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第2部
判決
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一夜明け、裁判所にはまた民衆が詰め掛けた。いよいよ判決が出るのだ。傍聴席に座る権利はまたも抽選となり、長蛇の列が成されていた。
その群衆の中を、一際目立つ一団が進んでいる。
4人の兵士を従えている男が帝国軍軍医長のバルトリス・ロドスである事は周知の事実だ。傍観者の興味を引いたのは彼ではなく、その半歩先を行く青年であった。
プラチナブロンドの髪が朝陽に煌めくその青年の衣服には、皇族の紋章が刺繍されていた。あれは誰だと囁き好奇の目を向けられながら、その青年は抽選をする事なくバルトリスらと共に裁判所へ入った。
「ロドス」
「は」
傍聴席に腰を下ろした青年にバルトリスが応じる。
「いかがされました」
「……正直に言う」
「は?」
「俺は、ラヴォルの姿を目にして取り乱さない自信がない」
万一法廷に乗り込みそうになったら止めてくれ。
そう呟いた青年──セドルアを、バルトリスは信じられない気持ちで眺めた。
リューシの関連でここ暫く接していてわかったが、この第2皇子はとにかく感情を表に出さない。アメジストの瞳を見ても何を考えているのか読み取れないのだ。バルトリスには自分の感情に蓋をして生きているように見えた。そういう部分がどこかリューシに似ている気がする。
そんな人間が、取り乱すかも知れないと言っている。初対面の時から目立った感情の機敏のなかったこの男が、自分で感情を抑えられないかも知れないと。
彼にとって、リューシ・ラヴォルの存在はそこまで大きなものだったのだろうか。リューシを見る目が普通でない事には薄々感付いていたが、その心の内はどこまでも読めない。
いつもの無表情を心持ち張り詰めさせて法廷を見据えるセドルアに「善処しましょう」と答え、バルトリスは視線を戻した。
そろそろかと無意識に姿勢を正した時、裁判官らが入場した。裁判長の手にはくるりと丸めた文書が握られている。あれに裁判の結果が記されているのだ。
続いて昨日と同じように反対側の扉が開き、看守に連れられたリューシが入場する。その瞬間、隣でガタリと音がした。
「ラヴォル……!」
顔を向ければ、セドルアが立ち上がっていた。柵を砕かんばかりに握り締め、指先が白く色を失っている。
「あれが、本当にラヴォルなのか……!?」
昨日、バルトリスの話を聞いたセドルアは「そうか」と唸るように言った。判決が出されるようになってから軟禁を解かれ、彼は傍聴席に入る事を望んだ。
リューシの牢での惨状は、噂が出回って耳に入るのも時間の問題であると知りながらコリネリら部下には伏せていた。彼らには事実であると認識して欲しくなかった。察しのいい彼らは噂を聞く前に気付いているかも知れないが、それでも言えなかった。
だがこの第2皇子には、伝えねばならないと思った。
感情はどうにもわからないが、自分と同じ何かを抱えていると本能的に悟った。恐らくそれはリューシが関係している。わかったのはそこまでだ。自分も何なのかわからない。故に、確信が持てるわけではない。
それでも彼に事実を伝えようと思い至ったのは、そのリューシを見つめるアメジストがあまりに真剣だったからだ。特別な感情を抱いているのかどうかは知らないが、一種の執着すら見えるそれには唯一彼の感情を実感した。
無感動な皇子が関心を持つただ一人の人間。その男がこのような痛ましい状態で目の前にいる。動揺するのも無理はない。
しかし、リューシがそこまで彼の奥深くに入り込んでいるとは思いもよらなかった。
「殿下」
肩を引けば、目だけは食い入るようにリューシを見ながら腰を下ろす。
アメジストは鈍く輝いていた。
「判決──」
リューシが証言台に立つと同時に中央の裁判長が判決文を読み上げ始める。ざわついていた傍聴席が水を打ったように鎮まり、肌がひりつく程の緊張した空気が支配した。
