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第37話 オンセ領オンセンリョカン
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「へぇ、こっち側は池が広がっているんですね?」
シーラが感心した様子で周囲を見渡す。見渡す限りの範囲ではそこら中に水が張ってあったからだ。
「はい、現在は水田に苗を植えている最中で、コメと呼ばれている穀物が半年ほどで収穫されます」
朝食を摂ったあと、隣のオンセ領へと向かった俺たちだったが、市場にある案内所でドグさんからの紹介状を出したところ案内人がついた。
フィロウという名の青年で、オンセ領を取りまとめている立場の人らしい。
「コメは生産性が良く安価で卸すことができますので、各家庭では毎日のように出してますね」
水田と呼ばれた畑は敷地を区切られており水で満たされていた。
そこでは全員が列をなして苗を植えている。水中の地面が緩いのか泥などが顔についているがこの作業をする上では仕方ないのだろう。
汚れることも特に気にせずに作業をしていた。
「それは一度食べてみたいかもしれないですね」
シーラはそう言うと、興味深そうに水田へと近づく。
「おい、あまり身を乗り出すな。落ちるぞ?」
「平気よこのくらい。それよりピートも一緒に見ましょうよ」
手を伸ばして水田の水に触れる。そうした無邪気な動作に俺は仕方ないと頬を緩めると。
『キャンキャンッ』
「あれは?」
何やら小麦色をした小さな獣が道を走ってきた。
「あれはフォックですね。ここオンセ領ではペットを飼う家庭が多く、フォックはその中でも人気の動物です」
黄金色をした毛並みとつり上がった瞳をしているが愛嬌がある顔立ちをしている。野生のモンスターと違って警戒心がないのかフォックは一目散にこちらへと迫っていた。
『誰かっ! そのこを捕まえてくださいっ!』
後ろからはフォックを追いかけてきたのだろう。独特の柄の衣装をまとった少女が息を切らせていた。
俺はフォックを捕まえようと身体を低くする。
「えっ、きゃっ! 何この可愛い生き物」
フォックは手前で曲がるとシーラの胸へと飛び込んだ。
「キューキュゥー」
「ふふふ、いいこね。ここが気持ちいいのかしら?」
喉元を撫でると気持ちよさそうな鳴き声をだす。背中は黄金色の毛並みだったが、腹の方は白い毛をしている。何とも不思議な生き物だ。
「ありがとうございます。ちょっと目を離した隙に走り出してしまって」
「いえいえ、こんなに可愛いんですから。むしろ得したくらいですよ」
相変わらず胸の中ではフォックがじゃれている。シーラが立ち上がり、フォックを飼い主に返そうとすると……。
「えっ?」
バランスを崩し、背中向けに倒れていく。
「シーラ!?」
次の瞬間、水しぶきが上がりシーラは水田へと落っこちた。
★
「も、申し訳ありません、家のポッコのせいで汚してしまって……」
「いいですよ。水に落ちたのは私がバランスを崩したせいなので」
さきほどまで、オンセ領の見学をしていた私とピートだったが、途中で私が水田に落ちたため急遽予定を変更した。
「それにこんな素敵なリョカン? に案内までしてもらって。こんなに広いお風呂に入らせてもらっているんですから」
現在私がいるのは、ポッコの飼い主であるコニーちゃんの親が経営しているリョカンという宿泊施設にあるお風呂場だ。
オンセンというらしく、独特の臭いがするが様々な効能があるお湯らしく、畑仕事で疲れた身体を癒すために皆が利用しているらしい。
「それにしてもシーラさん、綺麗な身体です。羨ましいですよ」
身体を洗ってもらった時に見られたのだが、コニーちゃんは自分の身体と見比べてそんなことを呟いた。
「ふふふ、ありがとう。コニーちゃんはこれから成長するから大丈夫よ」
