人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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混沌な日常

月と獣

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朝の日差しがカーテンごしに部屋を照らす。
少し肌寒いのか、私にそっと身を寄せる。
腕の中で眠るレイアの目は赤く、首筋には自分がつけた噛み痕に昨夜様子を思い出す。
家名を背負い国を守る立場ではなく、
ただ一人の女性として生きているからこそ溢れたのかもしれない涙。
レイアが泣くのは珍しい。
無防備な身を預けてもらえる幸せを全身で味わう。

「…ん…フィン?」

「あ…おはようございます。レイア」

「おはよう、ございます」

寝顔を見ていると、赤い顔をしたレイアが私を見ている。
熱があるのかもしれないと思い額に手を当てると、
ますます赤くなり体温もあがる。

「レイア。調子が悪いなら遠慮なく言ってほしいです」

「元気ですから、手を…あとじっと見られたら恥ずかしいですから」

潤んだ目で私をじっと見ながら可愛いことを言うレイアを腕に閉じ込める。
少し黙らせないと、これ以上はたえられない。
まだ書類では番ではないのだから。

「少し静かにしてください。襲いますよ」

「え?ぁ…フィンなら、許します」

小さく呟かれた声に、理性が飛びかけた。
ギリギリのところで踏みとどまる。
生前によく聞いた言葉が、素直に甘える様が過ごした時間を思い出させ、
器は変わってもレイアはレイアだと伝えている。

「書類が通るまでは、血で我慢します。
覚悟していてください」

「はい」

小さな返事に腕の拘束を緩めると、レイアを見る。
私を見上げる煌めく瞳には情欲が浮かんでいて、
それは十分に自身に燻る熱を煽っている。
自覚があるのだろうか。

「私のも、飲んでいいから」

「はい」

艶のある声に心臓が跳ねた。
もう、どうにでもなれとレイアの首筋に新しい噛み痕を作る。
首筋に噛みつくレイアも遠慮なく血を吸っている。
それが心地よい。レオンが夢中になる気持ちがやっと分かった。
深い交わりか、それ以上かもしれない魔力の行き交いに思考が眩む。
変化する体にかまわず、レイアの魔力の波立ちが落ち着くまで続いた。

「フィン。綺麗…懐かしい」

「レイアも綺麗です。本当に…部屋から出たくない」

満月の影響で不安定な魔力は、番の血に反応して夜を待たずに狼へと体を変えた。
この色素の薄い黄金を綺麗だと言うのは、いつだっておそらくレイアだけ。
だが、それでいい。
レイアはいつでも美しく、懐かしい白銀は魂を映しているようでさらに美しく見える。

「確かに…ご両親はよく知っているだろうから…家の外には出てほしくない…です」

困ったように嘆くレイアの髪を撫でると、心地良さそうに目を閉じた。

「ご友人とは満月の日に会ったことは?」

「ないです。友人…リサリナは吸血鬼で、獣同士そのあたりは遠慮してます。
あと、しばらくは番から離れないと思うので、会うこともないです」

撫でている手に頭を押しつけ、もっと撫でるように示すレイア。
私が年上だったときに気に入ったらしい。
思いきってやってよかった、と心から思う。
そして、狼の姿だと、耳の動きから心理状態が分かるのがとても良い。
とにかく、すべてが可愛い。

「そうですか。ご友人に祝いの品を用意しますか?
今日は、家で過ごすことになりますが」

「はい。贈り物は何がいいか考えていたところです。…用意?」

「はい。レイア…レイシアの大切なご友人です。
よければ、一緒に選びたいんですが」

レイシアと呼ばれたレイアは、夢から覚醒したように瞳を開けたまま固まる。

「イーファが良いなら。
友人と、互いに番と出会えたら記念品を贈り合う約束をしています」

「素敵な約束が最高の思い出になるよう、私に手伝わせてください」

「ありがとうございます。イーファ」

嬉しそうな笑みを浮かべたレイア。
安心したのか、お腹から小さく空腹を訴える音がした。
ちょうど、料理が出来上がったような香りが漂ってくる。

「番として当然です。食事ができたようなので行きますか。
昼食は、一緒に作りますか」

「…!はい」

楽しそうなレイアと食事をするため向かうと、私たちの姿を見た両親は感激した。
レイアを愛でる母親と、そんな母親を見守る父親。
温かく穏やかな雰囲気の中で食事は進む。
途中、学び舎のレイシアが担当する寮に襲撃があったと通達がきた。
予定を変更し、レイアはしばらくは滞在することになった。
食べ終えると、夕食作りを私たちに任せて両親は出かけた。

