人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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失う乙女は花と咲く

2.色づく日常

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休日の朝。
同じベッドに眠る無防備なリィト。
それだけで、とても幸せだ。
しかし、昨日のリィトを思い出すだすだけで下肢が熱くなる。
リィトに触れる最初と最後は俺だ。
危ない秘密の共有も悪くない。

「ん…」

「おはようございます」

「おはよう、ございます」

見つからないようにと、熱を散らした瞬間。
リィトが起きた。魔力を感知されたのかもしれない。
毛布から出ようとするリィトの様子に諦めて毛布をめくる。

「まりょく…」

「そうですね」

「どこ、ですか」

探す瞳の色には、別の色が混じっている。
俺は、リィトの手をとり、再び熱が宿る下肢へ触れさせる。
すると、リィトは色っぽいため息をついた。
俺は思わず喉が唸る。

「ここです」

「ほしい、です」

「のみますか?」

「はい」

迷いのない笑みには、妖艶さがある。
ますます高ぶり、
もう一度出さないと落ち着きそうにないくらい硬くなっている。

「かたい」

リィトはポツリと呟く。
指は俺の昂りを上下に擦っている。
うっとりと見つめながら、
物欲しそうに喉をならしている。
魔力が含まれるのは血だけではない。
リィトの中で眠っていた悪魔の血が、
俺の魔力と合わさって目覚めたのかもしれない。
生んだ両親すら気づいていない、
もしくは分からないふりをしているのだろう。
悪魔の両親いわく、
リィトの家系の始まりは元悪魔の人間なので、
先祖返りがいてもおかしくない…らしい。

「のんで、いいですよ。
服を脱いで、俺の顔を跨いでください」

「顔を?」

「はい」

戸惑いながらも、俺の下肢を見ると動いた。
目の前にある割れ目を開くと、極上の蜜が溢れてくる。
昂りの先を舐めているリィトを眺めていると、
秘部から蜜が足を伝うので、
雫の方から秘部へ向けて舌先ですくう。
そのまま、蜜が溢れるナカへ舌を入れ、
リィトが達した後の一滴まで飲んだ。
リィトは、取り込んだ魔力が多いのか、
理性が飛んだらしい。
体勢を戻してベッドによこになり抱きしめているが、
俺の首筋に甘噛みして続きを煽る。

「少しずつ、慣らさないとお互い辛いです」

「ぅ…ぁっ、奥が、熱い」

「しますか?」

快楽を求めるリィトは俺の言葉を合図に体勢を変え、
俺の手をとって自ら秘部へ誘導する。
まだ濡れているそこは、簡単に指を受け入れ、沈む。
慣れてきたようなので、
指の本数を増やしてかき乱すと、高い声をあげて達した。
何度も達して疲れたのか、
リィトはそのままベッドにうつぶせる。
熱に浮かされ、
肩で息をする姿に奥まで貫きたい衝動は抑える。

「お風呂、はいりますか?」

「ん…」

動こうとするが脱力してくたりとするリィトの腕を首に回して抱き上げた。
一瞬驚いたが、すぐに身を預けられる。
その心地よさを味わいながら、風呂場へおろす。
シャワーからぬるま湯を出すと、
心地良さそうにまぶたを閉じて目を細めた。

「自分でできますか?」

「はい」

再び見えた瞳は、人間らしく戻っていた。
理性的な話し方のリィトは、恥ずかしそうにうつむいた。
俺は立ち上がると浴室を出ようと思うが、
下から伸びてきた腕に服の裾を掴まれた。
その動作できる着替えが必要だと思う。

「着替え、脱衣場に置いておきます」

「あ…ヘィル、濡れてますから、一緒に」

言われて気づいた。おそらく湯を出したときだろう。
着替えればいいと思ったが、予想外の言葉に驚いた。

「誘っているんですか?」

「いえ。冷えると、思ってですね」

わざと、からかうように言った。
半分は願望、半分は単純に反応が見たかった。
すると、告げられた言葉。
俺は、その柔らかな声に驚いた。

「では、お言葉に甘えます」

面倒なのでその場で脱いでいると、
じっと見られていることに気づいた。

「面白いですか?」

「はい」

「触りますか?」

「え?あ…いえ、やめておきます」

俺の言葉に驚いた後、すっと目を剃らされた。
小さな声で断られるが、
時折横目に見てくる視線に悪戯心が芽生える。

「いいですよ。興味をもってもらえて、嬉しいです」

「で…は、少しだけ。いいですか?」

「はい」

シャワーから出るぬるま湯が床に落ちる音に、
浅く呼吸する音が混じっている。
触りやすいように座っている俺に触れる
リィトは少しと言っていたが止まらないまま、
俺の隅々に触れながら目を輝かせている。
そして、唇に指が触れた。