ためいきを吐き、オンセンに身体を沈める。じわりじわりと身体が暖まり、疲労が溶けていくようだ。
それもこれもすべてはピートのせいなのだけど……。
「シーラさん、湯あたりしましたか? 顔が赤いです」
「ううん、な、何でもないのよ?」
昨晩のことを思い出していたのだが、コニーちゃんの無垢な視線が痛い。私のことを心配してくれているだけに……。
「それより、無料なんて悪いからお金払うわよ」
「いいんです、他の領地からきた大事なお客様に粗相をしてしまったのですから。ここでお金を取ったら父も母も怒ります」
そうは言われても気が引ける。寝不足で立ち眩みを起こして水田に落ちただけで、ポッコが抱き着いてきたのはたまたまなのだ。
眉根を寄せて悩んでいると、コニーちゃんも私の気まずさに気付いたようだ。
「あっ、だったら他の領の話を聞かせてください。私憧れてるんです」
「そんなことでいいならいくらでもしてあげるわよ」
それから、しばらくの間。私たちはオンセンに浸かりながら話をするのだった。
「なんだか不思議な服なのね……」
風呂から上がるとコニーちゃんに用意してもらった服へと着替える。
ユカタというらしく、リョカンで過ごす人間は全員これを身に着けるらしい。
「当リョカンに宿泊しているお客様はオンセン入り放題ですから、脱ぎやすいこの格好が一番なんです」
オンセンから出たところ、確かにすれ違う人たちは皆このユカタを着ていた。
「コニーちゃんが着ているそれもユカタなの?」
「いいえ、ここオンセ領は農業の他に織物を特産品にしていまして、様々な柄のキモノを仕立てては売っているんですよ」
「それは非常に興味深いわね」
これまで触れてきた中でも珍しい文化のようだ。
「とりあえず今日はリョカンで寛いでいただいて、多分フィロウさんの案内候補にも入っているかと思いますので」
話している間に宿泊部屋へと到着したらしい。
「うん、ありがとうね」
「それでは、ごゆっくりお休みください」
引き戸を開けると中に入る。
「おっ、シーラもオンセンから上がったか」
ユカタ姿のピートが杖を片手に待っていた。
シーラが感心した様子で周囲を見渡す。見渡す限りの範囲ではそこら中に水が張ってあったからだ。
「はい、現在は水田に苗を植えている最中で、コメと呼ばれている穀物が半年ほどで収穫されます」
朝食を摂ったあと、隣のオンセ領へと向かった俺たちだったが、市場にある案内所でドグさんからの紹介状を出したところ案内人がついた。
フィロウという名の青年で、オンセ領を取りまとめている立場の人らしい。
「コメは生産性が良く安価で卸すことができますので、各家庭では毎日のように出してますね」
水田と呼ばれた畑は敷地を区切られており水で満たされていた。
そこでは全員が列をなして苗を植えている。水中の地面が緩いのか泥などが顔についているがこの作業をする上では仕方ないのだろう。
汚れることも特に気にせずに作業をしていた。
「それは一度食べてみたいかもしれないですね」
シーラはそう言うと、興味深そうに水田へと近づく。
「おい、あまり身を乗り出すな。落ちるぞ?」
「平気よこのくらい。それよりピートも一緒に見ましょうよ」
手を伸ばして水田の水に触れる。そうした無邪気な動作に俺は仕方ないと頬を緩めると。
『キャンキャンッ』
「あれは?」
何やら小麦色をした小さな獣が道を走ってきた。
「あれはフォックですね。ここオンセ領ではペットを飼う家庭が多く、フォックはその中でも人気の動物です」
黄金色をした毛並みとつり上がった瞳をしているが愛嬌がある顔立ちをしている。野生のモンスターと違って警戒心がないのかフォックは一目散にこちらへと迫っていた。
『誰かっ! そのこを捕まえてくださいっ!』
後ろからはフォックを追いかけてきたのだろう。独特の柄の衣装をまとった少女が息を切らせていた。
俺はフォックを捕まえようと身体を低くする。
「えっ、きゃっ! 何この可愛い生き物」
