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失う乙女は花と咲く
1.歪む世界
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私は、人より魔力が多いだけだった。
他人と違うのはそれだけ。
あとは、同じ。
人並みの好奇心と集中力。
よくある家庭。
武術を好む姉と兄、読書家の父親、愛情深い母親がいる。
末っ子の私は、よく気にかけてもらっていたと思う。
おかげで、色々なことを知った。
物事の造りに特に興味がでてからは、ますますだった。
痛みを伴うことだけは他人で試せなかったので、
誰にも秘密で、
痛みを我慢しながら服で隠れるところを選び、
自分の皮膚を小さく細く切っては直していた。
ある日、家の花瓶が割れたので直した。
壊れたものを直すことに成功した。
母親が初めて青い顔をした。
親不孝な四歳の誕生日だったかもしれない。
それからは、母親は常に何かに怯えるようになり、
過保護になった。
それからもあまり変わらない日常が続いた。
家の門かた外へ出るときは、誰かが一緒。
五歳になって、
家庭教師にも勉強を教わるようになった。
学校に行くことはなく、中等教育を終えた。
社交は、家に招かれるお客様で練習するように言われ続けていた。
ある日、お客様のお連れ様が怪我をしたらしい。
医務室の椅子で本を読んでいた私は、
医者がどこかへ行った隙に患者を見た。
挨拶をすると、涙を浮かべた少年は、
懸命に挨拶を返してくれた。
私は、少年の痛みを癒したいと思った。
同じくらい、初めて見る人間の傷の中身に興奮した。
自分を含めて、軽度の切り傷しか見たことがなかった。
腕を見る。
深く広い傷になる前を想像する。
目の前にある体格と、
両親から聞いていたお連れ様の名前と年齢を思い出す。
人体の構造は性別や年齢を問わず、知っている。
いけないとは分かっていたが、魔法を使った。
目の前で直っていく様に驚いた。
医者が戻ってくる足音に、急いで元いた場所に座る。
少年の傷がないことに驚いた医者は、父親をすぐに呼んだ。
少年を見た父親は、すぐにその場にいた私を見た。
一瞬、恍惚を浮かべて"ヴァーレン"と呟いた気がした。
それから、私の日常は変わった。
家にある地下室で、勉強の一つだと言う父親の通りに、
たくさんの人間を直した。
両親の言うことを聞かなければ罰を与えられながらの勉強と武術。
おじいちゃんとヘルと読書だけが、癒しの日々。
ついに、家庭教師では教えることに限界があると言った父親は、
私に学校へ行くよう言った。
そして、すでに婚約者がいるので、
魔法を使い過ぎないことと、
純血を守るように…と決まりを告げた。
初めての学園生活が、十八歳の贈り物だった。
信号は赤。
法律は、止まれ。知ってるけれど、足は動きだす。
ふらっと揺れた体は、そのまま落ちる。
ふと、隣から肩と腕を掴まれる。
「リィト。まだ信号、赤だよ」
「あ、ごめん」
「本当にね。運転手が大変だから」
ため息をつく高い声。
腕に寄せられている柔らかい感触。
信号が青になり、歩き始める。
足音が三つ聞こえる。
「寝不足か?」
「まあ」
肩から離れた固い感触。
上から聞こえる低い声には不安が滲んでいる。
曖昧に返事をすると、ため息が聞こえた。
「ご飯は?」
「食べた」
「何を?」
疑うような声は、曖昧さを許す気配がない。
「水」
正直に答えると、ため息が二つ。
「ラン、鳥の親ってこういう気分なのかな」
「同感。そうかもしれないね」
「あれ、なんだったか?昨日食った甘いやつ」
何かを思い出しきらないリンが、
ランに何かを聞いている。
「クレープ?」
「そうそう。今日は、安いんだろ」
「確かに。行こう。
リィト、あと十種類くらでメニューコンプだよ」
楽しそうなランが私を見ている。
何が良いのかは分からないが、
ランとリンは気合いが入っている。
「そう」
「ラン、期間限定を忘れていないか?」
「あー、それ言わないでよね。
見ないことにしてるのに。ね、リィト」
「キリがない」
「そうそう。
ということだから、定番を食べたらコンプなのよ」
てきとうに返すと、ランは嬉しそうに笑った。
「はいはい」
リンは呆れたように笑いながら、
決まった行き先に向かって歩き続ける。
だんだんと甘い香りが漂い、根元に着く。
手早く私のお金を預かって、
席の守りを私に任せて二人は買いにいった。
空いている適当な席に荷物置いて待っていると、
甘い香りをまとわせながら戻ってきた。
「これ。リィトは期間限定の」
「ありがとう」
手渡されたクレープには、
果物ではなく野菜や肉が巻いてある。
甘辛そうな醤油の香りがする。
「美味しい?」
「うん」
「そっか」
ニコニコと満足そうにしたランは、
自分のクレープを食べ始めた。
「それ、生地と具材を変えたら酒のつまみにならないか?」
「なるかも!今度しよう」
おそらく、私が持っている商品のことだろう。
二人は次の予定が決まったらしい。
楽しみがあるのは良いことだと思う。
「リィト。私関係ないですーって思ってる?」
「酒のつまみになるか確認するためには、
リィトが必要だからな。冷蔵庫の、飲んでいい?」
「いいよ」
どうやら、私も参加しなければいけないらしい。
返事をすると、二人は賑やかに話している。
私は、手にある品物を食べきる。
夕食はいらないと思う。
お腹いっぱいだ。
「帰る」
「私も。お腹いっぱいー」
「俺も。やることあるし」
席を立ち、片付けるとその場を去る。
二人とは、学生寮の入り口で別れた。
部屋に戻ると、鍵をしめる。
上着を脱いでハンガーへかける。
冷蔵庫から缶の酒を出すと、
ふたを開けてそのままゆっくりと飲み干す。
不健康だとよく言われるが、
私にはあまり関係がない。
寿命が決まっているのだから、
好きにすればいいと思っている。
ソファーに座り、読みかけていた本を開く。
決めていたところまで読み終えると風呂へ入り、水を飲む。
連絡用端末は着信があることを知らせる光が点滅している。
確認すると、クレープパーティーの日程がメッセージで送られていた。
返事は明日でいいと思い、やることを終わらせ、そのまま眠る。
翌朝。早く目が覚めたので、
かなり早いが着替えて学舎へ向かう。
まだ人の気配がない教室へ入ろうと歩いていると、
遠目に二人を見つけた。
声をかけようと思ったが、やめることにする。
引き返して別の方向に行く。
図書館で時間を潰し、人が賑わう教室で、
いつものように声をかけられた。
当たり前のようにランの隣に座る。
授業が終わると、またそれぞれの授業へ向かうため別れた。
ランに寄り添うように歩くリンと、
それを照れながらも受け入れているランが遠くなる。
昼食になると、
なぜか居場所をいっていないのに現れる二人と食事を済ませて、
再び授業へ向かう。
放課後になり、部活動へ行く二人を見送る。
学舎の門を出ると、珍しい人がそこにいた。
「リィト。来なさい」
「はい。お母さん」
ついていくと、喫茶店に入った。
適当に注文をされ、待っていると二つの珈琲が運ばれてきた。
店員が去ると、飲み物に手もつけず、私を見る。
「約束は守っているようですね。
近日、あなたの隣に住む男性と慣らしておくように。
婚約者とはいえ、卒業までは…わかっていますね」
無機質な声は、確認と牽制をするように私を見つめる。
黒く深い闇を思わせるような瞳には、慈愛が漂っている。
「はい」
「卒業した後も予定通りです。忘れないでください」
「はい」
柔い笑みを浮かべると、出された飲み物を飲むようにその手が促す。