「口の中も…」

「いいですよ」

口をあけると、その指が入ってくる。
触診するように、隅々までを撫でる。
その指を舌でつつくと、びくんと体を揺らした。
指は慌てるように口から出ていった。

「気持ちいいですか?」

「え?」

「足に…これ、水ではないですよね」

俺は足に伝う水というには違和感があるそれをすくうように撫でる。
すると、一瞬に体が跳ねる。

「ぁ…っ、…は…っ、きもち、いいです」

「このまま、ベッドまで我慢できますか?」

「無理、です」

もどかしそうに足を擦り合わせるリィト。
伝う水は増えるばかり。
今にも泣きそうだ。

「では、ここでしますか」

「は、い…」

救われたような笑みを浮かべて、
膝に乗るよう示す俺の首に腕を回すリィト。
下肢を昂りへ押しつけながら自慰に夢中なリィトの背中を抱きしめる。
すると、嬉しそうに惚けたまま目を細める。
そして、俺の名を呼び、微笑んだ。

結局、出かけたのは夕方。
手を繋いで公園を歩いていると、
正面から歩いてくる手を繋いでいるランとリン。
俺をみて、顔を青くしながら手を離した。
心当たりがあるのだろう。
監視という役割を放棄しているのだから。
リィトは二人を気にとめず、風に揺れる木々を見ている。

「リィト」

「これは、その…」

何が気まずいのか、居心地が悪そうにうつむいているラン。
リンはずっと俺をみている。
名前を呼ばれてランを見るリィトは、首をかしげている。

「気にしていない」

「そ、そう?よかった」

「あ」

「なんだ?」

何か思い出したらしいリィトは、二人をじっと見ている。
気構えるランを守るように少し前に出るリンの姿に、
リィトが何か感じてもらえたらいいと思った。

「クレープパーティー。ヘィルも一緒でいい?」

「いいよ!もちろん。リィトの恋人なら大歓迎」

リンの背から顔を出したランは、
元気そうな声でそう言った。
そんなランをじっとみて、リィトは悩んでいる。

「どうしました?」

「私、今度、二人きりで、ランに聞きたいことがある」

言うように促すと、そっとつぶやいた。
ランは、その言葉に反応する。

「なに?私に分かること?」

「ランなら分かること」

「だったら、ランに任せて!
でも、よかったらパーティーの部屋の隅っこでいい?
男性たちには、クレープ焼いてもらってさ」

申し出が受け入れられたおかげか、
リィトはため息をついた。

「それでいい」

「わかった」

「リン。美味しいクレープを作りましょうね」

落ち着いたリィトの様子に安堵する。
リンは、ますます体を固くしている。
気持ちはわかる。
俺も上司と隣り合わせでクレープを焼くなんて、
できれば遠慮したい。

「はい」

青い顔でうなずくリンの動きは固い。
隣でランと話すリィトの声も固い。
おそらく、いつもこうなんだろう。
ランとリンは、そのことを気にとめていない。

「ラン、リン。
これからも、リィトと仲良くしてくださいね」

「「は、はい」」

ますます顔が青くなった二人の横を通りすぎる。

「リィト。
俺、クレープを食べたことがないので案内してもらえますか?
知らないと、作れません」

「確かに…案内します。
話が終わったら私も焼きますよ」

「ありがとうございます」

他愛ない話をしながら目的地へ向かう。
わずかに柔さのある声を聞きながら、
甘い香りが近くなる。
お店にあるメニュー看板が見えると、
何でもいいと言うリィトの分も決めて、
渡されたお金を預り、一緒に会計へ向かう。
店員の顔と名前に覚えはあるが、直接面識はないので、
あえて知らないふりをした。

