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しおりを挟む“別に痛くない”
その言葉を聞き、アクアは顔を歪める。
「痛い、よ…」
どうしてこの子はこんなにも痛みを我慢するのか。
どうして弱さを見せてくれないのか。
そう思っても、ノエルに酷いことをしたと自覚のあるアクアにはどうしても何があったのか聞くことは出来なかった。
これ以上足を傷つけないようにノエルを抱えて部屋に戻り、ベッドに腰掛けさせる。
「すぐに終わるからね」
そう声を掛け、ガラスを踏んで傷だらけになった足を手で包み込む。
意外にも治療をしている間、ノエルは怯える様子も嫌がるそぶりも見せなかった。
「…うん、よし。もう大丈夫かな。どうかなノエル」
「…」
治療を終え、ノエルの顔を覗き込むと視線は合わず、ただ足を眺めているままだった。
「あ、そうだ!窓の事ネス兄様に伝えてくるからちょっと待っててね」
雰囲気を変えるように少し明るめの声でそう言ってアクアはネスを呼ぶために部屋を出る。
『ネス兄様、聞こえる?』
ノエルの部屋を出て、扉を背にしたままアクアはネスにだけテレパシーを届けるため目を閉じて集中する。
『アクアか?』
『うん。兄様、今近くにウェズもいる?
』
『あぁ、いる』
『良かった、すぐにウェズも一緒にノエルの部屋まで来て欲しいんだけど…』
『…わかった。すぐに向かおう』
「ふぅ…」
会話を終えたアクアは扉に背を預け力が抜けたように座り込む。
ノエルの前では何事もないように接していたアクアだったが、内心ではノエルの様子に驚きを隠せていなかった。
「ノエル…なんで、」
ふと、呟いた問いにハッとする。
(いや、なんでなんて僕たちが言っちゃいけない…酷いことした僕らに心を開いてくれるなんて期待しちゃダメだ…)
「はぁ…」
「アクア様?」
膝を抱えため息をついていたアクアの頭上から声が掛かる。
「あ、ウェズ、兄様、」
思っていたよりも早く到着した兄と宰相の声に顔を上げる。
「兄様、あの…ノエルのこと怒らないでね」
「…?」
詳しいことを言わないアクアを不思議に思いながらもネスは頷き、二人はアクアに続いてノエルの部屋に入る。
「これは…」
部屋に入った途端目に入ってくる光景にウェズは呟く。
「兄様、ノエルは外の空気吸いたかったみたいで…でも窓開かなかったから…仕方ないよね?」
アクアに続いてネスとウェズが部屋に入って来たにも関わらず先程から変わらずに足元を見たまま動かないノエルのそばにたちアクアは事の経緯を告げる。
「そうか、それは悪かった。すぐに新しい窓を手配しよう」
それから、とアクアは言葉を続ける。
「ウェズ、ノエルの髪を切ってくれない?」
「えっ!?」
「髪がちょっと長すぎて邪魔みたいだからさ」
「御髪を…。えぇ、そうですね、ノエル様のご希望であれば…」
急な頼みにウェズは動揺しつつも承諾をする。
「ノエル、窓の修理は明日には終わるが今日はアクアの部屋で寝てもらう。それでも良いか?」
唐突に掛けられた声にノエルはびくりと肩を揺らす。
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