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灯る頃
03...触れたい温度【Side:三木直人】
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(嘘、だろ……)
帰りは学校に迎えに来るって言うから、行きは雪が降りそうに寒い中、歩いて行った。
このまま逸樹さんに先に帰られてしまっては、俺はここからどうやって帰れば――。
なんて、実際に考えるべきことはそこじゃない。
(……つか、何でこうあの人は)
あまりに唐突に席を立った彼の態度に、思わず呆然とその背を見送りかけたが、すぐにはっとしてその背を追った。傍らに投げていたマフラーとダウンジャケットを引っ掴んで。
ガタンと椅子を引く音がしたからか、近くの席のお客さんから向けられた好奇な視線も、レジにいた店員の心配そうな視線もこの際気にしている余裕はない。
見れば出入り口のドア越しにも既に彼の姿は見えなくなっていた。
(マジで冗談はやめろって……)
まさか本気で先に帰るつもりだろうか。
若干背筋を冷やしながら慌てて外に飛び出すと、
(良かった……)
やはりすぐに人影は目に付かないながら、幸いにも駐車場の一角には彼の車がまだあった。
俺は少しほっとして、けれどつかつかと早足にそちらに近づく。
「ちょっと待てよ、せめて最後まで俺の話……」
運転席側に回り、窓ガラスをコンと叩く。
彼はハンドルに手を置いて、伏し目がちにどことない場所をじっと見詰めていた。
明らかに怒っている。怒っているというか、これは拗ねているという方が正しいのかな。
俺は浅く溜息を吐いて、再度コンと窓を指先で小突いた。
次いで、「ちょっと開けて」と声に出さずに口の動きだけで告げる。
「………」
と、ややして逸樹さんは漸く窓を開けてくれた。
かと言って、何を返してくれるわけでもない。相変わらず沈黙したままだ。
時折吹き抜ける冷たい風も、この妙に気まずい空気までは洗ってくれない。
「ごめんって。俺の言い方が悪かった」
あくまでも頑なな姿勢を崩さない彼に手を伸ばし、その頬に触れてみる。
彼は未だ視線を合わせることすらしてくれない。けれど、その手を振り払うこともしなかった。
無意識に入っていた力が、肩から抜ける。
依然として逸樹さんは不機嫌極まりないようだけど、その微妙な変化に俺は幾分安堵した。
「本当は、クリスマスどうしようかって話がしたかったんだ」
早々に車内に乗り込んでいながら、エンジンはまだかけられていない。
その所為だろうか、指先を添わせた彼の頬は、少し冷たく感じられた。
俺は触れていた手のひらで、宥めるように彼の頬を包み込んだ。
俺がゼミで遅くなった所為で、迎えに来てくれた逸樹さんと共にファミレスについた頃には、既に時刻は八時を回っていた。
要するに辺りはすっかり暗くなっている。当然街灯はあるけれど、幸いにも近くに人影はない。それを知っていた俺は、まぁいいかとそのまま顔を寄せた。
彼の顔を少しだけ引き寄せて、尚もこっちを向かないその横顔に、目じりに、ちゅ、と触れるだけのキスをした。
「……な。ちゃんと聞いてよ。本題は、そっちだったんだから」
帰りは学校に迎えに来るって言うから、行きは雪が降りそうに寒い中、歩いて行った。
このまま逸樹さんに先に帰られてしまっては、俺はここからどうやって帰れば――。
なんて、実際に考えるべきことはそこじゃない。
(……つか、何でこうあの人は)
あまりに唐突に席を立った彼の態度に、思わず呆然とその背を見送りかけたが、すぐにはっとしてその背を追った。傍らに投げていたマフラーとダウンジャケットを引っ掴んで。
ガタンと椅子を引く音がしたからか、近くの席のお客さんから向けられた好奇な視線も、レジにいた店員の心配そうな視線もこの際気にしている余裕はない。
見れば出入り口のドア越しにも既に彼の姿は見えなくなっていた。
(マジで冗談はやめろって……)
まさか本気で先に帰るつもりだろうか。
若干背筋を冷やしながら慌てて外に飛び出すと、
(良かった……)
やはりすぐに人影は目に付かないながら、幸いにも駐車場の一角には彼の車がまだあった。
俺は少しほっとして、けれどつかつかと早足にそちらに近づく。
「ちょっと待てよ、せめて最後まで俺の話……」
運転席側に回り、窓ガラスをコンと叩く。
彼はハンドルに手を置いて、伏し目がちにどことない場所をじっと見詰めていた。
明らかに怒っている。怒っているというか、これは拗ねているという方が正しいのかな。
俺は浅く溜息を吐いて、再度コンと窓を指先で小突いた。
次いで、「ちょっと開けて」と声に出さずに口の動きだけで告げる。
「………」
と、ややして逸樹さんは漸く窓を開けてくれた。
かと言って、何を返してくれるわけでもない。相変わらず沈黙したままだ。
時折吹き抜ける冷たい風も、この妙に気まずい空気までは洗ってくれない。
「ごめんって。俺の言い方が悪かった」
あくまでも頑なな姿勢を崩さない彼に手を伸ばし、その頬に触れてみる。
彼は未だ視線を合わせることすらしてくれない。けれど、その手を振り払うこともしなかった。
無意識に入っていた力が、肩から抜ける。
依然として逸樹さんは不機嫌極まりないようだけど、その微妙な変化に俺は幾分安堵した。
「本当は、クリスマスどうしようかって話がしたかったんだ」
早々に車内に乗り込んでいながら、エンジンはまだかけられていない。
その所為だろうか、指先を添わせた彼の頬は、少し冷たく感じられた。
俺は触れていた手のひらで、宥めるように彼の頬を包み込んだ。
俺がゼミで遅くなった所為で、迎えに来てくれた逸樹さんと共にファミレスについた頃には、既に時刻は八時を回っていた。
要するに辺りはすっかり暗くなっている。当然街灯はあるけれど、幸いにも近くに人影はない。それを知っていた俺は、まぁいいかとそのまま顔を寄せた。
彼の顔を少しだけ引き寄せて、尚もこっちを向かないその横顔に、目じりに、ちゅ、と触れるだけのキスをした。
「……な。ちゃんと聞いてよ。本題は、そっちだったんだから」
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