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第二十七話 誘惑のアナルビーズと空飛ぶガチムチ

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 井上よりベッドの到着の方が早かった。インターフォンが鳴り、画面には体格の良い男が映っていた。家主不在のまま、ベッドの搬入が始まってしまう。最初に部屋にやってきた男はインターフォンに映ってた男で、「場所の確認をさせてもらいます」というと、寝室へ入っていった。島田は、勉強するわけにもいかず、休憩がてらソファーに座ってニュースの確認をした。大々的に事故が報道されている。

「井上さん、ちょっと良いですか?」

 作業員の男に呼ばれても島田は顔を上げない。

「井上さーん」
「え? あっ、はい!」

 他人が待機している旨が店側から伝わっていないのか、男は島田を井上だと思い込んでいる。

「先に壊れたベッドを運び出しますね。その後に、新しいものを搬入します。新しいベッドがかなり大きいので、寝室で組み立てることになりますが大丈夫ですか?」
「組み立て費用、すでに支払ってると思いますけど」

 男が慌てて注文表を確認する。一言謝ると、作業に取り掛かるため、部屋を出ていった。連携の取れていない様子に一抹の不安を覚えるが、島田はまた事故のニュースの方に意識を持っていった。死者多数、燃え上がるトラックに自動車。井上がこの現場に派遣されたのか、派遣されて手薄になった違反取締に出動したのか分からない。最初は寂しさを感じていた島田だったが、悲惨な事故現場にいる井上を想像し、不安が押し寄せてきた。そんなことを考えていると、いつの間にか運搬の従業員が三人いることにも気づかず、作業が終わったことにも、声をかけられるまで気にも留めない。

「終わりましたよ」

 島田が視線をあげると、そこには三人の男性。どの人物もガタイがよく、島田は一瞬身をひいた。挨拶を済ませると、最初の男以外、片付け作業に入るため先に部屋を出ていく。残った最初の男が「ベッドの確認と、作業終了のサインお願いします」と紙とペンを渡してくる。寝室にいくと、大きなチェストベッドが居座っていた。迫力があり、大人の空間を演出している。

「サイン、お願いして良いですか?」
「はい」

 島田は少し迷った後、「井上」とサインをした。まるで結婚したみたいだと、少し微笑みながらサインを見つめていると、急に視界が傾いた。幸せなサインを見ていた視界に男が入り込む。体は新しいベッドの上だ。こだわり抜いただけあって、高性能なスプリングは背中に痛みを与えない。

「は? 何ですか?」

 島田は自分が押し倒されていることに気がつき、男を睨みつけた。

「井上さん、これベッドに落ちてましたよ」

 差し出されたのは、島田が不貞腐れて放ったアナルビーズだった。

「げっ、直し忘れた」
「てことは、井上さんのなんですね?」
「『井上さん』のに間違いはないといえばないですけど……返してもらって良いですか?」

 手を伸ばすが空をかく。男の目つきが変わる。

「彼女と使ってる? それともあんたが使ってんの?」

 急に声が低くなり、両太ももでがっちり島田の動きを奪ってくる。自分が襲われていることを理解した島田だったが、セキュリティのしっかりした井上のマンションでは声を上げても外に伝わらない。

「俺と少し遊ぼうか。他の2人は、今は片付け作業中だし、ばれないよ。少し付き合ってよ」
「ふざけんなよ、誰があんたなんかとするか」

 力仕事を生業としている男はびくともしない。しかも、タチの島田を掘ろうとしている。

「やっぱり、こっちの人間だろ?」

 男に襲われているのに落ち着いている島田に、作業員は期待で股間をふくらませた。
 風俗店に勤務していた島田にとって、これは珍しいことではない。襲われそうになったことは何度もある。叫んで助けてもらう従業員もいれば、そのまま客と寝てしまう者もいる。島田の場合は得意の指捌きで何度もイかせ、外に放り出すのが毎回の事だった。

