漂流物

九時木

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漂流者

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 空を見上げると、星々が見えた。
 冬の空は澄み、星々をはっきりと映し出していた。
 整列した三つの星は、かつて私が見上げた時と同じように、暗闇の中で爛々らんらんと輝いている。
 美しい景色にも関わらず、温度がそれを圧倒した。
 海は真夜中を迎え、寒さを増しつつあった。足元には、いよいよ氷点下の温度が伝いつつあり、血管がどうどうと唸りながら、身の限界を知らせていた。


 私は浅瀬から離れ、砂浜に寝そべった。
 背中から、地面の温もりがじわじわと湧き上がる。
 私にとって、それは懐かしいベッドだった。
 足を海水にたっぷり浸した後、べたつく肌を砂で払いながら、生暖かな地面で眠りにつく。
 次に目を覚ました時、私はおもむろに頭を横に向け、その人と目を合わせる。
 そうして手に触れ、指を絡め、互いの手のひらをそっと重ねる。
 満たされた感覚に包み込まれたが、どの方向を向いても、彼の姿は見当たらない。彼は何処にもいない。
 夜の砂浜で、一人横たわりながら、私は思い出と手を結んでいた。
 目の前には、荒涼とした景色が広がり、一人では勿体ないほどの広い空間が映っていた。


 彼とした話は、今でも覚えている。
 とりのめのない話ばかりをしていたが、私はそれに満足していた。
 こうして海にいる間も、ふと思い出すことがあった。彼との思い出は色褪せることがなく、いつでも鮮明な映像として流れていた。
 星々が私を見下ろしていた。私は星々に向かって、そっと口を開いた。
 それは直進的な反応だった。私は空を見上げながら、星に語りかける。星は時々瞬きをしながら、じっと話を聞いている。


 流れ出たものは、彼と私、そして私たちを取り巻く人々の物語だった。
 喉が渇れ、唇がかさついた。寒さが肺を締め付け、呼吸を荒くしていた。
 その間、夜は冷たい風を運び、海を揺らし、何十、何千回と波を立たせることを繰り返していた。
 星々が薄明かりに消えていく。淡い桃色の景色が視界に広がり、干からびた私を出迎える。
 私は両手を広げ、砂浜にくたばった。そうして、意識が砂の奥底へ沈んでいくのを、ただじっと待っていた。
 夜明けが訪れようとしていた。眠ることなく話した物語が、脳裏に焼き付けられ、余韻となって何度も私を呼び覚ましていた。
 眠気に囚われる中、まぶたの奥に映し出されたその記憶を、私はいつまでも眺めていた。
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