そして、ほぼ同時に一口を飲み、カップを置く。
そのまま、席を立つと、母親は去っていく。
遠くで会計が済む音がした。
出ようとすると、視界に楽しそうな様子が見える。
「グロッサムさん。これ、美味しいです」
「ファレンさん、これも美味しいです。
隣町にこんなお店があるなんて、知りませんでした。
いつもこういう命令なら、楽しいです」
「そうですね」
仕事のようだが、その声色に緊張感はない。
どちらも食べ物に夢中な方を交互に見つめていて、
目が合うと頬を染めながら、
無言で見つめ合っている。
まるで恋人のようだ。
一組の男女から聞こえる初々しい様の横を過ぎ、
私も店を出ると、
遠くにある反対側の道路にランとリンが歩いている姿が見えた。
いつもと違う雰囲気で、手を繋いでどこかへ向かっている。
興味はないので、そのまま学生寮へ戻る。
途中、男性が下心を隠さない笑みで私に近づくが、
どこからか現れた女性と共にどこかへ行った。
私はそのまま部屋に戻った。
鍵をしめると、短い廊下を歩いて台所へ行き、
冷蔵庫を開けて酒を出す。
一気に喉へ流し込み、まだ中身が残っている缶を台へ置く。
ついでに飲み干すと、洗って捨てる。
風呂へ入り、必要な勉強だけして寝た。
明日は休日なのでゆっくりできるだろうと、思った。
翌朝。端末が着信を知らせる音で目が覚める。
知らない番号に戸惑うが、
出ると知らない男性の声がした。
「おはようございます。
リィトさんが卒業まで隣に住むヘィルです。
できるだけ、リィトさんの傍にいるように言われています。
今から行っていいですか」
「はい」
通信はすぐに切れた。同時に、玄関が叩かれる。
「はい」
「おはようございます」
通信の声と同じ音がする。
玄関を開けて、中へ入れる。
すぐに鍵をしめて、椅子へ座るよう促した。
私は台所へ行き、飲み物を来客へ出すため、
ランが置いていったお菓子と紅茶の葉を使うことにした。
「聞いていた通りですね」
お菓子と淹れたての紅茶を置くと、
柔らかく微笑むヘィルさんが言う。
「そうですか」
「あれ。それだけ?
もしかして、俺のこと、覚えてない?
これでも婚約者なんだけど」
部屋を見渡した後、私の反応に驚いたのか、
少し寂しそうにヘィルさんは言った。
「婚約者とは聞いています。
申し訳ないですが、覚えがありません」
「そうですか。
どこで会ったか、誰に、
どこまで聞いたか聞かないんですか?」
「聞いてほしいなら」
私の言葉に、
花が咲いたような笑みを浮かべたヘィルさん。
その後、出した紅茶を一口飲んだ。
「聞いてくれるんですね。
ご両親から、そして、うちの監視員から
リィトさんの日頃の様子は聞いています。
俺も、見ていました。
初めて会ったのはリィトさんの家です。
俺、小さい頃に傷を治してもらったことがあります。
おそらく監視と口封じを兼ねて、婚約者に選ばれましたが、
俺としては一目惚れの女性を伴侶にできるので嬉しいです」
少し早い口調で興奮ぎみに告げられた話に納得した。
傷があった腕を見せてくる。そこには何もない。
言われて思い出す。
顔は覚えていないが、あの傷は忘れるはずがない。
思い出すだけで、気が高揚する。
今思えば、最初で最後の大きな揺らぎだった。
「名前と傷は、覚えています」
「そうですか。俺は、全てを覚えています。
大丈夫って泣きそうな顔も、傷を見たときに染まった頬も。
一目で惚れました。
そのあとも何度か会ったことがありますが、
日に日に色が消えていった表情と瞳も、
今も、愛しています」
ヘィルさんは、嬉しそうに語る。
いつの間にか空になった紅茶。
ポットの中に中身があったのを思い出す。
「そうですか。おかわり、いりますか?」
「ありがとうございます。
おかわりをいただけるなら、紅茶ではなく」
言葉が切れたと同時に感じる手に触れられた温かさ。
ゆっくりと、しかし確実に絡めとられて交わる指先。
思わず、ヘィルさんを見る。
初めてのことに、心臓が早くなる。
「驚いてる。
俺だから?それとも、不慣れだから?どっちでもいいか。
今から慣らしておけってことで、実行しますよ」
指がするりと離れると、
席を立ったヘィルさんは私に近づいて微笑む。
ベッドへ行くのかと思ったが、動く様子はない。
「なにを、ですか」
「なにから、始めますか?」
私を試すような視線は、目から離れない。
何から。
と、言われて思い出したのは手を繋いで歩いていたランとリン。
あれは、男女交遊が描かれた物語にあったものとよく似ていた。
「一緒に、出掛けてください」
「デートですか。いいですよ。
さっそく、行きますか。良い天気です。
部屋にこもってばかりでは、もったいないです」
「はい」
結果、待ち合わせから始めることになった。
私の部屋の前で…と言われた。
昔、母親が買ってくれた場面別の服装指南書を思い出す。
母親が与えてくれた服や飾りの中から理想の姿に近いものを選び、
唇に薄く紅をひく。
玄関を開けるとすでにヘィルさんはいた。
私の姿をみて、嬉しそうに微笑む。
「俺のために、着飾ってくれたんですね。嬉しいです」
腕をひかれると、そのまま抱き寄せられた。
温かい、と思った。
その胸に身を寄せると、あ…、と聞こえる。
そして、ゆっくりと離される。
「急にごめんなさい。嬉しくて、つい。
どこか行きたい場所はありますか?」
そう言われても分からない。
自分には関係ないと思っていて、
そういう観点で街を見たことがない。
こんなことなら、ランに詳しく聞いておくのだったと思う。
今は、正直に言うしかない。
「分かりません」
「ランさんやリンさんは教えてくれなかったんですか?」
不思議そうな顔で、
当然のように聞いてくる。
ランやリンは、監視役だと知っているのかもしれない。
「見せて、くれました。偶然かもしれませんが。
手を繋いで、どこかへ行っていました」
「そうですか。俺の従者、少しは役に立ってますね。
よかった。朝ごはん、食べてないですね。
喫茶店へ行きますか?」
一瞬、黒い何かが見える笑みが見えた。
しかし、すぐに消えた。柔らかな笑みで、私を食事へ誘う。
正直どちらでもいいが、本来は食べるべきだと知っている。
「はい」
「手を繋ぎますか?」
「そうですね」
私が手を差し出すと、ヘィルさんは小さく笑った。
そして、ふわりと包まれるように繋がれる。
やはり、温かい。
人通り少ない街を歩き、喫茶店に入ると、
なんでもいいので同じものを注文した。
お腹を満たすと眠くなる。
帰りたいが、今日はそうもいかない。
「少し、歩きますか?」
「はい」
店を出ると、再び手を繋がれた。
なんとなく、安心した。
それに、敵意を感じない。
部屋に入れたのは、婚約者という理由だけではない。
そして、気づく。
おそらく、私とヘィルさんの魔力は相性が良い。
傷痕が残っていないのも、そのせいだろう。
結局、行きたい場所は分からなかった。
一緒に歩いて部屋に戻ると、私もヘィルさんも上着を脱いだ。
そして、椅子ではなく三人用のソファーに、隙間なく座る。
そろそろ、眠気が限界にきている。
が、寝るわけにはいかない。
「眠いですか」
「そうですね」
明らかにわかっているようなので、認めることにした。
今日は帰ってもらおう。
「俺も眠いので、よければ一緒に昼寝しますか?」
その言葉は意外だったが、母親の言葉を思い出す。
「はい」
同じベッドかと思ったが、
ヘィルさんは迷わずソファーへ向かう。
「では、俺はこのソファーで眠ります。
ありがとうございます。
眠る前に一つ、お願いがあります」
「なんですか?」
「名前です。
さん付け、やめませんか?
