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闘技大会

その11

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(…あら?。みなさん上手に揃えますのね?)

少女がのんきにそんなことを考えていると、まるで引いた波が戻って来るかのように観客席から一気に怒号が上がる。



「バースに負けすぎて、ウィズ=ダムはとうとうヤケになったのか!?」
「身内の記念参加とかに使っていい場じゃないぞ!」
「いくら何でもランク1はないだろう!チェンジだ、チェンジ!」
「負けた時の言い訳にしてもひどい!」
「国の選んだ選手がランク1とか、国民舐めてるのか!」
「勝つ気が全く見当たらない!」


観客席から響く揶揄と罵声はどんどん大きくなっていき、収まる様子は全くない。

そして、そんな罵声の降り注ぐ闘場中央では、魔獣フードの大男が正面の黒衣の青年を指さしながら、腹を抱えて大笑いをしていた。


「ここに来る時は指定枠が相手とか運がないとか思ったが、まさかランク1かよ!」

楽しくてたまらないという風に体を曲げ、手で腹部を押さえている。

「国が何考えてこんなのに枠を与えたか知らんが、これはラッキーだったな」

大男は背を伸ばすと武器の斧を手に取る。

「なんせランク1のこのモヤシみたいなのを倒すだけで次に進めるんだからなぁ!」



「ランク1…」

さすがにルークも呆気にとられている。

そして、これまで散々警戒して色々考えてた事が全く無駄だったなと、なんともやるせない虚脱感を感じていた。


昨日まで決まってなかった出場枠、そこに入れられたランク1冒険者。

これはまちがいなく負ける前提だろう。


元々用意していた選手が居て、それがトラブったのかもしれない。

そこに街に出てきたばかりの田舎の喧嘩自慢が口車に乗せられた…そんなとこだろう。


(…そう考えると、この少女達がただ不憫に思えてくるな)

そんな事を思いながら、同情の目で少女を見る。

こちらに見られてることに気付いたのか、少女もこちらを不思議そうに見てきた。



観客席にむかって、落ち着くように何度もアナウンスするが全く効果がない。

とりあえず試合を進めれば落ち着くだろうという判断の元、アナウンスで試合開始準備の宣言がされた。



何一つ反論することなくただ聞いていた青年だったが、大男に向かって手でかかって来いというジェスチャーをした後、淡々と言い放つ。

「御託はいいから、かかってこい」


完全に格下と思っている青年に挑発された大男は、怒りで顔を真っ赤にした。

「たかがランク1ごときが、この俺様をバカにするのかっ!」

息も荒く、今にも殴りかからんばかりに両手に武器を構える。



『それでは、試合開始してください!』

試合開始の打鐘かねが鳴り響く。

それと同時に大男は、両手の斧を勢いよく振り上げた。

「これから、このレッド=オックス様の伝説の始まりだぁぁぁぁっ!!」

叫びと共に、2本同時に力いっぱい正面の青年に向かって叩きつける。

重量物が地面に当たった地響きがしたと思うと、同時に土煙があがり、闘場が何も見えなくなる。



土煙の中に1つの人影が見える。

いや、それは重なり遠目だと1人に見えただけの2人分の人影であった。


大男の斧は2本とも地面に突き刺さり、なんとその斧の間に青年は立っていた。

そして伸ばされた青年の右拳は、大男の顔面中央にめり込んでいる。


「───────────がはっ…」

斧を持っていた手から力が抜けたのか、大男が糸の切れた人形のように真後ろに倒れ込んだ。

ドシーンという音を立て、闘場で大の字に倒れる大男─────試合続行出来ないのは誰の目にも明らかだった。



「…しょ、勝負あり!。勝者、シェイド選手!」

審判の声が闘場に響く。

さっきまで騒いでいた観客は、この一瞬の決着に理解が追い付かないのかす暫く静まった後、思い出したかの様に「わーっ!」と歓声が上がる。


「いったい何がどうなったんだ!?」
「なぜあいつは、斧の間にいるんだ?」
「きっと後ろに避けた後、前に出て殴ったに違いない」
「もしかしてだけどあいつ、ランク1のくせに強いのか!?」

観客の勝手な歓声は全く収まりそうにない。



『…まさに一瞬!、一瞬の決着でした。この試合時間はまさに伝説です!!』

妙に盛り上がっているアナウンスを背に受けながら、青年は通路へと戻っていく。



(…なんだあれは。背中が一気に鳥肌立ったぞ)

試合を見ていたルークは額から嫌な汗が流れてくるのを感じた。


土煙で見えにくかったが、それでも自分には十分に分かった。

あの冒険者が振り下ろす瞬間、勢いよく斧の間に飛び込んだという事が。


やれと言われれば、自分でも多分やれる。



だが振られたのは棒なんかじゃなくあの大きな斧だ。

少しでも距離感やタイミングを間違うとただじゃすまない…もちろん失敗すれば命も落としかねない。


それにあれだけのことをやれるくらいなら、普通に避けて殴るだけでも、楽に勝てていたはずだ。

にもかかわらず、確実に一撃で倒すために敢えてあの攻撃に飛び込み、カウンターを決めたという現実。


(…頭のネジがぶっ飛んでるとしか思えない)

ルークはゾクッとするような寒気と、背中を流れ伝う冷たい汗の感覚に、言いようのない不快感に囚われるのだった。

 
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