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第四部

第二十三章 形代、静かに流る 其の三 (R18)

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 荒々しく胸元をまさぐられ、静のからだの芯が火照ほてってゆく。 
 (あぁ…上様…) 
 秀忠が頂上の小さな突起を軽く噛んだ。 
「あぁっ……あなたさま…おやめくださいまし。」 
 艶めいた江の声が切なげに願った。 
 胸の柔らかな丘は、秀忠の口元で大きく上下している。 
「やめぬ。」 
 秀忠はその突起をチロッとめると、さっと静の脚の間に手を伸ばした。 
 ビクンと女の軆が甘い吐息と共に動く。 
 そこはもう朝露を含んだようにしっとりとしていた。いくら心に沈めても、愛する人から受ける刺激は、しびれるように甘く、静の軆に女の気配を表していく。 

「あぁ…あなたさま…」 
 静は、幸せであった。想いを込めて「あなたさま」と呼べるのも、秀忠の唇が自分の身の上にあるのも。 
 秀忠の心がここにはないと分かっていても、静は幸せであった。 
 
 秀忠は十分に水をたたえたふちに長い指を這わせ、水をからめとりながら、小さな岩をやさしく揺り動かしてみる。 
「あぁ……」 
 江の声が、甘い大きな吐息をひとつ吐いた。 
 トロトロとした柔らかな水が満ち溢れてくるのがわかる。 
 その気持ちよさと恥ずかしさに、静の脚が思わず、もぞもぞと動いた。 
 秀忠の長い端正な指が、小さな岩を少しずつ激しく揺らしていく。 
 静の軆がビクビクと波打ち、江の嬌声が絶え間なく上がった。 

「ひぅっ、あぁっ、……あ、う……あなたさま、あぁ、あなたさま……」 
 軆を駆け巡る熱い痺れをこらえるように、静は自分の着物を握りしめ、首を振る。 
 秀忠は静のふわふわした胸に頬を寄せ、その声を聞いていた。 
 (江…) 
 江を思い、秀忠のものは充分にたくましくなっている。 
 ふっと秀忠が手を止めた。 

「あぁ、あなたさま…………」 
 冷たい空気の中、首筋まで桜色に染め、荒げた息の下、たおやかな江の声が言う。 
「………お願いでございまする……あなたさま……」 
 江のかすかなせつない声が、秀忠の中の男をさらにかきたてる。

 秀忠は、今一度小さな岩を端正な指でもてあそび、ふちの深みに長い指を充分にもぐらせ、激しく泳いだ。 
「あっ、あっ、あっ、そのような……あぅ、はあぁっ……あなたさま…っっぁ…お慈悲を……」
 湿った水音と共にジンジンと立て続けにわき上がる快感に、静の軆はたまらず身をよじる。 
「あうっ、あぁぁぁあ………お情けを…お願いでございまするっ…お情けを…あなたさまぁっ!」 
 江の声がそう叫んで懇願こんがんした。 
 秀忠は充分にたけっているものを、たっぷり水を湛えた淵に飛び込ませる。 

「……っああぅ………あなたさま…あなたさま……」 
 江の途切れ途切れの呼び掛けに、秀忠は次第に激しく動いた。
 あでやかな江の声に合わせて水音が辺りに響く。 

 女の歓びに達しはじめた静の軆が、秀忠を柔らかにきつく締め付ける。 
 頭がぼんやりするほどの心地よさの中、秀忠の耳に聞こえていたのは、江の悦びの声であった。 
 男の歓びを感じながら、秀忠が抱いていたのは江であった。 

「…ぅくっ…ああっ…あなたさま…あなたさま……あぅ、んっ…あ…あなたさ……はあぁっ…あっ…んんぅ…あなた…さま……あぅっ…あっ…あなたさまっ…あなたさまぁっ……」 
 江の声がただひたすらに、一途に己を求める。 

 柔らかな締め付けが、秀忠をさらなる深みへ誘った。いざなわれ、江の呼び掛けに応えるように、男は深みを求めて何度も飛び込む。 
「ごぅ……江、ごうっ!」 
 ぞくぞくする快感に低いうなり声をあげていた秀忠は、そう叫んで静の軆に気を放った。 
 歓びの余韻に江を抱き締めようとした手が止まる。 
 ぼんやりとした頭で、秀忠はふと思った。 
 (私は、今、『江』と言うたか?) 

