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その3

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「何やらお困りの様子ですね?。わたくしたちでも何かお力になれませんの?」

商人は横から声をかけてきた少女の方を向いた。

服装から察するに、職業は神官だろう。

首から掛けられた冒険者章は石…ランク2という事だ。


「えっと、ごめんねお嬢さん、邪魔をしないでもらえるかな?。今急ぎで仕事の話をしている─────」

─────グキッ

少女に向けた顔を受付に戻して話の続きをしようとしたところ、顔を挟まれ再び少女の方に向けられ、商人の首からは乾いた音が響いた。


「失礼ながらそこでお話を聞かせてもらいましたの。わたくしはマレット=リラシア。あちらにいるシェイドさんとパーティーを組んでます冒険者ですの」

軽く自己紹介をすると挟んでいた両手を離し、軽く会釈をする。

(…会釈するくらいなら無理やり首を持って回すか、普通?)

商人は半目気味な目で、目の前で会釈をしている少女を見るのだった。



「えっと、折角の好意だけどお嬢ちゃん達にはちょっと…あ、それとも知り合いに高ランクの冒険者がいるとか!?」

藁にもつかむ想いで商人は尋ねてみるも、少女は軽く首を振る。

それから再び右手の平を胸に当てると、自信ありげに言ってきた。

「残念ですが冒険者の知り合いはおりませんの。ですけど、わたくしたちであなた方を護衛することは出来ると思いますの。どうですの?」



(…やっぱり、そうくるかぁ)

少女の首に掛けてある石の冒険者章を見ながら、商人は嘆息する。

(せめてランク3くらいなら妥協する余地もあるのだが…)

「ランク2なんだよなぁ…」

目の前の少女の顔がきゅっと険しくなった。

どうやら、思っていた事が口から出てしまったらしい。

慌てて口を押えるも後の祭り、時間がないので厄介事にならなきゃいいのだがと、商人は焦る。



だが、こちらの焦りを知ってか知らずか、再び胸を張り少女は更に話し出す。

「たしかに、今のわたくし達はランク2ですの。でもそこらのランク2と一緒にしてほしくないですのよ?。なんといってもわたくし達は、今までただの一度もクエストを失敗したことはないんですの!」

目をつぶり少し上を見て、自信満々で語る少女。


(なんなんだ、ランク2の冒険者だというのに無駄な自信はっ!?)

そんな少女のごり押しに、商人は反射的に目の前の受付の人に尋ねてしまう。

「この子の言ってる事は本当なのか?、受付さんっ!!」



(…これはどうしましょう?)

受付のお姉さんは迷っていた。


確かに少女の言う通り、彼女達パーティーのクエスト達成率は100%だ。

しかも、コンスタントに受けてくれてるので受注数もそれなりにある。


ただ問題は、受けたクエストが下位採集クエストだったという事実。

だから、さっきまで彼女達とギルドポイントを稼ぐために話し合ってたのだ。


(…そんな子達に、元々ランク4が受けてたような危険もある護衛をやらせていいものでしょうか?)

依頼者の要求と冒険者のクエスト失敗のリスクなどを考えると、これは止めた方がいいのではと、お姉さんは考えていた。



ふと少女の方を見てみると、相変わらず胸を張り自信満々気に立っている。

少女の少し離れた後ろには、さっき話してた時のまま座っている黒衣の青年が見える。


そういえば保護者のように見守って、的確に助け舟を入れてくれていた彼が、今回は何も言って来ていない事にお姉さんは気付いた。

(…もし少女に危険がありそうと判断していたら、当然止めに来ますよね?…ということは、なにかしらの自信がある?)



「なぁ受付さん、どうなんだ?。この子の言ってることは本当なのか!?」

考え事をしていたら上の空になっていたらしく、目の前の男性が噛みつかんばかりに身を乗り出してきていた。


このクエストなら、足りない査定のポイントに十分届きそうだ。

(…困ってるこの男性も行商に出られる訳ですし、なによりあの青年が何も言ってこないという事は、任せても大丈夫なのではないでしょうか?)



少し考えて受付のお姉さんは男性に笑顔で答えた。

「はい。確かに言われるように、この方のパーティーのクエスト達成率は100%です。しかも、コンスタントにクエストも受けていただいてるので、達成数もかなりのものですよ?」

(…うん、は一切言ってません)

依頼者を安心させるのも受付の仕事ですからね。


「それに、時間的にこれから別の冒険者の方がここを訪れる事はないと思います。つまり明日ギルドの開く朝までは物事はなにも進展しません」

お姉さんの言葉に、目の前の男性はムムムと唸りながら迷っている様子だ。

(…これはもう一押しが必要ですね?)

駄目押しとばかりに、お姉さんは顔を少女の方に向け、1つ問いかけてみる。



「マレットさん、もしこのクエストを受けると最短でも7日ほどの旅になりますが、大丈夫ですか?」

この質問を受け、少女の表情はパっと明るくなり、そして自信満々にこう答えた。

「大丈夫ですの。なんならすぐにでも準備して、いますぐにでも出発できますの!」


お姉さんは「そうですか」と少女に声をかけ目の前の男性の方を向く。

「彼女はこう言ってますがどうしますか?。それとも断って来るかどうか分からない次のパーティーを昼まで待ちますか?」

真面目な顔をして受付のお姉さんは、目の前の男性に問いかける。



時は金なり、これは商人の鉄則だ。

1日出発が遅れるだけで、これから一生1日損をし続けているようなものである。


だからといって護衛も雇わず強行する事はどうかと思う。

金品や荷物を奪われるだけならまだしも、命を取られたらどう頑張っても取返しはつかないからだ。

だからこそ、いつも高い報酬を払って護衛を頼んでいるのだ─────護衛を雇わずに出発は考えられない。


自分で勢いで言ったとはいえこの長距離護衛、さすがに下位ランクは応募してこないと思っていた。

なのに声をかけてきたのはランク2ときた。

(優秀とはいえランク2か…)


しばらくうんうん唸っていた男性だが、観念したかの様に受付のお姉さんに告げる。

「この冒険者の方でお願いします」



それから報酬などを決めた後男性は席を立った。

出口から出る前に最後の念押しとばかりに、商人は2人に向かって言う。

「では明日の朝、西の門に集合という事で。よろしくお願いしますよ!」

それだけ言うと、忙しそうに早足で商人は戻っていく。

残された少女と青年は受付でクエスト受領証にサインをして、無事クエスト受注となるのだった。



「あの、ところでお姉さん。1つ質問があるんですが、よいですの?」

初めての採集以外のクエストで緊張してるのかもしれません。

「お姉さんが安心させてあげますよー!」

─────とはさすがに言えないので「どうぞ」と大人の対応で話を促す。

「あの、サンド=リヨンってどこにありますの?」


(…想定外かつ初歩的な質問が来ました─────というか、今更ですけど、彼女達二人で本当に大丈夫なんでしょうか?)

少女の後ろに立ってる青年を見ると、軽く体を揺らし、どこか笑ってるように見えた。


(…あーこれ、まさかと思いますが、やっちゃいましたか?)

お姉さんはこのクエスト失敗の時の処理と、悲しそうな顔をする少女の顔を、つい考えてしまうのだった。

 
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