上 下
12 / 133
闘技大会

その12

しおりを挟む
 

少女は戻ってきた青年に駆け寄ると抱き着く…などという事はなく、それどころか逆に何やら怒ってる様子だった。


「ちょっとシェイドさん!。ホーガンさんが言ってた事忘れましたの!?」

何も答えない青年に、少女は更にまくし立てていく。

「普通の戦闘と違って、闘技場の戦いはお互いを尊重するべきって言ってたですの。まさか忘れちゃいましたの!?」

青年は「あぁ…」となんとも煮え切らない返事をしていて、それが気に入らないらしく、少女は横でぴょこぴょこ跳ねて怒りを露わにいた。



「しかし、派手に決めたね、あんた。まずはおめでとうか?」

少女の後ろからルークが寄ってきた。足元になんかむくれた少女がいるが、とりあえず譲ってくれるらしい。

青年は軽く手を上げて「おう」とだけ答える。


「まぁあんたも強かったけど、次はあいつだ。あれは別格だぜ?」

ルークが親指で指さした通路奥からは、さっき青年の倒した魔獣フードの大男より更に一回り大きい大男がやってきた。

趣味の悪い派手な、しかし重厚な鎧をまとい、手にはその身長よりもさらに長い柄の両手斧が握られていた。

しかもその両手斧は逆側にも90度傾けた位置で両刃の斧がついていた。


大男はアナウンスも待たずにそのまま闘場へと向っていく。

観客席は、名の通った有名な闘士の登場に一気にわいていた。



「なんか変な武器でしたの。両方の刃がずれてましたけど、あれは大丈夫なんですの?」

怒りはとりあえず落ち着いたのか、青年の横で少女は少し的外れな感想を述べた。

「あの両端が休みなく上下左右から襲ってくる、それが暴嵐テンペストの由来だな」

分かってるのだか分かってないのだか、少女は「ふーん…」と聞いていた。

そして「あっ!」と思い出したように青年への文句を再開した。


(…なんか色々大変そうだな、あいつも)

ルークは青年に同情して、横を通り過ぎる時に肩をポンと叩くのだった。



試合は一方的だった。

開始早々、斧を振り回しながら突進する大男。

なんとか捌きながら距離を取ろうとするも、結局その嵐に巻き込まれる対戦者。

そして最後には、辛うじて立ってるだけの棒立ち状態の対戦相手を、斧をラケットのように使い吹っ飛ばした。


「勝負あり!。勝者、ドルガ=ドルガ選手!」

観客席からの歓声を受けながら通路に戻ってくるドルガ。

すると通路中央に立ち塞ぐように、いつの間にか少女が立っていた。


「…なんだ小娘?。邪魔だ、どけ」

ギロリと睨みつける大男、だが少女はおびえもせずに立ち塞がったままだ。

「いいえ、どきませんの。さっきの試合、あそこまでする必要はなかったんじゃないですの?」

めんどくせぇと頭をかく大男を、少女は睨んだまま動く様子はない。


「とりあえず、訳の分からねぇこと言ってないで、どけ。小娘だからって容赦はないぞ?」

ドルガは一歩踏み出し少女にさらに圧をかける。

なのに一歩も退かず、それどころか睨み返すこの少女もどうかと思うのだが。


「イヤ、ですの。次はあんなことしないって約束するですの!」

大男の口から「しゃぁねぇなぁ」という漏れだすような言葉に合わせて、斧を持った右手が後ろに引かれていく。

「…消えろ」

そう言うとさっきの対戦相手の様に少女を斧で通路脇に飛ばす…はずだった。


後ろに引いた手が全く動かない上、手首にくる万力か何かで締め付けられるような鈍い痛み。

肩越しに後ろを見るとそこには、黒衣の青年が立ち、ドルガの右腕を掴んでいた。


「あんた、不死討伐者デッドスレイヤーとか言われてるんだろう?。ちょっと話を聞かせて貰いたいんだが?」

そう言いながら青年が顔を上げると、丁度ドルガと目の合う形になる。

ドルガは鋭い目つきで、値踏みする様に、相手の実力を測る様に青年を見た。


「…そんなに聞きたきゃ話してやるから、とりあえず掴んでる右手を離しな」

ドルガが言うと青年は大人しく掴んでいた手を離す。

正面に居た少女はいつの間にか青年の横に走ってきていた。


「…で、何が聞きたいってんだ?」

斧を壁に立てかけ、左手で掴まれていた右手首をさする。

(…まだジンジンしやがる。なんて握力だよ、こいつ)

見ると右手首には、まだ鮮明に赤く掴まれた跡が残っていた。


「そうだな、とりあえずデッドマスターとやらをどうやって倒したか、だな」

今まで何度も聞かれてる質問なのか、「その話かよ」と面倒くさそうにに大男は答える。

「さっきの俺の戦いを見たろう?。あれに巻き込まれれば、骸骨兵スケルトン屍体ゾンビなんか敵じゃないってことだ。これでいいか?」

通路を塞いでた少女もいなくなったので、立てかけていた斧を手に取り、大男はそのまま控室の方へと消えていった。

少女は未だに大男への不満をぶつぶつ言っているが、隣の青年は気にしてない様子だった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...