部屋へ戻ると長椅子に座り、レイアを膝の上に乗せる。
尻尾が苦しくないような設計の女性服は、おそらく母親の願望の成果物。
今はそれに感謝した。

「仕立ての良い服ですね。
お手製だと言っていましたが、素晴らしいです」

「ぜひ、そのまま伝えて…いたな」

食事中の会話を思い出し言葉を止めると、レイアは微笑む。

「はい。"新しい服を今仕立てているので楽しみにしていてね"と言われました」

「そうですか。趣味に付き合わせてしまって」

謝ろうとするが、できなかった。
レイアが静かに首を横にふり、とても楽しそうに微笑むから。

「はい。とても楽しそうな様子なので、私も嬉しいです」

楽しそうなのは当然だ。
長年の夢がついに叶うかもしれないんだから。
ここで叶わないなら、住まいを変えることすら簡単にするだろう。
横抱きにしているので、機嫌良くゆるりと動くレイアの尻尾がよく見える。

「嫌なら嫌だと言ってください」

「はい。ありがとうございます」

ふと、本棚にある一冊をじっと見ているので、それを魔法で動かす。
そのままレイアの手の上に置くと、嬉しそうに微笑んだ。
ついでに自分が読みたい本も取り出して手にする。
時折小さく笑うレイアの声を聞きながら、静かに時は流れた。
その後、夕食の支度を始めたが、段取りよく進み早く終わる。

夕食前。
晴れた表情で戻った両親は、
レイシアのご両親のサインがある婚姻承諾の紙を持っていた。
爽やかな笑顔の両親が何をしてきたかは想像がつくが、何も聞かない方いいと判断する。

和やかに食事を終え、両親は部屋で"晩酌をする"と戻っていった。
私たちも部屋に戻る。
長椅子に座り、レイアを膝の上に乗せる。
部屋を見渡しているレイアは、何か気になることがあるらしく、
その一点をじっと見ている。

「この部屋、お風呂もあるんですね」

「家の構造が台所と食事する場所がだけが共有の集合住宅だから。
立派な結界がある、番と住む前提の家。
色々と、考えて作ったと聞いています」

首筋を軽く撫でると、レイアは赤面する。
おそらく、意味は伝わったと思う。

「いい時間なので、汗を流しますか?」

「はい、って。一緒にですか?」

そのまま抱き上げ風呂場へ連れて歩いていると、
驚いているレイアはさらに顔を赤くする。

「ダメ、ですか?」

過去で学んだお姉さん心をくすぐる方法に、
レイアの好きな声を合わせて実践する。
わざと甘えたように耳元で囁くと、数秒の間の後、首に腕を回された。
脱衣所でゆっくりおろすと、背合わせで服を脱ぎ、再び抱えて浴室へ向かう。
背合わせに身を清めていると、レイアの視線を感じる。
泡が流れる先へ、視線も流れていく。

「相変わらず、鍛えているのね」

レイアはそう、ぽつりと言った。
懐かしむような小さなつぶやきに愛しさが募る。
レイアも覚えていてくれていることが、嬉しい。

「お互い、変わりませんね」

レイシアの整った体の線は、鍛えていないと実現しないもので。
それは、レイアが変わらず続けている努力の証だ。

「魔法は万能ではありませんから」

「その通りです。そちらを向いてもいいですか?」

「ダメ、と言っても見るでしょう」

少し拗ねたように言うレイアに、思わず笑みがこぼれた。
本当に、よくわかってくれている。

「当然です」

「あ…怪我、していたの?」

ふと、横腹にある古傷を見て目を伏せるレイア。
この時代にも問題はあり、争いもある。

「これは、かなり前のものです。
最近はしていません」

「痛かった、ですよね」

その傷を癒そうとするように、レイアは床へ膝をついてそっと口づけた。
確かに当時は痛かった。
他にある古傷に触れられるたび、不思議と過去の痛みが和らいでいく。
見上げる様は、まるで女神のようだ。
しかし、レイアが触れるたびにその美しさとは反対の欲望が高ぶっていく。

