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第23話 スイエテ領当主マーガレット
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馬車が揺れ、窓から景色が流れていく。
整地された道を進んでいるお蔭か、さほど揺れることなく俺もシーラも寛いでいた。
かなり広い公園のような場所で、草木の手入れが完璧にされているようだ。
流れてくる景色はどれも花や植物に溢れていて俺もシーラもその風景を楽しんでいた。
「それでは説明の続きをさせていただきます。私たちが現在いるのは第一層のセイス領、十二貴族の中でも武に優れた貴族になります」
俺たちは窓から顔を戻すと役人の話を聞く。
「じゃあ、今向かってるのはセイス家の屋敷か何かなのかしら?」
シーラのつぶやきに役人は首を横に振る。
「いいえ、我々が今向かっているのはバベルの中心【ディオス城】です」
「いきなり神王の下まで連れて行くのか?」
さきほどから馬車は真っすぐ進んでいる。ゲートを潜りひたすら北上しているのには気付いていたが、まさかそのまま中心に向かうとは思わなかった。
「いえ、ディオス城へは入ることはできません。今回用事があるのは隣接するスイエテ領なので、橋の手前で曲がります」
ディオス城を護るため湖が広がっている。その湖の外周には道があるのだが、この道はすべての領へと繋がっているらしい。
「スイエテ領の貴族が私たちに用があるのよね? それはどんな用事なのかしら?」
シーラは口元に手を当てて考えているようだがある程度想像はつく。
「ありていに言ってしまえば勧誘ですね」
予想通りの言葉が役人の口からでた。
「私自身は外に出たことがないので存じ上げていないのですが、外の世界は大変危険な場所なのですよね?」
役人は逆に俺たちに質問をしてきた。
「ええとても危険よ。生きているのが奇跡じゃないかと思うくらいには……」
「そうだな、元々住んでいた場所に比べても現れるモンスターの強さは桁違いだし、気の休まる場所もなかった」
「それは……さぞ苦労をなされたのでしょうね」
役人の表情が和らぎ好意的な目で見られる。
「これまで、何人もの人間が外界からバベルに来ております。さきほど御二人がおっしゃったように皆さま大変な思いをされたようで、到着した時には疲弊していたり、重体だったり。目をそむけたくなるような状態の方もいらっしゃいました」
容易に想像ができる。俺はたまたま神器を手に入れたお蔭で快適とは言わないまでも、そこそこ安定した旅をしてきたつもりだがあの装備を見つけなければ途中で死んでいたかもしれない。
「それほどに苦労をして外界から来た人間というのは非常に評価されています。今回の件につきましてはあなた方が到着した段階で十二貴族すべてに連絡が回っています。その中でも、あなた方に興味を持った四貴族が勧誘を行おうとしているのです」
役人の説明ですべて合点がいく。これまでもこうやって外界の人間を取り込んでいったのだろう。
「ん、どうしたの?」
シーラを見ると彼女は首を傾げてみせた。勧誘される内容にも色々ある。
俺はそのことを念頭に入れると……。
「いや、何でもない」
目を瞑ると、どうするのが最善なのかについて考えることにした。
「こちらがスイエテ領の当主様が住む屋敷になります」
辺りはすっかり薄暗くなっており、屋敷のドアの前には一人の執事が立っていた。
「お待ちしておりました、中へどうぞ」
御辞儀をされドアを開けて中へと案内される。
「外界の来訪者ですね。遠く辛い旅路を良く踏破しました。スイエテ領当主、マーガレットよ」
中に入ると広いフロアがあり、両側にはメイドと執事が並び、真ん中にはドレスを着ている女性が立っていた。
役人が頷く。俺たちも名乗り返すべきなのだろう俺が口を開こうとすると……。
「本日はお招きいただきありがとうございます、シーラと申します」
