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第三章 狂った八月
第三話 10年ぶりの性行為(※)
しおりを挟むベルトの外れる音がする。福山も夢中でベルトを外し、手探で男の性器を探り当てた。
嬉しさで、はぁと溜息を吐いて、男の性器を湿らせる。
「んんっ……ふうん」
半分勃起していた男の性器を咥え、優しく扱きながら舌先で刺激していく。男は腰を引くが、福山がそれを許さない。腰を鷲掴み、獣の様にしゃぶりついた。
暑い性器は独特の匂いを放ち、嗅覚がイきそうになる。辻本に教えて貰ったしゃぶりかたを今実践する。
何度かビクビクと震えるも、男が達する様子はない。仕舞いには福山の性器の方が限界を迎え、腰を揺らした。
「んはッ……はぁ、はぁ……挿れてくれ」
男の首に手を回し、一緒にベッドに倒れ込む。間髪入れずにあてがわれた性器が残った辻本の精子に促されながら中に入っていく。
「ああ……いいッ……」
福山は感嘆の声を漏らしてしまった。何処かでローターの振動する音がする。福山を虜にしていたそれは、この男の性器に負けてしまう。
「ッあああ! そこッ、ああ……もっと……もっと突いてくれッ」
男は福山の前立腺を1回で探り上げた。そしてそこを小刻みに突き上げ、緩急をつけ、背筋を強張らせるほどの快楽を与える。
「あんッ! はあ……痺れ……て……はあ、気持ち……いい……ッ」
人肌を素直に受け入れたのは教師になって初めてだった。ゆうに10年ぶりの性行為は、初体験に似た興奮を与え、また温もりも与えてくれる。
「うッ、うう……こういうのが……いいッ……のに……」
本来の性行為の意味を思い出し、福山は涙を流した。自分が何者かを忘れさせ、自然体を晒せる——この空間が一番幸せなのだと理解した。
それがたとえ、顔の見えない男が相手でも。
むしろそれが福山には丁度よかったのかもしれない。お堅い肩書さえなければ、世間など気にせずここまでなれるのだ。
我慢していた物は全て弾けた。
「はあ、ああん……あっ…あ、あ」
誰かに促され、素直に射精感が込み上げる。
「我慢しなくても……いい……」
そう発してしまうほど嬉しかった。
福山の事など何も知らぬ男は、声が出ないからか、その事を何も尋ねず、ただ腰だけを打ち続けた。
——ビュクッ
「ああッッ‼」
そして福山は全てを吐きだした。
その満足感と幸福感は快楽を越える。
「きもち……よか、った……すごく……ぁあ……ッは……はあ……はあ……」
だが直ぐに身体が怠くなる。
全身を沈み込むような疲労が襲い、目を閉じかけた。
福山の熱くなった肩を男は激しく揺さぶった。
「な、何だ? あっ、そうか! 悪い、ありがとう!」
手探りで服を探す。
「電気つけたいんだけど、ダメだよな?」
不思議な会話。
足音がして、クローゼットが開く音がした。
男は隠れたようだ。もう一度お礼を言って、スマートフォンのライトを点ける。
散らばった服を着て、もう一度お礼を言って福山はアパートを後にした。
車に乗り込み、駅まで飛ばす。
「やばいぞ、間に合うか?」
すぐに乗車券が出せるようにリュックを手探りで漁ると、何かが震えていた。
「律儀にローター返してきたのか……本当に不思議な奴だな」
そして福山はその男と身体を重ねてしまった。
もう一度お礼をした方が良いかと思い、新幹線の座席に腰を下ろした時にメールを開く。
そこには既に男からメールだ来ていた。
《明日は何時なら大丈夫なんだ》
明日の切符を確かめる。
《22時なら大丈夫》
《わかった。22時 いつもの場所》
《ありがとう。あと、17日は無理だ。深夜まで用がある》
《その後でもいい》
一瞬考えた。
17日の用事とは、件の同窓会だ。
教師の顔に戻っていた福山だったが、微かにリュックの振動を感じ、気が付いたら返信していた。
《分かった。22時なら大丈夫だと思う》
それっきり返ってこなかった。
スマートフォンをポケットに直し、ようやく先ほどの醜態を振り返った。
(……エッチしてしまった。人とヤって達したのなんて何年ぶりだ……)
今になって恥ずかしさが込み上げ両手で顔を覆う。
(魔が差したのか?)
顔を拭い、トンネルで真っ暗闇の窓に視線をやる。そこには福山の顔が映っている。
至って普通の顔。教師の顔。
だが確実に快楽と人肌に溺れいっていた。
「魔が差したんだな、きっと。次は大丈夫だ……」
自身の中で渦巻く欲望に気付かぬのは、綺麗に色彩を表せぬ黒いガラスのせいか……それとも……
*
新大阪駅に到着した福山は、辻本に電話をかけた。
「着きました」
その声は重い。
対して電話口の声は快活だ。
『改札の方へ行け……出る前に——』
辻本は改札を出る前に設置されているトイレを指定してきた。
(まさか……)
指定されたトイレに行き、個室に入る。
『一人でヤれ』
(やっぱりか……)
そんな気はしていた。
まだリュックで震えるローターが「早くしろ」という辻本の気持ちを表している。
「でも人が来たら……」
『声を抑えればいいだろ。早くヤれ。ちゃんと玩具も持ってきただろうな?』
仕方がない。
福山はリュックからローターを取り出し、電話口に近づけた。満足そうな辻本の声が聞こえ、その後は声を抑えてヤっているフリをした。
(正直、さっきので十分だ)
男との行為を思い出し、少しずつ勃起し始めた下半身。しかし辻本の言いなりになるのは嫌で耐えた。
「……ッ……イきました」
適当な所で嘘を吐く。
辻本も見ない場所でイかれるのはそこまで嬉しくないのか、案外あっさりとしていた。
「あの……これ、さすがに明日の会場には持っていけません」
「……バレれば俺の立場も危うい。そこに捨てていけ」
それに関しては素直に従った。
タオルは1枚無駄になるが、くるんでローターをトイレのゴミ箱に捨てる。
悪趣味な生徒指導主事に任された出張をうだる様に、改札を抜けた。
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