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第一章 シェイド

その1 序

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少し暗く、でも荘厳な雰囲気すら感じる広い室内。

その部屋の中央に置かれた大きな円卓があり、それを囲むように多数の人影が座っており、その中の一人が声を上げた。




「第4軍、軍団長はまたいないみたいだけど?」

少し幼さを感じる少女の声であった。

目の前に置かれた札には『第8軍』と書いてある。

「あいつはいつものようにどっかに行ってるさ。まぁあんな腐れなんかいなくても問題ないだろう。さっさと会議を進めるぞ」

少女のほぼ対面から野太い男性の声がして、その目の前に置かれた札には『第3軍』と書いてあった。

少女は手を広げ両手の平を天井に向けると、わざとらしくあきれた感じの動きをする。

「はっ。調子に乗って高々と伸ばした鼻をへし折られたどころか、潰されて豚っ鼻にされたオーク様はなんか弱気だなぁ。おい?」

少女は明らかに挑発的に対面の人影に言った。


「親の七光りでそこに座ってるような小娘が、この俺様を侮辱するか!」

両手を机に叩きつけ勢い良く立ち上がるその腕は、筋肉質でまるで丸太のように太かった。

濃い緑色の肌、全体的に太い感じのする体型だが、全体的に鍛えられている。

彼は人間ではない、俗にいうオークと呼ばれる異種族である。

人より一回りは大きい体と、筋力に優れた種族で、好戦的な性格を持つものが多い。


「親の七光りとかふざけるな!。あれならアタシの力を、その豚鼻に刻み込んでもいいんだぜっ!?」

少女もまた立ち上がりオークに噛みつく、歯ぎしりをして文字通り今にも噛みつきそうですらある。

少女もまた人間ではなく、体の表面に体毛が生えており、頭には猫のような大きな耳が生えていた。

猫のようなとはいったものの、少女は猫の獣人なので猫耳そのものなのだが。




二人はにらみ合い、室内には緊張感が満ちていく。

「二人ともいい加減にしろ。魔王様の御前だぞ」

その時、オークの右の方から良く通る男性の声がして、彼の前の札に書かれている文字は『第1軍』。

当然彼もまた人間ではなく、頭には羊のような角、背中には蝙蝠のような翼を生やした、魔人と呼ばれる種族である。

その時、魔人の右側。他の席よりひときわ豪華な椅子に座っていた人影から声が放たれた。


「4軍王は余の命令でウィズ=ダム方面の破壊工作に出てもらってる。二人とも、それでよいな?」

若い…聞こえようによっては幼いとすら思う男性の声であった。

頭に生えた野牛のような黒い角が生えていること以外、姿はそれほど人間とは差がない様に見えた。

ただ何とも言えない存在感というか威圧感が、また人ではない何かなのだと主張している。


「チッ…魔王様が言うなら…」

オークと獣人の少女は舌打ちをすると席に座りなおす。

二人が席に着いたのを確認すると、魔王と呼ばれた男性は魔人に手で合図を送る。

魔人は恭しく頭を下げると円卓の方を向き、声を上げて宣言した。

「ではこれより、魔王軍会議を開始する。各軍の状況を報告せよ!」



ここは北方の暗黒領と呼ばれる、闇の軍勢の支配する土地。

そこに鎮座する魔王の城、人々の平和は常に脅かされ続けていた。

 
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