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第13話 オリヴィアの提案
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カチャカチャと食器が音を立てる。
目の前にはパメラが用意してくれた料理が白い皿に盛りつけられている。
右を見ると、食堂のホスト席でオリヴィアが料理を口にしていた。
その様子はさきほどまで俺を問い詰めてきた時とは違い、いつも通りの無表情だ。
俺が何気なしに彼女を見ていると、後ろからパメラが話しかけてきた。
「いったい、どういう風の吹き回しなんでしょうか?」
ひそひそと耳元で囁かれる。パメラの髪が頬を撫でくすぐったさに身をよじってしまう。
「それは俺が知りたい」
これまで、オリヴィアはまともな時間に食堂を訪れることがなかった。
そのお蔭もあり、俺はパメラと向き合って座り、楽しい食事をしていたのだが、今日に限ってはオリヴィアが現れてしまったのでそれが叶わなかった。
パメラは給仕に徹し、俺はオリヴィアと共に食事をするという気まずさを味わっている。
「だって、絶対変ですよ。姫様は今まで食事の時に誰かを同席することを許可したことはありません。そんな姫様が『あなたが先に食べていたのでしょう、そこにいても別に構わないわ』なんて言ったんですよ」
いばら姫の噂は俺も知っている。どの噂話も独り歩きしていて実際はそこまででもないのではないかと思っていたが、実際に接してみるとそれが間違いないことがわかる。
「そう言えば、お城でひと騒動あったんですよね? さっき姫様が部屋を訪ねて行ったことと何か関係が?」
「うぐっ!」
パメラの質問に、俺は食べ物を喉に詰まらせてせき込む。
「あっ、ほら。落ち着いて食べてくださいよ」
優しく背中をさすられる。俺は目に涙を浮かべつつ、オリヴィアを見る。
彼女が俺と一緒に食事を摂るきっかけとなったであろうさきほどの会話が頭に浮かんだ。
★
「俺に国王になれって?」
カップが転がり、絨毯に染みが広がるが気にしていられない。
俺はオリヴィアの真意を探るため、正面から彼女の目を見た。
「そうよ、あなたが国王になればすべて解決するわ」
そう言うと、彼女はテーブルにあるカップに手を伸ばした。
返事がなかったが、念のために淹れておいたものだが、時間が経ってしまい冷めている。
「……美味しくないわ。紅茶の淹れ方もしらないのね」
「そっちが考え込む時間が長かったからじゃないんですかね?」
せっかく用意してやったというのに、不満げな態度に自然と言い返してしまう。
彼女はちらりと俺を睨みつけると、黙って紅茶を飲んだ。
「それで、なる? 国王」
「いや、そんな風に聞かれても困るんだけど……」
なりたい者が王選を争っているから現在の状況があるのだ。そんな気軽に質問されても答えようがない。
「第一、俺が王になるメリットがない。元の世界とこの世界では価値観が違う。俺は人の上に立ちたいと思わない」
自分の人生だけでも精一杯なのに、他人の、ましてや国民すべての生活まで責任を負うなんて冗談ではない。
俺がそれを伝えると、オリヴィアは「ふむ」と頷いた。
「そっちの世界の価値観は私に近いようね。私も国の歯車になって民の面倒を見るのはごめんだもの」
澄ました顔ではっきりと言ってのける。
彼女はカップをテーブルに置き、口をつけた部分をハンカチで拭きとった。
「でも、あなたが国王になるメリットはあるわ」
「この世界の権力や財産は俺にとってメリットではないですよ?」
クラスメイトと違い、過剰な待遇は求めていない。日々を慎ましく生きられればそれで十分だ。
「元の世界に帰りたいのでしょう?」
その言葉で俺の表情が固まる。
「な、何のことでしょう?」
俺はテーブルの上にあったカップを手元に引き寄せ持ち上げる。
動揺が伝わり、カップがカチカチと音を立てていた。
「だって、あなたこの前言っていたじゃない『元の世界に帰りたい』って」
「聞いていたのか……?」
何も言ってこなかったのでてっきり聞こえていないと思っていたが、入室のタイミングでバッチリ耳に届いていたようだ。
「ああ、そうだよ。俺は元の世界に帰りたいと思っている。だけど、手掛かりなんて一つもない。そもそもその言葉はパメラから公言しない方が良いと忠告されている」
召喚者が儀式に協力的でなく、帰りたいと主張している場合どうなるか。
王国としても面白くないに違いない。当然何らかの締め付けが予想されるので、俺はこれまでパメラ以外に自分の望みを言わなかった。
「手掛かりならあるわ」
そんな俺の弱点を認識しているのか、オリヴィアは冷静にその言葉を口にした。
「国王が持つ、王選の儀式の文献。あれにはこの世界にあなたたちを召喚する魔法陣の他に、儀式の手順が書かれている。元の世界に戻す方法についても書かれている可能性はあるわ」
オリヴィアの言葉に心臓が脈打つ。これまで、王国の図書館を探ったりしていたが、何一つ情報を得られなかったのだ。
それが、こうして手掛かりを提示されたことで諦めかけていた元の世界への想いが蘇った。
「あの文献を閲覧できるのは国王だけ。なぜなら文献には儀式の試練が全て書かれている。つまり、儀式の最中にあれを読むのは不可能ということになるからよ」
オリヴィアは真剣な顔をすると俺を見つめた。
「そして、儀式が終わるとあの文献は再び封印されてしまう。恐らく、また数百年後に王家と国の力が衰退した時まで禁書庫の奥に隠されるのでしょうね」
つまり、チャンスは誰かが国王になり、王位を引き継いだそのタイミングしかない。
「だから、あなたが国王になれば万事解決する。わかったかしら?」
彼女はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
