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曇天と棘
解生
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彼とは何事もなく過ごし、迎えた夜中。
ついに我慢ができなくなって、もらった玩具に慰めてもらうことにした。
でも、足りない。
意識が消えるような衝動が足りない。
終わりがないと思うような疼きがとまらない。
苦しい。
終わらせて。
汚い感情を殺して。
せめて、嘘でもいいから愛し合いたい。
綺麗になりたい。
「んっ、ぁ…っ、ぅうっ、イかせて、イきたい…っ」
ふと、足音がした。
求めていた彼の足音が止まった。
聞かれているかもしれないのに、手がとまらない。
扉の向こうにいると考えるだけで、体が燃えるように熱さを増す。
「ぁあっ、んぁっ、イく、イき、ます…ぅあぁああっ!!」
熱い水が流れていく。
なのに、まだ熱い。
助けて。
遠ざかる足音に叶うことない願いを向けた。
もし、彼が自室で自慰を始めたら?
彼の脳内で私が犯されているとしたら?
「ぁあ…ぃ、い…っ、もっと…っ、最後、まで…んひゃあぁあああんぁっっ!!」
求めらている、と自分の理想だけで想像する。
体に残る犯された感覚を頼りに快楽を追う。
私は居間、恋人の彼の体で蹂躙されている。
そして、いつかは来るかもしれない破膜の瞬間。
初めては彼がいい。
願望を忠実に脳裏へ描けば、ようやく終わりが見えてきた。
「んぁっ、も、イく、またイ、くぅ…ぁああああっ!」
体から一気に力が抜けて、重い瞼を閉じた。
翌朝。
いつも通りに制服を着て、静かな居間で朝食を食べた。
すると、目が覚めた彼が居間に出てきた。
無言の見送りを背に居間を出ると、玄関を閉めた。
ある日、彼が私に言った。
私が高校を卒業したら恋人役が婚約者役に変わる、と。
進学してもいいが、役をしている間は面倒だから外で仕事をしないように、と。
万が一にも子供ができた場合は貰い手がいるから大丈夫、だと。
彼は優しい笑みで淡々と告げた。
少しだけ、安心した。
もし子供ができても育ててくれる誰かいる。
皆と同じように進路と生き方をしなければいけないことに悩んでいたが、おかげで憂鬱が少なくなった。
おそらく私は創造者と同じ生き方が向いている。
性に合っている。
学び舎の友が語るのは、愛し愛される健やかで穏やかな時間.
でも、望むと腹の底から憧れと諦めと嫌悪感が息を止めにくる。
作った命に価値を見出し、友のように命を輝かせ方法がわからない。
まず、創造者に価値がないのだから。
でも、彼が求めるときだけ、私はこの世の中で呼吸をすることが許されている。
そんな気がするだけ。
難しい決まりではなく、あくまで個人の感覚だが、だからこそ面倒だった。
日常の関りを極限まで避けながら、死んだ後の手間を惜しむ製造者と対話を試み諦めるまで続いた葛藤。
無用扱いをするくらいなら死産扱いで殺してほしかった、とか。
どうして飼い殺しで中途半端に生かすのか、とか。
せめて勢い任せでも言えたらよかったのかもしれなかったが、無理だった。
言えないまま勝手に出した結論だけで、いつか訪れる死の瞬間だけを救いにしていた。
学び舎の一部に馴染んでからは遠くなって忘れていた救い。
でも、無くなったのではなく一緒に育っていた。
進路と恋を機会に再び自覚した
自分の気持ちは自分でしか変えることができない。
わかっていて、変わることを諦めた。
死に焦がれている私ごと、私を認識してくれる彼に求められるだけでいい。
私の恋が穢れた恋だとしても、私は彼が好きで、できれば彼に好かれて、求められたい。
それだけでいい。
開き直れば、とても楽に、ようやく曇天が降らせる冷雨が心地いいものに変わった。
あっという間に卒業が近づく。
対外的には彼の愛人として結ぶ契約は、卒業式の翌日から有効になる。
妻ではない関係性だから、良かった。
卒業式を終えた子供と大人の狭間にいる最後の時間は、当然彼に捧げる。
今の私にしかできないことを彼の望むまま、役の仮面ごしに呼吸をして生きる。
ようやく訪れた卒業式。
二度と通ることはない学び舎の門をくぐると、
薄紅の香りの先に満開の花を眺め佇む男性がいる。
好きな人が、待っている。
私を見つけると、いつものように柔く笑む。
それだけで締め付けられる胸の痛みを感じながら、足を速く動かした。
「お疲れ様」
隣に並んだ私の髪を撫で、額に触れ離れた柔らかな感触。
見上げれば、楽しそうに笑う目と合った。
「お疲れ様です」
私、ちゃんと笑えてるかな。
今日も恋人らしくできているといいな。
好きな彼の望みが叶うように、私のままで、隣を歩こう。
ついに我慢ができなくなって、もらった玩具に慰めてもらうことにした。
でも、足りない。
意識が消えるような衝動が足りない。
終わりがないと思うような疼きがとまらない。
苦しい。
終わらせて。
汚い感情を殺して。
せめて、嘘でもいいから愛し合いたい。
綺麗になりたい。
「んっ、ぁ…っ、ぅうっ、イかせて、イきたい…っ」
ふと、足音がした。
求めていた彼の足音が止まった。
聞かれているかもしれないのに、手がとまらない。
扉の向こうにいると考えるだけで、体が燃えるように熱さを増す。
「ぁあっ、んぁっ、イく、イき、ます…ぅあぁああっ!!」
熱い水が流れていく。
なのに、まだ熱い。
助けて。
遠ざかる足音に叶うことない願いを向けた。
もし、彼が自室で自慰を始めたら?
