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決起

その6

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「マーン商会…ここですの」

お姉さんに見せてもらった地図のおかげで、二人は迷うことなく辿り着くことができた。

商会の敷地内では何人もの人が忙しそうに動き回っている。

入口のところで少女がキョロキョロしていると、中からつなぎの作業服を着た男性が向かってきた。


「ここは子供の遊び場じゃないから、入っちゃだめだよ」

「遊びじゃないですの。わたくしはマレット=リラシア、こちらはシェイドさんですの。すみませんが、ジョンさんはいらっしゃいますの?」

少女は男性に簡潔に用件を伝えた。


自社の社長を訪ねてきたらしいお客なんだろうが、商人でなく冒険者。

不信感はあるものの、無視するわけもいかず、とりあえずそこで待つように伝え、事務所へと向かう。

社長室でさっき聞いた名前を告げると、「応接室を準備しておけ!」とだけ言い残し外へ走っていった。

(…あの冒険者、社長のなんなんだ?)

とりあえず言われた準備をしておかないと後で社長から怒られるのでと、男性は応接室に向かうのだった。



少しすると、ジョンが冒険者を2人連れて応接室へと入っていく。

「いや、すいません。社員の気が利かなくて。あ、どうぞ、そちらに席に座られてください」

「ありがとうございます、では失礼しますの」

2人は席に座り、それを見届けてからジョンも対面に座る。


「いやぁ、サンド=リヨンへ向かった時は本当にお世話になりました。あれから何度か行きましたが、あの時ほど順調にはいきませんでしたよ。また機会があったら護衛をお願いしたいものです」

ジョンはハッハッハと笑いながら話しかける。

「…ところで、わざわざお越しいただけましたが、本日はどんなご用でしょうか?」

ジョンは真面目な顔をすると、2人に質問をした。


「あの、ジョンさんのお店って、ジュライへの乗合馬車とかもやってますの?」

「ジュライ?…あぁ、中立都市ジュライですね。確かに付き合いはあるので、商売で月に何度か行ってますが、うちで乗合馬車はやってませんね。申し訳ない」

ジョンが申し訳なさそうに言うので、少女は「気にしないでくださいですの」とフォローをした。

「…もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

なにか感じる者があったのか、ジョンは少女に詳細を尋ねる。

「実はですの─────」



「─────────という話が冒険者ギルドの方で出てますの」

「…なるほど、ジュライで見てもらえるという高位鑑定士ハイウォッチャーですか」


確かに噂では聞いたことがある。

ランク3にならないと見てもらえないとか、見てもらうだけなのにそれなりの金額がいるとか。


しかし、乗合馬車で行くほどの希望者が居るというのは意外だった。

そもそも冒険者は護衛もいらないのだし、自分達で勝手に行くかと思ったいた。

でも確かに、高い馬車代を払うなら楽も出来るが、節約して歩くとなると日数もかかる。

それだけ苦労して見てもらうだけなら、後回しになるのかもしれないなと納得する。



ジョンは少し考えると、応接室の扉を開け人を呼んだ。

しばらくすると、30代くらいの男性が応接室へと入ってくる。


「社長、なにかご用でしょうか?」

男性は応接室の扉を閉めジョンの方を向くと、立ったままで質問をする。

「ジャスティン、次のジュライへの荷物の集まり具合はどんな感じだ?」

「現在2台分位ですね。1週間後位には4台分を超えると思うので、それくらいから出発準備をしようと考えてます。ですので出発はその数日後かと」

ジョンは腕を組み、そうかと考える。


少し考えて、ジョンは呼ばれて入ってきたジャスティンへと向って指示をする。

「3日後の夕方に冒険者ギルドの方で打ち合わせがあるらしい。馬車何台分でも構わないので、一応2週間後にジュライへ出発の予定でお前も出席してみろ」

「社長すいません、話が見えないのですが?」

いいからとジョンは言い、ジャスティンに仕事に戻るように告げる。

良く分からない指示を受けたジャスティンは、頭を捻りながらも「失礼します」と応接室を出ていった。



「いや、申し訳ない。とりあえず3日後の話し合い、うちのジャスティンも参加させるので、詳しい話を聞かせてやってもらえますか?」

少女達の方を向くと、ジョンはにこやかにそう言った。

「ジョンさん、ありがとうですの」

少女は立ち上がると、ジョンへと頭を下げる。

その後少し話をして、「すみません、そろそろ…」とジョンが言うので、2人はマーン商会を後にした。



「3日後が楽しみですの」

笑顔で少女がそう言うと、横で青年はそれほど興味なさげに「そうだな」とだけ同意をした。

 
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