★
目の前にはパメラが用意してくれた料理が白い皿に盛りつけられている。
右を見ると、食堂のホスト席でオリヴィアが料理を口にしていた。
その様子はさきほどまで俺を問い詰めてきた時とは違い、いつも通りの無表情だ。
俺が何気なしに彼女を見ていると、後ろからパメラが話しかけてきた。
「いったい、どういう風の吹き回しなんでしょうか?」
ひそひそと耳元で囁かれる。パメラの髪が頬を撫でくすぐったさに身をよじってしまう。
「それは俺が知りたい」
これまで、オリヴィアはまともな時間に食堂を訪れることがなかった。
そのお蔭もあり、俺はパメラと向き合って座り、楽しい食事をしていたのだが、今日に限ってはオリヴィアが現れてしまったのでそれが叶わなかった。
パメラは給仕に徹し、俺はオリヴィアと共に食事をするという気まずさを味わっている。
「だって、絶対変ですよ。姫様は今まで食事の時に誰かを同席することを許可したことはありません。そんな姫様が『あなたが先に食べていたのでしょう、そこにいても別に構わないわ』なんて言ったんですよ」
いばら姫の噂は俺も知っている。どの噂話も独り歩きしていて実際はそこまででもないのではないかと思っていたが、実際に接してみるとそれが間違いないことがわかる。
「そう言えば、お城でひと騒動あったんですよね? さっき姫様が部屋を訪ねて行ったことと何か関係が?」
「うぐっ!」
パメラの質問に、俺は食べ物を喉に詰まらせてせき込む。
「あっ、ほら。落ち着いて食べてくださいよ」
優しく背中をさすられる。俺は目に涙を浮かべつつ、オリヴィアを見る。
彼女が俺と一緒に食事を摂るきっかけとなったであろうさきほどの会話が頭に浮かんだ。
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「俺に国王になれって?」
カップが転がり、絨毯に染みが広がるが気にしていられない。
俺はオリヴィアの真意を探るため、正面から彼女の目を見た。
「そうよ、あなたが国王になればすべて解決するわ」
そう言うと、彼女はテーブルにあるカップに手を伸ばした。
返事がなかったが、念のために淹れておいたものだが、時間が経ってしまい冷めている。
「……美味しくないわ。紅茶の淹れ方もしらないのね」
「そっちが考え込む時間が長かったからじゃないんですかね?」
せっかく用意してやったというのに、不満げな態度に自然と言い返してしまう。
彼女はちらりと俺を睨みつけると、黙って紅茶を飲んだ。
「それで、なる? 国王」
「いや、そんな風に聞かれても困るんだけど……」
なりたい者が王選を争っているから現在の状況があるのだ。そんな気軽に質問されても答えようがない。
「第一、俺が王になるメリットがない。元の世界とこの世界では価値観が違う。俺は人の上に立ちたいと思わない」
自分の人生だけでも精一杯なのに、他人の、ましてや国民すべての生活まで責任を負うなんて冗談ではない。
俺がそれを伝えると、オリヴィアは「ふむ」と頷いた。
「そっちの世界の価値観は私に近いようね。私も国の歯車になって民の面倒を見るのはごめんだもの」
澄ました顔ではっきりと言ってのける。
彼女はカップをテーブルに置き、口をつけた部分をハンカチで拭きとった。
「でも、あなたが国王になるメリットはあるわ」
「この世界の権力や財産は俺にとってメリットではないですよ?」
クラスメイトと違い、過剰な待遇は求めていない。日々を慎ましく生きられればそれで十分だ。
「元の世界に帰りたいのでしょう?」
その言葉で俺の表情が固まる。
「な、何のことでしょう?」
俺はテーブルの上にあったカップを手元に引き寄せ持ち上げる。
動揺が伝わり、カップがカチカチと音を立てていた。
「だって、あなたこの前言っていたじゃない『元の世界に帰りたい』って」
「聞いていたのか……?」
何も言ってこなかったのでてっきり聞こえていないと思っていたが、入室のタイミングでバッチリ耳に届いていたようだ。
「ああ、そうだよ。俺は元の世界に帰りたいと思っている。だけど、手掛かりなんて一つもない。そもそもその言葉はパメラから公言しない方が良いと忠告されている」
召喚者が儀式に協力的でなく、帰りたいと主張している場合どうなるか。
王国としても面白くないに違いない。当然何らかの締め付けが予想されるので、俺はこれまでパメラ以外に自分の望みを言わなかった。
「手掛かりならあるわ」
そんな俺の弱点を認識しているのか、オリヴィアは冷静にその言葉を口にした。
「国王が持つ、王選の儀式の文献。あれにはこの世界にあなたたちを召喚する魔法陣の他に、儀式の手順が書かれている。元の世界に戻す方法についても書かれている可能性はあるわ」
オリヴィアの言葉に心臓が脈打つ。これまで、王国の図書館を探ったりしていたが、何一つ情報を得られなかったのだ。
それが、こうして手掛かりを提示されたことで諦めかけていた元の世界への想いが蘇った。
「あの文献を閲覧できるのは国王だけ。なぜなら文献には儀式の試練が全て書かれている。つまり、儀式の最中にあれを読むのは不可能ということになるからよ」
オリヴィアは真剣な顔をすると俺を見つめた。
「そして、儀式が終わるとあの文献は再び封印されてしまう。恐らく、また数百年後に王家と国の力が衰退した時まで禁書庫の奥に隠されるのでしょうね」
つまり、チャンスは誰かが国王になり、王位を引き継いだそのタイミングしかない。
「だから、あなたが国王になれば万事解決する。わかったかしら?」
彼女はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
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