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結
第十八話 戻らない日々
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「小さい頃、乳母のフレノール夫人に言われたんだ」
舗装されていない、剥き出しの地面をカンテラで照らしながら、まっすぐ前へと延びる道を進む。
「貴女は国王陛下の血を継いでおられません。サーラ王女殿下とは身分が違うのです。殿下を困らせてはいけませんよって」
二人分の足音が、狭い空洞の中で染み込むように反響する。
時折微かに揺れる風が、とても冷たい。
「血とか身分とか、あの頃はよく解ってなくてさ。多分、物凄く我がままな事を、無自覚にたくさんしてたんだと思う。フレノール夫人は厳格な所もあったけど、道理も解せない年頃の子供にまで大人の都合を押し付ける人じゃなかったから」
「貴女の我がままなんて、想像できませんね」
「……フレノール夫人に、サーラ様と私は違うんだと言われて、「あ、私が居たら迷惑なんだ」と思ったんだよ。私はサーラ様を困らせる駄目な子なんだ。サーラ様に迷惑を掛ける私は、ここに居たら駄目なんだって。でも、行き場所なんて他には無いし、あったとしても知らないし。で、ぐるぐる考えてる間に高熱を出してぶっ倒れた」
「それはまた、極端な」
「自分でもそう思う」
驚きを隠さないレクセルに、オーリィードは苦笑する。
「寝台に横たわってると、何もできなくなるせいか、普段は聴こえない物音がたくさん飛び込んでくるんだよな。風が吹く音とか鳥の鳴き声とかは勿論、木の葉がこすれる音、耳鳴りに似た静寂の音、自分が呼吸する音、自分の心臓の音、使用人達の足音、掃除してる音、潜めた話し声」
手前で二つに分かれた道。
二人は一度立ち止まり、空気の流れを読んで、目的地へと続く正しい道を選ぶ。
「おかげで、それまでもずっと私の周りを飛び交っていた「困ったわ」「お可哀想に」「酷い事をなさる」って言葉達が、まさに私自身を表すものだったんだと気付かされて、滅茶苦茶落ち込んだ。私、本当に駄目な子なんだ、サーラ様の迷惑になってたんだって、ぜぇぜぇ言いながら枕を抱えてバカみたいに泣いてさ。だからって、自分じゃどうにもならないし。せめて大人しく聞き分けの良い子になろうって結論に至った」
所々に施されていた罠を解除し、帰り道の安全も確保しつつ、見えてきたレンガ造りの領域に踏み込んでいく。
「けど、寝込んでる私の部屋にサーラ様が来られたんだ。伝染病かも知れないから近寄ってはいけませんって、フレノール夫人に止められてたのに」
「貴女を心配していたんですね」
「どうだろう……あの頃のサーラ様には、私に対する関心があまり無かった気がする」
「え?」
「関心が無かったっていうか、遠巻きに様子を見られてる感じかな。今考えると、単純に接し方が解らなかっただけなんだと思う」
階段を上る靴音の変化に気を配り、歩く速度を調節。
外側に響くとは思えないが、ここから先は他人が動き回る場所の近くだ。慎重な移動が必要になる。
「部屋に来られても特別何かをされるとかじゃなくて、ただ私をじーっと覗き込んでおられた。私は迷惑を掛けてごめんなさいって謝ってたんだけど、それもよく解ってないって感じで。でも、ずっと無言でいられるとますます私が悪いような気がしてきて、ひたすら謝り続けてた。そしたら」
『早く、治ると良いね』
「と、頭を撫でて、そのまま出て行かれた」
「……本当に、ただ覗きに来ただけ?」
「だけ」
ぽかんとするレクセル。
「私も最初は意味が解らなくて、嫌われたのかな? うるさかったのかな? って罪悪感とか覚えたんだけどさ。その『だけ』を、治るまで毎日くり返されたんだよ。確か一週間くらい、毎日欠かさず、ずっと」
「…………不思議な方ですね」
「そう。不思議な御方だったんだ。正直、三日目辺りで何をしに来てるんだろうって疑問に感じた」
「そう……なりますよね、それは」
