じた。
因みに私とアンリの会話を遠くから見ていた侍女達が物凄く引いていた気がするがそんなの気にしない、反省なんかしない。
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