シーラが進み出て優雅な挨拶をする。
マーガレットも屋敷の使用人たちもその姿に感心した様子で、口を開けて惚けていた。
「ピートです」
一方、こういった場に慣れていない俺はシーラに注目が集まっている間にさっさと名乗ってしまう。
「それでは、私はこれにて失礼致します」
「ええ、御苦労様」
そう言うと役人がさっさと出て行ってしまった。同じ馬車で会話をしてようやく打ち解けてきたのだが、どうやら彼の役割は俺たちをここまで案内することらしい。
「そうなの、外界では今そのようなファッションが流行っているのね?」
「そうですね、市民の間では特に花柄の布が流行していて涼し気な色と合わせているとか」
目の前ではシーラとマーガレットが歓談に興じている。
同じ女性同士ということもあってか、服の流行について語りあっている。
二人の姿は上流階級のそれであり、お互いに笑みを浮かべながら相手の言葉を聞き、適切な回答を投げかけているようだった。
俺はそんな二人の傍ら料理を少しずつ口にしていた。さすがは十二貴族というだけあって、使われている食材は高級な物ばかりでどの料理も美味しい。
俺は二人の会話に耳を傾けながらも周囲の様子を探っている。
ここの対応はシーラに丸投げだ。
俺には初対面の相手と打ち解ける社交性も、相手に合わせて話題を変えるテクニックもない。
彼女がいてくれたことに内心で感謝しつつなるべく多くの情報を得ようと周囲を見渡す。
「そう言えば、ピートさんと一緒に旅をしてきたよね? もしかすると二人はそう言う関係なのかしら?」
探るような視線を受ける。それは好奇心を前面に押しだしつつもこちらの情報をかすめ取ろうとする目だ。
「べ、別に私とピートはそんなんじゃ……」
「ええ、シーラの言う通り。たまたま途中で合流する機会がありましたので、たまたま一緒に行動しただけです」
シーラと目を合わせることなくマーガレットに返事をする。
「そう、危険な旅を共にして強力なモンスターを倒したのでしょう?」
マーガレットの視線が一瞬シーラのカバンへと向いた。
「いえいえとんでもない、ミスリルゴーレムやらドラゴンやら色々強力なモンスターがいましたけど全部逃げてやり過ごしましたよ」
シーラが余計なことを口走る前に俺は言葉を被せておく。
「そう、それほどのモンスターと遭遇したなら何か珍しい物でも持っているんじゃないかと思ったのだけど……」
マーガレットの探るような言葉。
「えっと、そうですね……それでしたら……」
「それでしたらちょうど良い物があります」
俺は懐から石ほどの大きさの金属を取り出し食卓へと置く。
「こちらは旅の途中で地面に落ちていたのですが、綺麗だったので持ち歩いていた物です。マーガレットさんはこれが何かわかりますか?」
「これは……」
マーガレットは目の前の物体が何なのか一瞬躊躇う。その間に俺は言葉を被せる。
「俺もシーラも生き延びるのに必死で、唯一持ち運べたのがこの金属だったんですよ」
「さぁ? ごめんなさい、外界の物には詳しくないのでわからないわ」
これしかないと言ったとたん、彼女はそう返事をした。
「そうですか……値打ち品かと思ってこれまで誰にも見せたことはなかったんですが、記念として御守り代わりにしましょうかね」
落胆した様子をみせ、オリハルコンを懐に仕舞おうとする。
「もしかしてわかる人間がいるかもしれないから、屋敷の人間に見せたいのだけど、あずからせてもらえないかしら?」
「ええ、構いませんよ」
マーガレットが手を伸ばす。ゆっくりとした動作でオリハルコンに触れようとしたところ……。
「そうだ、ここに妙な刻印があるので、意味がある刻印かもしれないので取り扱いには注意してくださいね」
そう言ってひっくり返すとあらかじめつけておいた刻印を見せつける。
「え、ええ……。おあずかりするからには丁重に扱わせてもらうわ」
彼女にオリハルコンをあずけてしばらくすると会食が終わり解散となる。