「レイア。もう、いいから」

「ぁ…」

すでに滴っている昂ぶりを嬉しそうに見て喉を鳴らすレイアに、我慢は無用だと判断する。

「どうすればいいか、もう、分かっていますね?」

「はい」

迷わずその滴りを口に含むと、昂ぶりに舌を這わせながら舐めとっていく。
魔力を含むそれは美味しいらしい。
次々に溢れてくるそれはレイアの喉をおちていく。
レイアに触れることを思えば納得だが、自分の体でそう言われると不思議な気分になる。
そして、真人間のときに学んだことは、今でも抜けないらしい。
食事的なものに情欲を煽るような愛撫で体液が混ざり合い、さらに魔力を乱していく。

「待って、それ以上は」

「ん…?あ…出して、ください」

出すならナカで、と思ったが、そのままレイアの愛撫で簡単に達した。
レイアはその白濁をこぼさないように飲んでいた。

「魔力、濃くなってますね。きっと鍛錬の成果ね」

うっとりと笑みを浮かべ、萎えていない自身に口づけたレイアに理性が切れた。

「まだ足りないですよね?壁に手をついてください」

「あ…いれて、フィンがほしいの」

誘うように秘部を指で開いて見せつけるレイア。
尻尾を傷めないよう傷一つない背に覆いかぶさり、腰に片手を添えて昂ぶりを当てる。
あえて浅いところばかりを擦り、抜けそうなギリギリまで出しては入れる。

「ん…ど、ぅして…早く…っ」

「レイシア、初めてだから。優しくしたいです。
しっかり体を支えていてくださいね」

「あ…器がちが、ぁっ、あ…ぅっ、それ…なんで…っ」

初めて触れるレイシアの胸は柔らかく、手からこぼれるような大きさに驚いた。
服の上からでは分からなかったので、着やせしているのだろう。
片手でそっと包み、すでに硬い中心を撫でると締まるナカ。
どうやら良いらしい。
これも人間のときに覚えたことだ。
胸に愛撫をしながら、ゆっくりと繋がっているところを深めていく。

「気持ちいいと、言っていましたね。
この体でも、良さそうですね」

「あっ、ああっ、ふぃ、んっ、もっと奥…っ、ほしいの」

「レイア…あまり煽らないで。
痛いですけど、少し我慢してください…っ」

ようやく、と何度か覚えがある痛みに歯を食いしばるレイア。
片手を胸から唇へ動かし、唇が閉じる前に口の中へ浅くいれる。
わずかに噛まれたところから血が出ている。

「ぁ…、噛むの我慢、する、からぁ、あぁああああっ、あ…っ、…っ、は…いった…」

「はい。少し、このままで」

呼吸をするたびに上下している肩に口づけ、首筋を甘噛む。
内から溢れる吸血衝動を紛らわせようとするが、レイアはすでに指先の血を舐めている。

「噛んでごめんな、さ…ぃっ、血が出て…我慢できなく、て…っ」

「そのまま飲んで。私ももらいますけど」

「んっ、のんで。好きなだけ、いいのよ…っ」

私はその甘やかすような声に身を委ねる。
血をも交わすことで、体すべてで魔力が巡る心地よさに包まれている。
互いに理性を捨てて、熱が果てるまで触れ合った。
少しだけ魔力の波に穏やかさが戻ると、
体を支えきれなくなったレイアを抱き上げてベッドへ向かう。
寝かせようと思いおろそうとするが、
ふいの口づけに腕がとまる。

「フィン。まだ、熱いの…」

熱に蕩ける瞳で乞うように私を見るレイアに、抑えた熱が戻ってくる。

「明日、辛くなっても知りませんよ」

レイアをベッドへおろしと、隣へ座る私の膝の上に迷わず向かい合うように跨る。

「鍛えてますから、ね?」

水音と共に入っていく自身を感じながら、甘い笑みを浮かべるレイアの頬へ口づけた。

「そうですね?」

どちらともなく唇を重ね、舌が絡まり、ゆっくりと深まっていく。

翌朝。
先に起きたので、互いに人間姿に戻っていることを確認し、レイアの寝顔を眺めていた。
目が覚めたレイアは羞恥で顔を赤くする。
体も思い出したように火照り始める。
考えた結果、朝食の後に極上の甘さを味わった。
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