俺にとっては大切なことなので、
慣れてほしいです」
「わかりました。ヘィル」
「ありがとうございます。リィト」
少し離れているはずなのに、
はっきりと聞こえた声に緊張した。
その音は、とても優しい響きだった。
なんとなく怖くなり、
思わず逃げるようにベッドへいき、毛布をかぶった。
しかし、眠気はいつの間にか去っていて、
戻ることを期待してベッドに入ったが無理だった。
その原因を作った人は、おそらく眠っている。
ソファーと服が擦れる音がした後、
音がしなくなった。
夕刻。
結局、一睡もできなかった。
そろそろ食事の時間なので帰ってもらおうと、
ソファーに向かって歩き、横向きに眠るヘィルを表面に見る。
ひざを折り目線の高さを近づけるが、
ヘィルは眠ったまま。
よく見ると寝不足を示す目元。
起こすのをためらう気持ちが生まれるが、
時間は時間だ。
「起きてください」
「り、と」
呼ばれた瞬間、伸ばされた腕に引き寄せられた。
急に近づく体温に驚く。
解こうとするが無理だった。
本当に眠っているのか分からないくらい、腕の力が強い。
「起きてください」
「りぃと」
呼びかけると、柔らかな声が私を呼んだ。
耳の奥までぬけていく響きに、
思わず息が止まった。
一瞬だった。
深く息を吐き、つまった空気を外へ出す。
今はヘィルを起こさなければいけない。
「ヘィル。起きてください」
「リィト」
それは、明らかに意思のこもった声だった。
甘えるような、嬉しそうな、しっとりとした音は、
耳を通じて体へ電流を巡らせる。
「へ、ぃる。起きていますね」
「今、起きました」
「腕を解いてくださ…ぁっ、なに、を」
ふいに首筋へ触れた感触に驚いた。
甘く柔く噛まれるたび、
触れられたところが疼き、電流が生まれ、流れていく。
本で読んだことがあるだけの知らない感覚に怖くなる。
「…ん、…これで、いいか」
「何が、ですか」
「…俺、試されている?」
「何を、試すのですか。それより、腕を」
いいから早く解いてほしい。
何かを抑えるような唸る声が、なぜか心地よい。
このままでもいいと思ってしまう。
「俺と同じようにしてくれたら、離す」
「わかりました」
思い出すと再び首筋が疼く。
ためらっていると、手本を見せるように、
甘く噛まれた。
わずかだが、血が流れた香りもする。
血を吸われたことに驚き、思わず目を閉じた。
「こう…して?」
「…わかりました、から、やめて…っ」
耳から注がれる色っぽい音と、
疼く噛み痕にたえながら、必死に目を開ける。
目の前にある無防備な首筋を意識した瞬間、
ふと、甘い香りがする。
思考は鈍っていき、手本だけが脳裏に浮かび、
目の前にある肌に歯を立てた。
肌を食いやぶると感じる水はとても甘く、
少しだけでは物足りなくなる。
「まだ、ほしいですか?」
手本止まりの私に、甘い声が注がれる。
不安もあるが、おかしいと分かっていても、やめられない。
「ほしい、です」
「俺も。いいですか?」
ヘィルも同じなことに安心した。
おかしいとしても、一人ではない。
本人が許したなら、いいだろう。
「はい」
ヘィルは嬉しそうに小さく笑い、再び血を吸い始める。
私も我慢ができずに、噛み痕から流れる血を舌でなめ、
痕へ吸いついた。
どれくらい時間が経ったのか、わからない。
すっかり熱い体は力が入らず、気づけば、
いつの間にかソファーの上に寝かされていた。
覆いかぶさるヘィルは、私を見ている。
「リィト。辛そうですね」
「ヘィル…っ、私、おかしいです。
血をのんで、興奮するなんて…病かもしれない」
「病?本に書いてありましたか?」
私の頬を撫で、そのまま噛み痕へ口づけられた。
軽く吸われた感覚で飲み干した甘さを思い出し、
さらに熱は上がるばかり。
「今まで、読んだ本には…ぁっ、ないから言っています…っ」
「俺に触れられて、興奮、しているんですね」
「…あっ、やめ、て、…っ、くださ…ぃっ」
「俺、この症状を知ってます。
婚約者の役割でもありますから、手当しますよ?」
知っているなら、と思った。
婚約者だから、いいと思った。
早く、直してほしい。
口づけられるたびに疼く体は、明らかに異常だ。
「手当、してください。従いますから」
「はい。いいと言うまで、目を閉じてください」
目を閉じると、あっという間に服が乱され、
胸から腹の一部が空気にさらされる。
肌を撫でる冷たい室温が心地よい。
熱をだすように息をはく。
「リィト。口をあけてください」
言われたとおりに少し口をあけると、
上唇に柔らかいなにかが触れた。
そして、口の中に大きな熱い何かが入ってくる。
怖くて逃げようとするが、なだめるように絡めとられた。
しだいに怖さはなくなって、
優しく撫でられる感覚に身を預ける。
出ていくのが名残惜しく思った。
同時に、下腹部の奥へたまる熱に違和感を覚える。
初めて直される側になったので、
これが異常なのか、わからない。
「…っ、リィト、熱が穏やかになりましたね」
「……ぁ、は、い。もう、いいです」
「そうですか。目を開けてください」
服が整えられる音がとまると、言われるまま目を開ける。
「次は、散歩に行きます」
「はい」
ヘィルに手をひかれてきたのは、公園だった。
夜へ向かう夕の空を眺めながら歩いていると、
聞いたことのある声がした。
「ランとリンですね。気晴らしに会いますか?」
「はい」
声の方へ近づくと、違和感があった。
苦しそうな声にならない音が雑じる声に、不安になる。
「苦しそうです」
「様子を見に行きますか?」
「はい」
不安をなくすため、迷わず返事をする。
行った先には、交わる男女がいた。
繋がる下肢からは水が落ちている。
私たちに気づく気配はない。
「もう、だめ…っっ!んっぁ、ね…っ、…っ」
「嘘はいけないな。しっかり食いついている」
「だって…っ、ね…っ、イかせて?はや、く…っんっぁあああ!!」
くたりとしたランを優しく抱えるリン。
愛おしそうに頬へ口づけ、
ランはそれを嬉しそうに受け入れている。
本ではない、初めて肉眼で見る光景に目が離せない。
ふと、繋がっている手をひかれた。
「帰りますか。あれは、忘れてください。
外で行為に及ぶのは犯罪ですからね」
「はい」
「顔が赤いですね。俺の部屋に来てください。
様子を見ます」
「お願いします」
その手にひかれ、ヘィルの部屋へきた。
ソファーへ案内されると、
座った私の前に膝をつき、私の額や頬へ触れる。
その温かな手に、なんとなく、安心した。
「違和感があるところは、ありますか?」
「ここの奥に、熱がたまって…ぬけなくて、おかしいです」
優しい声に、辛さをはく。
腹に手をあて、異常を伝える。
すると、ヘィルは何か考えるように唸った後、深く息を吐いた。
「では、スカートの裾を持ち上げて、
足を開いてください」
言われたとおりにすると、ヘィルはじっと私を見る。