俺とシーラはそれぞれ別室へと案内されたわけだが……。
「さて、どうでるかな?」
俺はマーガレットの動きに注目すると、魔法の準備を始めた。
整地された道を進んでいるお蔭か、さほど揺れることなく俺もシーラも寛いでいた。
かなり広い公園のような場所で、草木の手入れが完璧にされているようだ。
流れてくる景色はどれも花や植物に溢れていて俺もシーラもその風景を楽しんでいた。
「それでは説明の続きをさせていただきます。私たちが現在いるのは第一層のセイス領、十二貴族の中でも武に優れた貴族になります」
俺たちは窓から顔を戻すと役人の話を聞く。
「じゃあ、今向かってるのはセイス家の屋敷か何かなのかしら?」
シーラのつぶやきに役人は首を横に振る。
「いいえ、我々が今向かっているのはバベルの中心【ディオス城】です」
「いきなり神王の下まで連れて行くのか?」
さきほどから馬車は真っすぐ進んでいる。ゲートを潜りひたすら北上しているのには気付いていたが、まさかそのまま中心に向かうとは思わなかった。
「いえ、ディオス城へは入ることはできません。今回用事があるのは隣接するスイエテ領なので、橋の手前で曲がります」
ディオス城を護るため湖が広がっている。その湖の外周には道があるのだが、この道はすべての領へと繋がっているらしい。
「スイエテ領の貴族が私たちに用があるのよね? それはどんな用事なのかしら?」
シーラは口元に手を当てて考えているようだがある程度想像はつく。
「ありていに言ってしまえば勧誘ですね」
予想通りの言葉が役人の口からでた。
「私自身は外に出たことがないので存じ上げていないのですが、外の世界は大変危険な場所なのですよね?」
役人は逆に俺たちに質問をしてきた。
「ええとても危険よ。生きているのが奇跡じゃないかと思うくらいには……」
「そうだな、元々住んでいた場所に比べても現れるモンスターの強さは桁違いだし、気の休まる場所もなかった」
「それは……さぞ苦労をなされたのでしょうね」
役人の表情が和らぎ好意的な目で見られる。
「これまで、何人もの人間が外界からバベルに来ております。さきほど御二人がおっしゃったように皆さま大変な思いをされたようで、到着した時には疲弊していたり、重体だったり。目をそむけたくなるような状態の方もいらっしゃいました」
容易に想像ができる。俺はたまたま神器を手に入れたお蔭で快適とは言わないまでも、そこそこ安定した旅をしてきたつもりだがあの装備を見つけなければ途中で死んでいたかもしれない。
「それほどに苦労をして外界から来た人間というのは非常に評価されています。今回の件につきましてはあなた方が到着した段階で十二貴族すべてに連絡が回っています。その中でも、あなた方に興味を持った四貴族が勧誘を行おうとしているのです」
役人の説明ですべて合点がいく。これまでもこうやって外界の人間を取り込んでいったのだろう。
「ん、どうしたの?」
シーラを見ると彼女は首を傾げてみせた。勧誘される内容にも色々ある。
俺はそのことを念頭に入れると……。
「いや、何でもない」
目を瞑ると、どうするのが最善なのかについて考えることにした。
「こちらがスイエテ領の当主様が住む屋敷になります」
辺りはすっかり薄暗くなっており、屋敷のドアの前には一人の執事が立っていた。
「お待ちしておりました、中へどうぞ」
御辞儀をされドアを開けて中へと案内される。
「外界の来訪者ですね。遠く辛い旅路を良く踏破しました。スイエテ領当主、マーガレットよ」
中に入ると広いフロアがあり、両側にはメイドと執事が並び、真ん中にはドレスを着ている女性が立っていた。
役人が頷く。俺たちも名乗り返すべきなのだろう俺が口を開こうとすると……。
「本日はお招きいただきありがとうございます、シーラと申します」
シーラが進み出て優雅な挨拶をする。
マーガレットも屋敷の使用人たちもその姿に感心した様子で、口を開けて惚けていた。