「いらっしゃいませ」

「期間限定Aを二つ、お願いします」

「承知いたしました」

微笑ましい笑みと視線を俺に向ける店員は、
丁寧な所作で会計を済ませた。
出来上がったクレープの一つは、
見本よりも少ない気がする。
それをリィトに渡す。

「どうして…」

「見本通りでは、多いと思いまして。
ご友人の手前、完食されているようですが」

「おじいちゃん…」

驚いたままのリィトは、祖父と呼ぶ店員をじっと見ている。
イヴィさんは、リィトに優しい眼差しを注いでいる。

「可愛い孫のことくらい、分かりたいと思います。
好みそうな本があったから、また送りますよ」

「ありがとうございます」

リィトは、綺麗な礼をイヴィさんに向ける。

「リィトを、お願いします」

渡された焼きたてのクレープは、
少しだけ多い気がした。
リィトの減らした分がのっているくらいのわずかな増減。
自分勝手だが、
辛いものを分けあうことができる気がする嬉しさに、
心が温かくなる。

「はい。何があっても、必ず守ります」

俺の言葉に目を細めて笑うイヴィさんは、
俺とリィトに背を向けて閉店作業を始める。
ちょうど食べきったとき、
私服らしいイヴィさんが近づいてきた。

「いかがでしたか?」

「美味しかったです」

「ちょうどよかった」

その言葉を嬉しそうに聞いたその人は、
やはり目を細めて笑った。
ついでに本を渡したい、と案内された家。
門を過ぎると、大きな犬が駆けてきた。

「ヘル!」

その名前が俺と似ていて一瞬驚いた。
しかし、
リィトの視線は犬に向けられているので違うことがわかる。

「ヘルは、リィトが名付け親です。
学校へ行くまでは、親に連れられここに来ていました。
よく世話もしていて、よく一緒に本を読んでいました」

「そうでしたか」

「本を読むときだけは、年相応の子供のようでした。
その傍らに、いつもヘルの存在だけは許していた」

リィトを見守るその瞳はとても温かい。
楽しそうに庭で駆け回るリィトにとって、
ここがどういう場所か想像がついた。

「おじいさんとヘルさんは、リィトにとって癒しなんですね」

「え?」

なぜか、イヴィさんは驚いた。
俺はそれに驚く。
話の続きを促すような目に、言葉を続ける。

「本は、おじいさんが与えた物もあったはずです。
今もそうです。
それを身近に置いて、読むことを好んでいます。
それがどういう意味かは、おじいさん一番分かると思います」

「そう…ですね。私も…気づかなかった。
ありがとうございます」

「おじいちゃんー!」

遠くから聞こえる声に手を振り返す姿に俺は、考えた。
そして、言うなら今しかないと思った。

「あの…おじいさんに、お願いがあります。
俺、何があっても、と言いました。
でも、おそらく、一人で守るのは無理です。
リィトのために、何かあったら助けてほしいです。
あと、俺に守り方を教えてください」

「はい。
私にできることなら、遠慮なく言ってください。
リィトには、少しでも明るい場所で、
もっと楽しいことを知ってほしいんです」

俺の目をまっすぐ見ながら、
傷のある大きな手を差し出してくる。
俺はその手を迷わずとった。

「俺、ヘィルといいます」

「存じております。
この日が来るのを、待っていました。
私は、イヴィ。
リィトの両親からは嫌われていますが、
リィトが私を後見人に指名しました。
何かあれば私に聞いてください」

「わかりました。お願いします」

「こちらこそ、お願いします」

俺とイヴィさんは、呼ぶ声がする方へ一緒に走る。
魔犬のヘルさんは俺を見て一度吠えると、
足元へすり寄ってきた。

「ヘルが…珍しい。おじいちゃんも楽しそう」

驚くリィトにイヴィさんは、微笑む。

「おじいちゃん。
ヘィルさんとお友達になったんです。
志が同じ者と語り合える幸せを、リィトがくれました。
ありがとう」

「そうなんですか?よかった」

明るい声のリィトは、イヴィさんを見て微笑んだ。
俺は、この光景を守りたいと、心から思った。
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