37 / 84
一線の越え方
19...温もり【Side:山端逸樹】
しおりを挟む
鎮痛剤が効き始め、ズキズキと疼いていた頭からの痛みが薄らぎ始めると、それに比例するように眠気がおりてきた。
カーテン越しにうっすらと夕日が差し込んで、片頬が仄かに暖かいのも心地よい。
そういえばここ最近、マトモに眠れたためしがなかった。
個室という安心感も手伝って、俺は少しずつまどろみ始める。
病院というのは搬送されてすぐベッドに落ち着けるというものではないらしい。
ここへ運び込まれて一時間以上、俺はレントゲンやらCTやら、とにかく色々な検査をされて、ついさっきやっとベッドへ横たわることを許された。
検査待ちの間、社長や同僚や下請けの会社の人間などが入れ替わり立ち代り顔を見せたのに付き合ったので、本当に慌しい時を過ごしたように思う。
運び込まれたのは十五時頃だったはずだが、病室へ入るころには十六時半を過ぎていた。
入院がドタバタと決まってしまったため、さっき看護婦が来て、申し訳なさそうに夕飯の手配が間に合わなかった旨を伝えてくれた。
必要ならば売店で何か買うか、誰かに頼んで食料を持ち込んでもらうようにしなければならないらしい。
(ま、関係ねぇか)
わざわざ教えてくれた看護婦には申し訳ないが、俺はどちらの選択肢を選ぶ気にもなれなかった。一晩くらい何も口にしなくても死ぬわけじゃなし。それに、第一腹が減るとも思えなかった。
慣れない検査でどっと疲れが押し寄せていたのと、何より、任されている現場から負傷者――自分自身だが――を出したことで、俺は柄にもなく滅入っていたからだ。
そういうのも考慮されてのことだろうか。
恐らく痛み止めに鎮静剤のようなものが含まれていたんだろう。
直人からの連絡を待ち続けて一週間。その間殆ど縁のなかった眠気に襲われて、俺はほんの少し戸惑いを覚えていた。
(ま、せめてもの救いは怪我をしたのが俺だったってことだな)
現場を任されている以上、部外者は勿論、使っている人間にも怪我をさせたくない。
足場に使う鋼管を束ねていたワイヤーが緩み、クレーンで吊り下げていた単管が荷崩れした時には本当、冷や汗が出た。
近くに居た作業員を突き飛ばしたまでは良かったんだが……。
(自分が当たってりゃ世話ねぇか……)
思い出すと苦いものがこみ上げてくる。
ちゃんと玉掛の講習を受けた人間がやっていたからと高をくくっていた俺が悪い。
俺自身が、この目で安全確認をしなかったツケはでかかった。
(そういや、スパロウはどうしてるだろう)
気懸かりは何の準備もなく家で留守番させている愛鳥のことにまで及んだ。
天気予報で今日は夕方からグッと冷え込むと言っていたから、かごを外に出してこなかったのは不幸中の幸いだった。家の中ならば、一晩留守をしたぐらいでどうこうなるとは思えない。
それでも誰かに様子を見てもらえると安心出来るんだが。
こういうとき、気安く何かを頼める相手を作っておかなかったことを後悔する。
(かといって親に頼む気にはなれねぇし)
俺にさえ関心を払わなかった両親が、スパロウのことで動いてくれるとは思えない。
彼らの心を占めるのは常に他人なのだ。
今日明日中に死ぬような大怪我をしたわけじゃなし、出来れば二人には今回の不祥事は知られたくなかった。
ふとそこまで考えてから、今ここで悶々と思いを重ねていても何が変わるわけでもねぇな、と思い至る。起こったことは仕方がないと頭を切り替えて、今はとりあえずゆっくり身体を休めるのが得策だ。今後のことは後日社長と話すとして――。
そう思った俺は、久々の睡魔に大人しく身を委ねることにした。
カーテン越しにうっすらと夕日が差し込んで、片頬が仄かに暖かいのも心地よい。
そういえばここ最近、マトモに眠れたためしがなかった。
個室という安心感も手伝って、俺は少しずつまどろみ始める。
病院というのは搬送されてすぐベッドに落ち着けるというものではないらしい。
ここへ運び込まれて一時間以上、俺はレントゲンやらCTやら、とにかく色々な検査をされて、ついさっきやっとベッドへ横たわることを許された。
検査待ちの間、社長や同僚や下請けの会社の人間などが入れ替わり立ち代り顔を見せたのに付き合ったので、本当に慌しい時を過ごしたように思う。
