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第四章 マーベリックの衝撃
第四話 呆気ない幕引き
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ジョシュアが一人暮らしをしている高級車マンションに帰宅してすぐ、インターホンが鳴った。画面には幼馴染が映っていた。
無視を決め込むが何度も鳴らされ、スマートフォンまで大合唱をする始末。
「くそっ、そもそも誰だ、オリバーに俺の居場所を教えたのは!」
オリバーに住所を教えていなかった。知っているのは、屋敷からここにジョシュアを送り届けようとした屋敷の運転手くらい。悪態をつきながら機械の合唱に根負けしたジョシュアは解錠した。玄関の鍵も開けて、ジョシュア自身は寝室に篭もった。中から鍵をかけ侵入を阻む。家の鍵は開けたのに、こうやって逃げている自分の行動に説明がつかない。
──ガチャッ!
玄関が開く音。
「ジョシュア!!」
続いてオリバーの声。焦ったその声に、ジョシュアは盗聴の件を知ったのだと理解した。
しばらく家中を歩く足音がして、それが寝室の前で止まる。
「ここか?」
──ガチャ……ガチャガチャ、ドンドン!
開かない寝室の扉をオリバーは殴った。1枚挟んだところでジョシュアは怒鳴り声をあげた。
「今更なんだ! お前の本心はあれだったんだろ?! だいたいどうやってここまで……」
「開けてくれないか? ジョシュア、きちんと話をしよう」
質問の返事になっていない。オリバーはそれほど焦っていた。
「話すことなんてない……ただの労働上の延長だったんだろ? どうせ職場も離れる。もうこんな異端児わがまま坊ちゃんの世話なんてやめろよ」
「私とカルロスの話を全部聞いていただろ? その後の会話も──」
「きちんと聞いたさ。メイドの息子だから一緒にいた。カルロスに指名されたならそっちにいく、そして──」
ジョシュアは扉に背を向けた。
「俺の肩を持つ気はないって」
そのままキングサイズのベッドに沈む。後ろからは扉を叩く激しい音と、オリバーの「それは全てじゃない!」という声が聞こえる。
「俺が聞いたのはこれだけだ。これだけで十分だ。他に何がある」
「カルロスはお前を恐れてる。きっとマイケル社長もだ。だから盗聴などという姑息な手を使った!」
「だからなんだって言うんだ」
「そのせいで私達は職場が──」
ジョシュアはスプリングを軋ませるほどベッドを殴った。
「答えになってない! お前がカルロスに俺といるのは労働の延長線上じゃないと発言したかどうかを聞いているんだ!」
オリバーは扉の向こうで拳をにぎりしめた。そしてその静かになったことが答えだとジョシュアは悟った。
「別に……いいさ……真面目なお前のことだ……過去の償いじゃなかっただけましだ……」
「私は自分の意思で一緒にいる。日本へ行ったのもベッドを共にしたのも──」
「うるさい! 信じられるわけないだろ! あんな会話を聞いて、それは無理だ! あれがオリバーの本心なんだろ?!」
「違う!」
「だったら何故、俺と一緒にいてくれるんだ!」
「それは……」
黙ってしまったオリバーにジョシュアの心は死んでいく。割り切ればいいのに、オリバーが絡むとそれができないでいた。
「答えられないんだろ? 帰れよ。もういい。こうやって謝罪に来たのも、俺が社長の息子だったからだ。敵に回したくない。だからこうやって──」
口からは憶測が止まらない。
「くそっ! 帰れよ! オリバーなんて嫌いだ!!」
その瞬間、寝室の扉は破壊された。ノブが外れ、ぶさがっている。嫌な音を鳴らしながら激しく開き、息を上げたオリバーがベッドに歩み寄ってくる。
「おいっ! 弁償しろッ……ッちょっ!」
ギシッと二人分の沈む音がする。寝転ぶジョシュアのサイドを腕で通せんぼし、オリバーは覆いかぶさった。
「どけよ」
「……今、何と言った」
「どけって言ったんだよ」
「その前だ」
「それよりさっきから俺の言っていることを無視しすぎだ。どけって」
「退かない。それよりさっき──」
「あーもう、しつこいな! 嫌いなんだよ!」
オリバーの歯の軋む音がする。しかしジョシュアはそれに気付かず畳みかけた。
「嫌いだ! 大嫌いだ! もう顔も見たくない! 分かったらさっさと帰れ!!」
──ボンッ!!
