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迎撃
その12
しおりを挟む「どういうことだっ!?…ウィズ=ダムに魔法兵団が編成されたとか、聞いた事ないぞ…!?」
少し小高い丘から戦況を見ていたオークの隊長バルガスは思わず声を漏らす。
見えている戦況は極めて不利な状況だったからだ。
炎や雷的なものは全く見えないが、壁をさせてるトロールと部下達がどんどん倒されていき、そこに人間共が止めを刺していってるのが見える。
10に分けた部隊は既に6が壊滅、3が交戦中、最後尾につけていた部隊は動けずに固まってる、そんな様子だった。
「ぐぅ…忌々しい人間共め。魔法だとあのノロマの壁など無力じゃないか!」
怒りのまま、さっきまで腰かけていた小さな石碑を蹴り飛ばす。
なにか文字の彫られていた石碑は呆気なく崩れ、落ちた衝撃なのかあっけなく2つに割れていた。
「ど、どうなさいますか!?、バルガス様っ!!」
部下がオロオロしながらこちらに指示を乞うてくる。
ただ現状、どこをどう考えても状況を好転できる要素が見当たらない。
(…こんな事が本隊に知られれば、俺様は無能と烙印を押されるどころか、ヴォーグ王に罰されてしまう!)
バルガスは指を噛みながら右に左にとウロウロしながら、なにか逆転の策がないかと考える。
「バルガス様っ!、ここは一刻も早く撤退の指示をっ!」
「バルガス様、早く指示を!」
「バルガス様っ!!」
部下達が群がって体にすがってきた。
「うるさーーーーいっ!。今考えてるんだ!、邪魔するなっ!!」
そんな部下を怒りのままに、思いっきり蹴り飛ばす。
「痛てて、いきなり蹴らなくても…む?、なんだこれは?」
蹴り飛ばされたオークは自分の顔の横の地面がなにがモコモコ動いてるのに気付く。
少し待つとどんどんそれは地面から飛び出してきて、それが手の骨だったんだと分かった。
嫌な予感がして周囲を見ると、周囲からもどんどん腕の骨がまるで急激に成長する草の様に生えてきていた。
「なんでいきなりこんな…ハッ!?」
オークは目の端に映った割れた石碑を見て気付く───もしかしてこれを壊したせいで封印していた魔物が出てきてるのではないのかと。
「なんで、いきなり骨がっ!!?…ぐ、離せっ!」
バルガスが生えてきた腕に足首を掴まれ、剥がそうと暴れている。
周囲のオーク達も足を掴まれ、手にした棍棒等でなんとか対処しているが、どんどん生えてくる腕は止まる事はなかった。
「バルガス様がさっき蹴飛ばした石碑、あれではないでしょうか!!?」
「はぁっ!?、あんな小さな石碑で封印できる量じゃないだろう、これはっ!!」
そう言いながらバルガスは頭に浮かんだ考えに冷や汗を流しだした。
(…俺達が知らないだけで、ウィズ=ダムには優秀な魔法技術があって、それで本当にこのアンデットを封印していた!?)
いやいやと首を振る。そんな訳がないじゃないかと。
そんな技術があったというのなら、この国はもっと大国になっているはずだ。
それなのに他の2国に押さえ込まれたままこんな田舎に引き籠ってるのは、弱小国だからだろう、と。
(…ただもし。もし戦を好まない国民性で、攻めてきてないだけだったとしたら、あるいは…)
どんどん生えてくる骨を処理しながらも、バルガスの顔色は悪化していく。
その時、バルガスの視界の端に黒い影が突然映る。
なんだ?と首をそちらに向けると、そこには黒いフードを身に着けた骸骨兵《スケルトン》が立っていた。
その骸骨兵《スケルトン》が薄気味悪い笑いをしたかと思うと、バルガスの意識はそこで消え去り、そのまま勢いよく地面に倒れる。
周囲のオーク達もバルガス同様に次々に倒れていき、気付けば立っているオークは1人もいなくなっていた。
夢魔王が生命力を奪う技『エナジースティール』を使う様に、高位の不死族にもまた理不尽な技がある。
それが触れる必要すらなく周囲の生命力を奪う、『エナジードレイン』と呼ばれる技である。
その力はまさに理不尽で、裁量次第で範囲内の生物の命を一瞬で奪う事すら可能なものだった。
ちなみに、サンド=リヨンでの戦場にて操られた兵士達が倒れたり、ジュライの街で冒険者が一瞬で灰になったのもこれが理由であった。
───モゾモゾモゾ
生えてきていた腕は、絶命して倒れているオーク達を次々と地面へと引き込んでいく。
そして、数分と経たずに小高い丘は、さっきまでいたオークの影も形もない、静かな風景となった。
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