上 下
96 / 97
番外編

番外編1 濡れる正月②

しおりを挟む
  要は家の有様を見て、持っていたスマホを落とした。最初は廊下に面する湿った仁の寝室を見て「俺と一緒に寝なきゃだな」とニヤニヤしていたが、トイレや風呂場、キッチンに暖房までやられた大惨事に泣く泣く退散するしかなかった。
  結局2人は近くのビジネスホテルに泊まることになった。

「この近くにでっかい風呂屋あんだけどさ。元旦から開いてるらしい」
「銭湯?」
「露天とかサウナとかいっぱいあるやつ。せっかくだから行かね?」
「たまにはいいかもね」

  2人はホテルを出て都市高速道沿いを並んで歩く。元日の都市高速は静かだ。頭上から時折、車が通る音がするだけで、下道は車も通らず二人しかいない。
  どちらから言うわけでもなく指を絡めた。
  施設付近になると自然と離れていき、施設の食堂で夕食をとると、二人は入場券を購入し、脱衣場へ。何も気にせず豪快に脱ぐ要、その隣で仁は不機嫌な顔になる。だが、渋々服を脱ぐと、タオルを肩にかけてそそくさと先に行った。
  タオルの下に跡をつけた犯人は、30代になっても綺麗なラインを保っている骨格に喉を鳴らしながら後ろをついてった。
 身体を洗い、湯船に浸かり、一通り全ての風呂を堪能する。仁が気に入ったのは桶タイプの少人数風呂。1人で疲れを癒していたが、要が水面を割って入ってきた。

「狭い」
「いいだろ。詰めろよ」

 仁は悪態をつきながら要の場所を開けた。男2人では狭い。

「元旦から一緒にいられるなんて最高だな」
「家は大変なことになったけどね。そういえば、要ってお姉さんと妹さんいるんだ」
「いる。3歳上の姉貴と2歳下の妹。姉貴は結婚して子どももいる」
「要おじさん」
「おじさん言うな。仁は?」
「一人っ子だよ」
「ぽい。……あっ、やべ」

 いらないことを言ったと口を覆う要だったが、仁はその手を取って、揺らめくお湯の中でぎゅっと繋った。

「家があんなことになって不安だっただろ?」
「別に」

 要が強く握ると、仁も返してきた。要は妙に積極的な仁の真意を確かめようと次なる質問を考えた。

「昨日、足りなかったのか?」
「十分すぎるくらいだったよ」

 肩についたキスマークを仁は揉んだ。

「……寂しかったとか?」
「たった1日じゃん。っていうか、さっきからなんなの?」
「いつもと違うから」
「別に」

 仁は鼻の下まで湯に浸かった。要も真似をして目線を合わせる。仁の眉間にシワがより、目を逸らした。要は理解ができず大きな泡を水面に浮かばせた。

「えー、わかんねーなあ」
「だから何もないって」
「いや、何かあるね。どれだけ俺がお前のこと知ってると思ってんだ」

 ふんぞり返る要。仁は「ありがとう」とだけ残し、桶から出ていった。ますます分からない要は首を傾げて後を追うことしかできない。
 そのまま解決することなく、2人はあがった。着替えを済ませ、コーヒー牛乳を飲む。人も少なく、自販機前の長椅子に腰をかけながら冷たい飲み物を流し込んだ。自販機に映る並んだ恋人たち。要はそれを見つめながらもう一度質問した。

「怒ってんだろ?  昼間、俺が軽率に家に来るかなんて聞いたから」
「怒ってたら手なんて繋がないよ」
「……嬉しかったのか?」

 仁は空になった瓶を握りしめた。

「うん。すごくね」
「そっか……」

 そんなことを仁が抱いていたとは知らず、要には珍しく、かける言葉を失った。

「戸惑ったけど、嬉しかった。お呼ばれしてもいいんだって。関係はもちろん秘密だけど」
「言うつもりだったけど?」
「はっ?」
「仁が良いなら、俺はきちんと恋人として紹介するつもりだった」

 要が「いや、違うな」と言いながら仁と自分の瓶をゴミ箱に捨てた。ガコン、カチャンと大きな音がして、背中を向けたまま要は首だけ仁の方へ回した。

「家族だって、いうつもりだった」

 その二文字に、仁は目を見開いた。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...