彼の脳内で私が犯されているとしたら?
「ぁあ…ぃ、い…っ、もっと…っ、最後、まで…んひゃあぁあああんぁっっ!!」
求めらている、と自分の理想だけで想像する。
体に残る犯された感覚を頼りに快楽を追う。
私は居間、恋人の彼の体で蹂躙されている。
そして、いつかは来るかもしれない破膜の瞬間。
初めては彼がいい。
願望を忠実に脳裏へ描けば、ようやく終わりが見えてきた。
「んぁっ、も、イく、またイ、くぅ…ぁああああっ!」
体から一気に力が抜けて、重い瞼を閉じた。
翌朝。
いつも通りに制服を着て、静かな居間で朝食を食べた。
すると、目が覚めた彼が居間に出てきた。
無言の見送りを背に居間を出ると、玄関を閉めた。
ある日、彼が私に言った。
私が高校を卒業したら恋人役が婚約者役に変わる、と。
進学してもいいが、役をしている間は面倒だから外で仕事をしないように、と。
万が一にも子供ができた場合は貰い手がいるから大丈夫、だと。
彼は優しい笑みで淡々と告げた。
少しだけ、安心した。
もし子供ができても育ててくれる誰かいる。
皆と同じように進路と生き方をしなければいけないことに悩んでいたが、おかげで憂鬱が少なくなった。
おそらく私は創造者と同じ生き方が向いている。
性に合っている。
学び舎の友が語るのは、愛し愛される健やかで穏やかな時間.
でも、望むと腹の底から憧れと諦めと嫌悪感が息を止めにくる。
作った命に価値を見出し、友のように命を輝かせ方法がわからない。
まず、創造者に価値がないのだから。
でも、彼が求めるときだけ、私はこの世の中で呼吸をすることが許されている。
そんな気がするだけ。
難しい決まりではなく、あくまで個人の感覚だが、だからこそ面倒だった。
日常の関りを極限まで避けながら、死んだ後の手間を惜しむ製造者と対話を試み諦めるまで続いた葛藤。
無用扱いをするくらいなら死産扱いで殺してほしかった、とか。
どうして飼い殺しで中途半端に生かすのか、とか。
せめて勢い任せでも言えたらよかったのかもしれなかったが、無理だった。
言えないまま勝手に出した結論だけで、いつか訪れる死の瞬間だけを救いにしていた。
学び舎の一部に馴染んでからは遠くなって忘れていた救い。
でも、無くなったのではなく一緒に育っていた。
進路と恋を機会に再び自覚した
自分の気持ちは自分でしか変えることができない。
わかっていて、変わることを諦めた。
死に焦がれている私ごと、私を認識してくれる彼に求められるだけでいい。
私の恋が穢れた恋だとしても、私は彼が好きで、できれば彼に好かれて、求められたい。
それだけでいい。
開き直れば、とても楽に、ようやく曇天が降らせる冷雨が心地いいものに変わった。
あっという間に卒業が近づく。
対外的には彼の愛人として結ぶ契約は、卒業式の翌日から有効になる。
妻ではない関係性だから、良かった。
卒業式を終えた子供と大人の狭間にいる最後の時間は、当然彼に捧げる。
今の私にしかできないことを彼の望むまま、役の仮面ごしに呼吸をして生きる。
ようやく訪れた卒業式。
二度と通ることはない学び舎の門をくぐると、
薄紅の香りの先に満開の花を眺め佇む男性がいる。
好きな人が、待っている。
私を見つけると、いつものように柔く笑む。
それだけで締め付けられる胸の痛みを感じながら、足を速く動かした。
「お疲れ様」
隣に並んだ私の髪を撫で、額に触れ離れた柔らかな感触。
見上げれば、楽しそうに笑う目と合った。
「お疲れ様です」
私、ちゃんと笑えてるかな。
今日も恋人らしくできているといいな。
好きな彼の望みが叶うように、私のままで、隣を歩こう。
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