フォックは手前で曲がるとシーラの胸へと飛び込んだ。
「キューキュゥー」
「ふふふ、いいこね。ここが気持ちいいのかしら?」
喉元を撫でると気持ちよさそうな鳴き声をだす。背中は黄金色の毛並みだったが、腹の方は白い毛をしている。何とも不思議な生き物だ。
「ありがとうございます。ちょっと目を離した隙に走り出してしまって」
「いえいえ、こんなに可愛いんですから。むしろ得したくらいですよ」
相変わらず胸の中ではフォックがじゃれている。シーラが立ち上がり、フォックを飼い主に返そうとすると……。
「えっ?」
バランスを崩し、背中向けに倒れていく。
「シーラ!?」
次の瞬間、水しぶきが上がりシーラは水田へと落っこちた。
★
「も、申し訳ありません、家のポッコのせいで汚してしまって……」
「いいですよ。水に落ちたのは私がバランスを崩したせいなので」
さきほどまで、オンセ領の見学をしていた私とピートだったが、途中で私が水田に落ちたため急遽予定を変更した。
「それにこんな素敵なリョカン? に案内までしてもらって。こんなに広いお風呂に入らせてもらっているんですから」
現在私がいるのは、ポッコの飼い主であるコニーちゃんの親が経営しているリョカンという宿泊施設にあるお風呂場だ。
オンセンというらしく、独特の臭いがするが様々な効能があるお湯らしく、畑仕事で疲れた身体を癒すために皆が利用しているらしい。
「それにしてもシーラさん、綺麗な身体です。羨ましいですよ」
身体を洗ってもらった時に見られたのだが、コニーちゃんは自分の身体と見比べてそんなことを呟いた。
「ふふふ、ありがとう。コニーちゃんはこれから成長するから大丈夫よ」
ためいきを吐き、オンセンに身体を沈める。じわりじわりと身体が暖まり、疲労が溶けていくようだ。
それもこれもすべてはピートのせいなのだけど……。
「シーラさん、湯あたりしましたか? 顔が赤いです」
「ううん、な、何でもないのよ?」
昨晩のことを思い出していたのだが、コニーちゃんの無垢な視線が痛い。私のことを心配してくれているだけに……。
「それより、無料なんて悪いからお金払うわよ」
「いいんです、他の領地からきた大事なお客様に粗相をしてしまったのですから。ここでお金を取ったら父も母も怒ります」
そうは言われても気が引ける。寝不足で立ち眩みを起こして水田に落ちただけで、ポッコが抱き着いてきたのはたまたまなのだ。
眉根を寄せて悩んでいると、コニーちゃんも私の気まずさに気付いたようだ。
「あっ、だったら他の領の話を聞かせてください。私憧れてるんです」
「そんなことでいいならいくらでもしてあげるわよ」
それから、しばらくの間。私たちはオンセンに浸かりながら話をするのだった。
「なんだか不思議な服なのね……」
風呂から上がるとコニーちゃんに用意してもらった服へと着替える。
ユカタというらしく、リョカンで過ごす人間は全員これを身に着けるらしい。
「当リョカンに宿泊しているお客様はオンセン入り放題ですから、脱ぎやすいこの格好が一番なんです」
オンセンから出たところ、確かにすれ違う人たちは皆このユカタを着ていた。
「コニーちゃんが着ているそれもユカタなの?」
「いいえ、ここオンセ領は農業の他に織物を特産品にしていまして、様々な柄のキモノを仕立てては売っているんですよ」
「それは非常に興味深いわね」
これまで触れてきた中でも珍しい文化のようだ。
「とりあえず今日はリョカンで寛いでいただいて、多分フィロウさんの案内候補にも入っているかと思いますので」
話している間に宿泊部屋へと到着したらしい。
「うん、ありがとうね」
「それでは、ごゆっくりお休みください」
引き戸を開けると中に入る。
「おっ、シーラもオンセンから上がったか」
ユカタ姿のピートが杖を片手に待っていた。
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