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五章 五節の柏餅とザンギ。子供の日は子供のリクエストを

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「――ん?」
 買い物に行く途中、菜緒はある場所で足を止め、ジィと見入る。

 菜緒の目に入ったのは『求人募集』の貼り紙だ。

 最近、買い物は歩いていける一番近い駅でしている。
 たまに違う道を行ってみようと脇道にそれた。
 車の行き来がギリギリの道の広さだが、駅が近いせいかそれなりの人通りがあった。
 そこ立ててあった地域看板に目がいったのだ。

『看護師募集』と太い文字で書いてある一枚の貼り紙。

 現代なら求人誌に載せる事の方が多いだろう。
 なのに、見逃してしまいがちな地域看板に貼っておくなんて今時珍しいと、菜緒は目を通す。

 どうやら、場所は買い物をしている駅の反対側にあるらしい。
 駅から歩いて十分。自分のアパートからだと歩いて十五~六分くらいか。
 個人院のようだ

「産婦人科、内科併設か……えっ!? お給料たかっ!!」
 思わず声を上げてしまい、キョロキョロと周囲に視線を巡らす。
 通りすがりのおばさんが笑いながら通り過ぎて行った。
(は、恥ずかしい……でも、ビックリしすぎたわ)

 しかしながら、菜緒が驚くのも無理はない給料だった。
 勤務形態で変わるが夜勤のある国立、公立、大学、また大規模な総合病院は給料が高いし、福利厚生や教育体制などしっかりしている。
 だがハードだし、残業が多いし手当がつかない場合もある。

 なら、中規模の病院はどうか?となると、福利厚生はそれほど手厚くないかもしれないが残業などが少ないし、夜勤手当が高いらしい。

 では個人が経営する病院はどうなのか?
 夜勤がない、日曜日が固定で休めるし、午前診療と午後診療の間が長いので中抜けできる。
 盆や正月はまとまった休みがとれる。
 というメリットがあるがデメリットもある。

 看護師としての仕事以外の雑務が多いのと、福利厚生が整っていないことが多い。
 何よりスタッフの人数が限られているから、人間関係が濃くて気を遣わなくてはならない。
 菜緒は地元では公立の病院に勤務し、こちらでは短い間だったが総合病院に勤めた。
 地元では休みが重なった看護師仲間とよく愚痴り、色々な病院やクリニックの情報を集めて酒の肴にしたものだ。

 菜緒はもう一度よく求人を確認する。


 固定給:月給二十四~三十八万円(経験による)
 時間外手当:五千円
 通勤手当:上限一万円
 特別手当有り
 賞与:年二回二ヶ月(前年実績)

 週休二日制
 日曜祝日休み。
 木曜午後診のみ。土曜日午前診のみ。
 盆と正月に休暇取れます。


 診療形態は普通のクリニックと変わらないようだ。
 なのに固定給が高いんだ、と菜緒。

(でも……なんだろう、この『特別手当有り』っていうのは)

 脇に申し訳程度に書き足してあって、その手当に関してはハッキリと明記していない。
 固定給や賞与に他の手当はきちんと記載されているのに。
 そこだけ怪しい。

(でも……でも)

 呼んでいる気がする。
「この医院を受けにいらっしゃい」と。

 工場に転職したけれど、あそこに長く勤めるのは人間関係だけではなく、仕事の内容のほうでも無理だと自分でも思う。
 それに、このまま看護師を辞めていたら技術の遅れももちろんのこと、腕も鈍るだろう。
 戻るなら早いほうがいいのはわかっている。

(うーん……個人院って私大丈夫かな……)

 ――でも
 ――でも

 どうしてだろう? 求人の紙がボンヤリと光って見える。
 特に電話番号の部分が。

「……大津クリニックさん」

 菜緒は鞄からスマホを取り出すと、その場で電話をした。




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