運び込まれたのは十五時頃だったはずだが、病室へ入るころには十六時半を過ぎていた。
入院がドタバタと決まってしまったため、さっき看護婦が来て、申し訳なさそうに夕飯の手配が間に合わなかった旨を伝えてくれた。
必要ならば売店で何か買うか、誰かに頼んで食料を持ち込んでもらうようにしなければならないらしい。
(ま、関係ねぇか)
わざわざ教えてくれた看護婦には申し訳ないが、俺はどちらの選択肢を選ぶ気にもなれなかった。一晩くらい何も口にしなくても死ぬわけじゃなし。それに、第一腹が減るとも思えなかった。
慣れない検査でどっと疲れが押し寄せていたのと、何より、任されている現場から負傷者――自分自身だが――を出したことで、俺は柄にもなく滅入っていたからだ。
そういうのも考慮されてのことだろうか。
恐らく痛み止めに鎮静剤のようなものが含まれていたんだろう。
直人からの連絡を待ち続けて一週間。その間殆ど縁のなかった眠気に襲われて、俺はほんの少し戸惑いを覚えていた。
(ま、せめてもの救いは怪我をしたのが俺だったってことだな)
現場を任されている以上、部外者は勿論、使っている人間にも怪我をさせたくない。
足場に使う鋼管を束ねていたワイヤーが緩み、クレーンで吊り下げていた単管が荷崩れした時には本当、冷や汗が出た。
近くに居た作業員を突き飛ばしたまでは良かったんだが……。
(自分が当たってりゃ世話ねぇか……)
思い出すと苦いものがこみ上げてくる。
ちゃんと玉掛の講習を受けた人間がやっていたからと高をくくっていた俺が悪い。
俺自身が、この目で安全確認をしなかったツケはでかかった。
(そういや、スパロウはどうしてるだろう)
気懸かりは何の準備もなく家で留守番させている愛鳥のことにまで及んだ。
天気予報で今日は夕方からグッと冷え込むと言っていたから、かごを外に出してこなかったのは不幸中の幸いだった。家の中ならば、一晩留守をしたぐらいでどうこうなるとは思えない。
それでも誰かに様子を見てもらえると安心出来るんだが。
こういうとき、気安く何かを頼める相手を作っておかなかったことを後悔する。
(かといって親に頼む気にはなれねぇし)
俺にさえ関心を払わなかった両親が、スパロウのことで動いてくれるとは思えない。
彼らの心を占めるのは常に他人なのだ。
今日明日中に死ぬような大怪我をしたわけじゃなし、出来れば二人には今回の不祥事は知られたくなかった。
ふとそこまで考えてから、今ここで悶々と思いを重ねていても何が変わるわけでもねぇな、と思い至る。起こったことは仕方がないと頭を切り替えて、今はとりあえずゆっくり身体を休めるのが得策だ。今後のことは後日社長と話すとして――。
そう思った俺は、久々の睡魔に大人しく身を委ねることにした。
1
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
周りの女子に自分のおしっこを転送できる能力を得たので女子のお漏らしを堪能しようと思います
赤髪命
大衆娯楽
中学二年生の杉本 翔は、ある日突然、女神と名乗る女性から、女子に自分のおしっこを転送する能力を貰った。
「これで女子のお漏らし見放題じゃねーか!」
果たして上手くいくのだろうか。
※雑ですが許してください(笑)
お兄ちゃんだって甘えたい!!
こじらせた処女
BL
大江家は、大家族で兄弟が多い。次男である彩葉(いろは)は、県外の大学に進学していて居ない兄に変わって、小さい弟達の世話に追われていた。
そんな日々を送って居た、とある夏休み。彩葉は下宿している兄の家にオープンキャンパスも兼ねて遊びに行くこととなった。
もちろん、出発の朝。彩葉は弟達から自分も連れて行け、とごねられる。お土産を買ってくるから、また旅行行こう、と宥め、落ち着いた時には出発時間をゆうに超えていた。
急いで兄が迎えにきてくれている場所に行くと、乗るバスが出発ギリギリで、流れのまま乗り込む。クーラーの効いた車内に座って思い出す、家を出る前にトイレに行こうとして居たこと。ずっと焦っていて忘れていた尿意は、無視できないくらいにひっ迫していて…?
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる