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第36話 家業の朝は早い

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「うん、今日も良い天気だ」

 天井が明るく暖かい光が差しぽかぽかする。
 早朝に目が覚めた俺はシーラを起こさないようにベッドを抜け出し家の外に出た。

「おはようございます、ピートさん」

「おはようございます、ドグさん。相変わらず朝早いですね」

「ええ、牛や鶏は明るくなると同時に動きますからね。卵の回収やら乳絞りやらありますから」

 近所の家でも多くの人間が家畜の世話のために働き始めている。ヌエベ領を夜の街とするならこちらは朝の牧場だな。

「何か手伝うことありますか?」

 散歩でもしようかと思ったのだが、周りが働いているとその気分も失せた。忙しそうにしているドグさんに手伝いを申し出る。

「それでしたら、そこに積んである卵を市場まで運んでもらえますか?」

 ドグさんの後ろに積まれた箱に卵が重なっている。

「わかりました、それじゃあちょっと行ってきます」

 俺は箱を亜空間に放り込むと市場へと向かうのだった。



 西の方にしばらく歩いて行くと市場に到着する。
 ここは他の十二貴族の領地と違って特殊な作りになっている。

 基本的に、領地をまたぐ間には壁やゲートが設置されているのだが、ドセ領と隣にあるオンセ領の間には壁がないのだ。

 これはここ第一層だけではなく、バベル内のすべての層がそうなっている。
 その理由が……。

『採れたて新鮮卵だよ。十二個入りで百ベル。お買い得だよ』

『見てくれこの大きなジャガイモ、食べごたえあるだろう? 今なら一箱千五百ベルだ』

 食糧を取り扱う市場はドセとオンセの二つの領が取り仕切っているからだ。
 ここは早朝に特に賑わいを見せているので、朝から自分たちの食卓に使う食糧を買いに多くの人が訪れていた。

「すみませーん、ドグさんに頼まれて卵を運んできましたー」

 ドセ領側の市場の裏に回り込むと俺は近くの人間に声を掛ける。

「御苦労様です。そこに積んでおいてください」

 売るのにとても忙しそうなので、俺は人が見ていないのを良いことに亜空間から取り出してその場に積み上げていく。

「そうだ、ついでに牛乳と野菜を買っていくかな」

 ここまで来たのだからネーナさんの代わりに買っておけば助けになるかもしれない。
 何せあの家は子供が多いから消費も早いのだ。俺は市場に入ると適当に目についた食材を買っておくのだった。



「お、おはようございます」

 市場から帰り、早朝の仕事を終えた俺とドグ家は朝食を摂っていた。
 そこに起床したシーラが現れた。

「おはよう、適当な場所に座っておくれ。すぐに朝食を用意するからね」

 ネーナさんの言葉を聞いて俺の隣へと座る。

「おはようシーラ、よく眠れたみたいだな」

 焼き立てのパンを口に放り込みながら俺は挨拶をした。

「なんで起こしてくれなかったのよ?」

「いや、ぐっすり眠っていたからさ……」

「し、仕方ないじゃない。つ、疲れてたんだもん」

 なぜか恨みがましそうに俺を見る。

「慣れない作業の毎日ですからな。いや、頼んでいるこっちが言う言葉ではないのですが本当に助かっています」

「いえいえ、そっちの方は慣れてきてますから」

 ドグさんに対し手を振るシーラ。頬に赤みがさしていた。

「そう言えば、さっき市場に行ってきたんだけどさ」

 食事を摂りながらシーラと話をする。

「えっ、どうだった?」

「活気にあふれてて面白かったよ。色々新鮮な食材もあったしな」

「いいなぁ、私も行ってみたかったなぁ」

 羨ましそうな声を出すシーラ。その言葉を聞いていたドグさんが提案をしてきた。

「ピートさんとシーラさんのお蔭で大規模な作業は終わりました。良かったら今日は隣の領を見てきてはどうでしょうか?」

「勝手にまたいでしまっても良いのですか?」

 あくまで俺たちはドグさんに招待されてここに滞在しているのだ、何かあった時問題にならないのだろうか?

「オンセ領とは長い付き合いですから、他の領と違ってここは二つで一つの領地のようなもの。住民も良く行き来しているので問題はありませんよ」

 ここに滞在して一週間ほどになるが、確かに仕事の手伝いばかりしていた気がする。シーラも目を輝かせて俺の返事を待っているので……。

「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうと思います」

 俺がそう答えるとシーラは喜び、大急ぎで朝食を片付けはじめた。


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