4 / 4
4. 成仏への道 ~成仏ルーティーン~
しおりを挟む
.
私はいつもの珈琲の美味しい喫茶店にお邪魔している。
同じ時間に現れる、生きていない私を、ここのご主人は快く受け入れてくれる。
喫茶店の本棚には純文学がズラリと並んでいる。
ご主人が「今日は何を読みたいの?」と聞いてくれる。
私はまだ読めていない三島由紀夫をリクエストした。
ご主人がテーブルに、本と、まずは水をおいてくれる。これもいつもの決まりごと。氷が二個入った冷たいお水。
私は水に鼻先を近づけた。水の『気』が鼻先からスーッと私の中に取り込まれる。うん、スッキリサッパリ。
ご主人は珈琲をいれてくれている。
豆をガリゴリ轢く音、サイフォンのコポコポする音。やがて店内には珈琲の香りが微かに漂い、私の鼻先をさらにくすぐった。至福の時間である。
透明な窓からは、青い空に白い雲が浮かんでいるのが見える。
白い雲を目にすると、私は彼女のことを思い出す。
彼女とは会えないまま、時間は過ぎている。
白いワンピースをなびかせて家路を急いだ彼女。
家には帰れただろうか?
お母さんとお父さんには会えただろうか?
思いを伝えられただろうか?
成仏できたならもう二度と会えないだろう。
まだならまたどこかで会えるかもしれない。
・・できれば成仏していてほしい。
ご両親の元で、何にも怯えることはない、安らかな眠りを手に入れていてほしい。
彼女は頑張って生きたのだから
頑張って頑張って頑張って生きたのだから・・・
「おまちどおさま」
ご主人が笑顔で私の前に珈琲をおいてくれた。
『ありがとうございます』と私も笑顔を返した。
珈琲の香りを鼻先で感じて、三島由紀夫の文庫本の一頁をペラリとめくった。
成仏への今日のノルマであり、モーニングルーティーンでもある読書。
私はこれを『成仏ルーティーン』と呼んでいる。
ネーミングセンスについては問うべきではない。
執着が晴れて清々しく成仏できるまで、私のこのルーティーンは続く。
了。
私はいつもの珈琲の美味しい喫茶店にお邪魔している。
同じ時間に現れる、生きていない私を、ここのご主人は快く受け入れてくれる。
喫茶店の本棚には純文学がズラリと並んでいる。
ご主人が「今日は何を読みたいの?」と聞いてくれる。
私はまだ読めていない三島由紀夫をリクエストした。
ご主人がテーブルに、本と、まずは水をおいてくれる。これもいつもの決まりごと。氷が二個入った冷たいお水。
私は水に鼻先を近づけた。水の『気』が鼻先からスーッと私の中に取り込まれる。うん、スッキリサッパリ。
ご主人は珈琲をいれてくれている。
豆をガリゴリ轢く音、サイフォンのコポコポする音。やがて店内には珈琲の香りが微かに漂い、私の鼻先をさらにくすぐった。至福の時間である。
透明な窓からは、青い空に白い雲が浮かんでいるのが見える。
白い雲を目にすると、私は彼女のことを思い出す。
彼女とは会えないまま、時間は過ぎている。
白いワンピースをなびかせて家路を急いだ彼女。
家には帰れただろうか?
お母さんとお父さんには会えただろうか?
思いを伝えられただろうか?
成仏できたならもう二度と会えないだろう。
まだならまたどこかで会えるかもしれない。
・・できれば成仏していてほしい。
ご両親の元で、何にも怯えることはない、安らかな眠りを手に入れていてほしい。
彼女は頑張って生きたのだから
頑張って頑張って頑張って生きたのだから・・・
「おまちどおさま」
ご主人が笑顔で私の前に珈琲をおいてくれた。
『ありがとうございます』と私も笑顔を返した。
珈琲の香りを鼻先で感じて、三島由紀夫の文庫本の一頁をペラリとめくった。
成仏への今日のノルマであり、モーニングルーティーンでもある読書。
私はこれを『成仏ルーティーン』と呼んでいる。
ネーミングセンスについては問うべきではない。
執着が晴れて清々しく成仏できるまで、私のこのルーティーンは続く。
了。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
とある少女の死後日記
由宇ノ木
ファンタジー
【完結・全五話】17歳で私は死んだ。そしてさまようこととなった。珈琲の美味しい喫茶店の『ご主人』と『私』の出会いのお話。
関連作
珈琲の美味しい喫茶店
成仏できない!
【全三話完結】珈琲の美味しい喫茶店
由宇ノ木
ファンタジー
全三話完結。
私は毎日この珈琲の美味しい喫茶店で読書をしている。なのに私の前に、旦那の悪口をひたすら言う女が現れた。え?高校で隣のクラスだった?女は私の正体を知らずに、ひたすらべらべらと話を続けた。
関連作
『成仏できない!』・・『彼女』と『私』の出会いのお話。
『とある少女の死後日記』・・珈琲の美味しい喫茶店の『ご主人』と『私』の出会いのお話。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる