上 下
22 / 43
連載

第24話 お互いの思惑

しおりを挟む
(【ディティクト】)

 小声でそう唱えると俺は看破の魔法を使った。

 この魔法は部屋にあるすべての魔導具を光で知らせてくれる。
 魔導具から漏れる魔力に反応してその魔力を拡大して見せてくれるのだ。

(さすがは十二貴族だけあって立派な部屋だな)

 案内された部屋は相当に広い。

 品の良い家具にキングサイズのベッド。美術品に、備え付けの棚にはワインやブランデーなどの瓶が置かれている。

 この部屋に案内したメイドからは「御自由にお飲みください」と言われているが、一本いくらになるかわからない高価な酒に手を出すつもりはない。

 部屋を一周、天井から床を含めて見渡す。照明の魔導具がシャンデリアに埋め込まれていたり、空調の魔導具が壁に埋め込まれていたりなどなど、下層で泊った宿など比べ物にならないほど快適な空間を作っていた。

 そんな中ベッドの枕元、ソファーとテーブルが並ぶテーブルの裏に俺は妙な魔力を発見する。

 近づいて音を立てないように覗きこむ。

(これは……盗聴の魔導具だな)

 バベル内の魔導具に関しては元々ここに住んでいたであろう大賢者の知識を得ている。
 神器がいつからあそこに眠っていたのかわからないが、それ以降に発明された魔導具でなければ俺が知らない物はない。
 形と流れてくる魔力からこれが盗聴魔導具だと断定した。

(やはり向こうもこちらの様子を探るつもりだったか)

 一通り部屋の中を点検して、盗撮の魔導具までは置かれていないことを確認した。

 ――コンコンコン――

「ピートいる? 入ってもいいかな?」

 許可を出すとシーラが顔を覗かせた。彼女は用意された寝間着に着替えており枕を抱きしめて部屋に入ってくると……。

「ちょっとお話できないかな?」

 口元を枕で隠しながら上目遣いに見つめてくるのだった。

 
          ★

「それで、例の金属だけど何なのかわかった?」

 マーガレットがそう言うと、執事は頷き部屋の外から別な人間が入ってくる。
 傷をつけないように布にくるまれたオリハルコンを丁寧にテーブルへと置いた。

「鑑定の結果、こちらはオリハルコンで間違いありません」

「そう、詐欺を働くつもりで偽物を出したのかと思ったのだけど……、相手の意図が読めなくなったわね」

 マーガレットはこれまでも何度か外界の人間と接する機会があった。中には野心を抱き不相応にもマーガレットの身体を狙う者、十二貴族の後ろ盾欲しさに媚びへつらう者を見てきた。

 いずれの人間も、あの悪名高い外界を踏破してきたので高い武力を有していた。
 スイエテ領は武力ではなく商売で権力を維持している貴族だ。

 目的は外界から運び込まれる珍しいアイテムで、それを買い上げコレクションするのがマーガレットの趣味でもあった。

 中でもカバンを持つ外界人は多くのアイテムを保有している。その興味からシーラのカバンを見たマーガレットだが、ピートはそれを見逃さなかった。

「あの場で明言しなかったのは言質を取られたくなかったからだけど、本物を出してきたのなら意味が薄れるわ」

 用意していたかのようにあからさまな様子で懐からオリハルコンを取り出したのだ、罠を疑わないわけがない。
 もしあの場で「オリハルコン」と答えていた場合、のちにそれを利用される可能性があった。

 このあと、他の十二貴族とも面会の約束があると聞く。

 もし他の十二貴族との面会の際に「何の金属かわからなかったが、マーガレットが鑑定してくれた」と言われてしまえばスイエテ家の当主が金属の素性を保証してしまったことになる。

「もしや本当に何の金属かわからないか買い取ってもらえれば幸い程度に考えていたのでは?」

 執事の言葉にオリハルコンを鑑定した人間が答える。

「いえそれはないかと思います」

「どうして?」

「オリハルコンの鑑定方法は魔力を流してみること。実際に鑑定のためにやってみたところ、残留魔力がありましたので。あの少年が魔道士の可能性は高いかと思います」

「市民の間にも魔力を扱える人間はいるでしょう? そちらの線は?」

「彼らが第十層に滞在している間の素行はバベルの役人が調査しています。オリハルコンなんてものを取り出していたら情報が回らないわけないです」

 鑑定した人間の報告にマーガレットはアゴに手をやる。

「ピートが魔道士……そうすると外でオリハルコンゴーレムを倒して手に入れた?」

 マーガレットはピートの「地面に落ちていた」という言葉を信じていない。もしそんな偶然があるのなら過去に訪れた人間が同様の物を持ってくるはずだからだ。

 ここ数年そのような物を持って現れた人間がいない以上、倒して手に入れたと考えるのが妥当だ。

「それこそあり得ません、オリハルコンゴーレムには魔法が通じないのですから」

 ピートを魔道士と仮定するのなら倒した剣士がいるはず。

「そうするとシーラが剣で倒したと?」

 その仮定が一致するのなら彼女のカバンの中には大量のオリハルコンが入っていることになる。

「いずれにせよ、こうも隠されては推測のしようがないわ。オリハルコンが本物なら価格を提示する。あとは向こうの出方を見ましょう」

「それでは、あちらの様子を探りますか?」

 執事の言葉にマーガレットは頷いた。

          ★

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。