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番外編
番外編1 濡れる正月②
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要は家の有様を見て、持っていたスマホを落とした。最初は廊下に面する湿った仁の寝室を見て「俺と一緒に寝なきゃだな」とニヤニヤしていたが、トイレや風呂場、キッチンに暖房までやられた大惨事に泣く泣く退散するしかなかった。
結局2人は近くのビジネスホテルに泊まることになった。
「この近くにでっかい風呂屋あんだけどさ。元旦から開いてるらしい」
「銭湯?」
「露天とかサウナとかいっぱいあるやつ。せっかくだから行かね?」
「たまにはいいかもね」
2人はホテルを出て都市高速道沿いを並んで歩く。元日の都市高速は静かだ。頭上から時折、車が通る音がするだけで、下道は車も通らず二人しかいない。
どちらから言うわけでもなく指を絡めた。
施設付近になると自然と離れていき、施設の食堂で夕食をとると、二人は入場券を購入し、脱衣場へ。何も気にせず豪快に脱ぐ要、その隣で仁は不機嫌な顔になる。だが、渋々服を脱ぐと、タオルを肩にかけてそそくさと先に行った。
タオルの下に跡をつけた犯人は、30代になっても綺麗なラインを保っている骨格に喉を鳴らしながら後ろをついてった。
身体を洗い、湯船に浸かり、一通り全ての風呂を堪能する。仁が気に入ったのは桶タイプの少人数風呂。1人で疲れを癒していたが、要が水面を割って入ってきた。
「狭い」
「いいだろ。詰めろよ」
仁は悪態をつきながら要の場所を開けた。男2人では狭い。
「元旦から一緒にいられるなんて最高だな」
「家は大変なことになったけどね。そういえば、要ってお姉さんと妹さんいるんだ」
「いる。3歳上の姉貴と2歳下の妹。姉貴は結婚して子どももいる」
「要おじさん」
「おじさん言うな。仁は?」
「一人っ子だよ」
「ぽい。……あっ、やべ」
いらないことを言ったと口を覆う要だったが、仁はその手を取って、揺らめくお湯の中でぎゅっと繋った。
「家があんなことになって不安だっただろ?」
「別に」
要が強く握ると、仁も返してきた。要は妙に積極的な仁の真意を確かめようと次なる質問を考えた。
「昨日、足りなかったのか?」
「十分すぎるくらいだったよ」
肩についたキスマークを仁は揉んだ。
「……寂しかったとか?」
「たった1日じゃん。っていうか、さっきからなんなの?」
「いつもと違うから」
「別に」
仁は鼻の下まで湯に浸かった。要も真似をして目線を合わせる。仁の眉間にシワがより、目を逸らした。要は理解ができず大きな泡を水面に浮かばせた。
「えー、わかんねーなあ」
「だから何もないって」
「いや、何かあるね。どれだけ俺がお前のこと知ってると思ってんだ」
ふんぞり返る要。仁は「ありがとう」とだけ残し、桶から出ていった。ますます分からない要は首を傾げて後を追うことしかできない。
そのまま解決することなく、2人はあがった。着替えを済ませ、コーヒー牛乳を飲む。人も少なく、自販機前の長椅子に腰をかけながら冷たい飲み物を流し込んだ。自販機に映る並んだ恋人たち。要はそれを見つめながらもう一度質問した。
「怒ってんだろ? 昼間、俺が軽率に家に来るかなんて聞いたから」
「怒ってたら手なんて繋がないよ」
「……嬉しかったのか?」
仁は空になった瓶を握りしめた。
「うん。すごくね」
「そっか……」
そんなことを仁が抱いていたとは知らず、要には珍しく、かける言葉を失った。
「戸惑ったけど、嬉しかった。お呼ばれしてもいいんだって。関係はもちろん秘密だけど」
「言うつもりだったけど?」
「はっ?」
「仁が良いなら、俺はきちんと恋人として紹介するつもりだった」