他人のそこは見たことがあるが、
自分のそれは身を清めるときしか触れないところを。
婚約者とはいえ、少し恥ずかしい。
「いいですよ。とじてください。
で、俺の膝の上へ、俺に背中を向けて座ってください」
その言葉に驚くが、手当に必要なら仕方ないと思い、
言うとおりにする。
膝にのると、ヘィルの片腕が私を抱えて身動きが取れなくなる。
「ヘィル?」
「足をひらいてください」
「こう、ですか?」
「はい。たまった熱を出します」
熱が出る。
そう聞いただけで、わずかな羞恥は消えた。
婚約者だから、いい。
力が抜けた瞬間、
自分でもあまり触れないそこに、ヘィルの指が触れた。
「!…っ、ヘィル?なにを?」
手当とはいえ怖くなり、その手を止めた。
すると、ヘィルは戸惑う表情を浮かべ、指は離れた。
「なにって、自慰…したことない?」
「じ、い?なんですか?」
「リィト…わかりました。今からすること、
覚えてくださいね」
穏やかな声に耳を傾けていると、
ふいに首筋を吸われる。
その感覚から逃げようとするが、
ますます動けないように力が強くなる。
「ヘィル?…ぁっ、なに、や、ぁ…っ!こわ、ぃ…っ」
「俺が傍にいます。怖いときは言ってください」
「わかり、ました」
そっと触れられた頬から首筋へ口づけが落ちるたび、
体の力がぬけていく。
再び体中が火照り始めて、苦しくなった。
「へぃる…また、熱が」
「俺が触れると、こうなるみたいですね。
リィト、目を閉じて、口を開けてください」
少し体を動かして、
言われたとおりにヘィルに向けて口を開ける。
すると、同じように熱が入ってくる。
魔力が交わるたび、体の火照りは穏やかになる。
しかし、腹の奥にある違和感は増したが、
女性の象徴を撫でている何かが触れるたび、
違和感も穏やかになる。
口の中から熱がなくなると、ついに体の力は抜けきっていた。
しかし、今度は違う知らない感覚に戸惑う。
「リィト。具合はどうですか?」
「は、い…っ、熱は穏やかで、でも、変です…っ」
「変?痛いですか?」
「痛くない、です…っ、ぁっ、そこ、いや……ん、ぁっ!」
その何かがヘィルの指だと気づくが、
探るようにゆっくりと動くそれがどこかへ当たった瞬間、
意識が飛びそうになった。
「ここですか」
なぜか嬉しそうな声が肩越しに聞こえる。
嫌だと言ったところの周囲に触れられ、
私はだんだんと遠のく意識を放した。
再び時間を認識したのは、
ヘィルが首筋から血を吸っていたときだった。
「へぃる?」
「リィト。美味しそうなので、つい、
勝手に吸ってしまいました。
俺のも吸ってください」
「はい」
失われた血を戻すため、
重い体を動かして示されたところへ吸いつく。
少しずつ、吸うたびに足りないものが満たされる感じがした。
「怖かったですか?痛みますか?」
「わかりません。意識が遠くにいってしまって。
痛みはありません」
質問されて、思い出す。
すると、再び疼きだす腹の奥。
それに気づいたのか、ヘィルはじっと私を見る。
「疼きますか?」
「はい。どうして…っ、ぁ、ぅん…そこ、は…ぁっ!」
気づけば指が入っていて、ナカを優しく擦っている。
触れられると熱が散ることを知ったので、
痛みがないことを確認しながら、
指に擦りつけるように動く。
「痛みますか?」
「いいえ…っ、でも、なにか、奥から…ぁっ、あふれて…っ」
「それは、気持ちいい証です」
「これ、が…っ、ぁっ、気持ち、い、い…っ?」
「はい。そのまま、思うように動いてください」
「ぁ、んっ、…っ、奥、だめ!純潔は…ぁっ、あっ!」
動くたび、水の音がする。
痛くない。
熱いのに心地よい。
初めての感覚を夢中で味わっていると、
いつの間にか深くまで指を入れたことに気づいた。
慌てて抜こうとするが、擦れると力がぬけてしまう。
「純潔は初夜までとっておきます。だから」
言葉を切られて、指もぬかれて。
ふと、背中から温もりも離れた。
戸惑っていると、体の向きを変えられた。
「続きは、これを…一緒に気持ちよくなりたいです。
避妊はしますから、遠慮なく擦りつけてください」
「ぁ…はい」
目の前に見えるのはそそり立つ男の象徴。
そこへ誘導されるとおりに、濡れているところを当てる。
初めて見たわけではないのに、初めてみるような高揚感。
婚約者が私に触れて昂っていると思うと、
言い表せない感情がこみ上げる。
「そう、ゆっくりでいいです」
「これが、ヘィルの…」
「はい。初夜までに少しでも触れて、
慣れてください」
「はい…っっ」
ふいにヘィルが動いた。
塞がれた唇と口の中にある熱が、
何をしているか教えてくれた。
熱の正体がヘィルの舌だと気づくと、
ますます熱く、穏やかに温度が上がる。
体のすべてで心地よい魔力に触れている感覚に浸り、
意識が落ちるまで貪った。
繊維と肌が擦れる音で目が覚めると、見慣れない天井。
自分を見ると、着ていた服と違うことに気づいた。
「ここ、は…」
「リィト。勝手に着替えさせて、ごめんなさい。
皺ができるといけないと思ったので…。
体の具合はどうですか?」
ヘィルは私をじっと見下ろしている。
どうやら私は抱きしめられている、らしい。
身動きが取れない。
「いえ。服、ありがとうございます。
体は、少し怠いですけど、寝れば治ります」
「そうですか。よかったです。
明日は休みですから、ゆっくりおやすみなさい」
「おやすみなさい」
眠る直前にかけ直された毛布で、
いまさらながら、ここがベッドだと気づく。
分かったところで何もできないので、
そのまま眠った。
他人と違うのはそれだけ。
あとは、同じ。
人並みの好奇心と集中力。
よくある家庭。
武術を好む姉と兄、読書家の父親、愛情深い母親がいる。
末っ子の私は、よく気にかけてもらっていたと思う。
おかげで、色々なことを知った。
物事の造りに特に興味がでてからは、ますますだった。
痛みを伴うことだけは他人で試せなかったので、
誰にも秘密で、
痛みを我慢しながら服で隠れるところを選び、
自分の皮膚を小さく細く切っては直していた。
ある日、家の花瓶が割れたので直した。
壊れたものを直すことに成功した。
母親が初めて青い顔をした。
親不孝な四歳の誕生日だったかもしれない。
それからは、母親は常に何かに怯えるようになり、
過保護になった。
それからもあまり変わらない日常が続いた。
家の門かた外へ出るときは、誰かが一緒。
五歳になって、
家庭教師にも勉強を教わるようになった。
学校に行くことはなく、中等教育を終えた。
社交は、家に招かれるお客様で練習するように言われ続けていた。
ある日、お客様のお連れ様が怪我をしたらしい。
医務室の椅子で本を読んでいた私は、
医者がどこかへ行った隙に患者を見た。
挨拶をすると、涙を浮かべた少年は、
懸命に挨拶を返してくれた。