「主文」
裁判長の持つ文書がカサリと乾いた音を立てる。それが広い法廷にやけに大きく響く。
いよいよだ。いよいよ皇妃の運命が決定される。
傍聴人皆が言一句を聞き漏らすまいと耳を澄ませた。ある種歴史的なこの瞬間を脳裏に焼き付けようと、それに居合わせるという、くじで勝ち取った特権を余すことなく味わおうと、全神経をこれから裁判長の発する言葉に集中させた。
裁判長が息を吸い込む。
「被告人……」
不自然な位置で言葉を区切った。
やはり不自然な咳払いをし、続ける。
「被告人を──
死刑に処する」
恐ろしい沈黙が訪れた。
鎮まり返るという表現が不適切である程の無音であった。誰の呼吸音もない、死んだような時が流れた。判決文を読み上げた裁判長本人ですら、生きる事を忘れたように静止した。
時間が止まったのではない。この場にいる全ての人間という人間が止まった。
その中で、ただリューシだけが、ぼんやりと変わらない様子で宙を見ていた。
◇◇◇
裁判所を後にする一行の表情には、一様に絶望が現れていた。泣く事も出来ず、夢の中を歩くような感覚であった。
「なぜ……」
ノットの呟きに皆が立ち止まって振り向く。
「……なぜ来なかった」
「何だと?」
脈絡のない問いにバルトリスが聞き返すと、彼はそれには答えず、やにわにセドルアの胸倉を掴んだ。「おい」と声を上げ止めようとするバルトリスの手を振り払い、ノットは喚くように訴えた。
「なぜ裁判に来なかった!! なぜ証言台に立たなかった!!」
灰色の瞳を暗く沈ませながら、しかし、ぎらつかせながら責める。
「やめろノット」
「あんたが証言していれば、こんな事にはならなかった!!」
「ノット」
「あんたさえ証人になっていれば隊長は無罪になれた!!」
「ノット、もういい」
「死刑になんてならずに済んだんだ!!」
「ノット!」
バルトリスの怒鳴り声が響く。だが、その声には怒気ではなく、懇願が含まれていた。もうこれ以上言ってくれるなと、無意味な仮定を並べ立てても虚しいだけだと。
セドルアから力ずくで引き離されたノットは血が滲む程に唇を噛んだ。静かなアメジストから目を逸らす。わかっている。第2皇子を非難するのは見当違いだ。裁判の間中軟禁され、来ようにも来れなかった事情も聞いて知っている。彼に責任はない。
しかし、それなら、
──これは、誰にぶつければいい?
憎い皇帝はここにいない。皇后もいない。行き場を失ったものはどこに向ければいいというのだ。
一体自分はどうすればよかったのだろう。 裁判の一つも動かせないちっぽけな人間が、何をすれば変わっていたのだろう。
「ちくしょう……! わかんねぇよ……っ!!」
言っただろう、とコリネリがノットの肩を掴んで言う。
「え……?」
何を。ノットは彼を困惑顔で見返した。
「最初から誰か1人に何とかして貰うつもりじゃないって──俺たちがいるってな」
そうだ。確かにそんな事を口にしていた。しかし、自分たちに何が出来るというのだ。
「何か策があるのか」
それまで黙していたセドルアが目を細める。一同から期待の目を向けられたコリネリはいいえとかぶりを振ったが、力強く答えた。
「ですが、まだ刑の執行まで時間があります。その間に何か出来るのではないでしょうか」
何か──それは何だ。今から何が出来る。
皆が考え込み始める中、リーンがおずおずと発言する。
「あの……その何かにアテがないからどうしようもないのでは?」
「じゃあお前は隊長がこのまま死刑になってもいいってのか!」
「落ち着けノット」
今にもリーンに掴みかかりそうなノットを制し、レイドが言う。
「判決から刑の執行までは1週間。その間死刑囚は独房に入れられ、監獄はおよそ50人の看守が交代で24時間見張りに付いている。外には警備の者が十数名」
「何が言いたい」
バルトリスが怪訝そうに尋ねると、彼は「極めて厳しい条件ですが、」と前置き明瞭な語調で言った。
「我々第1部隊なら、隊長を奪還出来ます」
「何……!?」
