上 下
9 / 14

やっと夜会が始まりましたわ

しおりを挟む

「みな、長々と邪魔してすまなかった。聞いての通り、賭けは我の敗けだ」

 嘆息ためいき混じりの短い声があちらこちらから上がります。

「しかし、そのお陰で、何年か先には国が豊かになっているかもしれぬ。そうなれば負けた金額などすぐに回収できよう。皆もそのときに遅れを取らぬよう、卒業後も励んでくれ」

 うぉーという雄叫びと、拍手が沸き上がりました。

 相変わらず見事におまとめになりますこと。
 カリスマ性は、そろそろ皇帝陛下を追い抜くかもしれませんわ。
 少し平凡でないと、女性は寄り付きにくいのですが。
 麗々しい殿下の隣に、どのような方が立たれるか楽しみですわ。



 皇太子殿下の合図で、楽団が優美な曲を演奏し始めます。

 喉がカラカラですわ。
 まずは飲み物を……。

「ローラ、改めて卒業おめでとう。お前はこれが好きだったろう?」

「お父様」

 お父様が差し出したのは、フルーツがいくつも入ったノンアルコールのサングリア。
 お父様のなかでは、私はまだまだ子どもね。

「ありがとうございます。お父様」

 サングリアのグラスを受け取り、お父様の掲げたワイングラスに合わせて、少しグラスを挙げました。

 サングリアのシュワッとした感じが、喉に染み渡ります。

「おいしい」

「ローラ、勝算はあるのかい? ヤアの地はだだっ広い草原が多いぞ?」

「存じておりますわ」

「レオでさえ、あの地には頭を悩ませておる」

「お兄様は頭が良すぎるのですわ」

 サングリアをまた一口飲み、私は微笑みました。
 レオポルド兄さまは、私の2つ上のお兄様。オフィキス公爵家の嫡男で、文武両道の自慢のお兄様。
 既にお父様の右腕として、手腕を発揮しておられます。
 ただ、ちょっと頭が固いのが難点。

「お前が男であれば、諸手もろてを上げてヤアに遣わすものを」

「お父様、あなどらないでくださいませ。女だから気づくこともあるのですわ」

「そうか。そうだな。儂の自慢の娘だ。信じるとしよう」


「失礼」

 穏やかなお父様との話に割って入ってきたのは、赤いジャケットの方。
 勲章って、重そうですわね。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか?それは死ぬ覚悟あっての話ですか?

R.K.
恋愛
 結婚式まで数日という日──  それは、突然に起こった。 「婚約を破棄する」  急にそんなことを言われても困る。  そういった意味を込めて私は、 「それは、死ぬ覚悟があってのことなのかしら?」  相手を試すようにそう言った。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  この作品は登場人物の名前は出てきません。  短編の中の短編です。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?

桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。 天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。 そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。 「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」 イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。 フローラは天使なのか小悪魔なのか…

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。

しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ! 平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。

婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!

白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。 その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。 でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?

婚約破棄は計画的に。

秋月一花
恋愛
「アイリーン、貴様との婚約を――」 「破棄するのですね、かしこまりました。喜んで同意致します」  私、アイリーンは転生者だ。愛読していた恋愛小説の悪役令嬢として転生した。とはいえ、悪役令嬢らしい活躍はしていない。していないけど、原作の強制力か、パーティー会場で婚約破棄を宣言されそうになった。  ……正直こっちから願い下げだから、婚約破棄、喜んで同意致します!

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

処理中です...