 後ろめたいような思いをしている秀忠のもとで、静が動いた。ゆっくりと体を起こし、乱れた着物を整える。 
 静は、一瞬止まった秀忠の手の意味が解っていた。 
 体を起こし、手早く着物を整えると、いつものように微笑んで静は平伏する。 
 秀忠はどのような顔をしてよいかわからず、やはりぶっきらぼうに言った。 
「休むゆえ、そなたもさがれ。」 
「はい。御用がございましたら、またお呼びくださいませ。」 
「ああ。」 
「おやすみなさいませ。」 
 にこやかに微笑み、静が下がる。綺麗にふすまを閉じる静の様子が、いつもと変わらぬのを見て、秀忠はホッとした。 

 閨に入り、秀忠はドサリと腰を下ろす。 
 (気づいておらぬ。)
 秀忠は思った。 
 よしんば、江の名を呼んだとて、静がその名を知っているとは思わない。 
 (気づいておらぬ。)
  秀忠はそう思った。 
 『身代わりと気づかせないようにしてくださいませ』 
 大姥の言葉が秀忠の頭に甦った。 
 (気づいてはおらぬ……。)
 己の中の大姥局に申し開きをする。 

 ゴロリとしとねに寝転ぶと大層疲れていたことを秀忠のからだは思い出した。
 あっという間に睡魔が襲う。 
 『大事ありませぬ、あなたさま。』 
 優しい母のような江の声に、秀忠は安心するように眠りに落ちた。 

◇◇

 秀忠の部屋を辞し、静は小走りにかわやへと進んだ。 
 じっとりと濡れぼそったところは、まだ秀忠を覚えている。 
 (上様……) 
 静は、秀忠の精を逃すまいとするように柔らかな入り口をめた。 
 小さな実が締め付けられ、秀忠の残した余韻が、静の軆を駆け巡る。 
 (…上様……) 
 まだ静の女はうごめいていた。ぷっくりとはじけそうにふくらんだ実に静は手を伸ばす。 
 秀忠の大きな手を思いだし、静は指を動かす。息を殺したままの静は、あっという間に昇りつめようとしていた。 
「ぅうん……ぅくっ……」 
 荒い息の下、静は女の声をこらえる。 
「ん……ん…ぅん…」 
 (上様……あぁ…うえさま…)
 心の中で秀忠を呼んだ。 
「ぅぅっ………ん…んっ…ぅんっんっんっ…ぅくっ…くぅっぅん…」 
 (…うえさまっ。) 
 昇りつめながら、静は柔らかな入り口を固く閉めた。 
 静の軆が大きな波にさらわれ、くぐもった声が止まる。固く力が入ったまま時が止まった。 
 大きな息を吐くと、静はのろのろと動き出した。濡れたところをそっと手拭いで拭き取る。 
 『ごうっ』 
 そう言って果てた秀忠を思い出した。 
 (上様……) 
 静の目から、一筋涙が落ちる。 

 分かっていても、やはり悲しい。 
 それでよいと言い聞かせても、やはり哀しい。 
 (女とは厄介じゃな。) 
 ほのかに苦笑しながらも、静の眼からは次々と涙がこぼれ落ちた。 
 (…また、赤子ややに笑われてしまう…) 
 ひとしきり涙を流した静は、泣きながら笑った。 
 厠の小窓から細い眉毛のような月が見える。 
 (やや、またおっかさんのところへきておくれね。) 
 静は涙をぬぐい、にっこりと微笑んだ。 
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