囚人を奪還する。それは明らかな国家に対する反逆である。全員死刑という事にもなりかねない。
「お前、本気で言ってるのか」
とんでもない提案に唖然とするバルトリスに、レイドは深く頷いた。
「俺の粗末な頭では、その程度の策しか思いつきません。他の方法がなければそれを実行します」
「もっとも、俺1人では不可能ですが」とコリネリらを見やれば、真っ先にノットが頷く。
「俺は賛成だ」
少し言葉を探し、続ける。
「失敗して死んでも悔いはない。何もせずに隊長が死刑になるくらいなら、もがいてから一緒に死刑になる方がいい」
「ノット……」
その直ぐ後に「僕も、」とリーンにしては珍しいきっぱりした声が上がった。
「──僕も、賛成です。この1週間を無意味に過ごしても何も変わらない。きっと、そういうのは……一生後悔すると思います」
僕は後悔したくない。そう締め括り、唇を一文字に引き結んだ。
「……と、部下達は言っていますが、他の案はありますか」
コリネリの問いにバルトリスは眉間の皺を深め、提案者のレイドを筆頭に若い3人はそれをじっと見据えた。
彼らの気持ちはよくわかる。バルトリスとてそれは同じだ。今直ぐにでもあの監獄からリューシを奪いたい。しかし、もっと他に確実な方法はないか。
「ロドス」
いよいよ答えが見えなくなってきた時、腕を組んで考え込んでいたセドルアが鋭く呼び掛けた。一行唯一の皇族の発言に緊張が走る。バルトリスが答える前に、彼は静かに述べた。
「“移魂再生術”というものを昔聞いた事がある」
「いこん、さいせいじゅつ……?」
耳慣れない言葉にバルトリスは首を捻る。コリネリらも知らないらしく、互いに顔を見合わせた。
その様子をゆっくりと見回し、セドルアは言う。
「著しく破損した肉体から魂を抜き取り、別の“肉体”に移し替えるという魔術だ。それを応用すればラヴォルを救い出せるかも知れない」
「誰がそれを出来るんです?」
バルトリスが尋ねると、セドルアのアメジストがきらりと陽の光を受けて輝いた。
「移魂再生術の使い手はこの世にたった1人──大賢者モルス」
その群衆の中を、一際目立つ一団が進んでいる。
4人の兵士を従えている男が帝国軍軍医長のバルトリス・ロドスである事は周知の事実だ。傍観者の興味を引いたのは彼ではなく、その半歩先を行く青年であった。
プラチナブロンドの髪が朝陽に煌めくその青年の衣服には、皇族の紋章が刺繍されていた。あれは誰だと囁き好奇の目を向けられながら、その青年は抽選をする事なくバルトリスらと共に裁判所へ入った。
「ロドス」
「は」
傍聴席に腰を下ろした青年にバルトリスが応じる。
「いかがされました」
「……正直に言う」
「は?」
「俺は、ラヴォルの姿を目にして取り乱さない自信がない」
万一法廷に乗り込みそうになったら止めてくれ。
そう呟いた青年──セドルアを、バルトリスは信じられない気持ちで眺めた。
リューシの関連でここ暫く接していてわかったが、この第2皇子はとにかく感情を表に出さない。アメジストの瞳を見ても何を考えているのか読み取れないのだ。バルトリスには自分の感情に蓋をして生きているように見えた。そういう部分がどこかリューシに似ている気がする。
そんな人間が、取り乱すかも知れないと言っている。初対面の時から目立った感情の機敏のなかったこの男が、自分で感情を抑えられないかも知れないと。
彼にとって、リューシ・ラヴォルの存在はそこまで大きなものだったのだろうか。リューシを見る目が普通でない事には薄々感付いていたが、その心の内はどこまでも読めない。
いつもの無表情を心持ち張り詰めさせて法廷を見据えるセドルアに「善処しましょう」と答え、バルトリスは視線を戻した。
そろそろかと無意識に姿勢を正した時、裁判官らが入場した。裁判長の手にはくるりと丸めた文書が握られている。あれに裁判の結果が記されているのだ。
続いて昨日と同じように反対側の扉が開き、看守に連れられたリューシが入場する。その瞬間、隣でガタリと音がした。
「ラヴォル……!」
