非日常的日常は平穏とは言えない～間違って覚醒したのが淫魔の血ってどういうことですか？～

【閑話】酒は飲んでも……（ラファ×ギル）

（1）

　その日、ギルベルトは上機嫌で空を飛んでいた。蝙蝠のような羽を閃かせながら、緩やかに高度を上下させ、時にはくるりと旋回したりもする。

　先日、飲み屋で出会った女の子に開けてもらったピアスの穴には、また別の女の子からもらった小振りのリングがはめられていた。ついでに他の可愛い男の子からも「ギルさま格好いい」と褒められ、通りかかった品の良さそうな男からも「よく似合ってる」と言われたりもした。

　俺さまはもてる。やはりもてる。

　思えば気分も良くなるけれど、何よりギルベルトの機嫌を良くしていたのは、片手に持つ一本の瓶の存在だった。

　〝悪魔は酔わない酒〟

　そう言って久々に会った同族に勧められたそれは、見た目は普通の赤ワインだが、その実悪魔ならば耐性のある、または種族特性として分解しやすい成分で作られているという特殊な酒だった。

　ちなみに、悪魔以外の者にとっては寧ろ酔いやすい酒として作用するため、例えばいつもは勝てない相手を酔い潰すときなんかに非常に有効……というか、そこで使わなきゃどこで使う？
　……と、思いついた瞬間、ギルベルトは「俺さま天才」とそんな自分を自画自賛。心の中だけでは飽き足らず、気がつくと堪えきれない笑いにくつくつと肩を揺らしていた。

　ちなみに、ギルベルトが思い浮かべた相手は一人しかいない。
　ギルベルトは明るい満月の前を横切り、まっすぐ目的地へと向かった。

「今度こそ俺さまがあいつを組み敷いてやる」

　尖った犬歯を覗かせ、口端を引き上げながら独りごちると、くく、とまた、堪えきれない笑いが漏れた。