──けど、俺には光太郎さんがいる。

 自分の貞操が脅かされているのに、島田は井上を想う。ポケットのスマホを取り出そうとしたが、作業員に奪われ放り投げられた。いよいよ策が1つしか無くなった島田は、静かに息を吐いた。

「ねえ、お兄さん。どうせなら、俺が自分で挿れるところ見てほしいなあ」

 さっきとはうってかわり甘い声を出し、まずは男からアナルビーズを奪う作戦に出る。

「やる気になった? しかもド変態だな」
「せっかくなら興奮するのがいいでしょ?」

 島田はアナルビーズを受け取る。一先ず自分の指を汚さないための武器は手に入れた。

「お兄さんも脱いで見せてよ。俺だけなんてずるいじゃん。もう破裂しそうなくらいパンパンなんだし」

 作業員の股間は、ズボンを押し上げ窮屈にしている。島田が予想以上に乗り気だと勘違いした男は、何の疑いもなく、反り勃った雄を晒す。

「ちょっとだけいじってもいい? 玩具も濡らしたいし。お兄さんの先走りで濡らした玩具でイきたいな」
「アタリひいたなあ。こんな変態君とできるなんて」

 策にはまったことも気づかず、嬉しそうにする作業員。しかしこれから待ち受けるのは自分の先走りで濡れた玩具を自分の後孔に突っ込まれるという、自家製ローション玩具プレイだ。
 島田は作業的にアナルビーズに男の先走りを塗る。作業員は刺激に負けて小さく気持ちの良い声を吐き出している。汚いBGMの中、武器を完成させ、扱くふりをして手を伸ばす。あと少しで男の下半身を固定することができる。そうすればあとは、アナルビーズを突っ込むだけ。しかしアナルビーズは、役目を果たすことがなかった。

「うっ!」

 作業員の短いうめき声。同時に島田の顔面スレスレを作業員の雄が上昇していく。島田の視界には下からのアングルで晒される作業員の男性器と未開発に終わった穴。
 一瞬、島田にも作業員にも何が起こったのか分からなかった。気づいた時には下半身を露にしたガチムチが浮き上がり、次の瞬間には、帰宅した白バイガチムチ警察官によって、床で取り押さえられていた。

「何をしているんだ」

 井上の声は聞いたことの無いほど低く、そして、目つきが鋭い。作業員は、足掻こうとするが、井上をどうにかすることができない。

「離せよ! おいッ、誰だあんた、警察呼ぶぞ!」

 作業員は、家主かつ警察官に向かって、無意味な暴言を吐く。

「残念だね、僕が警察だよ」

 井上は警察手帳を取り出して、作業員に見せつけた。作業員の顔色がどんどん青白くなり、怒りの対象が島田に移る。

「てめぇ、その気にさせといて、警察呼びやがったな!」

 「違います。ただの帰宅です」と言わんばかりにアナルビーズを横に振る。その後も作業員は、叫びながら井上を振りほどこうとしたが、びくともしない。息をあげ、玉粒の汗をかいていた。作業員を取り押さえながら、井上は島田を見た。

「誰、この人」
「ベッドの作業員」
「同意の行為?」

 今度は全力でアナルビーズと首を横に振る。

「するわけないだろ! 掘られかけたんだよ!」
「そっか」

 安心する井上は、再び作業員を見下ろす。

「下のトラックで待機しているのが他の作業員かな? とにかく連絡しないとね」
「俺、呼んでくる。1人で大丈夫?」
「大丈夫だよ」

 島田は、急いで他の作業員を呼びにいった。まさかの事態に驚いた2人が井上の部屋へ戻ってくる。取り押さえられた仲間を見て、絶句していた。被害者である島田は、「今日は帰ってもらって良いですか? その後のことは、また連絡するので」と被害者とは思えない落ちつきぶりで伝えた。井上は「警察呼ばないの?」とこっそり聞いたが、島田は「それは、後で」と言って、3人を帰した。
 2人きりになると、井上は島田を強く抱きしめた。

