大賢者の遺物を手に入れた俺は、好きに生きることに決めた

まるせい

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第44話 深夜の密談

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 ふと夜中に目が覚めてしまった。

 両隣を見ると、ベッドにはシーラとミラが横たわっており、シーラは幸せそうに寝息を立てている。

 同じ部屋に、昨日までまったく知らない人間がいる状況と言うのは気を張ってしまう。
 シーラの態度を見る限り、信頼できる人物なのだろうが、付き合ってもいない異性だとどうしても意識してしまうのだ。

 俺は起き上がると部屋を出て外にでる。

 この九層はバベル内でも一般人が住む場所なので治安も良く、女性でも安全にであることが出来る層だ。

 上を見上げると、えすかれぇたぁの輝きが上層まで届き幻想的な美しさを放っていた。
 外界の連中は、深淵ダンジョンと呼ばれる中にこのような国が存在し、人々が営んでいるとは考えもしていないだろう。

 この世界から脱出するルートは俺が考える限り一つ。
 中央に建っている【ディオス城】を訪れそこから伸びている建物の上にある階段を登ることだ。

 話を聞く限り、あの階段は上に空いている穴まで繋がっている。俺たち外の世界の人間がそれぞれの国の入り口から入ってくることを考えると、使われていないあちらは特別な場所。出口へと繋がっているのではないだろうか?

 それを調べるためには、まずあのディオス城へ入らなければならない。
 十二貴族になる、もしくは神王に見染められれば入城が認められるはずなので、今は俺もシーラも力を付けてそれに備えるべきだろう。

 そんなことを考えていると、ドアが開く音がして一人の女性が出てきた。

「こちらにいらっしゃったのですね」

 ストールを肩に掛け、寝間着のまま出てきたミラは俺に話し掛けてきた。
 彼女は髪を払いながら隣に来ると、

「もしかして寝付けなかったのでしょうか?」

 そう聞いてきた。

「それは、そちらも同じじゃないのか?」

 俺が切り返すと、ミラは表情を変化させる。

「……どうして、そう思われましたか?」

「俺が身体を起こした時、シーラは口を開けて寝息を立てていたが、あんたは息を殺していたからな。もしかして二人で話したいことがあるんじゃないかと思ったんだが?」

 俺も彼女も神経質な人間なのだろう。よく知らぬ異性がいる傍で安心して眠ることができない。にもかかわらず、息を殺して俺の動きを探っていたのには理由があるはず。

「なるほど、その冷静さをもってこのバベルで生き抜いてこられたのですね」

 彼女は俺に向き直ると頭を下げた。

「このたびは、姫様をお救い頂きありがとうございます。姫様はトラテム王家に残された最後の王族。彼女なくしては復国はありえませんので……」

「別に気にすることはない。俺は自分の生存率を上げるため、シーラと協力しただけだ」

 礼を言われるほどではない。

「それにしても、ミラはどうしてそこまでシーラを気にかけている? ここはバベルの中でこれまでの国によるしがらみは関係ないはず。今なら市民権を得ているのだから自由に生きることもできるんじゃないのか?」

 元々王族だろうと冒険者だろうと、メイドであっても関係ない。
 このバベルという国は、神王とその下にいる十二貴族が支配しているので、ここではシーラも一般人と変わらないのだ。

「その答えは、私がシーラ様のことが大好きだからです」

 彼女は右手を胸に置くと語った。

「幼きころより傍に置いていただき、あの方がどれだけ国民のことを想い努力してきたか見てきました。私はそんなシーラ様だからこそ尊敬しておりますので」

 どうにも俺の考えるシーラ像と違っている。俺にとってシーラとはちょっと抜けた部分があり喜怒哀楽が激しい女性という印象だったからだ。

 もっとも、努力家と言う点については毎日の特訓で魔法を覚えたことから否定はしない。

「ああ、俺も彼女のことは大好きだ」

 そんなシーラと一緒だったからこそ、バベルまで到達できたし。こうして今も諦めることなく行動をしている。

「ん、何だ?」

 ふと見ると、ミラが意外そうな顔をしている。

「いえ、話に聞いた限りではあまり感情を表に出さない方だと思っていたので……」

 ブレッドやメリルにメリッサから聞いたのだろう。

「確かに、外の世界ではそうだったな」

 他人と関わることを損だと考えていたし、今だって特に人と話すのが得意と言うわけではない。
 だが、ミラはシーラが信頼を寄せる女性なので、このまま距離を置くよりは人となりを知っておくべきだと考えたのだ。

 そんなことを考えていると、彼女はふと思いついたのか表情を綻ばせる。

「もしかすると、姫様の影響でしょうかね?」

「まあ、そんなところだな」

 明るい場所では言えない素直な気持ちを吐露する。そうすることで俺は目の前の女性とも打ち解けた気持ちになった。

「まあ、なんだ。彼女は絶対に俺が守るから……」

「はい。信頼しておりますよ」

「これからはミラも俺たちの手が届かない範囲のサポートを頼むよ」

 そう言って歩み寄ると、

「お任せください、旦那様」

 ミラは俺の両手を握るとそう答えるのだった。
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