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闘技大会
その12
しおりを挟む少女は戻ってきた青年に駆け寄ると抱き着く…などという事はなく、それどころか逆に何やら怒ってる様子だった。
「ちょっとシェイドさん!。ホーガンさんが言ってた事忘れましたの!?」
何も答えない青年に、少女は更にまくし立てていく。
「普通の戦闘と違って、闘技場の戦いはお互いを尊重するべきって言ってたですの。まさか忘れちゃいましたの!?」
青年は「あぁ…」となんとも煮え切らない返事をしていて、それが気に入らないらしく、少女は横でぴょこぴょこ跳ねて怒りを露わにいた。
「しかし、派手に決めたね、あんた。まずはおめでとうか?」
少女の後ろからルークが寄ってきた。足元になんかむくれた少女がいるが、とりあえず譲ってくれるらしい。
青年は軽く手を上げて「おう」とだけ答える。
「まぁあんたも強かったけど、次はあいつだ。あれは別格だぜ?」
ルークが親指で指さした通路奥からは、さっき青年の倒した魔獣フードの大男より更に一回り大きい大男がやってきた。
趣味の悪い派手な、しかし重厚な鎧をまとい、手にはその身長よりもさらに長い柄の両手斧が握られていた。
しかもその両手斧は逆側にも90度傾けた位置で両刃の斧がついていた。
大男はアナウンスも待たずにそのまま闘場へと向っていく。
観客席は、名の通った有名な闘士の登場に一気にわいていた。
「なんか変な武器でしたの。両方の刃がずれてましたけど、あれは大丈夫なんですの?」
怒りはとりあえず落ち着いたのか、青年の横で少女は少し的外れな感想を述べた。
「あの両端が休みなく上下左右から襲ってくる、それが暴嵐の由来だな」
分かってるのだか分かってないのだか、少女は「ふーん…」と聞いていた。
そして「あっ!」と思い出したように青年への文句を再開した。
(…なんか色々大変そうだな、あいつも)
ルークは青年に同情して、横を通り過ぎる時に肩をポンと叩くのだった。
試合は一方的だった。
開始早々、斧を振り回しながら突進する大男。
なんとか捌きながら距離を取ろうとするも、結局その嵐に巻き込まれる対戦者。
そして最後には、辛うじて立ってるだけの棒立ち状態の対戦相手を、斧をラケットのように使い吹っ飛ばした。
「勝負あり!。勝者、ドルガ=ドルガ選手!」
観客席からの歓声を受けながら通路に戻ってくるドルガ。
すると通路中央に立ち塞ぐように、いつの間にか少女が立っていた。
「…なんだ小娘?。邪魔だ、どけ」
ギロリと睨みつける大男、だが少女はおびえもせずに立ち塞がったままだ。
「いいえ、どきませんの。さっきの試合、あそこまでする必要はなかったんじゃないですの?」
めんどくせぇと頭をかく大男を、少女は睨んだまま動く様子はない。
「とりあえず、訳の分からねぇこと言ってないで、どけ。小娘だからって容赦はないぞ?」
ドルガは一歩踏み出し少女にさらに圧をかける。
なのに一歩も退かず、それどころか睨み返すこの少女もどうかと思うのだが。
「イヤ、ですの。次はあんなことしないって約束するですの!」
大男の口から「しゃぁねぇなぁ」という漏れだすような言葉に合わせて、斧を持った右手が後ろに引かれていく。
「…消えろ」
そう言うとさっきの対戦相手の様に少女を斧で通路脇に飛ばす…はずだった。
後ろに引いた手が全く動かない上、手首にくる万力か何かで締め付けられるような鈍い痛み。
肩越しに後ろを見るとそこには、黒衣の青年が立ち、ドルガの右腕を掴んでいた。
「あんた、不死討伐者とか言われてるんだろう?。ちょっと話を聞かせて貰いたいんだが?」
そう言いながら青年が顔を上げると、丁度ドルガと目の合う形になる。
ドルガは鋭い目つきで、値踏みする様に、相手の実力を測る様に青年を見た。
「…そんなに聞きたきゃ話してやるから、とりあえず掴んでる右手を離しな」
ドルガが言うと青年は大人しく掴んでいた手を離す。
正面に居た少女はいつの間にか青年の横に走ってきていた。
「…で、何が聞きたいってんだ?」
斧を壁に立てかけ、左手で掴まれていた右手首をさする。
(…まだジンジンしやがる。なんて握力だよ、こいつ)
見ると右手首には、まだ鮮明に赤く掴まれた跡が残っていた。
「そうだな、とりあえずデッドマスターとやらをどうやって倒したか、だな」
今まで何度も聞かれてる質問なのか、「その話かよ」と面倒くさそうにに大男は答える。
「さっきの俺の戦いを見たろう?。あれに巻き込まれれば、骸骨兵や屍体なんか敵じゃないってことだ。これでいいか?」
通路を塞いでた少女もいなくなったので、立てかけていた斧を手に取り、大男はそのまま控室の方へと消えていった。
少女は未だに大男への不満をぶつぶつ言っているが、隣の青年は気にしてない様子だった。
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