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討伐
その12
しおりを挟む朝早く、宿を出て少女達二人は城へと向かう。
城門の門番に討伐参加に来た事を伝えると、ちゃんと話が届いていたらしく、スムーズに城内へと案内される。
中庭の広場では、馬車や騎馬が多数並び、今からの討伐の規模を物語っていた。
「む、本当に来たであるか…」
隠す気がないのかそれとも根が素直なのか、騎士団長のギルは不愉快そうな顔をして本音は駄々洩れな状態だった。
騎士団長ギルの「お前たちが怪しい動きをしないか、監視をするのである」という発言を受けて、同じ馬車に神官の少女達2人は乗り込む事になった。
大して気にしていないのか、少女は「よろしくお願いしますの」と会釈をして、普通に馬車に乗り込んでいく。
出発の笛が鳴らされ、討伐団はサンド=リヨンを出発するのだった。
目的地まで約1日かかる行程だ。
途中魔物の生息域を横切るという事で、周囲の騎士団や兵士はいつ襲われてもいいように緊張感をもって進む。
そんな緊張感漂う馬車の中、場違いなリュートの音が響き、その横では少女は何やらごそごそと作っている。
(…王の命令で同行を許しておるが、本当に大丈夫なのであるか?)
ギルが見るとなく視界に入る二人からは、これから討伐だという緊張はほぼ感じられなかった。
目的地である野営予定の場所に着いたのは予定より早い夕方であった。
途中魔物などに遭遇することもなく、極めて順調に来れたおかげである。
実は青年が唱えておいた恐怖の影響で、近くの魔物が逃げて行っていたことは誰も気付けてはいなかった。
そしてもちろん、青年の方から言う事も当然ない。
青年が馬車から降りようとすると、後ろで少女が声をかけてきた。
「討伐には邪魔になるでしょうし同行できませんので、わたくしは明日はここで待ってますの。でも代わりにといってはなんですけど、これを持っていってほしいですの」
そう言うと、少女は自作の護符を青年に渡す。
護符と言っても魔力が込められてたりするものでなく、ほんのお守り程度のものではあったが。
そんな護符を受け取った青年は、畏まった感じに仰々しく懐に入れる。
「この護符に誓い、無事に戻ると約束しよう」
青年がそんな風に言うと、少女は満足そうに笑顔を返すのだった。
食事も終わり、騎士達は仮のテントの中で明日の作戦を確認している。
さすがに冒険者の二人は入れて貰えず、焚き火のところで雑談をしながら時間を過ごしていた。
しばらくすると少女は眠気を訴え、先に馬車へと戻っていく。
一人残された青年がリュートを奏でていると、話し合いの終わったギルが横にやってきていた。
「王の命令で同行は許したが、討伐自体は我ら騎士団がやるのである。お前は後ろで見てるだけで、邪魔してはいけないのである。よいであるか?」
ギルは青年が明日勝手なことをしないよう、釘を刺しに来たようだった。
青年は「そうか」とだけ言うと、リュートをそのまま奏で続ける。
(…無理矢理ついてきた割には、大人しく引いたであるな)
とりあえず部下にはちゃんとあの冒険者を見張らせておこうと思いながら、ギルはテントへと戻っていった。
当然のように夜にも何一つ襲ってこず、何事もなく朝を迎える。
簡単な朝食をとると、編隊を組んで出発の準備をしている騎士団達。
野営所はそのままで、ある程度の兵だけ残して、他は目的の遺跡へと向かうようだった。
そして少女もここで待つことになっている。
「わたくしの分まで頑張ってくるですの!」
少女は青年に発破をかけると、手を振って見送った。
「では、騎士団出発なのである!。夢魔をきっちり討伐するのである!!」
ギルの号令に騎士達が「おーっ」と答える。
そして騎士団は遺跡を目指し出発した。
「姫様、東の方に既にサンド=リヨン騎士団がやってきてます。ここは危ないですので一緒に逃げましょう」
暗い遺跡の中、若い女性の声がする。
「ならん。あやつらはここで儂が討つ。だからガーベラ、お前はどこかへ逃げるのじゃ」
ガーベラと呼ばれた女性は悔し気に下を向く。赤い長髪が下に垂れ、その美しい顔を隠す。
「ですが姫様。それならば私らも一緒に残ってやつらを討ちます!」
「黙れ、ラベンダー!。お前もガーベラと共に逃げよ。これは儂の命令じゃ!」
ラベンダーと呼ばれた方の紫の髪の女性は姫と呼ぶ少女に進言するも断られる。
「おぬし等は逃げてもらわねばならん。万が一にでも一族を絶滅させる訳にはいかないのじゃ」
姫と呼ばれた金髪で長髪の少女は、二人に強い口調で言う。
髪からのぞく他の二人と同じ尖った耳も、興奮からかピコピコ動いていた。
これだけ聞くと、この3人がエルフと思うかもしれないが、この3人にはエルフと違う事がいくつかあった。
それは、エルフに比べて一回りほど小柄なこと、肌が褐色なこと、そして背中にトンボの様な透明な羽が生えている事だった。
そう、彼女達こそがサンド=リヨンが討伐隊を編成してまで討伐しようとしている相手、夢魔であったのだ。
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