心配している訳でもなく、看病するでもなく、ただただ顔を見て頭を撫でて立ち去るだけ。
相手にもよるのだろうが、聞いている限りでは、かなり不気味な行動に思える。
「うん……疑問だった。でも、拒絶じゃなかったんだ。拒絶でも憐れみでもなかった『だけ』が、いつの間にか心地好くなってた」
気付くと隣に居て。
特に何もせず、何も求めずに、去っていく。
だけど、そこに居るオーリィードを否定したことは一度も無い。
オーリィードを責めたことも、憐れんだことも無い。
あるがままを、あるがままに。
ただ、見ていた『だけ』。
受け入れていた『だけ』。
「サーラ様は、私を見ておられたんだ。ウェラントの悪夢に関わる悲劇の子供じゃなくて、高熱を出して寝込んでる私を、見ておられた。蓮の宮の中では、サーラ様だけが私を見てくださっていたんだ」
壁にしか見えない行き止まりの前に立ち、レクセルの左手と繋いでいる汗ばんだ右手に、ぎゅうっと力を入れる。
「サーラ様は自覚しておられなかったと思うが、それは私の存在の許容そのものだ。私は私で良いのだと、言葉よりも明確な態度で示してくださった。私は、そんなサーラ様の側に居たいと願って騎士を目指したんだ。大人になってもサーラ様の側に居られるように、サーラ様が誇れる騎士を、目指していた」
レジスタンスとして活動していたオーリィードの意志は、『アーシュマー』が力ある言葉で掻き集めて形作った、オーリィードの欠片だった。意識操作で生み出す空っぽな人形とは少し違う。
欠片の願いは本物であり、欠片の望みは幼少期のオーリィードと何ら変わりない。
『サーラの側に居たい』
『サーラと同じ時間を過ごしたい』
だから、文字通り血を流しながら宮廷騎士にまでなったのだ。
だからこそ……今、ここに居る。
「大丈夫ですか?」
「ああ。覚悟は決まってる」
レクセルとオーリィードは頷き合い、カンテラを足元に置き、二人で空いているほうの手を壁に押し当てた。
壁はわずかな力で前方に沈み、かと思えば、左方向へ勝手にずれた。
一人分の隙間に覗く景色は、見るのも思い出すのも忌まわしい、宮殿にある国王の寝室。
一度深呼吸してから、グッと息を飲み。
「……行こう!」
レクセルの腕を引いて、駆け出す。
無人の寝室と、同じく誰も居ない執務室を素早く通り抜け、王妃の寝室へと続く扉を開いた。
「サーラ様!」
「!? オーリィード……!?」
約五ヶ月ぶりに再会した異父姉は、寝台の横で一人佇み、窓から空を見上げていた。
驚きで丸くなった紫色の目に、レジスタンスに居た頃と同じ格好の男女が映る。
「お迎えにあがりました、サーラ様。一緒に宮殿を出ましょう!」
「貴女達、どうやってここに?」
「国王の寝室にある抜け道から来ました。リブロムは居ません。今なら安全に出られます!」
「……そう……」
レクセルの手を離して嬉しそうにひざまずくオーリィードを見下ろし。
サーラは、一歩後ろに下がった。
まるで、近付かれることを拒むように。
「……サーラ様?」
「私は、行きません」
「え……」
「聴こえませんでしたか? 「私は行かない」と言ったのです」
今度はオーリィードの目が丸くなる。
視界の中央に立つサーラの表情は、愛しい妹を見る時のそれではなくて。
「な、……何故、ですか……?」
「無意味だからです。策も展望もろくに無いまま、二度も三度も同じ事をくり返して。貴女達は何がしたいのですか? 浅慮にも程があります」
「そ、それは……ですが、ここに居ては、御身がリブロムに!」
「私は侵略された国の王族です。国が荒らされているというのならばともかく、民に危害が及んでいない現状、逃れる理由は無い」
「なっ!?」
「結果論ではありますが……レジスタンスの行いのほうが、よほど国益を損うものでしたね? 出て行きなさい、オーリィード。貴女達の手は不要です」
「サーラ様! 貴女はウェラント王国を統べる女王になられるべき御方です! 侵略者を受け入れるような軽々しい発言はっ」
「お黙りなさい、無礼者!」
「……!」