要が「いや、違うな」と言いながら仁と自分の瓶をゴミ箱に捨てた。ガコン、カチャンと大きな音がして、背中を向けたまま要は首だけ仁の方へ回した。
「家族だって、いうつもりだった」
その二文字に、仁は目を見開いた。
結局2人は近くのビジネスホテルに泊まることになった。
「この近くにでっかい風呂屋あんだけどさ。元旦から開いてるらしい」
「銭湯?」
「露天とかサウナとかいっぱいあるやつ。せっかくだから行かね?」
「たまにはいいかもね」
2人はホテルを出て都市高速道沿いを並んで歩く。元日の都市高速は静かだ。頭上から時折、車が通る音がするだけで、下道は車も通らず二人しかいない。
どちらから言うわけでもなく指を絡めた。
施設付近になると自然と離れていき、施設の食堂で夕食をとると、二人は入場券を購入し、脱衣場へ。何も気にせず豪快に脱ぐ要、その隣で仁は不機嫌な顔になる。だが、渋々服を脱ぐと、タオルを肩にかけてそそくさと先に行った。
タオルの下に跡をつけた犯人は、30代になっても綺麗なラインを保っている骨格に喉を鳴らしながら後ろをついてった。
身体を洗い、湯船に浸かり、一通り全ての風呂を堪能する。仁が気に入ったのは桶タイプの少人数風呂。1人で疲れを癒していたが、要が水面を割って入ってきた。
「狭い」
「いいだろ。詰めろよ」
仁は悪態をつきながら要の場所を開けた。男2人では狭い。
「元旦から一緒にいられるなんて最高だな」
「家は大変なことになったけどね。そういえば、要ってお姉さんと妹さんいるんだ」
「いる。3歳上の姉貴と2歳下の妹。姉貴は結婚して子どももいる」
「要おじさん」
「おじさん言うな。仁は?」
「一人っ子だよ」
「ぽい。……あっ、やべ」
いらないことを言ったと口を覆う要だったが、仁はその手を取って、揺らめくお湯の中でぎゅっと繋った。
「家があんなことになって不安だっただろ?」
「別に」
要が強く握ると、仁も返してきた。要は妙に積極的な仁の真意を確かめようと次なる質問を考えた。
「昨日、足りなかったのか?」
「十分すぎるくらいだったよ」
肩についたキスマークを仁は揉んだ。
「……寂しかったとか?」
「たった1日じゃん。っていうか、さっきからなんなの?」
「いつもと違うから」
「別に」
仁は鼻の下まで湯に浸かった。要も真似をして目線を合わせる。仁の眉間にシワがより、目を逸らした。要は理解ができず大きな泡を水面に浮かばせた。
「えー、わかんねーなあ」
「だから何もないって」
「いや、何かあるね。どれだけ俺がお前のこと知ってると思ってんだ」
ふんぞり返る要。仁は「ありがとう」とだけ残し、桶から出ていった。ますます分からない要は首を傾げて後を追うことしかできない。
そのまま解決することなく、2人はあがった。着替えを済ませ、コーヒー牛乳を飲む。人も少なく、自販機前の長椅子に腰をかけながら冷たい飲み物を流し込んだ。自販機に映る並んだ恋人たち。要はそれを見つめながらもう一度質問した。
「怒ってんだろ? 昼間、俺が軽率に家に来るかなんて聞いたから」
「怒ってたら手なんて繋がないよ」
「……嬉しかったのか?」
仁は空になった瓶を握りしめた。
「うん。すごくね」
「そっか……」
そんなことを仁が抱いていたとは知らず、要には珍しく、かける言葉を失った。
「戸惑ったけど、嬉しかった。お呼ばれしてもいいんだって。関係はもちろん秘密だけど」
「言うつもりだったけど?」
「はっ?」
「仁が良いなら、俺はきちんと恋人として紹介するつもりだった」
要が「いや、違うな」と言いながら仁と自分の瓶をゴミ箱に捨てた。ガコン、カチャンと大きな音がして、背中を向けたまま要は首だけ仁の方へ回した。
「家族だって、いうつもりだった」
その二文字に、仁は目を見開いた。
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