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闘技大会

その17

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「言ってたこと、少しは伝わったか?」

目の前の青年は更に剣士に語る。

「お前の技、下地も基本もしっかりしているのに、最後の最後ですべて台無しにしている、そんな感じがするな」

剣士は何も言わずに、ただ睨みつける。

「…お前の流派というか、師匠が悪かったのか、これは?」

大きく息を吐き、剣士は更に強く睨むと大声で反論する。

「違う!。じじいの…師匠の剣は間違っていない!」



確かにじじい…師匠は何度も俺に言っていた─────俺の技は速いだけの手打ちなのだと。

だが自分は棒などではなく武器を持っているのだ。

例え手打ちだとしても当たれば十分ダメージを取れる、そう思っていた。


だが実際はどうだ。

自分の剣はあいつの拳で簡単に弾かれている。

きちんと力の乗った一撃なら簡単に弾かれるはずもないのに。



「…そうか、お前の師の技は間違ってないか」

青年はルークの方を見たまま更に言葉を続ける。

「…じゃあ、ただお前が弱いということだな」


(…その通りだよ、バカ野郎っ!)

青年の言葉に下唇を噛み、悔しさや怒りの混ざった複雑な目で睨みつけるルーク。

だが自分でも分かっていた、青年に怒りを向ける事自体が間違っている事に。


その通りだ、からあいつに通じないのだ。

師匠が言い続けていた様に、当たる瞬間に力を込めるという基本をないがしろにしたのは自分だ。

連続攻撃が繋がるのが楽しくて、圧倒的手数で倒すのが楽しくて、力を込めないままただ振っていたのは自分だ。

は決して間違っていない、それを証明する。


「…その通りだ、俺は確かにお前より弱い。間違いなくその通りなのだろう」

今まで片手で振っていた剣を両手で持つと、ルークは姿勢を正して構えた。

「だが、俺の…師匠の技は決してお前に劣ってなんかはいないっ!」



目の前のルークの目の色が変わったのに青年は気付く。

鋭いながらも、どこか落ち着いた目。

さっきまでのただ怒りしかなかった視線とは違い、敬意というか別の何かを感じる。


「なら試してみるか?」

「言われるまでもない。いくぞっ!」


(…フェイントは考えない。ただ最短距離で、かつ力を込めて、ただ振り下ろす!)

ルークのきちんと力のこもった斬撃を、青年は半身を切って避ける。

振り下ろした剣が地面に当たる反動を使って、剣を一気に水平になるまで持ち上げると、そしてそのまま一気に突いてきた。

狙いは青年の胴のど真ん中─────この距離で胴を狙われれば回避はまず不可能…なはずだった。


軌道を変え迫ってくる剣を、青年は胸の前で拳と掌で挟み込むと、そのまま逸らしながら真横に捻る。

急に捻りを加えられ、剣を両手で握ったまま、まるで投げられたかのように背中から叩きつけられた。

その痛みで一瞬目をつぶって、ルークは仰向け状態で倒れた。

そして次の瞬間に目を開けると、視界を塞ぐ距離にまで近付いて止められた拳があった。


「…敵わねぇな。俺の負けだ」

完全に大の字で倒れたまま、ルークは降参の意思を言葉にする。


「勝負あり!。勝者、シェイド選手!」

駆け寄ってきた審判の声が響き、同時に観客席から一気に歓声があがる。



「最後のは、いい技だったぞ。あれは簡単には弾けないな」

青年は倒れているルークに手を差し伸べる。

「って事は、簡単じゃないけど弾けるって事じゃねぇか…」

苦笑いのルークはその手を取り体を起こし、立ち上がった。


体中の体力を出し切ったような疲労感と、背中でまだ主張する痛み。

(…確かに負けはした。だが、これは次に繋がる負けだ)

ルークは今後の自分のやるべき事を頭に浮かべながら、先を行く青年に続き通路へと戻ってゆく。

ふと、目の前を行く青年が振り返ると、ルークにこう言った。

「それと、剣士が剣を大事にするのは分かるが、時として離すのもまた技だぞ」



ルークは昔言われた、師匠の言葉を思い出す。

「冒険者は何があっても生き残るのが最優先だ。武器なんかまた買えばいい」


その時の自分は、そんな馬鹿な話があるかと思った。

剣士がそんな無様に逃げるくらいなら、いっそ死んだほうがましだろうと。


だが、そんな自尊心だけじゃ強くなれない。

本当に強くなりたいのなら、地を這い泥水を啜ってでも生き残る事こそが大事なのだと。


(…全く、師匠の言ってた事が今更に染みるね)

ルークはたしかに負けはしたが、心中は思いのほか穏やかだった。



「王!、王!。あの冒険者、勝ちましたよ!」

大臣がテンション高めなのは珍しい。

ここしばらく、闘技大会でかなり苦悩してたので、これはよい気分転換になったかもしれない。

職務にも影響をきたす位に気分が沈んでいたので、この様に良好な心理状態になってくれたのは本当に有難い。

もっとも、次も勝ってもらわないと大臣の苦悩は続くのだが。


「しかし、あれだけ攻められましたけどなんとか勝てましたね。見てて息が詰まりそうでしたよ」

大臣が興奮気味に王に向かって話しかけてくるが、言われる王の考えは少しだけ違っていた。


(…果たしてそうだろうか?)

王は大臣の言葉に疑問する。


事実、一方的に攻められ耐え忍び、ただの一度の勝機を逃さず勝った様には見えた。

だが本当にそうなのだろうか?、なにか大きな思い間違いを自分がしてるのではないかと思わずにはいられなかった。

大臣が機嫌よく色々話している中、王の思案は止まらないまま、難しい顔が和らぐことはなかった。

 
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