「何があったら、あんなことになるんだ!」

 先ほどの落ち着きとはうって変わって、震える声が出ている。

「いや……俺のせいというか……そこにたまたまゲイが現れたというか……」
「君のせい?」

 島田はアナルビーズを見せた。

「これ、直し忘れてたんだ。それを見つけたあの男に掘られかけた。あいつの体液ついてるから捨てよ」
「……で、自分でどうにかしようとしたな?」
「風俗勤務の時にはよくあることだったから。光太郎さんと付き合ってるから迷ったけど、やっぱり掘られるのは勘弁だったし」
「危ないことだけど、それが最善なら構わないよ。見たとき肝が冷えた」

 島田が井上の額を見ると、こちらも汗をかいていた。

「浮気と思わなかったの?」
「吉平君がそんなことする人じゃないのは、この前の件で分かってる。あと、どう考えても、攻守が逆だったから」

 井上は、スマホを取り出し、通報しようとしたが止められた。

「通報すんなよ」
「どうして?」
「ここ光太郎さんの家じゃん。家に別の男がいて、アナルビーズで犯されかけたなんて、確実に光太郎さんも疑われる」
「疑われる? 襲おうとしたって?」
「そうじゃなくて。ゲイだって」
「別にそれでも──」
「よくない! ただでさえ署長の件があんのに!」
「また君は僕の心配ばかりする。ことは犯罪なんだ」
「それでも! 正直、どうにかできたし、今度から気をつける! ちゃんと玩具は直すから!」

 島田は必死に懇願する。井上は、恋人のそんな姿に、「次はないよ」と観念した。

「でも、会社には連絡する。名刺とかもらってない?」
「厳重注意に留めてくれるなら」
「分かってる」

 井上は、名刺に書かれた電話番号にかけ、起こったことを説明した。島田と変わり、その日のうちに上層部の人間が謝りに来た。警察に被害届が出されないことへの安堵を滲ませるスーツ姿の要人に、若干の苛立ちを覚えたものの、高級な菓子折りや商品券を広げる島田は、すでにそのことを忘れ、チョコレートの包みを開けていた。リスのように頬張りながら、島田は井上によくやく挨拶をする。

「お帰りなさい」
「ただいま」

 井上も腰を落ち着かせ、ソファーで島田の肩を抱いた。

「せっかくの休日が色々な意味で台無しになったな」
「それなら来週も──」
「勉強しなさい」
「けち」
「でも、今日は泊まっていって」

 まさかの二泊目。島田は、子どものように喜んだ。

「そういえば、警察手帳見せてよ」
「ああ。慌てて帰ってきたから、間違えて持って帰ってきてしまったんだった。役に立ったけど」
「寂しかった?」
「デートの途中に出動要請かかったからなおさらね。でも、早く帰ってきて正解だったよ。はい、どうぞ」

 井上は、警察手帳を島田に渡す。

「失くすといけないから、すぐに返してね」
「分かってるって」

 島田は、手帳を開け、制服姿の井上をニヤニヤしながら見る。その頬を摘まれ、すぐに取り上げられる。

「おしまい」
「えー、もう少し!」
「恥ずかしいだろ」
「かっこいいのに」
「……」
「照れてる」

 耳をほんのり赤くした井上が、手帳を持ってソファーから立ち上がる。

「さて、お風呂にしようか。新しいベッドの心地も試したいし」
「お望み通り、いろんな角度からバックで攻めてやるよ」

 寝支度を済ませ、2人は新しいベッドへ。

「良い買い物したかもね。よく眠れて、明日寝坊してしまいそうだ」
「まだ寝るなよ」
「そんな勿体無いことしないよ」

 島田が井上の首に抱きつく。

「新しいベットでの、最初のプレイはどうする?」
「今日は、一番アブノーマルなのでお願いしようかな」

 井上にとっての「アブノーマル」は、イメプレも玩具もなし。ただ恋人が愛し合う交わり。島田は「俺もそれがいいと思ってた」というと、新しいベッドを軋ませて、歳上の恋人をこれでもかというほど喘がせた。


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