上 下
3 / 76

第3話 ナッツラットとの戦い

しおりを挟む



「まずは、森にでも向かうとするか。上手くモンスターと遭遇できるといいんだけど……」

 こちらに召喚された時、この世界の一般的な知識は得ている。

 俺が召喚されたのは魔法やモンスターが存在するファンタジーのような世界で、 街の外にはモンスターが存在し、森では錬金術に必要なハーブが、鉱山では鍛冶に必要な鉱石を採ることができる。

 街の中で商売をする人間以外は、外に出てそれらを採り、生計を立てるのが一般的らしい。

 そんなわけで、この世界で生きていくため、俺は彼らと同じ行動をすることにした。

「街から離れなけれそんなに強いモンスターが出ないらしいけど……」

 近場に現れるのは、小型のモンスターだけなので成人した大人であれば倒すことはそう難しくない。

『キキキィ!』

 茂みから何かが飛び出してきた。

「うわっ!」

 齧歯を生やした、サッカーボールくらいの大きさのモンスター。【ナッツラット】。鋭い歯で噛みついてくるモンスターで、噛まれると痛いらしいが余程のことがない限り致命傷にならず、遭遇しても逃げるのが容易なのでこの世界の住人からも脅威と思われていない。

「とりあえずこいつでいいか」

 一匹だけの登場ということもあって初戦闘の相手としてふさわしいだろう。
 俺は、冒険者ギルドでレンタルした剣を抜くと、重さで右手が下がった。

「重いな……、ちゃんと振れるか?」

 体育会系の部活でもなければ剣道を習っていたわけでもない。素人が武器を扱うというのは中々難しいのだと改めて認識する。

「悪くおもわないでくれよ?」

 目の前で威嚇行動を繰り返すナッツラットを注意深く見ながら剣を握り直した。

 これから生き物の命を奪うということに緊張するが、現実世界とは違い、この世界で生きるためには遠からず手を汚すことになるので、躊躇っていてはだめだ。

 ナッツラットが飛び掛かってくるのに合わせて俺は剣を当てにいった。

『キキィーーーー!!!』

「当たった!?」

 ナッツラットの頭部を浅く斬り、嫌な感触が手に伝わる。罪悪感が湧き、攻撃を躊躇してしまった。

『ギギギギギギギギィーーーーー!!!』

「痛えぇぇぇーーー!?」

 ナッツラットの戦意は衰えず、すばしっこい動きで俺に近づくと足に噛みついてきた。

「このっ! 離せっ!」

 剣を振ろうにも近すぎて振れないし、突き刺そうとすれば自分の足まで攻撃してしまう。足に痛みが走り混乱していると、視界に大きな石を発見した。

 何度もナッツラットを殴りつける。手に感触が伝わるが、こちらも必死だ。

『キュゥ』

 どうにか倒すことができたようで、ナッツラットは力を抜くと地面に横たわった。

「ふぅ、手強かった……」

 初の戦闘をどうにか終え、息を整えていると、ナッツラットから光が出てきて俺の身体に吸い込まれていった。

「これが、経験値みたいなやつだっけ?」

 この世界ではモンスターを倒すとこのような光がでてそれを吸収することで自分の力にすることができる。

「少しは強くなれたか?」

 冒険者はモンスターを討伐することで経験を積み強くなることができるので、こうしてモンスターを倒せるのなら俺だって成長できるだろう。

「それにしても、雑魚モンスターとはいえ油断すると酷いな」

 現実世界なら縫わなければならない怪我をしているが、こちらの世界には治癒魔法やポーションなどが存在しているので、金さえ払えばこの程度の傷は治してもらえる。

「一回の治療費を考えると赤字だと思うけど……」

 モンスターに遭遇するたびにこれでは先が思いやられる。

「ふぅ、戦闘で喉が渇いたしエリクサーでも飲むとするか」

 他の人間に効果がなかったとはいえ、飲料として活用する用途もある。俺はエリクサーを飲みながら「飲み物として売れば生活できたりして?」 などと、どうにか自分の能力で商売できないか考えていると……。

「えっ? 痛みが一瞬で引いて怪我が治ってる。それどころか、体力も回復してないか?」

 先程、ナッツラットに噛まれた傷が塞がっている。少しの間考えると、もしかしてと推測が浮かんでくる。

「いやいや、まさか……そんなわけが……?」

 この世界に転移する際に授かった知識が間違いないとすれば、やはりこの飲み物はエリクサー。なぜ他の人間に効果がなかったのか、その原因は……。

「もしかして、このエリクサーは俺にしか効果がないとか?」

 俺はポツリと呟くと、確かな効果を発揮したエリクサーの空き瓶を見続けるのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

魔力即時回復スキルでダンジョン攻略無双 〜規格外のスキルで爆速レベルアップ→超一流探索者も引くほど最強に〜

Josse.T
ファンタジー
悲運な貯金の溶かし方をした主人公・古谷浩二が100万円を溶かした代わりに手に入れたのは、ダンジョン内で魔力が無制限に即時回復するスキルだった。 せっかくなので、浩二はそれまで敬遠していたダンジョン探索で一攫千金を狙うことに。 その過程で浩二は、規格外のスキルで、世界トップレベルと言われていた探索者たちの度肝を抜くほど強くなっていく。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...