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第32話 贈り物を選ぶ

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「さて、やっと休みだ」

 王都中にある魔導装置の魔力を充魔し終えた俺は、約束された報酬を受け取り、ひとまず自由の身となった。

「アリサにも休暇を与えたし……」

 これまで働きっぱなしだったので、今日はアリサに休暇を与えている。
 彼女は元々寝て過ごすのが好きという事だから、今頃布団で惰眠を貪っているに違いない。

「俺は、これから街に出掛ける」

 一方俺はというと、久しぶりに一人で街に出掛けることにした。その目的というのは……。

「散々世話になったアリサに贈り物を探す」

 彼女から受けた恩はとても言葉で返せるものではない。
 かなり前から俺は、アリサに贈り物をしたいと思っていたのだが、ヘンイタ男爵に睨みを効かされ動きが取れなかったり、国王に呼ばれたり。その後も仕事が忙しくて時間が取れなかったのだ。

 今の俺は国中の魔導施設の魔力を補充した報酬を受け取ったので大金持ちになっている。
 きっとアリサが喜ぶようなプレゼントを買うことができるだろう。
 早速俺は、目当ての店へと向かうのだった。



「紹介状を拝見します」

 入店早々に高級なスーツに身を包んだ店員が前に立つ。
 ここは王都でも屈指の魔導具を取り扱っている店で、付与術ギルドの直営店でもある。
 魔導師が魔法を扱い、錬金術師が薬を扱い、付与術師が魔導具を扱う。

 付与術師というのは、迷宮などから発掘される過去の文明の魔導具を解析したり、新たな魔導具を作り出す職業だ。
 言葉だけ聞けば凄いのだが、過去の文明の魔導具に関しては完全にブラックボックスらしく、ほとんど解明できない。

 彼らが作り出せるのは、過去の魔導具の機能の一部のみを利用した簡易魔導具がせいぜいだ。

 明かりを出したり、火を出したり、水を出したり。生活全般を支える魔導具。現実世界でいうところの家電を作っている人たちという認識だ。

 この店では、そんな付与師によって解析が終わった魔導具が値段を着けられ売られている。
 俺が目当てにしているのは他でもない、その強力な魔導具だった。

「これはっ! 付与術ギルドのギルドマスターの紹介!? 御案内いたします」

 付与術師のギルドマスターはこの前の謁見の際に実は隅にいたらしい。
 後日、魔導装置に魔力を入れていたところ、挨拶を申し出られ、少し話したところ、自分たちがいかに国の基盤を支えているか熱く語っていた。

 そこで、俺が魔導剣を持っていたこともあり、元の購入先がここだと教わり紹介状を書いてもらったのだ。

「どのような魔導具をお求めでしょうか?」

「予算は金貨25000枚で、贈り物なので装飾品の類がいいです」

「に、25000枚!?」

 俺が提示したのは現在の残高の半分だ。これだけあればそれなりの品物が見つかるだろう。
 贈り物で大事なのは金額ではなく心だとは思うが、どれだけ感謝をしているか示すためにも金は惜しまないことにした。

「こ、こちらへご案内します」

 店員が頬を引くつかせると店の奥へと案内する。
 これまでの場所とは違い、壁には魔法陣が、魔導具一つ一つがショーケースに入って飾られている。

「ここにある魔導具は金貨25000枚で買える物ですか?」

 通りかかった際に見てきた魔導具とは明らかに扱いが違うので、予算の範囲で買える物なのか聞いてみた。

「一部、強力な魔導具に関しては予算オーバーですが、大抵のものは大丈夫かと思います」

 店員のその言葉に、俺はフロアを見て回った。

 ネックレス・イヤリング・ブレスレット・クラウン・リング・マジックブックなどなど……。
 いずれも豪華な装飾がされており、様々な色彩で輝く宝石に目がチカチカする。
 これらの宝石は魔力を宿しているらしく、魔導具はその魔力を使って効果を発揮するものだという。

「お勧めとしましては、防壁を張ることが出来る『護りのネックレス』、遠く離れた相手と会話ができる『通信リング』、魔力回復効果が上がる『魔導師のブレスレット』あたりでしょうか?」

 護りのネックレスは、強固な障壁を張ることができる魔導具らしく、これがあれば敵対する者からの攻撃を防ぐことができるらしい。
 身に着けている物の危険意識に反応して魔力を吸い展開するらしく、幼子など魔力が少ない人間でも、一瞬であれば物理的な接触をやわらげることが出来るらしく、裕福な家庭の跡取りなどに身に着けさせることが多いと、店員は説明した。

 通信リングは、同じ魔導具を持つ者同士が共鳴させて使うことができる。各ギルドに置かれている通信魔導具と同等の機能があり、これがあればどこにいても連絡がつくので、貴族や商人などが重用しているとのこと。

最後に、魔導師のブレスレットは、身に着けているだけで魔力回復施設と同等の効果を得られる。通常七日で完全回復するのだが、魔導施設の場合はそこから動くことができないのに対し、これは身に着けていれば自由に外出することもできる。

 アリサの場合、魔力量がかなり多いので、常時身に着けていれば魔法を使っても移動中に回復できるので、かなりの恩恵があるといえよう。

「なるほど、どれも確かな効果があるわけだ……」

 かつ、装飾のデザインも素晴らしく、女性に贈るのに適している。
 流石は高級魔導具を扱っている店の店員だけある、こちらの意図を組んで勧めてくれている。

「どちらにしますか?」

「うーん」

 俺はアゴに手を当てて考える。どれが一番アリサに必要か、どれを贈れば彼女は一番喜んでくれるのか?

 考えたすえ、結論が出た。

「とりあえず『魔導師のブレスレット』と『護りのネックレス』で」

 どちらも、今の彼女にとって有用なら両方買おう。
 俺は、手持ちの金貨のほとんどを放出して、二つの魔導具を手に入れるのだった。


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