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まぁ、貢ぎ物かな? 私
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東国を広く治める徳川さま。秀吉が一目も二目も置いて、なにかと気にする家康さま。
縁を結ぶために嫁がされていた朝日姫様も亡くなり、人質に差し出していた、なか様も亡く。
次は私か……。
まぁ、よいか。私が嫁いで両家が手を繋げるなら。戦が一つでも減るなら。
夫を亡くす女子は、少しでも少ない方がよい。親を亡くす子も、子を亡くす親も。
私のような、智さまのような思いをするのは少ない方がよい。
長く育んで産まれる命なのに、一瞬で失われるのは哀しい。
そう思って、徳川へ嫁いだ。
家康さまは上機嫌だったけど、夫となる秀忠殿は私を頭の先からジロジロ見て、
「秀忠です」
と、仰っただけ。ニコリともしませなんだ。
武家の、大名の婚姻がどんなものかは分かっていたけれど、つい秀勝様と比べてしまって、気が塞ぐ。
秀忠殿は十七歳。私の従兄弟の織田信雄さまの姫君、小姫さまと結婚していた。
六歳の小姫さまは秀吉の養女になって、豊臣の姫として嫁いだとか。私と同じ。
秀忠殿が、上洛して元服して小姫さまと婚姻を結んだのが十二歳。
秀吉は秀忠殿に、大切な諱を与え、養女を与えたのね。
なんとしても徳川とは絆を作っておきたかったらしい。
おかげで、小田原の戦の時は、「若殿の舅殿」として駿府城でも本陣を敷けた様子。
家康さまが、秀吉の下についていらっしゃったから、小田原も落とせた。というのは、秀勝さまが教えてくれた。
でも、小姫さまは七歳で亡くなられて。
聚楽第にいらしたそうだけど、小さな姫に私はお会いしたことがない。
生きていれば、完と遊んでくださったかしら……。
いえ、生きていらっしゃれば、私が秀忠殿に嫁いでくることはなかった。
秀忠殿のこれまでについては、家康さまと、由良という侍女が教えてくれる。
由良は秀忠殿の乳母かと思うと、
「確かにお乳は差し上げましたが、私はこのような体ですので、乳母ではございません」
と言う。
確かに、由良は足が悪い。秀忠殿の乳母は、江戸城で奥を差配しているらしい。
家康様が故郷の駿府をから江戸へ所領変えになったのは、小田原の戦の後。
なかなか目が届かない北への押さえだと言われたそうだけれど、ただの嫌がらせじゃないの?
都まで遠いし。
それから五年ほど。家康様は、いただいた領地を富ませるために、いろいろ工夫をしているらしい。
お城も整えようとしているとか。
ところが、私が嫁いできてから家康様は、ずっと伏見にいらっしゃる。
秀吉が離さぬようだ。
建前かもしれぬな。江戸を整えさせぬための。
「朝廷ともつながりができるし、天下の治めようがわかるゆえ、面白いぞ」
と、家康様はカラカラと笑っておられたけれど。
ただ、義父上様が伏見に貼り付けさせられているから、秀忠殿が名代ととして、江戸との間をしょっちゅう往復している。
私たちが夫婦の盃を交わしたのが九月の十七日。
三日後には、「米の出来を見に行く」と江戸に立たれた。
「行ってまいる」
とだけ言われて。
別に、寂しくはないけど。
*****
【朝日姫】 秀吉の妹。
【なか】 秀吉の母。大政所
縁を結ぶために嫁がされていた朝日姫様も亡くなり、人質に差し出していた、なか様も亡く。
次は私か……。
まぁ、よいか。私が嫁いで両家が手を繋げるなら。戦が一つでも減るなら。
夫を亡くす女子は、少しでも少ない方がよい。親を亡くす子も、子を亡くす親も。
私のような、智さまのような思いをするのは少ない方がよい。
長く育んで産まれる命なのに、一瞬で失われるのは哀しい。
そう思って、徳川へ嫁いだ。
家康さまは上機嫌だったけど、夫となる秀忠殿は私を頭の先からジロジロ見て、
「秀忠です」
と、仰っただけ。ニコリともしませなんだ。
武家の、大名の婚姻がどんなものかは分かっていたけれど、つい秀勝様と比べてしまって、気が塞ぐ。
秀忠殿は十七歳。私の従兄弟の織田信雄さまの姫君、小姫さまと結婚していた。
六歳の小姫さまは秀吉の養女になって、豊臣の姫として嫁いだとか。私と同じ。
秀忠殿が、上洛して元服して小姫さまと婚姻を結んだのが十二歳。
秀吉は秀忠殿に、大切な諱を与え、養女を与えたのね。
なんとしても徳川とは絆を作っておきたかったらしい。
おかげで、小田原の戦の時は、「若殿の舅殿」として駿府城でも本陣を敷けた様子。
家康さまが、秀吉の下についていらっしゃったから、小田原も落とせた。というのは、秀勝さまが教えてくれた。
でも、小姫さまは七歳で亡くなられて。
聚楽第にいらしたそうだけど、小さな姫に私はお会いしたことがない。
生きていれば、完と遊んでくださったかしら……。
いえ、生きていらっしゃれば、私が秀忠殿に嫁いでくることはなかった。
秀忠殿のこれまでについては、家康さまと、由良という侍女が教えてくれる。
由良は秀忠殿の乳母かと思うと、
「確かにお乳は差し上げましたが、私はこのような体ですので、乳母ではございません」
と言う。
確かに、由良は足が悪い。秀忠殿の乳母は、江戸城で奥を差配しているらしい。
家康様が故郷の駿府をから江戸へ所領変えになったのは、小田原の戦の後。
なかなか目が届かない北への押さえだと言われたそうだけれど、ただの嫌がらせじゃないの?
都まで遠いし。
それから五年ほど。家康様は、いただいた領地を富ませるために、いろいろ工夫をしているらしい。
お城も整えようとしているとか。
ところが、私が嫁いできてから家康様は、ずっと伏見にいらっしゃる。
秀吉が離さぬようだ。
建前かもしれぬな。江戸を整えさせぬための。
「朝廷ともつながりができるし、天下の治めようがわかるゆえ、面白いぞ」
と、家康様はカラカラと笑っておられたけれど。
ただ、義父上様が伏見に貼り付けさせられているから、秀忠殿が名代ととして、江戸との間をしょっちゅう往復している。
私たちが夫婦の盃を交わしたのが九月の十七日。
三日後には、「米の出来を見に行く」と江戸に立たれた。
「行ってまいる」
とだけ言われて。
別に、寂しくはないけど。
*****
【朝日姫】 秀吉の妹。
【なか】 秀吉の母。大政所
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