顔を向ければ、セドルアが立ち上がっていた。柵を砕かんばかりに握り締め、指先が白く色を失っている。
「あれが、本当にラヴォルなのか……!?」
昨日、バルトリスの話を聞いたセドルアは「そうか」と唸るように言った。判決が出されるようになってから軟禁を解かれ、彼は傍聴席に入る事を望んだ。
リューシの牢での惨状は、噂が出回って耳に入るのも時間の問題であると知りながらコリネリら部下には伏せていた。彼らには事実であると認識して欲しくなかった。察しのいい彼らは噂を聞く前に気付いているかも知れないが、それでも言えなかった。
だがこの第2皇子には、伝えねばならないと思った。
感情はどうにもわからないが、自分と同じ何かを抱えていると本能的に悟った。恐らくそれはリューシが関係している。わかったのはそこまでだ。自分も何なのかわからない。故に、確信が持てるわけではない。
それでも彼に事実を伝えようと思い至ったのは、そのリューシを見つめるアメジストがあまりに真剣だったからだ。特別な感情を抱いているのかどうかは知らないが、一種の執着すら見えるそれには唯一彼の感情を実感した。
無感動な皇子が関心を持つただ一人の人間。その男がこのような痛ましい状態で目の前にいる。動揺するのも無理はない。
しかし、リューシがそこまで彼の奥深くに入り込んでいるとは思いもよらなかった。
「殿下」
肩を引けば、目だけは食い入るようにリューシを見ながら腰を下ろす。
アメジストは鈍く輝いていた。
「判決──」
リューシが証言台に立つと同時に中央の裁判長が判決文を読み上げ始める。ざわついていた傍聴席が水を打ったように鎮まり、肌がひりつく程の緊張した空気が支配した。
「主文」
裁判長の持つ文書がカサリと乾いた音を立てる。それが広い法廷にやけに大きく響く。
いよいよだ。いよいよ皇妃の運命が決定される。
傍聴人皆が言一句を聞き漏らすまいと耳を澄ませた。ある種歴史的なこの瞬間を脳裏に焼き付けようと、それに居合わせるという、くじで勝ち取った特権を余すことなく味わおうと、全神経をこれから裁判長の発する言葉に集中させた。
裁判長が息を吸い込む。
「被告人……」
不自然な位置で言葉を区切った。
やはり不自然な咳払いをし、続ける。
「被告人を──
死刑に処する」
恐ろしい沈黙が訪れた。
鎮まり返るという表現が不適切である程の無音であった。誰の呼吸音もない、死んだような時が流れた。判決文を読み上げた裁判長本人ですら、生きる事を忘れたように静止した。
時間が止まったのではない。この場にいる全ての人間という人間が止まった。
その中で、ただリューシだけが、ぼんやりと変わらない様子で宙を見ていた。
◇◇◇
裁判所を後にする一行の表情には、一様に絶望が現れていた。泣く事も出来ず、夢の中を歩くような感覚であった。
「なぜ……」
ノットの呟きに皆が立ち止まって振り向く。
「……なぜ来なかった」
「何だと?」
脈絡のない問いにバルトリスが聞き返すと、彼はそれには答えず、やにわにセドルアの胸倉を掴んだ。「おい」と声を上げ止めようとするバルトリスの手を振り払い、ノットは喚くように訴えた。
「なぜ裁判に来なかった!! なぜ証言台に立たなかった!!」
灰色の瞳を暗く沈ませながら、しかし、ぎらつかせながら責める。
「やめろノット」
「あんたが証言していれば、こんな事にはならなかった!!」
「ノット」
「あんたさえ証人になっていれば隊長は無罪になれた!!」
「ノット、もういい」
「死刑になんてならずに済んだんだ!!」
「ノット!」
バルトリスの怒鳴り声が響く。だが、その声には怒気ではなく、懇願が含まれていた。もうこれ以上言ってくれるなと、無意味な仮定を並べ立てても虚しいだけだと。
セドルアから力ずくで引き離されたノットは血が滲む程に唇を噛んだ。静かなアメジストから目を逸らす。わかっている。第2皇子を非難するのは見当違いだ。裁判の間中軟禁され、来ようにも来れなかった事情も聞いて知っている。彼に責任はない。
しかし、それなら、
──これは、誰にぶつければいい?
