人形は瞼をとじて夢を見る

秋赤音

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舞う乙女は夜に咲く

5.誓いの証

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「捜査は無しになったので、あの話は忘れていいです」

上司たちとお茶会をした七日たつ。
帰る前に言われた言葉に、少しだけ安堵した。

「わかりました」

「さて、帰りますか。一緒に、行きますか?」

「はい」

仕事が終わると、
上司と一緒に移動するのが習慣になっている。

「トヴァ。グロッサムさん。お疲れ様です」

「シェリア。ファレンさん。お疲れ様です。
さて、人が揃ったので話しますか」

「ファレンさん。グロッサムさん。
まずは、事件解決のご協力ありがとうございました」

俺は、シェリアさんが突然そう言った。
俺は捜査の手伝いをしていない。
それなのに…理由がわからず首をかしげるが、
話に続きがありそうなので黙っておく。

「どういうことですか」

「ファレンさんとグロッサムさんが親しくしていたおかげ…で、
犯人たちが暴走して、捕まえられました」

聞いたファレンは、その答えにますます疑問を深めたらしく、
黙っている。

「今回の対象は、男女が集まって、
ありとあらゆる暴力を楽しむ人物たちだった。
対象は"姫"と"王子"を好む人物だと分かったので、
あえて二人と彼らと会わないようにする作戦でした」

上司の言葉に、最近の行動を思い出す。
そういえば、
仕事の帰りに喫茶店へ四人で行くことも多かった気がする。
それも作戦のうちかもしれないと思った。

「捜査対象になるほど目立ってきたのは、
最近のことだそうです。不特定多数と関わっていて、
当人よりも親御さんから声が多く寄せられていて…本当に助かりました」

微笑むシェリアさん。
それを見て安堵したような表情浮かべる上司。

「あえて彼らの感情を爆発させた感じですか?」

「そうです。
おかげで、派手にやってくれたので、分かりやすかったです」

清々しい笑みの上司。
初めて怖いと思った。

「彼らは同意の上でしていたので、痛みはないようです。
親御さんの憂いも少しは晴れたと思います」

「よかったですね」

「はい。それより、グロッサムさん。
今度一緒に買い物へ行きませんか?」

この話は終わりだと言うように、
目の前で、シェリアさんとロッサが和やかな雰囲気を作る。
門へ着くまでに日程が決まったらしい。
上司たちと別れた後、ロッサの仮眠部屋で教えてくれた。

「両親が、変なこと言って、ごめんなさい」

「気にしてないです。
それより、俺とロッサの服のサイズが近くてよかったです」

「それは、まあ…これ、どうですか?」

明日は、初めて両家の家族が揃う日になる。
俺は"姫"として参加する。
捜査に貢献したことで、親たちに伝わったらしい。
どこまで知られているかが分かっていない。
"姫"は女性で、
俺だと信じている両親が女性服を仕立てようとしたので止めた。
友人に選んでもらうと言ったので、ロッサにお願いした。

