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第四部

第二十四章 雫、大流となる 其の六 (R18)

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 静のからだから己を離し、大きく息を吐くと、秀忠は満足そうにゴロンと寝転ぶ。 
 しかし、江の香りに包まれ、江だと思って気を放ったせいか、秀忠のものは、まだ乱れた薄い夜着をいくらか持ち上げていた。 
 雲に隠れていた月が、ほのかに顔を出す。 
 起き上がって身を整えようとしていた静の目に、柔らかな光に浮かび上がる秀忠の陽気が映った。 

 (まだ御台様を思うておられるのか……) 
 静の心が切なさと哀しみに締め付けられる。 
 かすかな嫉妬の炎が揺らめいた。 
 (…やや・・…) 
 月の光にきゅっと唇を噛んだ静は、目を閉じ、小さく息を整えると自分で胸元を開く。そして、そっと、豊かな胸で目の前のものを挟んだ。 

「何をする。」 
 驚いた秀忠は半身を起こした。しかし、ふわふわとした柔らかな胸の心地よさに男はあがらえない。 
「今一度、抱いてくださりませ。」 
 静は自分のたわわな胸から顔を覗かせる秀忠の男の印に、そっと口づけた。 
 秀忠の顔が快感に歪む。柔らかな胸の間で、秀忠おとこに再び力がみなぎり始めた。 
「一度だけ、『静』と呼んでくださりませ。」 
「そなた……」 
「静と……」 
 涙が一筋、頬を伝い、熱く逞しくなってきた秀忠の上に落ちる。 
 秀忠は少し混乱しながらも、静の気持ちを察した。 

 江の身代わりであると知っていたのか……。 
 知っていながら、抱かれていたのか……。 

 涙の温かさが、秀忠自身を責める。 
 秀忠は身を起こすと、静の肩を抱き、ゆっくりと寝かせた。 
 唇に軽く口づけをすると、脚を開き、小さな実を優しく揺り動かした。

「あぁ……」 
 先程までの快感を思い出し、静は身をよじる。秀忠の指が少し激しくなると、その軆はまたトロトロとした蜜を吐き出した。 
 秀忠が満足そうに微笑む。 
「淫らじゃ。しず、しとどに濡れておるぞ。」 
 静は涙が出そうになった。「しず」、今まで聞いたこともない、優しい秀忠の呼び声であった。 
 (もう、充分) 
 静は、にっこりと笑った。 
「どうぞ、あとは御台様の御名をお呼びくださりませ。」 
「静。」 
「よいのです。『あなたさま』。」 
 静はそういうと横を向いた。 
「あなたさまのお慈悲を今一度くださりませ。お願いにございまする。」 
 豊かな髪に顔を隠し、静は江に戻った。秀忠が動かないのを感じ、静は以前したように、自分の小さな実に手を伸ばす。 
 静は軆が感じるまま、切ない吐息を出した。 

「あぁ、あなたさま……早う…はよう……あぁっ!」 
 乱れた着物から出た乳房にも手を置き、静は、髪で顔が隠れるままで切ない息を吐き続ける。豊かな軆がビクビクと動いた。 
「はぅん…くぅ…あなたさま…ここに…、はぁぅ…ここに、お情けを…あぁ…んぅ…早う…あなたさまぁ…」 
 脚の間の自分の手をふるふると動かし、切なそうに秀忠をいざなう。
 秀忠は黙って静を抱いた。 

「……あなたさま……あぁ…あなたさま……」 
 呪文のように静は繰り返す。その呪文に突き動かされるように秀忠は動いた。 
 逃すまいと静の深みは秀忠を絡めとる。 
「…あぁ…あなたさま、もっと、もっと……あぁぅ…」 
 秀忠が、低い男の声で静を責め立てる。 
 静もきつくしとねを握りしめ、江の女の声をあげる。 

「静っ、まいるぞ」 
 確かに秀忠はそう言った。 
 ハッとした静は、喜びにうち震えた。 
 それが、快感にまさった。 
 女の悦びに達せなかったが、そのようなことはどうでもよい。 
 静の目には、嬉し涙が浮かんでいた。 


 躯を外した秀忠が、どかりと腰を下ろした。 
 静も慌てて起き上がり、乱れた着物を整える。 
「気づいておったのか。」 
 秀忠は頭をシャクシャクと掻いた。 
「はい。」 
 うつむき加減の静の目には、優しげな首でひそやかに動く秀忠の喉仏が映っている。 
「いつからじゃ。」 
「昨年の秋にございまする。」 
「誰かに聞いたか。」 
「いいえ、わかりましてございまする。」 
「さようか。」 
 顔をあげ、ほのかに微笑む静に、なんとも後ろめたい表情を秀忠は浮かべる。 
 静は、秀忠に負い目は感じさせたくなかった。 
「上様がお望みになれば、またいつでもお役にたちまする。」 
 来た頃のように邪気のない笑顔で、静はにっこりと笑った。そう言いながら、静は秀忠が自分をもう抱かないだろうと思った。 
 秀忠も、もう改めて静は抱かぬだろうと思った。 
 秀忠は、己が江恋しさの余り、いかに非情であったか改めて思い知る。しかし、静はそんな己を微笑んで受け入れてくれたというのか……。そして、また、いつでも身代わりになるというのか……。 

 じっと自分を見つめる秀忠の視線に、静はなぜかとても恥ずかしくなった。 
 整えた胸元を、もう一度しっかり重ねるように手でつかむ。 
 頬を染め、目を伏せて、はにかむように微笑む姿はとても初々しかった。 

 下がろうと礼をした静の腕を秀忠がつかんでグイと引き寄せる。 

 (許せ、江。) 

 秀忠は、心のうちで江に謝った。しかし、最愛の江でさえ、もう己の思いを止められなかった。 
「上様?」 
 抱き寄せた静の唇に、秀忠はそっと口づけを落とした。 
「もそっと口を開けよ。」 
 困ったように秀忠が笑う。 
 小さな目を大きく見開き、あまりにもぎこちなく口づけを返す静の頬にも口づけながら、秀忠は静の着物の帯をほどく。 
(江の香りなどらぬ…) 
「上様?」 
 驚いた静が、秀忠の手を思わず押さえた。静の目が今までと違う秀忠の様子に、うろうろ泳いでいる。 
 小さな灯りがゆらりと揺れた。 

「静。」 
 秀忠が優しく口づける。 
「今一度、とぎをせよ。そなたの…静のままで」 
 微笑んで、ひでただは伝えた。 
 秀忠は、初めて静を静として抱きたいと思った。 
 一年ひととせ前の償いもしたいと思った。 
 静を静として満足させたい。そう思った。 
 それが愛しさからなのか、哀れみなのか、申し訳なさなのか、秀忠にはわからなかった。 
 (静を抱きたい。) 
 男として、ただそう思った。 

 しずの細い目にみるみる涙が溜まり、頬を伝う。 
「泣くな。」 
 そう命令すると、秀忠は涙をそっと唇でぬぐった。 

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