大賢者の遺物を手に入れた俺は、好きに生きることに決めた

まるせい

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第26話 ヌエベ領べモンド

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 スイエテ領をでて一つ隣の領地を挟んだ先にあるヌエベ領へと入る。

 マーガレットが馬車を用意してくれたのだが、彼女は俺に近付くと「乗り心地の良い特別な馬車を用意しておいたからね」とウインクをして離れて行った。

 馬車に乗ると、なぜかシーラの距離が今までよりも近く戸惑いを覚える。

 目が合うと逸らされるのだが、昨晩話しながらいつの間にか同じベッドで寝てしまったことを思い出したのだろう。

「そろそろ到着する予定です」

 小窓が開き御者さんの声がする。本日も移動に半日かかった。
 第一層はそれぞれの十二貴族が住んでいるらしいが、馬車での移動でこれだけ時間がかかるなら相当広い領地を管理していることになる。

 マーガレットの話では十二貴族はそれぞれ得意としている分野があるらしく、その力を伸ばしてバベルで地位を築いているらしい。

「ここの領主はどんな分野が得意なんですか?」

 シーラが御者へと質問をする。

「ここは……娯楽。ですね」

 一瞬、御者は悩んだ末そう答えた。

「へぇ、娯楽かぁ。バベルの娯楽だというからにはきっと凄いんだろうなぁ」



「ぐふふふふ、よくぞ参った。私がこのヌエベ家の当主べモンドである」

 目の前には良く太った中年の男がソファーに座っている。
 その両側にはドレスで着飾った妙齢の美女がおり、べモンドは彼女らの肩に手を回していた。

「ピートです」

「シーラです」

 あまりの様子に俺もシーラも短い言葉を返すと相手の言葉を待つ。

「お主らが一年ぶりに現れた外界からの来訪者か、ふーむ中々……」

 不躾な視線がシーラを捉える。

「ひっ」

 厭らしい目で嘗め回すように見られたシーラは咄嗟に出た声を我慢した。

「あの、俺たちに用があるはずでは?」

 べモンドの視線が不愉快だった俺は奴の視線を遮った。

 どの当主も俺たちに求める物があるらしくこうして面会をしているのだ。この男の要求はなんだ?

 俺が睨みつけるようにすると……。

「おおっ! そうだったな!」

 べモンドは手を叩くとこれまでとは違う親し気な様子を見せた。

「ひとまずここでは何だ、二層へと移動しようではないか」

 そう言うと、その場の人間が立ち上がり俺たちはべモンドへとついて行った。



「まさか、この短時間で移動できるなんて……」

「えれべぇたぁって凄いのね」

 現在俺たちがいるのは二層の街だった。
 煌びやかな光と活気に満ちており、そこら中で酔っ払っている人間やら良い身なりをした人間がおり男女ペアになっては建物内へと消えていく。

「ぐふふふふ、十二貴族の特権ですからな。せっかく遠方からきていただいたのにいきなり交渉では楽しめますまい。まずは我が自慢のギャンブルシティを堪能していただかなければ」

「ギャンブルって……私たちそんなお金持ってないですよ」

「もちろん存じ上げております。なのでこちらは私たちからのプレゼントですわ」

 べモンドの隣にいた美女がゴールドのカードを取り出す。そして俺たちに身分証を出させて重ねると……。

『ミモザ様から100万ベルが譲渡されています。受け取りますか?』

 その場にメッセージが現れた。

「いや、さすがにそれは悪いですよ」

「そうです、まだべモンドさんの話をお受けするか決まっていないのに」

 シーラも俺も慌てて返そうとするのだが、

「気にする必要はない。これも我が領の良さを知ってもらうための先行投資だからな」

 強引に話が進められ、結局俺たちは渋々とそのお金を受け取った。

「そのお金で今夜はこの街を堪能してください。酒を呑むもよし、女を買うもよし。このギャンブルシティはバベルでもっともお金の消費が激しい街ですからな。きっと外界から来られたあなたがたも満足されるはずです」

 そう言うと、彼らは引き上げて行った。各層に屋敷があり、そこからエレベーターで移動できるらしい。恐らく上層に戻ってあの美女たちと仲良くするつもりなのだろう。

「どうする?」

 俺はシーラに確認する。

「どうするもなにも……見て回るしかないよね?」

 ここまで便宜を図られて何も見ないで翌日になると、彼らの心象が悪くなるのは間違いない。

 俺とシーラはためいきを吐くと街へと一歩踏み出すのだった。

          ★

「ぐふふふふふふ、早速店にはいったようだな」

 モニターにはピートとシーラの様子が映っている。
 高級なワインとツマミに手を突っ込んだべモンドは愉快そうにその映像を見ていた。

「あのピートとかいう小僧はどうでもよいが、シーラとか言ったか。アレは間違いなく高貴な身分だ」

 普段から美女を侍らせているべモンドですら滅多に目にかかれない整った容姿と美しい立ち振る舞い。
 どうしてこのような場所に来たかわからないが、こうして目の前に現れたからにはべモンドは見逃すつもりはない。

「なんだかんだで浮足立っているようですね。やはり田舎から来たものの行動など同じですわ」

 ミモザがべモンドへと寄りかかり耳元で囁いた。

「そう言うな、彼には適当な美女を与えてやれ。田舎者では味わえぬ極上の体験ができるはずだ」

「ふふふ、これでまた。あの子がコレクションに加えられるわけですね。可哀想な子だこと」

 モニターには相変わらずシーラが映っている。ピートと楽しそうに話す様子は彼に好意を持っているのがはっきりわかる。

「ぐふふふふ、人の心を狂わせるギャンブルシティで一晩過ごす。明日の面会が楽しみだわい」

 これまでもこうして多くの人間と外界からきた人間を借金地獄に陥れてきたべモンド。

 彼はシーラとピートを見ながら極上のワインをあおるのだった。

          ★

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