「着る。後ろ、向いててください」

このときばかりは、過去の男性たちに感謝した。
服を着る方法が一通り知れたから。
おかげで、見れば分かる。

「いいですよ。確認をお願いします」

「あ…はい。よく似合いますね」

苦笑いをしながら俺を見る。
その手には、髪に飾る装飾品がある。
座るように言われ、自然と視界にあるロッサの綺麗な首筋や鎖骨、
それを撫でる毛先を見る。

「姫ですから。元ですが。
まさか、あんなことになるとは思わなかった…二度と関わりたくない」

「ごめんなさい。
女装させたくなる気持ち、わかってしまいました…可愛いから」

「俺は、ロッサの方が可愛いと思います。
でも、ロッサが楽しいなら、いいですよ」

思ったことを言っただけだが、なぜかロッサの手が止まった。
飾りが落ちて、結いかけの髪がほどける。

「そんなこと…王子ですよ。
元ですけど。それに女装…いいのですか?」

「はい。お互い様ということで。
これからは、俺がロッサを可愛くしますから。
ロッサの大切な服たちも輝くように」

着ている服をそっと撫でる。
手入れが行き届いていて、大切にされているのがよく分かる。

「ぁ…はい。お願いします」

なぜか顔が赤くなったロッサ。
見ていると、なんとなく、触れたくなる。

「ロッサ。キス、してもいいですか?」

「え?はい?なんで」

ロッサは驚いて目を瞬かせながら、視線を迷わせている。

「なんとなく、したくなったので」

「え、と、頬なら…どうぞ。いいですよ」

赤い顔で、潤んだ瞳をとじたロッサ。
そっと触れた。すぐ離すと、再び目が合う。

「これ、俺のファーストキス、です」

「ファレンの…だったら、私の初めても、もらってください」

「いいんですか?どこでも、いいですよ」

「なら、目を閉じてください」

言われた通りに目を閉じると、
後頭部や首筋に温かな手が添えられ、
唇に柔らかなものが触れた。
しかし、すぐに温もりは離れていく。

「柔らかい、ですね」

恥ずかしそうに微笑んだロッサは、
目をそらして、再び髪を結おうとした。
しかし、その腕をつかむ。

「もう一度」

「一度、だけ?」

戸惑う視線が俺を見る。
その瞳には、見慣れた情欲がある。
人が違うだけだが、ロッサの感情はとても心地がよい。

「わからない。けど、もう一度だけ」

「わかりました」

すると、頬に触れられた唇。
しかし、それもつかの間だった。

「そっちではなく、こっち」

離れないようにロッサの後頭部に手を添えた。
そして、求めていたところに触れる。

「ぁ……ん…っ、…あ、ぁの…んっ」

触れるだけのはずが、心地よさに思わず深追いし、口内まで入っていく。
初めての口づけで知った快楽に溺れた。

翌日。
女装の"姫"と男装の"王子"を見て、
何かに気づいたらしい両親。
母親は、ロッサという本物の女性を見てひどくはしゃいでいた。
ロッサの母親が兄さんを見て嬉しそうにしている。

その場で気があったらしい親たちは、
今お腹で育んでいる子供が希望の性別だった場合、
生んですぐに交換することになった…らしい。
二年ごとに出産を繰り返すよりは、いいのかもしれない。
名付けの権利ごと、
孤児院へ渡される子供が増える可能性も減る。

そして、盛り上がった親たちは、
俺たちを婚約させよう…という話になっていた。
本人たちの気持ちもあるだろうと、
話を保留にまとめてくれたのは兄さん。

別れ際、母親と兄さんが俺に近づいてくる。

「ファレン。あなた、男の子だったのよね。
今まで女の子扱いして、ごめんなさい。
どうしても諦めきれなかった。
でもね、これからは男の子としてファレンを愛する。
これからは、グレカムの奥様を着飾って楽しもうと思うのよ。
だから、グレカム。今度会わせてね」

「兄さん。まだ会わせてなかったんです?」

「まだ。母さんがさっき認識したから、話を進める。
初めて、聞いてくれた。
それだけ、何か心境に変化があったのかもしれない」

初めて見る穏やかな様子の母親。
死んだ先代からの呪いから、やっと逃れたのかもしれない。

跡取りの男ばかり生まれて嫌気がさしていた今は亡き祖父母。
数いる男児から選りすぐり、
後継者やその補佐として育てていた。
見限った子供は、孤児院へ渡されていた。
当時女の子をねだられていた母親は、
いつも健康な男児を生み、育て、奪われ続けた。
俺を生むと、ついに気が狂ったらしい。
幸か不幸か、成長しても細いままの体格を見て、
俺を女の子だと完全に思い込み、現実から離れていった。

「そうですね」

近くにいたはずのロッサを探していると、見えるところにいた。
が、母親と話していたので、傍にはいかない。
話が終わったらしく、
ロッサは迷いのない足取りで、俺の傍に来る。

「そろそろ、帰らないと、です。
グレカムさん、また武踏会で会ったら、お願いします」

「こちらこそ。では、またな」


俺の部屋に行きたいと言ったロッサを連れて、仮眠部屋へ戻る。

「お母さん、なんとなくスッキリしてた。
"ごめんなさい。
男の子扱いしていたことを、許してとは言わない。
これからは、自由に生きて。
私は、残された時間で男の子と出会えるように頑張るわ"
…だって。
許さなくていいって思うと、気が楽になりました」

椅子に座ると、つぶやくように、そう言った。

「そうですか」

「はい」

机の上に飲み物を置く。
ロッサが最近気に入っているものだが、かなり甘い。
一度は飲んだが、俺には合わなかった。
冷めるとますます甘くなり、
喉にはりつく感覚が好みを二分すると思う。
俺は自分好みのものを置き、椅子に座る。

「ありがとうございます」

少しだけ、ロッサの虚ろな瞳に明るい色が宿る。
一口飲むと、ほんのわずかに微笑んだ。
自分も冷めないうちに飲み始める。

「女装。いつも、誰かのためにしていたんですね」

「わからない。結局は、自分のためでした。
誰かが嬉しいのが、楽しい…それだけ、ですよ」

その言葉に思い出す。
なんとなく、目線をロッサから天井へ移す。
初めは、母親だった。
虚ろな姿よりは、元気そうで良いと思っていた。
続けていると、いつの間にか自分の一部になっていた。
ただ、それだけだった。

