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決起

その2

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「シェイドさん、持ってきましたの。今度こそあってるはずですの」

神官姿の少女が、手に多数の大きな葉っぱを持ってやってくる。


「…違う。この周囲にある棘が7本のだと言っているだろう?」

「…棘くらい、たまたま本数が違うとかじゃなりませんの?。折れたとか色々ありますの」

黒衣の青年がダメ出しをするが、少女は納得してくれない。


「例えば、もし女の持っているものを持っていくとしよう。あってればいいが、別物だったらどうする?。期待して待ってる依頼主ががっかりするんじゃないのか?」

「………それは、よくないですの。分かりましたの、棘は7本ですのね?」

とりあえずあっていた葉っぱはその場に残し、少女はまた林の奥へ進むと屈んで、正しい葉っぱの捜索を再開するのだった。



青年は最近少女に直接言うより、他人に迷惑が掛かるという方向性で説得した方が納得してもらい易いことに気付いた。

なので、少女にきちんと目的のものを取ってくる様説得するのも慣れたものである。


ただ、他人の顔は一回で覚えて忘れないのに、こと採集となると全然見分けがつかないのはなぜだろう?。

青年は不思議そうに、目的の葉っぱを探す少女をぼんやり見ていた。



手間はかかったものの、目的の物も必要数に加えて、予備の数も揃ったので、依頼主の薬屋へと向って2人は歩く。

「こんにちはですのー。クエストの葉っぱを持ってきましたですの」

少女が薬屋に入ると、中には別の冒険者の2人組が先客でいた。

見たところ剣士と魔法使いっぽい男女の二人組だった。


「…あ、その薬草かい!?、丁度良かった。あんたら、ちょっとだけ待ってておくれ、な?」

店主のおじさんは、先客の2人を待たせると、少女達の持って来た大きな葉っぱを机の上に拡げさせる。


「─────うん、間違いない。ただ、今日も1枚多いけど、これも予備って事でいいのかい?」

「はい、ちゃんと間違ってないようでしたら、そちらで貰ってもらって大丈夫ですの」


いつもクエストを受けてくれるこの少女は、予備を含めて毎回持ってきてるので、こちらとしてもとてもありがたい。

この前、他の冒険者が持って来た時は、数量が丁度だった上に2個別のが混ざっていたので、また不足分を取りに行くという事もあった。


そう考えると、毎回ミスなく持ってくるのに、予備まで用意しているこの少女達は本当に自分達にとっては有り難い。

なにやらギルドの方でも『採集の救世主《てんし》』と勝手に呼んでいたりするらしいが、こちらとしてもまさに救世主《てんし》様々である。


(…ただ、毎回連れの兄さんから、疲れた雰囲気が漏れてきてるのはなんだろうね?)

薬屋の店主は、少女の壊滅的な選別能力の低さをまだ知らない。


少女が差し出したクエスト完了証に、店主はサインをするとそれを返す。

少女は一礼をして受け取ると、なるべくシワが入らない様、大事に鞄のポケットへと入れていく。

「またよろしくお願いしますですの」

そう言うと少女は手を振ると、入り口で待っていた青年と店を出ていった。

「いつもありがとうよ、お嬢ちゃん達。頑張れよ」

おじさんはちょっとかっこ良さげな雰囲気を醸し出しながら、出ていった少女達に告げる。


「ちょっとー。頼んだ薬草まだぁ?」

待たせていた冒険者がカウンターから文句を言ってきた。

(…おっと、忘れてた)

店主はカウンターに顔を向けると、納入された薬草を持ち作業台に移動させた。


「あー、すまないすまない。今丁度届いたからすぐに調合するよ。少しサービスするから、ちょっと待っててくれ」

少女達が多めに納品する分は、さりげなくオマケ等に回されて、その店の評判を少しだけ上げてた事を、少女達は知る由もない。



「こんにちはですのー。お姉さん、完了証もってきたですの」

冒険者ギルドの扉を開け、受付のお姉さんに呼び掛ける。

「あ、いらっしゃいませ。ちょっとだけ待ってくださいね」

掲示板にクエストを貼っていたお姉さんは少女に答えると、パタパタとカウンターに戻ってくる。


「─────はい大丈夫です。クエストお疲れ様でした。こちらが報酬金となります。ポイントはきちんと付けておきますね」

「はい、ありがとうですの」

少女が報酬を鞄に入れてるのを見ながら、カウンターに置かれた少女と青年の書類をぼんやりと見る。


「そういえば、マレットさん達はランク3ですけれど、まだジュライには行かれないのですか?」

言われて顔をあげた少女の顔には、分かりやすく疑問符が浮かんでおり、首をかしげている。

「…ジュライってなんですの?」


少女の後ろを見ると、入り口すぐの椅子に腰掛け、青年はリュックから出したリュートを奏でたまま、動く様子はない。

(…これは、こっちで説明しろって事ですね?)

受付のお姉さんはコホンと咳をすると、少女の方を向いた。

 
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