上 下
34 / 76

第34話 二人旅行

しおりを挟む
「ちょっと、変なところ触らないでよ?」

 目の前にはアリサのうなじがあり、仄かに良い匂いが漂ってきて心臓が高鳴る。

「こっちも人を乗せるのに慣れてないんだから、あまり身動きするなよ!」

 俺は手綱を強く握ると、アリサに抗議した。
 暖かい風が吹き、アリサの髪が揺れている。彼女は「良い風、それに普段見る景色と違って面白い」といって周囲を見ていた。

 現在、俺とアリサは馬に乗り、王都から離れていた。

「にしたって、馬車を借りても良かったきがするんだが?」

「馬鹿ねぇ、途中からは馬車も通れない道を行くことになるんだし、私の収納魔法があれば問題ないでしょ?」

 何故そんなことになったのかというと、ユグド樹海に残された素材の回収をしにいくためだ。
 今回のプレゼントで、手持ちの金をほぼ失った俺は、アリサに呆れられ「国中の魔力は満タンだからそんな纏まった収入しばらくないわよ」と言われてしまった。

 取り敢えず金が必要だったので「だったらユグド樹海の素材を回収しに行くわよ」とアリサに押し切られてしまった。

 普通に馬車で行けばいいのでは、と考えたのだが、食事の時に、俺が乗馬教習場で教官と一緒に馬に乗り教わった時の話をしたあたりで、アリサの機嫌が徐々に悪くなってきて、最後には「決めた。今度の素材回収はあんたの操縦でいくから」と一方的に決められてしまったのだ。

 俺たちならば走った方が早いという意見もあるのだが、ただ回収するだけではなく「せっかくなんだからこの世界を楽しんだらどう?」というアリサの気遣いにより、ところどころの街に滞在しつつ向かう予定だ。

「それで、ヘンイタ男爵をあんたは蹴り倒したのよね?」

 俺が貴族に目を付けられた時の話を思い出したのか、アリサは振り返ると俺に聞いてくる。

「まあ、あの時は、教官も泣いていたし、嫌がる女性に手を出すようなゲスは許せなかったからな」

 今思い出しても腹が立つ。結局、ヘンイタ男爵はお家取り潰しが決定したようで、抜け殻のようになっていたので、ある程度の溜飲は下がった。

「恋人とのデートでの乗馬だと、もっと近くで触れ合うらしいわよ」

 そんなことを考えていると、アリサは妙なことを言い出した。

「お、俺とアリサは恋人ではないだろ?」

 先日の一件以来、彼女は積極的に俺をからかうようになってきた。

「ふーん、こんな高価な贈り物までしておいてねぇ」

 彼女の左腕には『魔導師のブレスレット』が嵌められている。
 アリサは嬉しそうに右手でそれを撫でると笑みを向けてきた。

「そう言う意図はないけど、どうしてもアリサに身に着けて欲しかったんだよ」

 あの日、受け取りを拒否されてしまったが、アリサからも贈り物をもらった。
 だったら、交換ということでどちらか一つは受け取って欲しいと頼んだのだ。

 プレゼントの交換などまるでカップルのような行動をしている気がするのだが、こちらで交際の常識についてはしらないのでこれが正しいかまではわからない。

「まあ、施設に籠らなくても魔力が回復するこの魔導具は確かにありがたいもんね。私って引き籠るの苦手だし」

 アリサは背をもたせかけると、目を閉じじっとする。その無防備な行動にこちらはどうしてよいのかわからず、黙って馬を操る。

「とりあえず、贈ってもらったプレゼント分は返さないとね」

「これ以上、俺に貸しを作らせないで欲しいんだけど」

「それは、お互いの認識が違うだけ。私はあんたに御世話になりっぱなしだからね」

 ああいえばこういうとばかりに軽口の応酬をしてしまう。
 結局、この日は宿に着くまで、ひたすら彼女との会話を楽しむのだった。



「ううう、腰が痛い」

 宿に着き、食事と風呂を終えると、アリサがそんなことを言い出した。

「だから言ったのに、慣れないと長時間乗るのはきついんだよ」

 俺も乗馬を習い始めた最初の日は身体が痛かった。もっとも、エリクサーを飲んで治してしまったので、経験として最初の乗馬は身体が痛くなると知っているだけだ。

「ミナト、マッサージしてよ」

 浴衣姿で布団に身体を投げ出し、俺にマッサージをせがむアリサ。
 ちなみにこの宿だが、元を辿れば日本人が経営していたらしく、この街の名物として有名な場所らしい。

 現実世界の文化が異世界に根付いているのだが、馴染みがあるものが存在するというのは落ち着く。

「しかたないな」

 俺自身は疲労を既にエリクサーでどうにかしてしまっているので問題ない。明日以降も旅は続くので、彼女の疲労をとっておくとしよう。

「んにゃ、痛い痛い! もっと、優しくしてよっ!」

 彼女の腰に手を当てると、じわっと温かさが伝わってくる。風呂上りで血行が良く、体温も高いからだろうか?

「このくらいでいいか?」

「うん、気持ちいいわよ」

 力を加減すると、彼女は機嫌良さそうに返事をした。
 寝転がっている彼女の肩と腰、それに太ももと順番にマッサージしていく。

 専門的な知識などないので、適当なのだが、アリサの反応をみてよさそうな揉み方をする。

 しばらくして、一通り身体を揉み終えると。

「ふぅ、極楽ぅ。もう今日は動けないかも」

 アリサは布団に顔を埋めると、そんなことを言い出した。

「寝るんだったら自分の部屋に帰れよ」

 散々、俺の布団の上で動き回られたので、ここで寝るというのはなんだかよくない気がするのだが、取り換えてもらうというのは意識していることを相手に伝えるような気がして嫌だった。

「うん、まあ……そうよね」

 アリサは起き上がると、これまでの様子が嘘だったかのように歩き部屋の入口へと向かう。

「ミナト」

「何だ?」

 振り返るとアリサは言う。

「私が去った後、私の感触を思い出して色々したらだめだからね」

「するかっ!」

 枕を投げると、アリサはアッカンベーをすると、

「それじゃあおやすみなさい」

 ささっと出て行く。その際、耳が真っ赤だったのを俺は見逃さない。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

魔力即時回復スキルでダンジョン攻略無双 〜規格外のスキルで爆速レベルアップ→超一流探索者も引くほど最強に〜

Josse.T
ファンタジー
悲運な貯金の溶かし方をした主人公・古谷浩二が100万円を溶かした代わりに手に入れたのは、ダンジョン内で魔力が無制限に即時回復するスキルだった。 せっかくなので、浩二はそれまで敬遠していたダンジョン探索で一攫千金を狙うことに。 その過程で浩二は、規格外のスキルで、世界トップレベルと言われていた探索者たちの度肝を抜くほど強くなっていく。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...