「なんとなく、わかります。
ファレン。キス…してください」

驚いて再びロッサを見ると、
不安な様子で返事を待っていた。

「どうしました?突然」

「なんとなく、そういう気分です」

「そうですか」

俺は席を立ち、ロッサの傍へ近寄る。
体の正面を俺の方へ向けて腕を伸ばすので、
ひざまずいた。
その腕はするりと首のよこを通り、背中へ落ち着く。
首筋に顔をうずめたロッサは、
今にも泣いてしまいそうだった。

「俺を見てください」

「…っ、ぁ…、ん、んっ、ファレン?…なっ!ぁ……っ」

何度目かの触れ合わせで綻んだ唇から、舌を入れる。
互いの魔力が絡んで心地よい。
加減しなければ全てが溶け合いそうな危険さと、
確かに感じるロッサの魔力が自分を安心させてくれた。
相手との境界線が自分の魔力の、存在の証明だ。

「あ…、は…っ、ファレン……いま、魔力、加減できな…ぁ」

唇をはなすと、とろけた表情のロッサ。
まるで続きを願うような腕の拘束が、
言葉と矛盾して俺を引き寄せる。
されるがままに、もう一度触れると、
待っていたように重なって、深まる。
夢中になって貪りあっていると、
ロッサがこぼれるような嬌声と共に達した。

「ファレン…私、ナカが、熱くて…ほしいです」

「俺も…無理、かもしれません」

火照るロッサを抱き上げて寝台へ運び、仰向けに寝かせる。
ロッサが着ている上半身はそのままで、
腰から下を下着ごと脱がせた。
俺もスカートの中だけを脱ぐ。

「ファレン…ここに、ください」

「すぐに、あげます」

水音をさせながら開かれた両足。
その光景に息をのむ。
服装なんて関係なく、ただロッサが可愛いだけだった。
ワンピースの裾をたくし上げ、
すでに限界を訴えている熱を秘部へ埋めていく。
先を入れただけで達したロッサのナカは、
乾くことなく俺を包む。
奥をつくまでに何度か達したロッサはすでに呼吸が速い。

「ファレン…もっと、ほしい、です…ぅんっ、あっ、ああっ!」

少し揺さぶるだけで簡単に達しながら、
ナカを締めつけ、腰をふり、俺を誘惑する。
望みのとおりナカへ熱を出すと、
うっとりとした吐息がこぼれた。

「ぁ…魔力、感じ…ます。
いっぱい、とけてしま、ぁ…っ、あんんっ」

「確かに、境目が、なくなり…そう、ですね」

快楽に溺れているロッサは、遠慮なく魔力をぶつけてくる。
殺しにかかっているのではないか、と思うほどに。
少しでも気を抜けば、俺の全てに染みわたり、
全てが侵されてしまう。
互いの魔力は、互いの歪な力にもピッタリと添い、
隙間なく絡む。

「イく…ぅ、あ、ぁあああぁあ、あ…っ、んっ!」

ロッサが達するのと同時に、二度目の熱を出す。
すると、それを奥まで届かせようと腰を動かし、
ぬこうとした自身を離さない。
興奮したままのロッサの様子に、
避妊魔法の副作用を思い出した。
相性が良いと、快楽に溺れると。
そして、精神が不安定な今、
おそらく俺もロッサも魔力は制御しきれていない。
関係ないと思っていたことに驚くが、
熱を保ったままの自身にもいえることだと気づく。

「ん…ファレン、まだ…ぁっ」

甘えるような声で俺を呼ぶロッサ。
腰を揺らすたびに水音が響いている。

「なにを、ですか?」

「ぅ…ここに、熱いの、避妊はしてます、から、ぁ…!」

「俺も、してますよ。
でも、これ以上は、明日が辛いと思いますが」

「お願い、します…っ、ファレンが、ほしい…です…っ」

荒い呼吸と真っ赤な頬で見つめる涙で濡れた瞳。
このままやめれば、それなりに辛いだろうと思い、
今はこの温もりを感じることにした。

翌朝。
やはり体が辛そうなロッサと部屋で過ごすことにした。
食材はあるので料理は問題なく捗り、一緒に食事を食べた。
ゆっくりと休んでいるロッサだが、時折俺に甘えてくるのが可愛い。
無自覚な誘惑に欲情するが、ひたすら我慢していた。
そんな俺をみて発情したロッサに押し倒され、
もう出ないのでは…と思うほどに快楽を分け合った。

数か月後。
一か月という約束は無しになり、
シェリアとトヴァの部下として働く二人。
そのの腕には、お揃いのブレスレットがあり、
仲睦まじく同じ家に帰る姿を、上司たちは見守っていた。
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