クッションにオリバーの拳が振り下ろされ、中の羽毛が舞う。その柔らかな隙間から「どちらにしても嫌われるなら……言ってしまった方がマシだ……」と力ない声が縫うように聞こえる。
「と、とりあえず帰れよ! お前が俺と居る理由はもうない!」
「──お前が好きだ」
「そんなガキみたいな言い訳で納得するとおもってるのか?!」
オリバーの目付きが鋭くなる。そして一瞬柔らかくなったが、再び余裕なく瞳が揺れた。
「私はジョシュアを愛している」
純白の羽が舞う幻想的なベッドの上で、オリバーはジョシュアに荒々しい口付けをした。
「んっ……はぁ、お前、何して……んんっ」
男の肉厚な舌を初めて受け入れたジョシュアは必死に呼吸をする。しかしすぐに塞がれ、苦しさで頬を紅潮させた。
ようやく離れたオリバーの口からは低い声が落ちてくる。
「これがガキみたいだと思うか?」
もう一度クチュクチュと水音を鳴らしながら、ねっとりとした口付け。深く絡まりあい、熱を押し付け合う。ジョシュアは跳ね返すように……オリバーは想いを告げるように……
「はぁ、はぁ……な、なんなんだよ……」
ジョシュアは急な展開についていけず背中を向けた。
──コリッ
「?!」
臀部に当たる硬い肉。恐る恐る上を振り向くと、眉間に皺を寄せたオリバーと視線がかちりとあう。
「勃起……してるぞ……」
「ああ。つまりこういうことだ。私はお前をこういう意味で愛している」
ぞわりとジョシュアの背筋に鳥肌が立つ。身体中が謎の締め付けにあい、動けないことに恐怖を感じた。
「……」
オリバーが耳元で囁く度にその恐怖は大きくなる。仕舞いには肩が震え始め、押しのける力さえ分散していく。
「……怖い」
ジョシュアが初めて口にした単語に、オリバーは項垂れた。
「なんだよ。意味がわらない。怖い……こっちを見るな……」
オリバーに愛していると告げられた瞬間から襲ってくる恐怖は部屋中を支配する勢いでジョシュアを包み込んだ。そこから逃げるようにジョシュアはオリバーに「あっちへいけ!!」と子どもの時のように叫んだ。
豹変した30過ぎの男に、流石のオリバーもやってしまったと、身体を離した。
「怖がらせてすまなかった。これで終いだ」
誰かに言い聞かせるようにオリバーは零して寝室から出ていった。その落胆した声がさらに部屋を重たくする。
変わっていないのに重力が変異を起こしたような部屋でジョシュアは自身を抱きしめた。
「怖い……あの目は……なんだ……」
オリバーの見たこともないような瞳を思い出し、また身体を震わせる。
「優しいような、苦しいような、何か温かいような……悪いものじゃないはずなのに……怖い」
オリバーが向けていた恋心の視線はジョシュアにとっては初めてで恐怖の対象でしかなかった。まだ恋や愛に気づけない男は自身の身体の変化にも戸惑っていた。
「わからない……」
下腹部に手を伸ばす。
──どうして俺まで勃起しているんだ
無視を決め込むが何度も鳴らされ、スマートフォンまで大合唱をする始末。
「くそっ、そもそも誰だ、オリバーに俺の居場所を教えたのは!」
オリバーに住所を教えていなかった。知っているのは、屋敷からここにジョシュアを送り届けようとした屋敷の運転手くらい。悪態をつきながら機械の合唱に根負けしたジョシュアは解錠した。玄関の鍵も開けて、ジョシュア自身は寝室に篭もった。中から鍵をかけ侵入を阻む。家の鍵は開けたのに、こうやって逃げている自分の行動に説明がつかない。
──ガチャッ!
玄関が開く音。
「ジョシュア!!」
続いてオリバーの声。焦ったその声に、ジョシュアは盗聴の件を知ったのだと理解した。
しばらく家中を歩く足音がして、それが寝室の前で止まる。
「ここか?」
──ガチャ……ガチャガチャ、ドンドン!