「ピートです」
一方、こういった場に慣れていない俺はシーラに注目が集まっている間にさっさと名乗ってしまう。
「それでは、私はこれにて失礼致します」
「ええ、御苦労様」
そう言うと役人がさっさと出て行ってしまった。同じ馬車で会話をしてようやく打ち解けてきたのだが、どうやら彼の役割は俺たちをここまで案内することらしい。
「そうなの、外界では今そのようなファッションが流行っているのね?」
「そうですね、市民の間では特に花柄の布が流行していて涼し気な色と合わせているとか」
目の前ではシーラとマーガレットが歓談に興じている。
同じ女性同士ということもあってか、服の流行について語りあっている。
二人の姿は上流階級のそれであり、お互いに笑みを浮かべながら相手の言葉を聞き、適切な回答を投げかけているようだった。
俺はそんな二人の傍ら料理を少しずつ口にしていた。さすがは十二貴族というだけあって、使われている食材は高級な物ばかりでどの料理も美味しい。
俺は二人の会話に耳を傾けながらも周囲の様子を探っている。
ここの対応はシーラに丸投げだ。
俺には初対面の相手と打ち解ける社交性も、相手に合わせて話題を変えるテクニックもない。
彼女がいてくれたことに内心で感謝しつつなるべく多くの情報を得ようと周囲を見渡す。
「そう言えば、ピートさんと一緒に旅をしてきたよね? もしかすると二人はそう言う関係なのかしら?」
探るような視線を受ける。それは好奇心を前面に押しだしつつもこちらの情報をかすめ取ろうとする目だ。
「べ、別に私とピートはそんなんじゃ……」
「ええ、シーラの言う通り。たまたま途中で合流する機会がありましたので、たまたま一緒に行動しただけです」
シーラと目を合わせることなくマーガレットに返事をする。
「そう、危険な旅を共にして強力なモンスターを倒したのでしょう?」
マーガレットの視線が一瞬シーラのカバンへと向いた。
「いえいえとんでもない、ミスリルゴーレムやらドラゴンやら色々強力なモンスターがいましたけど全部逃げてやり過ごしましたよ」
シーラが余計なことを口走る前に俺は言葉を被せておく。
「そう、それほどのモンスターと遭遇したなら何か珍しい物でも持っているんじゃないかと思ったのだけど……」
マーガレットの探るような言葉。
「えっと、そうですね……それでしたら……」
「それでしたらちょうど良い物があります」
俺は懐から石ほどの大きさの金属を取り出し食卓へと置く。
「こちらは旅の途中で地面に落ちていたのですが、綺麗だったので持ち歩いていた物です。マーガレットさんはこれが何かわかりますか?」
「これは……」
マーガレットは目の前の物体が何なのか一瞬躊躇う。その間に俺は言葉を被せる。
「俺もシーラも生き延びるのに必死で、唯一持ち運べたのがこの金属だったんですよ」
「さぁ? ごめんなさい、外界の物には詳しくないのでわからないわ」
これしかないと言ったとたん、彼女はそう返事をした。
「そうですか……値打ち品かと思ってこれまで誰にも見せたことはなかったんですが、記念として御守り代わりにしましょうかね」
落胆した様子をみせ、オリハルコンを懐に仕舞おうとする。
「もしかしてわかる人間がいるかもしれないから、屋敷の人間に見せたいのだけど、あずからせてもらえないかしら?」
「ええ、構いませんよ」
マーガレットが手を伸ばす。ゆっくりとした動作でオリハルコンに触れようとしたところ……。
「そうだ、ここに妙な刻印があるので、意味がある刻印かもしれないので取り扱いには注意してくださいね」
そう言ってひっくり返すとあらかじめつけておいた刻印を見せつける。
「え、ええ……。おあずかりするからには丁重に扱わせてもらうわ」
彼女にオリハルコンをあずけてしばらくすると会食が終わり解散となる。
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