「後宮の住人でも正式な宮廷騎士でもない今の貴女が、他国の……しかも、侵攻してきた国の王の影武者を務めていた人間を引き連れて王族専用の抜け道を無断で使用し、あまつさえ統治者の是非を問う? いったい何様のつもりですか! 思い上がるのも大概になさい!」
烈火の如き怒りをぶつけられ、オーリィードの身体が凍りつく。
「……貴女は、何かとても大きな勘違いをしているようだから、ハッキリさせておきましょうか」
石像のように固まったオーリィードの前で、サーラは自分の首に手を伸ばし
「今や二国の王妃たるこの私に、犯罪者の汚名を被った不名誉な騎士など、邪魔なだけです」
鈴蘭の形を彫り上げたペンダントを外して
「貴女を、私の騎士から、解任します」
ひざまずいているオーリィードの足元へ放り投げた。
「出て行きなさい。もう二度と、宮殿には来ないで」
絨毯の上に鎖ごと転がるペンダント。
オーリィードからサーラへの贈り物。
決して手放さないと、言ってくれた、物。
「…………姉様……」
「レクセル殿下といいましたね。今回に限り、抜け道の使用を認めます。オーリィードを連れて、出て行きなさい」
「姉、様……」
「サーラ王女、オーリィードは貴女と……っ!」
愕然とするオーリィードの隣で膝を突き、肩を支えるレクセル。
その目にも、サーラの表情は険しく映っている。
「姉様……姉様……姉さ……っ」
「早く出て行きなさい! それとも、不審者として宮廷騎士に突き出してあげましょうか!? かつての仲間が貴女に手心を加えたとして、彼らがどうなるかは保証できないけれど!」
サーラが指し示す、オーリィードの背後で開いたままの扉。
その向こうは……
「姉様……っ! サーラ姉様! サーラ姉様ああ!!」
駄目だ。
これ以上は、オーリィードが保たない。
そう判断したレクセルは
「……っ、失礼、します!」
サーラに両腕を伸ばそうともがくオーリィードの身体を抱え上げ、鈴蘭のペンダントを拾い、国王の寝室から抜け道を使って宮殿を出て行く。
オーリィードの悲痛な叫び声が響く中。
サーラは怒りの表情のまま、王妃の寝室から一歩も出ようとしなかった。
舗装されていない、剥き出しの地面をカンテラで照らしながら、まっすぐ前へと延びる道を進む。
「貴女は国王陛下の血を継いでおられません。サーラ王女殿下とは身分が違うのです。殿下を困らせてはいけませんよって」
二人分の足音が、狭い空洞の中で染み込むように反響する。
時折微かに揺れる風が、とても冷たい。
「血とか身分とか、あの頃はよく解ってなくてさ。多分、物凄く我がままな事を、無自覚にたくさんしてたんだと思う。フレノール夫人は厳格な所もあったけど、道理も解せない年頃の子供にまで大人の都合を押し付ける人じゃなかったから」
「貴女の我がままなんて、想像できませんね」
「……フレノール夫人に、サーラ様と私は違うんだと言われて、「あ、私が居たら迷惑なんだ」と思ったんだよ。私はサーラ様を困らせる駄目な子なんだ。サーラ様に迷惑を掛ける私は、ここに居たら駄目なんだって。でも、行き場所なんて他には無いし、あったとしても知らないし。で、ぐるぐる考えてる間に高熱を出してぶっ倒れた」
「それはまた、極端な」
「自分でもそう思う」
驚きを隠さないレクセルに、オーリィードは苦笑する。
「寝台に横たわってると、何もできなくなるせいか、普段は聴こえない物音がたくさん飛び込んでくるんだよな。風が吹く音とか鳥の鳴き声とかは勿論、木の葉がこすれる音、耳鳴りに似た静寂の音、自分が呼吸する音、自分の心臓の音、使用人達の足音、掃除してる音、潜めた話し声」
手前で二つに分かれた道。
二人は一度立ち止まり、空気の流れを読んで、目的地へと続く正しい道を選ぶ。
「おかげで、それまでもずっと私の周りを飛び交っていた「困ったわ」「お可哀想に」「酷い事をなさる」って言葉達が、まさに私自身を表すものだったんだと気付かされて、滅茶苦茶落ち込んだ。私、本当に駄目な子なんだ、サーラ様の迷惑になってたんだって、ぜぇぜぇ言いながら枕を抱えてバカみたいに泣いてさ。だからって、自分じゃどうにもならないし。せめて大人しく聞き分けの良い子になろうって結論に至った」