私は、少年の痛みを癒したいと思った。
同じくらい、初めて見る人間の傷の中身に興奮した。
自分を含めて、軽度の切り傷しか見たことがなかった。
腕を見る。
深く広い傷になる前を想像する。
目の前にある体格と、
両親から聞いていたお連れ様の名前と年齢を思い出す。
人体の構造は性別や年齢を問わず、知っている。
いけないとは分かっていたが、魔法を使った。
目の前で直っていく様に驚いた。
医者が戻ってくる足音に、急いで元いた場所に座る。
少年の傷がないことに驚いた医者は、父親をすぐに呼んだ。
少年を見た父親は、すぐにその場にいた私を見た。
一瞬、恍惚を浮かべて"ヴァーレン"と呟いた気がした。
それから、私の日常は変わった。
家にある地下室で、勉強の一つだと言う父親の通りに、
たくさんの人間を直した。
両親の言うことを聞かなければ罰を与えられながらの勉強と武術。
おじいちゃんとヘルと読書だけが、癒しの日々。
ついに、家庭教師では教えることに限界があると言った父親は、
私に学校へ行くよう言った。
そして、すでに婚約者がいるので、
魔法を使い過ぎないことと、
純血を守るように…と決まりを告げた。
初めての学園生活が、十八歳の贈り物だった。
信号は赤。
法律は、止まれ。知ってるけれど、足は動きだす。
ふらっと揺れた体は、そのまま落ちる。
ふと、隣から肩と腕を掴まれる。
「リィト。まだ信号、赤だよ」
「あ、ごめん」
「本当にね。運転手が大変だから」
ため息をつく高い声。
腕に寄せられている柔らかい感触。
信号が青になり、歩き始める。
足音が三つ聞こえる。
「寝不足か?」
「まあ」
肩から離れた固い感触。
上から聞こえる低い声には不安が滲んでいる。
曖昧に返事をすると、ため息が聞こえた。
「ご飯は?」
「食べた」
「何を?」
疑うような声は、曖昧さを許す気配がない。
「水」
正直に答えると、ため息が二つ。
「ラン、鳥の親ってこういう気分なのかな」
「同感。そうかもしれないね」
「あれ、なんだったか?昨日食った甘いやつ」
何かを思い出しきらないリンが、
ランに何かを聞いている。
「クレープ?」
「そうそう。今日は、安いんだろ」
「確かに。行こう。
リィト、あと十種類くらでメニューコンプだよ」
楽しそうなランが私を見ている。
何が良いのかは分からないが、
ランとリンは気合いが入っている。
「そう」
「ラン、期間限定を忘れていないか?」
「あー、それ言わないでよね。
見ないことにしてるのに。ね、リィト」
「キリがない」
「そうそう。
ということだから、定番を食べたらコンプなのよ」
てきとうに返すと、ランは嬉しそうに笑った。
「はいはい」
リンは呆れたように笑いながら、
決まった行き先に向かって歩き続ける。
だんだんと甘い香りが漂い、根元に着く。
手早く私のお金を預かって、
席の守りを私に任せて二人は買いにいった。
空いている適当な席に荷物置いて待っていると、
甘い香りをまとわせながら戻ってきた。
「これ。リィトは期間限定の」
「ありがとう」
手渡されたクレープには、
果物ではなく野菜や肉が巻いてある。
甘辛そうな醤油の香りがする。
「美味しい?」
「うん」
「そっか」
ニコニコと満足そうにしたランは、
自分のクレープを食べ始めた。
「それ、生地と具材を変えたら酒のつまみにならないか?」
「なるかも!今度しよう」
おそらく、私が持っている商品のことだろう。
二人は次の予定が決まったらしい。
楽しみがあるのは良いことだと思う。
「リィト。私関係ないですーって思ってる?」
「酒のつまみになるか確認するためには、
リィトが必要だからな。冷蔵庫の、飲んでいい?」
「いいよ」
どうやら、私も参加しなければいけないらしい。
返事をすると、二人は賑やかに話している。
私は、手にある品物を食べきる。
夕食はいらないと思う。
お腹いっぱいだ。
「帰る」
「私も。お腹いっぱいー」
「俺も。やることあるし」
席を立ち、片付けるとその場を去る。
二人とは、学生寮の入り口で別れた。
部屋に戻ると、鍵をしめる。
上着を脱いでハンガーへかける。
冷蔵庫から缶の酒を出すと、
ふたを開けてそのままゆっくりと飲み干す。
不健康だとよく言われるが、
私にはあまり関係がない。
寿命が決まっているのだから、
好きにすればいいと思っている。
ソファーに座り、読みかけていた本を開く。
決めていたところまで読み終えると風呂へ入り、水を飲む。
連絡用端末は着信があることを知らせる光が点滅している。
確認すると、クレープパーティーの日程がメッセージで送られていた。
返事は明日でいいと思い、やることを終わらせ、そのまま眠る。
翌朝。早く目が覚めたので、
かなり早いが着替えて学舎へ向かう。
まだ人の気配がない教室へ入ろうと歩いていると、
遠目に二人を見つけた。
声をかけようと思ったが、やめることにする。
引き返して別の方向に行く。
図書館で時間を潰し、人が賑わう教室で、
いつものように声をかけられた。
当たり前のようにランの隣に座る。
授業が終わると、またそれぞれの授業へ向かうため別れた。
ランに寄り添うように歩くリンと、
それを照れながらも受け入れているランが遠くなる。
昼食になると、
なぜか居場所をいっていないのに現れる二人と食事を済ませて、
再び授業へ向かう。
放課後になり、部活動へ行く二人を見送る。
学舎の門を出ると、珍しい人がそこにいた。
「リィト。来なさい」
「はい。お母さん」
ついていくと、喫茶店に入った。
適当に注文をされ、待っていると二つの珈琲が運ばれてきた。
店員が去ると、飲み物に手もつけず、私を見る。
「約束は守っているようですね。
近日、あなたの隣に住む男性と慣らしておくように。
婚約者とはいえ、卒業までは…わかっていますね」
無機質な声は、確認と牽制をするように私を見つめる。
黒く深い闇を思わせるような瞳には、慈愛が漂っている。
「はい」
「卒業した後も予定通りです。忘れないでください」
「はい」
柔い笑みを浮かべると、出された飲み物を飲むようにその手が促す。
そして、ほぼ同時に一口を飲み、カップを置く。
そのまま、席を立つと、母親は去っていく。
遠くで会計が済む音がした。
出ようとすると、視界に楽しそうな様子が見える。
「グロッサムさん。これ、美味しいです」
「ファレンさん、これも美味しいです。
隣町にこんなお店があるなんて、知りませんでした。
いつもこういう命令なら、楽しいです」
「そうですね」
仕事のようだが、その声色に緊張感はない。
どちらも食べ物に夢中な方を交互に見つめていて、
目が合うと頬を染めながら、
無言で見つめ合っている。
まるで恋人のようだ。
一組の男女から聞こえる初々しい様の横を過ぎ、
私も店を出ると、
遠くにある反対側の道路にランとリンが歩いている姿が見えた。
