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プロローグ
お昼寝
しおりを挟む保健室に帰ることにしたのだが、何故か足取りが重い。決して仕事をしたくないという我儘な感情ではなく春ならではのぽかぽか陽気に当てられた眠気のせいだ。
よし、寄り道しよう!そんで寝よう!
そんな考えでしばらく歩いていると中庭が見えた。そこに敷かれている天然の芝生はなかなかに寝心地が良さそうでとそこまで思考が飛んでいた時、急に肩にトンと手が置かれる感覚がした。
「っぅわ」
「……みお、ひさしぶり」
「!お久しぶりのケイくんだっ」
そこに居たのはひとつ上の同僚である犬飼 慶だった。担当は生物講師。クラスは持っていない。
ここで豆知識。気配には敏感な方のミオでも読めないくらいケイくんは気配の消し方が上手い。ちなみにトアノアも上手い。てか帝紀生の頃から仲のいい先輩後輩同級らはみんな上手かったな。
「みお…なんだか眠、そう」
「ぽかぽか日差しに当てられちゃったー」
「……そっか」
ケイくん特有の話し方は聞いててとても癒される。まず声があったかい。絹に包まれているような柔らかな癒し系ボイスなのだ。
外見が少し強面で体格もしっかりしているのだがなんか、こう、内から発せられているフィルターのようなものが機能してぽやぽやみたいな癒し系な大型犬に見える。
「………じゃ、いっしょ…寝よ」
「へ」
「…しばふの上、行こ」
するとケイくんはオレの手を引っ張って木陰まで連れていく。
「ん、…ねよぅ?」
「、書類」
「……クマある、おれ、しんぱい」
「ゔッ…まーいっか寝よう寝よう」
一瞬残っていた書類のことが頭に浮かんだが、ケイくん直々のお誘いだ、断れまい。(ケイにはちょろい)
そんなこんなでケイくんが腕枕をしてくれることになった。経緯は長いし濃いので割愛する。
というか芝生の上に寝っ転がるのってホント久しぶりだな。もしかしたら何年ぶり位かもしれない。
寝っ転がった時、不思議と自分が芝生になったかのように思えるくらいに自然を感じる。
風が草を撫でる音、虫や鳥が発する音、心做しか校舎の話し声まで聞こえる気がする。
「自然って…いいねー」
そんなお馬鹿そうなオレの発言にもケイくんは「ふふ」っと笑いながら応えてくれる。癒し。
ついでに頭まで撫でてくれる。それが少し気持ちよくてつい手に擦り寄ってしまうとまた「ふふ」っと笑いつつもちょうどいい力加減で撫で続けてくれる。癒しのループ。
なんてことをやってるうちに、小さく欠伸が出てしまい本格的に目が閉じ出す。
せめて礼だけでもしようと頑張って口を動かす。
「けいくん、ありがと」
「い、いえ」
「おやすみぃ」
「ふふ…みお、おやすみ」
最後の挨拶を終えて俺の意識は落ちていった。
「ふふっ…かわいい」
そんな呟きに少し残っていた俺の意識が聞き取ったが、理解ができずにそのまま右から左に聞き流れていった。
その後ケイくんが慈愛に満ちた表情でオレの額へキスした事実はケイくんだけが知っている。
─────────────
────────────────────────
意識が戻る感覚がした。
夢は見なかった。だがいい眠りだった。
ぼーっと考えがまとまらないままふと目線をあげる。
するとそこには、なんということでしょう。
ケイくんが笑いを堪えながらこちらを見ているではありませんか。
「...もしかして、もしかしなくても、、見てた?」
「ふふっ……かわいかった、よ」
やばいはずいはずい。
すごい間抜けな表情だった自信がある。
しっかり目が覚めたオレはすぐさまケイくんにありがとうと礼を言い、素早く起き上がってその場を後にした。
なぜってそんな野暮な事聞かないでくれよ。敢えて言うならものすんごい砂糖とはちみつをぶっかけたような目で俺を見ていたから。だから条件反射みたいな感じで離れてしまった。
後ろから小さく「...ばいばい、また来て、ね」と聞こえた癒しボイスはちゃんと聞き逃さずに心のケイくんフォルダに追加しておいた。牛乳は忘れずに持ってきた。
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