所々に施されていた罠を解除し、帰り道の安全も確保しつつ、見えてきたレンガ造りの領域に踏み込んでいく。
「けど、寝込んでる私の部屋にサーラ様が来られたんだ。伝染病かも知れないから近寄ってはいけませんって、フレノール夫人に止められてたのに」
「貴女を心配していたんですね」
「どうだろう……あの頃のサーラ様には、私に対する関心があまり無かった気がする」
「え?」
「関心が無かったっていうか、遠巻きに様子を見られてる感じかな。今考えると、単純に接し方が解らなかっただけなんだと思う」
階段を上る靴音の変化に気を配り、歩く速度を調節。
外側に響くとは思えないが、ここから先は他人が動き回る場所の近くだ。慎重な移動が必要になる。
「部屋に来られても特別何かをされるとかじゃなくて、ただ私をじーっと覗き込んでおられた。私は迷惑を掛けてごめんなさいって謝ってたんだけど、それもよく解ってないって感じで。でも、ずっと無言でいられるとますます私が悪いような気がしてきて、ひたすら謝り続けてた。そしたら」
『早く、治ると良いね』
「と、頭を撫でて、そのまま出て行かれた」
「……本当に、ただ覗きに来ただけ?」
「だけ」
ぽかんとするレクセル。
「私も最初は意味が解らなくて、嫌われたのかな? うるさかったのかな? って罪悪感とか覚えたんだけどさ。その『だけ』を、治るまで毎日くり返されたんだよ。確か一週間くらい、毎日欠かさず、ずっと」
「…………不思議な方ですね」
「そう。不思議な御方だったんだ。正直、三日目辺りで何をしに来てるんだろうって疑問に感じた」
「そう……なりますよね、それは」
心配している訳でもなく、看病するでもなく、ただただ顔を見て頭を撫でて立ち去るだけ。
相手にもよるのだろうが、聞いている限りでは、かなり不気味な行動に思える。
「うん……疑問だった。でも、拒絶じゃなかったんだ。拒絶でも憐れみでもなかった『だけ』が、いつの間にか心地好くなってた」
気付くと隣に居て。
特に何もせず、何も求めずに、去っていく。
だけど、そこに居るオーリィードを否定したことは一度も無い。
オーリィードを責めたことも、憐れんだことも無い。
あるがままを、あるがままに。
ただ、見ていた『だけ』。
受け入れていた『だけ』。
「サーラ様は、私を見ておられたんだ。ウェラントの悪夢に関わる悲劇の子供じゃなくて、高熱を出して寝込んでる私を、見ておられた。蓮の宮の中では、サーラ様だけが私を見てくださっていたんだ」
壁にしか見えない行き止まりの前に立ち、レクセルの左手と繋いでいる汗ばんだ右手に、ぎゅうっと力を入れる。
「サーラ様は自覚しておられなかったと思うが、それは私の存在の許容そのものだ。私は私で良いのだと、言葉よりも明確な態度で示してくださった。私は、そんなサーラ様の側に居たいと願って騎士を目指したんだ。大人になってもサーラ様の側に居られるように、サーラ様が誇れる騎士を、目指していた」
レジスタンスとして活動していたオーリィードの意志は、『アーシュマー』が力ある言葉で掻き集めて形作った、オーリィードの欠片だった。意識操作で生み出す空っぽな人形とは少し違う。
欠片の願いは本物であり、欠片の望みは幼少期のオーリィードと何ら変わりない。
『サーラの側に居たい』
『サーラと同じ時間を過ごしたい』
だから、文字通り血を流しながら宮廷騎士にまでなったのだ。
だからこそ……今、ここに居る。
「大丈夫ですか?」
「ああ。覚悟は決まってる」
レクセルとオーリィードは頷き合い、カンテラを足元に置き、二人で空いているほうの手を壁に押し当てた。
壁はわずかな力で前方に沈み、かと思えば、左方向へ勝手にずれた。
一人分の隙間に覗く景色は、見るのも思い出すのも忌まわしい、宮殿にある国王の寝室。
一度深呼吸してから、グッと息を飲み。
「……行こう!」
レクセルの腕を引いて、駆け出す。