いつもと違う雰囲気で、手を繋いでどこかへ向かっている。
興味はないので、そのまま学生寮へ戻る。
途中、男性が下心を隠さない笑みで私に近づくが、
どこからか現れた女性と共にどこかへ行った。
私はそのまま部屋に戻った。
鍵をしめると、短い廊下を歩いて台所へ行き、
冷蔵庫を開けて酒を出す。
一気に喉へ流し込み、まだ中身が残っている缶を台へ置く。
ついでに飲み干すと、洗って捨てる。
風呂へ入り、必要な勉強だけして寝た。
明日は休日なのでゆっくりできるだろうと、思った。
翌朝。端末が着信を知らせる音で目が覚める。
知らない番号に戸惑うが、
出ると知らない男性の声がした。
「おはようございます。
リィトさんが卒業まで隣に住むヘィルです。
できるだけ、リィトさんの傍にいるように言われています。
今から行っていいですか」
「はい」
通信はすぐに切れた。同時に、玄関が叩かれる。
「はい」
「おはようございます」
通信の声と同じ音がする。
玄関を開けて、中へ入れる。
すぐに鍵をしめて、椅子へ座るよう促した。
私は台所へ行き、飲み物を来客へ出すため、
ランが置いていったお菓子と紅茶の葉を使うことにした。
「聞いていた通りですね」
お菓子と淹れたての紅茶を置くと、
柔らかく微笑むヘィルさんが言う。
「そうですか」
「あれ。それだけ?
もしかして、俺のこと、覚えてない?
これでも婚約者なんだけど」
部屋を見渡した後、私の反応に驚いたのか、
少し寂しそうにヘィルさんは言った。
「婚約者とは聞いています。
申し訳ないですが、覚えがありません」
「そうですか。
どこで会ったか、誰に、
どこまで聞いたか聞かないんですか?」
「聞いてほしいなら」
私の言葉に、
花が咲いたような笑みを浮かべたヘィルさん。
その後、出した紅茶を一口飲んだ。
「聞いてくれるんですね。
ご両親から、そして、うちの監視員から
リィトさんの日頃の様子は聞いています。
俺も、見ていました。
初めて会ったのはリィトさんの家です。
俺、小さい頃に傷を治してもらったことがあります。
おそらく監視と口封じを兼ねて、婚約者に選ばれましたが、
俺としては一目惚れの女性を伴侶にできるので嬉しいです」
少し早い口調で興奮ぎみに告げられた話に納得した。
傷があった腕を見せてくる。そこには何もない。
言われて思い出す。
顔は覚えていないが、あの傷は忘れるはずがない。
思い出すだけで、気が高揚する。
今思えば、最初で最後の大きな揺らぎだった。
「名前と傷は、覚えています」
「そうですか。俺は、全てを覚えています。
大丈夫って泣きそうな顔も、傷を見たときに染まった頬も。
一目で惚れました。
そのあとも何度か会ったことがありますが、
日に日に色が消えていった表情と瞳も、
今も、愛しています」
ヘィルさんは、嬉しそうに語る。
いつの間にか空になった紅茶。
ポットの中に中身があったのを思い出す。
「そうですか。おかわり、いりますか?」
「ありがとうございます。
おかわりをいただけるなら、紅茶ではなく」
言葉が切れたと同時に感じる手に触れられた温かさ。
ゆっくりと、しかし確実に絡めとられて交わる指先。
思わず、ヘィルさんを見る。
初めてのことに、心臓が早くなる。
「驚いてる。
俺だから?それとも、不慣れだから?どっちでもいいか。
今から慣らしておけってことで、実行しますよ」
指がするりと離れると、
席を立ったヘィルさんは私に近づいて微笑む。
ベッドへ行くのかと思ったが、動く様子はない。
「なにを、ですか」
「なにから、始めますか?」
私を試すような視線は、目から離れない。
何から。
と、言われて思い出したのは手を繋いで歩いていたランとリン。
あれは、男女交遊が描かれた物語にあったものとよく似ていた。
「一緒に、出掛けてください」
「デートですか。いいですよ。
さっそく、行きますか。良い天気です。
部屋にこもってばかりでは、もったいないです」
「はい」
結果、待ち合わせから始めることになった。
私の部屋の前で…と言われた。
昔、母親が買ってくれた場面別の服装指南書を思い出す。
母親が与えてくれた服や飾りの中から理想の姿に近いものを選び、
唇に薄く紅をひく。
玄関を開けるとすでにヘィルさんはいた。
私の姿をみて、嬉しそうに微笑む。
「俺のために、着飾ってくれたんですね。嬉しいです」
腕をひかれると、そのまま抱き寄せられた。
温かい、と思った。
その胸に身を寄せると、あ…、と聞こえる。
そして、ゆっくりと離される。
「急にごめんなさい。嬉しくて、つい。
どこか行きたい場所はありますか?」
そう言われても分からない。
自分には関係ないと思っていて、
そういう観点で街を見たことがない。
こんなことなら、ランに詳しく聞いておくのだったと思う。
今は、正直に言うしかない。
「分かりません」
「ランさんやリンさんは教えてくれなかったんですか?」
不思議そうな顔で、
当然のように聞いてくる。
ランやリンは、監視役だと知っているのかもしれない。
「見せて、くれました。偶然かもしれませんが。
手を繋いで、どこかへ行っていました」
「そうですか。俺の従者、少しは役に立ってますね。
よかった。朝ごはん、食べてないですね。
喫茶店へ行きますか?」
一瞬、黒い何かが見える笑みが見えた。
しかし、すぐに消えた。柔らかな笑みで、私を食事へ誘う。
正直どちらでもいいが、本来は食べるべきだと知っている。
「はい」
「手を繋ぎますか?」
「そうですね」
私が手を差し出すと、ヘィルさんは小さく笑った。
そして、ふわりと包まれるように繋がれる。
やはり、温かい。
人通り少ない街を歩き、喫茶店に入ると、
なんでもいいので同じものを注文した。
お腹を満たすと眠くなる。
帰りたいが、今日はそうもいかない。
「少し、歩きますか?」
「はい」
店を出ると、再び手を繋がれた。
なんとなく、安心した。
それに、敵意を感じない。
部屋に入れたのは、婚約者という理由だけではない。
そして、気づく。
おそらく、私とヘィルさんの魔力は相性が良い。
傷痕が残っていないのも、そのせいだろう。
結局、行きたい場所は分からなかった。
一緒に歩いて部屋に戻ると、私もヘィルさんも上着を脱いだ。
そして、椅子ではなく三人用のソファーに、隙間なく座る。
そろそろ、眠気が限界にきている。
が、寝るわけにはいかない。
「眠いですか」
「そうですね」
明らかにわかっているようなので、認めることにした。
今日は帰ってもらおう。
「俺も眠いので、よければ一緒に昼寝しますか?」
その言葉は意外だったが、母親の言葉を思い出す。
「はい」
同じベッドかと思ったが、
ヘィルさんは迷わずソファーへ向かう。
「では、俺はこのソファーで眠ります。
ありがとうございます。
眠る前に一つ、お願いがあります」
「なんですか?」
「名前です。
さん付け、やめませんか?
