上 下
12 / 14

希望通りに進んで……

しおりを挟む
われは諦めが悪い」

 耳元で、そう囁かれました。
 イタズラっぽく笑うオトフリート殿下を睨んだ私の目に入ったのは、周りの生暖かい目。

 やられましたわ!

 皆様、さっき殿下が「自分の婚姻は国を背負うのだ」と仰ったのを、もうお忘れ?
 愛だ恋だで結婚なさらないのが皇太子殿下ですわ!

 ハッとして手を後ろに隠す私を、クックッと殿下が笑います。

ひざまづかせてはくれぬのだな。これだからそなたとのやり取りは面白い」

 このような場面で求婚されれば、断るにも断れませんもの。やっとクプスリスト殿下と婚約破棄できそうですのに。

「まっ、まだクプスリスト殿下の婚約者ですから」

「ふふ、そうだな」

 慌てて言うと、軽く同意されました。


 お父様の元へエスコートされながら戻ったら……。
 お父様? なぜそんな面白そうな顔をしておりますの?

「公爵、なかなか手強い姫だ」

「私の母に似ておりますゆえ」

「王女殿下だった方か。我が道を往く。羨ましいのぅ……」

 遠い目をして呟いた殿下が、少しおかわいそうになりました。なにより自由を求めているのは、この方かもしれません。

「ロランダ、ヤアが富むのを我は楽しみにしておる」

 少し寂しそうに微笑んだ殿下に、私の心がチクリとしました。



◆◇◆◇◆◇◆◇


 卒業パーティーも終わり、クプスリスト殿下との正式な婚約破棄も済みました。

 皇帝陛下と皇妃殿下がかなり反対されましたが、私の望みでもあることと、オトフリート殿下の口添えで、なんとか承諾をいただきました。
 クプスリスト殿下はクラウディア様が卒業するまでに、皇家の執務全てを覚えるのが条件ですわ。
 地味に大変ですわね。同情などしませんけれどね。



 明日はヤアに発つ日。
 荷物などは大体送りましたから、今日はゆっくりしております。

「お嬢様っ! お客様ですっ」

 侍女が慌てて知らせてきました。皇都を離れるので、このところお客様も多いのに、なにを慌てているのかしら?

 すぐに準備をして広間を見ると、オトフリート 皇太子 殿下がにこやかに立っておられます。
 殿下が先触れもなく?
 慌てて降りて淑女の礼をしますわ。

「皇太子殿下、ようこそお越しくださいました」

 頭を下げながらも、殿下の御用が解らず、少し声が固くなってしまいました。

「ロランダ、そう畏まるな。ちょっと寄っただけだ。
 そなたに渡したいものがあってな」

 渡したいもの……?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

婚約破棄ですか?それは死ぬ覚悟あっての話ですか?

R.K.
恋愛
 結婚式まで数日という日──  それは、突然に起こった。 「婚約を破棄する」  急にそんなことを言われても困る。  そういった意味を込めて私は、 「それは、死ぬ覚悟があってのことなのかしら?」  相手を試すようにそう言った。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  この作品は登場人物の名前は出てきません。  短編の中の短編です。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?

桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。 天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。 そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。 「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」 イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。 フローラは天使なのか小悪魔なのか…

婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!

白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。 その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。 でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?

お粗末な断罪シナリオ!これって誰が考えたの?!

haru.
恋愛
双子の兄弟王子として育ってきた。 それぞれ婚約者もいてどちらも王位にはさほど興味はなく兄弟仲も悪くなかった。 それなのに弟は何故か、ありもしない断罪を兄にした挙げ句国外追放を宣言した。 兄の婚約者を抱き締めながら... お粗末に思えた断罪のシナリオだったけどその裏にあった思惑とは一体...

【完結】婚約破棄からの絆

岡崎 剛柔
恋愛
 アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。  しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。  アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。  ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。  彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。  驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。  しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。  婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。  彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。  アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。  彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。  そして――。

婚約破棄は計画的に。

秋月一花
恋愛
「アイリーン、貴様との婚約を――」 「破棄するのですね、かしこまりました。喜んで同意致します」  私、アイリーンは転生者だ。愛読していた恋愛小説の悪役令嬢として転生した。とはいえ、悪役令嬢らしい活躍はしていない。していないけど、原作の強制力か、パーティー会場で婚約破棄を宣言されそうになった。  ……正直こっちから願い下げだから、婚約破棄、喜んで同意致します!

処理中です...