憎い皇帝はここにいない。皇后もいない。行き場を失ったものはどこに向ければいいというのだ。
一体自分はどうすればよかったのだろう。 裁判の一つも動かせないちっぽけな人間が、何をすれば変わっていたのだろう。
「ちくしょう……! わかんねぇよ……っ!!」
言っただろう、とコリネリがノットの肩を掴んで言う。
「え……?」
何を。ノットは彼を困惑顔で見返した。
「最初から誰か1人に何とかして貰うつもりじゃないって──俺たちがいるってな」
そうだ。確かにそんな事を口にしていた。しかし、自分たちに何が出来るというのだ。
「何か策があるのか」
それまで黙していたセドルアが目を細める。一同から期待の目を向けられたコリネリはいいえとかぶりを振ったが、力強く答えた。
「ですが、まだ刑の執行まで時間があります。その間に何か出来るのではないでしょうか」
何か──それは何だ。今から何が出来る。
皆が考え込み始める中、リーンがおずおずと発言する。
「あの……その何かにアテがないからどうしようもないのでは?」
「じゃあお前は隊長がこのまま死刑になってもいいってのか!」
「落ち着けノット」
今にもリーンに掴みかかりそうなノットを制し、レイドが言う。
「判決から刑の執行までは1週間。その間死刑囚は独房に入れられ、監獄はおよそ50人の看守が交代で24時間見張りに付いている。外には警備の者が十数名」
「何が言いたい」
バルトリスが怪訝そうに尋ねると、彼は「極めて厳しい条件ですが、」と前置き明瞭な語調で言った。
「我々第1部隊なら、隊長を奪還出来ます」
「何……!?」
囚人を奪還する。それは明らかな国家に対する反逆である。全員死刑という事にもなりかねない。
「お前、本気で言ってるのか」
とんでもない提案に唖然とするバルトリスに、レイドは深く頷いた。
「俺の粗末な頭では、その程度の策しか思いつきません。他の方法がなければそれを実行します」
「もっとも、俺1人では不可能ですが」とコリネリらを見やれば、真っ先にノットが頷く。
「俺は賛成だ」
少し言葉を探し、続ける。
「失敗して死んでも悔いはない。何もせずに隊長が死刑になるくらいなら、もがいてから一緒に死刑になる方がいい」
「ノット……」
その直ぐ後に「僕も、」とリーンにしては珍しいきっぱりした声が上がった。
「──僕も、賛成です。この1週間を無意味に過ごしても何も変わらない。きっと、そういうのは……一生後悔すると思います」
僕は後悔したくない。そう締め括り、唇を一文字に引き結んだ。
「……と、部下達は言っていますが、他の案はありますか」
コリネリの問いにバルトリスは眉間の皺を深め、提案者のレイドを筆頭に若い3人はそれをじっと見据えた。
彼らの気持ちはよくわかる。バルトリスとてそれは同じだ。今直ぐにでもあの監獄からリューシを奪いたい。しかし、もっと他に確実な方法はないか。
「ロドス」
いよいよ答えが見えなくなってきた時、腕を組んで考え込んでいたセドルアが鋭く呼び掛けた。一行唯一の皇族の発言に緊張が走る。バルトリスが答える前に、彼は静かに述べた。
「“移魂再生術”というものを昔聞いた事がある」
「いこん、さいせいじゅつ……?」
耳慣れない言葉にバルトリスは首を捻る。コリネリらも知らないらしく、互いに顔を見合わせた。
その様子をゆっくりと見回し、セドルアは言う。
「著しく破損した肉体から魂を抜き取り、別の“肉体”に移し替えるという魔術だ。それを応用すればラヴォルを救い出せるかも知れない」
「誰がそれを出来るんです?」
バルトリスが尋ねると、セドルアのアメジストがきらりと陽の光を受けて輝いた。
「移魂再生術の使い手はこの世にたった1人──大賢者モルス」
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