俺にとっては大切なことなので、
慣れてほしいです」
「わかりました。ヘィル」
「ありがとうございます。リィト」
少し離れているはずなのに、
はっきりと聞こえた声に緊張した。
その音は、とても優しい響きだった。
なんとなく怖くなり、
思わず逃げるようにベッドへいき、毛布をかぶった。
しかし、眠気はいつの間にか去っていて、
戻ることを期待してベッドに入ったが無理だった。
その原因を作った人は、おそらく眠っている。
ソファーと服が擦れる音がした後、
音がしなくなった。
夕刻。
結局、一睡もできなかった。
そろそろ食事の時間なので帰ってもらおうと、
ソファーに向かって歩き、横向きに眠るヘィルを表面に見る。
ひざを折り目線の高さを近づけるが、
ヘィルは眠ったまま。
よく見ると寝不足を示す目元。
起こすのをためらう気持ちが生まれるが、
時間は時間だ。
「起きてください」
「り、と」
呼ばれた瞬間、伸ばされた腕に引き寄せられた。
急に近づく体温に驚く。
解こうとするが無理だった。
本当に眠っているのか分からないくらい、腕の力が強い。
「起きてください」
「りぃと」
呼びかけると、柔らかな声が私を呼んだ。
耳の奥までぬけていく響きに、
思わず息が止まった。
一瞬だった。
深く息を吐き、つまった空気を外へ出す。
今はヘィルを起こさなければいけない。
「ヘィル。起きてください」
「リィト」
それは、明らかに意思のこもった声だった。
甘えるような、嬉しそうな、しっとりとした音は、
耳を通じて体へ電流を巡らせる。
「へ、ぃる。起きていますね」
「今、起きました」
「腕を解いてくださ…ぁっ、なに、を」
ふいに首筋へ触れた感触に驚いた。
甘く柔く噛まれるたび、
触れられたところが疼き、電流が生まれ、流れていく。
本で読んだことがあるだけの知らない感覚に怖くなる。
「…ん、…これで、いいか」
「何が、ですか」
「…俺、試されている?」
「何を、試すのですか。それより、腕を」
いいから早く解いてほしい。
何かを抑えるような唸る声が、なぜか心地よい。
このままでもいいと思ってしまう。
「俺と同じようにしてくれたら、離す」
「わかりました」
思い出すと再び首筋が疼く。
ためらっていると、手本を見せるように、
甘く噛まれた。
わずかだが、血が流れた香りもする。
血を吸われたことに驚き、思わず目を閉じた。
「こう…して?」
「…わかりました、から、やめて…っ」
耳から注がれる色っぽい音と、
疼く噛み痕にたえながら、必死に目を開ける。
目の前にある無防備な首筋を意識した瞬間、
ふと、甘い香りがする。
思考は鈍っていき、手本だけが脳裏に浮かび、
目の前にある肌に歯を立てた。
肌を食いやぶると感じる水はとても甘く、
少しだけでは物足りなくなる。
「まだ、ほしいですか?」
手本止まりの私に、甘い声が注がれる。
不安もあるが、おかしいと分かっていても、やめられない。
「ほしい、です」
「俺も。いいですか?」
ヘィルも同じなことに安心した。
おかしいとしても、一人ではない。
本人が許したなら、いいだろう。
「はい」
ヘィルは嬉しそうに小さく笑い、再び血を吸い始める。
私も我慢ができずに、噛み痕から流れる血を舌でなめ、
痕へ吸いついた。
どれくらい時間が経ったのか、わからない。
すっかり熱い体は力が入らず、気づけば、
いつの間にかソファーの上に寝かされていた。
覆いかぶさるヘィルは、私を見ている。
「リィト。辛そうですね」
「ヘィル…っ、私、おかしいです。
血をのんで、興奮するなんて…病かもしれない」
「病?本に書いてありましたか?」
私の頬を撫で、そのまま噛み痕へ口づけられた。
軽く吸われた感覚で飲み干した甘さを思い出し、
さらに熱は上がるばかり。
「今まで、読んだ本には…ぁっ、ないから言っています…っ」
「俺に触れられて、興奮、しているんですね」
「…あっ、やめ、て、…っ、くださ…ぃっ」
「俺、この症状を知ってます。
婚約者の役割でもありますから、手当しますよ?」
知っているなら、と思った。
婚約者だから、いいと思った。
早く、直してほしい。
口づけられるたびに疼く体は、明らかに異常だ。
「手当、してください。従いますから」
「はい。いいと言うまで、目を閉じてください」
目を閉じると、あっという間に服が乱され、
胸から腹の一部が空気にさらされる。
肌を撫でる冷たい室温が心地よい。
熱をだすように息をはく。
「リィト。口をあけてください」
言われたとおりに少し口をあけると、
上唇に柔らかいなにかが触れた。
そして、口の中に大きな熱い何かが入ってくる。
怖くて逃げようとするが、なだめるように絡めとられた。
しだいに怖さはなくなって、
優しく撫でられる感覚に身を預ける。
出ていくのが名残惜しく思った。
同時に、下腹部の奥へたまる熱に違和感を覚える。
初めて直される側になったので、
これが異常なのか、わからない。
「…っ、リィト、熱が穏やかになりましたね」
「……ぁ、は、い。もう、いいです」
「そうですか。目を開けてください」
服が整えられる音がとまると、言われるまま目を開ける。
「次は、散歩に行きます」
「はい」
ヘィルに手をひかれてきたのは、公園だった。
夜へ向かう夕の空を眺めながら歩いていると、
聞いたことのある声がした。
「ランとリンですね。気晴らしに会いますか?」
「はい」
声の方へ近づくと、違和感があった。
苦しそうな声にならない音が雑じる声に、不安になる。
「苦しそうです」
「様子を見に行きますか?」
「はい」
不安をなくすため、迷わず返事をする。
行った先には、交わる男女がいた。
繋がる下肢からは水が落ちている。
私たちに気づく気配はない。
「もう、だめ…っっ!んっぁ、ね…っ、…っ」
「嘘はいけないな。しっかり食いついている」
「だって…っ、ね…っ、イかせて?はや、く…っんっぁあああ!!」
くたりとしたランを優しく抱えるリン。
愛おしそうに頬へ口づけ、
ランはそれを嬉しそうに受け入れている。
本ではない、初めて肉眼で見る光景に目が離せない。
ふと、繋がっている手をひかれた。
「帰りますか。あれは、忘れてください。
外で行為に及ぶのは犯罪ですからね」
「はい」
「顔が赤いですね。俺の部屋に来てください。
様子を見ます」
「お願いします」
その手にひかれ、ヘィルの部屋へきた。
ソファーへ案内されると、