無人の寝室と、同じく誰も居ない執務室を素早く通り抜け、王妃の寝室へと続く扉を開いた。
「サーラ様!」
「!? オーリィード……!?」
約五ヶ月ぶりに再会した異父姉は、寝台の横で一人佇み、窓から空を見上げていた。
驚きで丸くなった紫色の目に、レジスタンスに居た頃と同じ格好の男女が映る。
「お迎えにあがりました、サーラ様。一緒に宮殿を出ましょう!」
「貴女達、どうやってここに?」
「国王の寝室にある抜け道から来ました。リブロムは居ません。今なら安全に出られます!」
「……そう……」
レクセルの手を離して嬉しそうにひざまずくオーリィードを見下ろし。
サーラは、一歩後ろに下がった。
まるで、近付かれることを拒むように。
「……サーラ様?」
「私は、行きません」
「え……」
「聴こえませんでしたか? 「私は行かない」と言ったのです」
今度はオーリィードの目が丸くなる。
視界の中央に立つサーラの表情は、愛しい妹を見る時のそれではなくて。
「な、……何故、ですか……?」
「無意味だからです。策も展望もろくに無いまま、二度も三度も同じ事をくり返して。貴女達は何がしたいのですか? 浅慮にも程があります」
「そ、それは……ですが、ここに居ては、御身がリブロムに!」
「私は侵略された国の王族です。国が荒らされているというのならばともかく、民に危害が及んでいない現状、逃れる理由は無い」
「なっ!?」
「結果論ではありますが……レジスタンスの行いのほうが、よほど国益を損うものでしたね? 出て行きなさい、オーリィード。貴女達の手は不要です」
「サーラ様! 貴女はウェラント王国を統べる女王になられるべき御方です! 侵略者を受け入れるような軽々しい発言はっ」
「お黙りなさい、無礼者!」
「……!」
「後宮の住人でも正式な宮廷騎士でもない今の貴女が、他国の……しかも、侵攻してきた国の王の影武者を務めていた人間を引き連れて王族専用の抜け道を無断で使用し、あまつさえ統治者の是非を問う? いったい何様のつもりですか! 思い上がるのも大概になさい!」
烈火の如き怒りをぶつけられ、オーリィードの身体が凍りつく。
「……貴女は、何かとても大きな勘違いをしているようだから、ハッキリさせておきましょうか」
石像のように固まったオーリィードの前で、サーラは自分の首に手を伸ばし
「今や二国の王妃たるこの私に、犯罪者の汚名を被った不名誉な騎士など、邪魔なだけです」
鈴蘭の形を彫り上げたペンダントを外して
「貴女を、私の騎士から、解任します」
ひざまずいているオーリィードの足元へ放り投げた。
「出て行きなさい。もう二度と、宮殿には来ないで」
絨毯の上に鎖ごと転がるペンダント。
オーリィードからサーラへの贈り物。
決して手放さないと、言ってくれた、物。
「…………姉様……」
「レクセル殿下といいましたね。今回に限り、抜け道の使用を認めます。オーリィードを連れて、出て行きなさい」
「姉、様……」
「サーラ王女、オーリィードは貴女と……っ!」
愕然とするオーリィードの隣で膝を突き、肩を支えるレクセル。
その目にも、サーラの表情は険しく映っている。
「姉様……姉様……姉さ……っ」
「早く出て行きなさい! それとも、不審者として宮廷騎士に突き出してあげましょうか!? かつての仲間が貴女に手心を加えたとして、彼らがどうなるかは保証できないけれど!」
サーラが指し示す、オーリィードの背後で開いたままの扉。
その向こうは……
「姉様……っ! サーラ姉様! サーラ姉様ああ!!」
駄目だ。
これ以上は、オーリィードが保たない。
そう判断したレクセルは
「……っ、失礼、します!」
サーラに両腕を伸ばそうともがくオーリィードの身体を抱え上げ、鈴蘭のペンダントを拾い、国王の寝室から抜け道を使って宮殿を出て行く。
オーリィードの悲痛な叫び声が響く中。
サーラは怒りの表情のまま、王妃の寝室から一歩も出ようとしなかった。
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