開かない寝室の扉をオリバーは殴った。1枚挟んだところでジョシュアは怒鳴り声をあげた。
「今更なんだ! お前の本心はあれだったんだろ?! だいたいどうやってここまで……」
「開けてくれないか? ジョシュア、きちんと話をしよう」
質問の返事になっていない。オリバーはそれほど焦っていた。
「話すことなんてない……ただの労働上の延長だったんだろ? どうせ職場も離れる。もうこんな異端児わがまま坊ちゃんの世話なんてやめろよ」
「私とカルロスの話を全部聞いていただろ? その後の会話も──」
「きちんと聞いたさ。メイドの息子だから一緒にいた。カルロスに指名されたならそっちにいく、そして──」
ジョシュアは扉に背を向けた。
「俺の肩を持つ気はないって」
そのままキングサイズのベッドに沈む。後ろからは扉を叩く激しい音と、オリバーの「それは全てじゃない!」という声が聞こえる。
「俺が聞いたのはこれだけだ。これだけで十分だ。他に何がある」
「カルロスはお前を恐れてる。きっとマイケル社長もだ。だから盗聴などという姑息な手を使った!」
「だからなんだって言うんだ」
「そのせいで私達は職場が──」
ジョシュアはスプリングを軋ませるほどベッドを殴った。
「答えになってない! お前がカルロスに俺といるのは労働の延長線上じゃないと発言したかどうかを聞いているんだ!」
オリバーは扉の向こうで拳をにぎりしめた。そしてその静かになったことが答えだとジョシュアは悟った。
「別に……いいさ……真面目なお前のことだ……過去の償いじゃなかっただけましだ……」
「私は自分の意思で一緒にいる。日本へ行ったのもベッドを共にしたのも──」
「うるさい! 信じられるわけないだろ! あんな会話を聞いて、それは無理だ! あれがオリバーの本心なんだろ?!」
「違う!」
「だったら何故、俺と一緒にいてくれるんだ!」
「それは……」
黙ってしまったオリバーにジョシュアの心は死んでいく。割り切ればいいのに、オリバーが絡むとそれができないでいた。
「答えられないんだろ? 帰れよ。もういい。こうやって謝罪に来たのも、俺が社長の息子だったからだ。敵に回したくない。だからこうやって──」
口からは憶測が止まらない。
「くそっ! 帰れよ! オリバーなんて嫌いだ!!」
その瞬間、寝室の扉は破壊された。ノブが外れ、ぶさがっている。嫌な音を鳴らしながら激しく開き、息を上げたオリバーがベッドに歩み寄ってくる。
「おいっ! 弁償しろッ……ッちょっ!」
ギシッと二人分の沈む音がする。寝転ぶジョシュアのサイドを腕で通せんぼし、オリバーは覆いかぶさった。
「どけよ」
「……今、何と言った」
「どけって言ったんだよ」
「その前だ」
「それよりさっきから俺の言っていることを無視しすぎだ。どけって」
「退かない。それよりさっき──」
「あーもう、しつこいな! 嫌いなんだよ!」
オリバーの歯の軋む音がする。しかしジョシュアはそれに気付かず畳みかけた。
「嫌いだ! 大嫌いだ! もう顔も見たくない! 分かったらさっさと帰れ!!」
──ボンッ!!
クッションにオリバーの拳が振り下ろされ、中の羽毛が舞う。その柔らかな隙間から「どちらにしても嫌われるなら……言ってしまった方がマシだ……」と力ない声が縫うように聞こえる。
「と、とりあえず帰れよ! お前が俺と居る理由はもうない!」
「──お前が好きだ」
「そんなガキみたいな言い訳で納得するとおもってるのか?!」
オリバーの目付きが鋭くなる。そして一瞬柔らかくなったが、再び余裕なく瞳が揺れた。
「私はジョシュアを愛している」
純白の羽が舞う幻想的なベッドの上で、オリバーはジョシュアに荒々しい口付けをした。
「んっ……はぁ、お前、何して……んんっ」
男の肉厚な舌を初めて受け入れたジョシュアは必死に呼吸をする。しかしすぐに塞がれ、苦しさで頬を紅潮させた。
ようやく離れたオリバーの口からは低い声が落ちてくる。
「これがガキみたいだと思うか?」
もう一度クチュクチュと水音を鳴らしながら、ねっとりとした口付け。深く絡まりあい、熱を押し付け合う。ジョシュアは跳ね返すように……オリバーは想いを告げるように……
「はぁ、はぁ……な、なんなんだよ……」
ジョシュアは急な展開についていけず背中を向けた。
──コリッ
「?!」
臀部に当たる硬い肉。恐る恐る上を振り向くと、眉間に皺を寄せたオリバーと視線がかちりとあう。
「勃起……してるぞ……」
「ああ。つまりこういうことだ。私はお前をこういう意味で愛している」
ぞわりとジョシュアの背筋に鳥肌が立つ。身体中が謎の締め付けにあい、動けないことに恐怖を感じた。
「……」
オリバーが耳元で囁く度にその恐怖は大きくなる。仕舞いには肩が震え始め、押しのける力さえ分散していく。
「……怖い」
ジョシュアが初めて口にした単語に、オリバーは項垂れた。
「なんだよ。意味がわらない。怖い……こっちを見るな……」
オリバーに愛していると告げられた瞬間から襲ってくる恐怖は部屋中を支配する勢いでジョシュアを包み込んだ。そこから逃げるようにジョシュアはオリバーに「あっちへいけ!!」と子どもの時のように叫んだ。
豹変した30過ぎの男に、流石のオリバーもやってしまったと、身体を離した。
「怖がらせてすまなかった。これで終いだ」
誰かに言い聞かせるようにオリバーは零して寝室から出ていった。その落胆した声がさらに部屋を重たくする。
変わっていないのに重力が変異を起こしたような部屋でジョシュアは自身を抱きしめた。
「怖い……あの目は……なんだ……」
オリバーの見たこともないような瞳を思い出し、また身体を震わせる。
「優しいような、苦しいような、何か温かいような……悪いものじゃないはずなのに……怖い」
オリバーが向けていた恋心の視線はジョシュアにとっては初めてで恐怖の対象でしかなかった。まだ恋や愛に気づけない男は自身の身体の変化にも戸惑っていた。
「わからない……」
下腹部に手を伸ばす。
──どうして俺まで勃起しているんだ
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