座った私の前に膝をつき、私の額や頬へ触れる。
その温かな手に、なんとなく、安心した。
「違和感があるところは、ありますか?」
「ここの奥に、熱がたまって…ぬけなくて、おかしいです」
優しい声に、辛さをはく。
腹に手をあて、異常を伝える。
すると、ヘィルは何か考えるように唸った後、深く息を吐いた。
「では、スカートの裾を持ち上げて、
足を開いてください」
言われたとおりにすると、ヘィルはじっと私を見る。
他人のそこは見たことがあるが、
自分のそれは身を清めるときしか触れないところを。
婚約者とはいえ、少し恥ずかしい。
「いいですよ。とじてください。
で、俺の膝の上へ、俺に背中を向けて座ってください」
その言葉に驚くが、手当に必要なら仕方ないと思い、
言うとおりにする。
膝にのると、ヘィルの片腕が私を抱えて身動きが取れなくなる。
「ヘィル?」
「足をひらいてください」
「こう、ですか?」
「はい。たまった熱を出します」
熱が出る。
そう聞いただけで、わずかな羞恥は消えた。
婚約者だから、いい。
力が抜けた瞬間、
自分でもあまり触れないそこに、ヘィルの指が触れた。
「!…っ、ヘィル?なにを?」
手当とはいえ怖くなり、その手を止めた。
すると、ヘィルは戸惑う表情を浮かべ、指は離れた。
「なにって、自慰…したことない?」
「じ、い?なんですか?」
「リィト…わかりました。今からすること、
覚えてくださいね」
穏やかな声に耳を傾けていると、
ふいに首筋を吸われる。
その感覚から逃げようとするが、
ますます動けないように力が強くなる。
「ヘィル?…ぁっ、なに、や、ぁ…っ!こわ、ぃ…っ」
「俺が傍にいます。怖いときは言ってください」
「わかり、ました」
そっと触れられた頬から首筋へ口づけが落ちるたび、
体の力がぬけていく。
再び体中が火照り始めて、苦しくなった。
「へぃる…また、熱が」
「俺が触れると、こうなるみたいですね。
リィト、目を閉じて、口を開けてください」
少し体を動かして、
言われたとおりにヘィルに向けて口を開ける。
すると、同じように熱が入ってくる。
魔力が交わるたび、体の火照りは穏やかになる。
しかし、腹の奥にある違和感は増したが、
女性の象徴を撫でている何かが触れるたび、
違和感も穏やかになる。
口の中から熱がなくなると、ついに体の力は抜けきっていた。
しかし、今度は違う知らない感覚に戸惑う。
「リィト。具合はどうですか?」
「は、い…っ、熱は穏やかで、でも、変です…っ」
「変?痛いですか?」
「痛くない、です…っ、ぁっ、そこ、いや……ん、ぁっ!」
その何かがヘィルの指だと気づくが、
探るようにゆっくりと動くそれがどこかへ当たった瞬間、
意識が飛びそうになった。
「ここですか」
なぜか嬉しそうな声が肩越しに聞こえる。
嫌だと言ったところの周囲に触れられ、
私はだんだんと遠のく意識を放した。
再び時間を認識したのは、
ヘィルが首筋から血を吸っていたときだった。
「へぃる?」
「リィト。美味しそうなので、つい、
勝手に吸ってしまいました。
俺のも吸ってください」
「はい」
失われた血を戻すため、
重い体を動かして示されたところへ吸いつく。
少しずつ、吸うたびに足りないものが満たされる感じがした。
「怖かったですか?痛みますか?」
「わかりません。意識が遠くにいってしまって。
痛みはありません」
質問されて、思い出す。
すると、再び疼きだす腹の奥。
それに気づいたのか、ヘィルはじっと私を見る。
「疼きますか?」
「はい。どうして…っ、ぁ、ぅん…そこ、は…ぁっ!」
気づけば指が入っていて、ナカを優しく擦っている。
触れられると熱が散ることを知ったので、
痛みがないことを確認しながら、
指に擦りつけるように動く。
「痛みますか?」
「いいえ…っ、でも、なにか、奥から…ぁっ、あふれて…っ」
「それは、気持ちいい証です」
「これ、が…っ、ぁっ、気持ち、い、い…っ?」
「はい。そのまま、思うように動いてください」
「ぁ、んっ、…っ、奥、だめ!純潔は…ぁっ、あっ!」
動くたび、水の音がする。
痛くない。
熱いのに心地よい。
初めての感覚を夢中で味わっていると、
いつの間にか深くまで指を入れたことに気づいた。
慌てて抜こうとするが、擦れると力がぬけてしまう。
「純潔は初夜までとっておきます。だから」
言葉を切られて、指もぬかれて。
ふと、背中から温もりも離れた。
戸惑っていると、体の向きを変えられた。
「続きは、これを…一緒に気持ちよくなりたいです。
避妊はしますから、遠慮なく擦りつけてください」
「ぁ…はい」
目の前に見えるのはそそり立つ男の象徴。
そこへ誘導されるとおりに、濡れているところを当てる。
初めて見たわけではないのに、初めてみるような高揚感。
婚約者が私に触れて昂っていると思うと、
言い表せない感情がこみ上げる。
「そう、ゆっくりでいいです」
「これが、ヘィルの…」
「はい。初夜までに少しでも触れて、
慣れてください」
「はい…っっ」
ふいにヘィルが動いた。
塞がれた唇と口の中にある熱が、
何をしているか教えてくれた。
熱の正体がヘィルの舌だと気づくと、
ますます熱く、穏やかに温度が上がる。
体のすべてで心地よい魔力に触れている感覚に浸り、
意識が落ちるまで貪った。
繊維と肌が擦れる音で目が覚めると、見慣れない天井。
自分を見ると、着ていた服と違うことに気づいた。
「ここ、は…」
「リィト。勝手に着替えさせて、ごめんなさい。
皺ができるといけないと思ったので…。
体の具合はどうですか?」
ヘィルは私をじっと見下ろしている。
どうやら私は抱きしめられている、らしい。
身動きが取れない。
「いえ。服、ありがとうございます。
体は、少し怠いですけど、寝れば治ります」
「そうですか。よかったです。
明日は休みですから、ゆっくりおやすみなさい」
「おやすみなさい」
眠る直前にかけ直された毛布で、
いまさらながら、ここがベッドだと気づく。
分かったところで何もできないので、
そのまま眠った。
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しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
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